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17-309

――シンがこの世界に来て数ヶ月のある日

「ちくしょうっ、何だってんだ…」
その日シンは行き場の無いモヤモヤした気持ちを抱えながら自転車のペダルをこいでいた。
理由はこっちの世界での保護者であるそうじろうさんとクラスメイト兼姉役であるこなたとの、
家族としてのちょっとした衝突。
普通の高校生だったら親との衝突など珍しい事ではないのだろうがシンにとっては複雑な物だった。
16歳で成人する向こうの世界では1人前として扱われ
エースパイロットとして十分一人立ちしていてた。

だがこの世界では何の力も無い未成年の子供であり、
皮肉な事にシン自身が夢見てた平和なこの世界では
向こうで習得した数々の技能のほとんどは
社会的には役にたたない物ばかりだった。

突然無力になってしまった自分が時々怖くなる。

そう思ってる内にいつもの川原に着くと、シンは早速日課である格闘術のトレーニングを開始した。
無力になった自分を認めるのが怖くて、せめて物理的な強さを高める事に必死になるシン。
モビルスーツは存在しない、銃やナイフ等の武器も所持できない、
そんな世界では格闘術が物理的な強さを確保する唯一の方法だった。
無論プロの格闘家にでもならない限りはこれもまた社会的には必要ないものなのは分かってる。
だけど、それでも、唯一これだけがシンの無力感を和らげてくれていて訓練せずにはいられなかった。

「よし、柔軟終り。次はシャドー5セットだな。……はぁ…一人だと出来る事に限界があるよなぁ…」

そして今日も周りに誰もいない薄暗い闇の中、一人ぼっちの孤独な訓練に明け暮れていく…






「お姉ちゃんのバカ…」
その日つかさは行き場の無いモヤモヤした気持ちを抱えながらとぼとぼと近所の川原を歩いていた。
理由はかがみとの姉妹としてのちょっとした衝突。だけど悪いのは自分。
こういう時、同じ日に生まれた筈なのにあまりに未熟な所が多い自分が嫌になる。
試しに家事以外で自分が姉に勝ってる部分を色々考えてみるけど中々思い浮かばない。

喧嘩してる今でもそんな姉の事は嫉妬してる訳ではなくて逆に尊敬しているんだけど
自分自身に劣等感みたいな物を感じてしまう。

いや、姉とだけではない。体育も含めた学校の成績は
シンも含めた5人の中で明らかに自分が一番劣っている。

文武両道のみゆきに、運動神経抜群で一夜漬けなどで要領のいいこなた。
そして日本史以外では基本教科や体育を中心に驚異的な成績を収めてるシン。

…ここまで歴然とした数字を見せられるとさすがにちょっとヘコんでしまう。

「せめて家事以外にも何か特技あれば少しは自信が持てるのになぁ…」

もっと勉強頑張る?……それが出来れば苦労しない。
毎朝ジョギングでもして体力付ける?……一人ではとても続かない。

……結局みんなみたいに努力もせずに嘆いてるだけか…
都合のいい自分に更に自己嫌悪しながらもすぐに帰るのは何だか気まずくて
そのまま川原をとぼとぼと歩いていると高架橋が見えてくる。

そこの真下は周りからは見えにくくなってるみたいで、
一人になりたかったつかさはそこで休んでいこうと思い
川原に下りて歩を進めると…そこでは意外な人物がミットを括り付けた高架柱を
取り付かれた様に攻撃していた。

「ハァ…ハァ……ん?…つ、つかさっ!?どうしてこんな所に?」
「え?……シンちゃん…?こんな所で何やってるの?」

互いに無力感を抱いている少年と少女は偶然にも夜の川原で出会う事となった。







半年後



柊家と泉家の中間よりやや柊家よりの川原の高架下。
周りからは死角にあたるこの場所で対峙している少年と少女が居た。

「それじゃあいくね!」

最初は間合いを伺ってた二人だったが、やがて少女が鋭い拳打を連続して放ち始める。
それを難なく捌いた少年は少女の攻撃の合間の隙を付き、こちらから
やや手加減した拳打を放つ。

「うわっ」

少女は何とかそれを捌き切る物の、そのまま少年に流れを持っていかれ
少年の攻撃を捌くのに精一杯になってしまう。

「慌てないで攻撃を良く見るんだっ」
「う、うん」

しばらくそのままの状態が続いていたが、あるタイミングで少年が拳を引いたのに合わせて再び拳打を放つ少女。
少年はそれを捌きながら少し後退してしまい、少女はそんな少年のスネにめがけてロ-キックを放った。

ベチンッ!

少年は足を上げてダメージを逃がしたが、それでも激しい音が響く。

「今度はこっちから大きいのいくぞっ」
だが少年は何事も無くその足で一歩前に踏み出すと、少女が体勢を整えかけた所でストレートを繰り出してきた。
少年は少女のレベルまで自分の技量を自制しており、格下では無い相手へのいきなりの大技は無謀である。

(これ、チャンスかもっ)

少年が突き出した拳をなんとか避けた少女は、そのまま一気に懐に入り込むと鳩尾目掛けて肘を打ち込んだ。

ドスッ!

「うぉっ…と…」
「あ、シンちゃんごめんね」

シンと呼ばれた少年は咄嗟に体をひねって、喰らっても大してダメージの無い所に当てさせた物の
心配した少女は慌てて構えを解いて駆け寄ろうとする。
だが次の瞬間には自分の顔の目前に寸止めされたシンの拳があって固まってしまった。

「つかさ、急所から外れて大したダメージじゃなかったのはそっちも分かってただろ?
 俺の事は気にしなくていいから追撃するべきだったぞ?」
「はぅ…」

シンの言葉に少しションボリする、つかさと呼ばれた少女。

「…だけど技自体は悪くない。大分サマになってきたな」
「そうかなー?えへへ」

さっきまでの緊迫した雰囲気はどこへとやら、何だか和やかな空気になってしまい
自然と組み手は終わりになり、二人は仲良く川原に腰かけた。

「実際半年でそこまで腕を上げるとは思わなかったぞ」
「そっか…あれからもう半年経つんだね」

そう言いながら二人はあの時の事を思い出す。





半年前、シンが毎日ここで練習してる事を知ったつかさは
シンと色々と悩みを打ち明けあった後
思わず「私にも格闘技教えて!」っとお願いしていた。
喧嘩に強くなりたいとかそう言うのじゃなくて
何かを頑張って無力な自分を変えるチャンスだと思ったからだ。

そしてシンはそれをアッサリ承諾した。
本来だったら女の子にそんな事を教えるのに躊躇するハズだったが
当時はその意義を見出せない孤独な訓練に内心相当参ってて、
共に練習してくれる相手が出来るのはかなり嬉しい物だった。


そして二人だけの特訓は始まった。

最初はジョギングや柔軟等、体を作る所から始めて
「がんばってる自分」が新鮮で嬉しかったつかさは
すぐに根をあげるかもしれないというシンの予想を裏切り
家でも自分の部屋で積極的にトレーニングをして
相応の実力が付いていった。


つかさがある程度型を覚えて組み手も出来るようになってからは
シンにとってもつかさとの稽古は精神的な面だけでなく具体的な面でも
かなり充実した物へと変わっていった。

一人だけでの練習では出来る事に限界があったので
たとえ相手が初心者といえども間合いや捌き等の確認が出来るのは大きい。

更につかさに怪我させない様に、尚且つ為になる稽古をつけてあげる為に
絶妙な手加減でやる組み手は独特の経験をシンにもたらしていた。

つかさのレベルに合わせた力を100%出し切り、その範囲内で遠慮なく組み合う反面
つかさが捌ききれず直撃してしまおうとする攻撃のみをとっさに寸止めする等
細心の注意を払わなければならない。
そのおかげで全く動かないミットをただ全力で叩くのとはまた違ったテクニックが身についていった。

それに加減のレベルを見極めるためにつかさの技をいつも注視してると
回数を重ねるごとに動きがよくなっていってるのがよく分かる。
それらはシンにとっても孤独ではなくなってる事と同じ位に嬉しい事であり
自然に練習にも熱が入っていき、それに伴いつかさも着実に腕を上げて言った。





「でもシンちゃんにあんな悩みがあったなんて凄く意外だったよ
 私から見ればシンちゃんは何でも出来る凄い男の子だから…」
つかさの言葉にふと我に返るシン。
どうやらここで最初に会った時に、悩みを打ち明けあった事を話してる様だ。

「『男の子』か… まあ、今思えばただの反抗期って奴だったんだろうけどな」


この半年間でお互いのコンプレックスは大分克服できた。

最初は泉家の面々に対して戸惑いが大きかったシンも今ではかなり仲良くなり
自分を事を思ってくれる事に素直にありがたみを感じるようになった。

親元で思春期を過ごせなかったせいか少し遅い反抗期に入ってしまっていたが
今まで過酷な経験をつんで来てただけに本来の精神年齢はこの世界の同年代よりも高めなのだ。
きっかけさえ掴めば半人前の少年としてこの世界で過ごしていく踏ん切りがつくのは
そう時間のかかる事ではなかった。

もっとも腕がナマるのは嫌だし、つかさとの練習は楽しいので稽古は未だにマメにやっているが。


「つかさこそあんなに自分の事を悩む必要なかったと思うぞ?
 あの時も言ったけどつかさにはつかさのいい所が沢山あるんだからな。
 学校の成績だけが全てじゃないさ」
「うん、あの時シンちゃんにそう言って貰えて凄く嬉しかった…」

つかさも元々自分でもそう思ってのを完全には割りきれないでいただけだったので、
そんな時改めてシンにその事をハッキリと口にして貰えたのはかなり救われる物だった。

またこの練習で大分体力が付き、マラソンとかでこなたや運動部のクラスメイトに
何とか喰らい付いていける様になり大分自信もついていった。

「今はみんなに負けないの体力が付いてるのが凄く嬉しいんだ~
 マラソンとかだったら何とかこなちゃんに置いていかれない位走れるし。
 ……シンちゃんもまだ私と同い年なんだし大人じゃない事はそんなに焦らなくていいと思うよ」
「……そうだよな……」

お互いここまで前向きになれたのは
練習の合間の素直に悩みを打ち明けあってるこの時間のおかげかもしれない。




(だけど本当にこのままでいいんだろうか…)
その反面、冷静な判断力が戻ってきてる状態で改めてつかさとの現状を考えると
どうしても戸惑いを抱いてしまう。
一緒に練習してくれる仲間がいるのは嬉しいが、つかさの為を思うなら
こんな人気の無い所で荒削りの技を習うより
ちゃんとした道場とかに通って貰って、もっと健やかに技を磨いた方がいいかもしれない。
つかさは意外にスジがいいから尚更だ。

一度つかさにそう提案したけど「私の先生はシンちゃんだよ」っと綺麗に断られてしまった。


…今のつかさなら力をちゃんと出す事さえ出来れば、そこらへんの普通の奴だったら男相手でも勝てなくもないだろう。
ただ体格が良かったり喧嘩慣れしてる奴、運動神経や反射神経のいい奴や二人以上で同時に向かって来られる場合、
……そして何より女相手でも全くの手加減無しで向かって来る奴とかだったら、例えそれらが素人でも話は別だ。

「つかさ、おまえは大分強くなったけど調子に乗って危ない事をするのはマジでやめてくれよな。
 格闘技をやってるとは言っても相当極めない限りは女の子の体じゃ限界がある。
 捨て身で向かってくる奴相手には漫画みたいに簡単にいかない物だし
 これが切欠で危険な目にあったりなんかしたらこなたやかがみやただおさん、他のみんなにも申し訳ない」

「…うん、シンちゃん達を悲しませるような事はしないよ。酷い事したら相手も可愛そうだし…」
前から何度かしている忠告を改めてつかさにして、つかさもまたしっかりと答えてはくれた物の
後半のセリフに少し笑ってしまうシン。

「はははっ、つかさは優しいな…それがさっき言った『つかさのいい所』の一つだと思うぞ。
 …俺もつかさのそういう所悪くないと思う」
「はぅ…」
つかさを元気付けてやろうとちょっと恥ずかしい事を言ってやったら
予想以上の効果だったみたいでつかさは顔を真っ赤にしながら体育座りをして顔を埋めたと思ったら
シンの方をチラチラと盗み見して来る。

「う…そ、そうだ!そろそろ帰らないとやばいんじゃないか!?」
言った自分も恥ずかしくなり耐えられなくなったシンは思わずそう言いはぐらかす。
「うわ、本当だ。そろそろ帰らないとお父さんやお姉ちゃんに怒られちゃうよぉ~」
実際話をしているうちに大分日が暮れてきてて、慌てた様子で立ち上がるつかさ。
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
「うんありがとう、それじゃあまた明日ね~」
そう言いながら律儀にジョギングで帰っていくつかさを見送った後
少し自分の練習もしてから帰路につくシンであった。





「ただいまー」
帰宅したつかさをかがみ達は暖かく迎え入れる。
「おかえりつかさ、よくも毎日せいが出るわねー」
「えへへ、何だかどんどん強くな…コホン、体力が付いていくのが面白くて、ハマっちゃうって言うのはあるかもー」


思う所がありシンと二人っきりで格闘技の練習をしてる事を周りに知られたくなかったつかさは
シンにもお願いして特訓の事は二人だけの秘密にしている。
一人で普通の運動をしてるという事にしていて
意外にも半年経った今でも本当の事は周りに知られずにいた。

シンが気を使って練習の時間を早めにずらしてくれてるおかげで
何とか注意されるほど帰宅が遅くなる事も無く、
一方シン側も訓練の為に毎日出かけるしてる事は泉家では周知の事であり
コンプレックスを察したこなたがそっとしておいたのも大きかった。

…最もつかさが運動にハマってるのは流石にこなたの耳にも入ってて少し怪しんでいたが
幸か不幸か体育でやる球技等の運動神経にはそこまで反映され無かったみたいで
球技やハードル走で相変わらずナイスボケをしてるつかさを見てまだ確信に至る段階ではなかった。


「全く…つかさがそんなにスポ根になるなんて思いもしなかったわよ…」
「まあ、真面目に努力して体を鍛えるのはいい事じゃないか」
少し呆れ気味にまつりにそう言うただお。

突然体力つくりに目覚めたつかさを最初の頃は家族みんな不思議がってて
結構心配してたけど、
髪を後ろに束ね運動服に身を包んだ、その明らかに運動を目的とした様子で家を出て行き
一汗かいて戻って来る様子から悪い事ではないだろうとあんまり追求せずにいた。

「つかさもそんなに体鍛えたいのなら一人でがんばるんじゃなくて部活とか入ればいいのに…
 日下部に話しておいてあげようか?」
「じ、自分のペースでのんびりやりたいんだもん」
「のんびり…ねぇ…」

…こなたに付き合ったりする時とか以外のほぼ毎日、軽く2時間は運動してて今更何言ってるんだか…
早速晩御飯を作ってるお母さんの手伝いにいくつかさを見ながらそう思うかがみだった。






「つかさっ、足が下がってきたぞっ。もう少しだから頑張れっ」
「ハァ、ハァ…う、うんっ」
今日は大分様になってきた上段回し蹴りを更に熟練させる為に
それを組み込んだ約束組み手をエンドレスで行なってる。
「ハァ、ハァ…」
つかさが拳打と上段回し蹴りをセットにした攻撃を繰り出し終わると同時にシンが
拳打を打ってくるので、それを素早く捌いてからまた同じ攻撃の繰り返し。

「ほらっ、攻撃の感覚が開き過ぎだっ」
疲れから思わず、こっちの攻撃の番になった時に一呼吸置いてしまったら案の定注意される。
「ハァ、ハァ…シ、シンちゃん…これ…キツす…ぎ…」
思わず弱音を吐きながらも律義に注意を守って、
自分の頭にいい蹴りを入れてくるつかさに
心の中で少し笑ってしまっうシン。

「よし、これで5セット全部終わりだ。良く頑張った、休憩していいぞ」
「はぁぁああ~ もう動けないよ~」
終了の合図と共につかさはその場で大の字に倒れて
息をするのもやっとな様子でゼェゼェ言ってる。
「ほら、飲めよ」
「ハァ……ハァ……ありがと……ふぅ…」
少し息が整った所でシンが差し出したスポーツドリンクを飲み、やっと落ち着きを取り戻すつかさ。

「…今の私ってこなちゃんやゆきちゃんと勝負したらどうなるのかなー?」
こなたは勿論だか、実はみゆきも過去に護身術を習ってた事があると聞いた事がある。
特に深い意味は無いがちょっと興味があったつかさはそんな疑問を口にしてみた。
「どうだろうな…結構前にこなたが興味本位で俺に勝負を申し込んできた事があったんだけど
 それを見る限りじゃブランクがあっても中々の物で、純粋な技量では格闘技初めてまだ半年のつかさより少し上かな…」
「…そっかぁ……」

「だけどこなたは相当小柄だからな。漫画とかと違って実際は体格差はかなり重要な要因だから
 力押しで行けば渡り合えると思うぞ …力押しするつかさなんてのもあまりイメージできないけどな」
「じ、自分でもそんなのイメージ出来ないよ~。逆にそう言うのもこなちゃんの方が得意そう~」

「みゆきさんは詳しい実力はよく分からなから何とも言えないけど、もし本格的に習ってたのなら
 つかさより少し体が大きいから同じ理由でキツめだと思う」
「なるほどぉ~」

「まあ、つかさはキャリア半年と言っても毎日の様に練習して自主トレもしてるからな。
 実際は週に何度か道場に通ってるだけの奴で言う1年近く相当の腕はあると思…(ハッ)」
いつの間にか本格的に色々考察してしまってる自分に気づいて慌てて我に返るシン。



「い、言っとくけど怪我したら大変だから勝負とかするなよ?」
「わ、分かってるよぅっ、私も興味本位とかで大切な友達と戦うなんてしたくないよっ」
一応念のためクギを刺してみたけどそれは取り越し苦労だったみたいだ。

「まあ、確かにつかさから勝負を申し込んだりするとは思えないけど
 もしこなたがこういう事やってるって知ってしまったら
 腕だめししてみようとか言って来そうだからな~」
「あ、それはあるかもー」


『あはははははははっ』


何だか可笑しくなって自然に笑い合う二人。
キツい練習を頑張って一区切りつけた時の、ヘトヘトだけど充実感も感じる心地良い疲れの中で
シンとする会話は、何だか全く気兼ねする事無く自然体で話せて
つかさにとっては大きな楽しみの一つだった。

「こんな時がずっと続けばいいのにな~」
思わず今の自分の気持ちを口に出してしまってシンに聞かれてしまう。

「…やっぱり……まだみんなには秘密にしておきたいのか?」
「あ……えっと……」
「つかさがどうしても隠したいなら俺も出来る範囲で協力するけど
 ずっと隠し通すのは流石に無理だと思う。 
 この半年間秘密に出来ただけでも奇跡的だ…」
「…うん……」
「実はこなたが少し怪しんでて、何とかはぐらかしてはいるけど
 バレるのは時間の問題かもしれない。
 俺も…みんなに隠し事してるのはちょっと気が引ける。
 時間さえちゃんと守ればただおさんだって分かってくれると思うし
 必死に隠すような事じゃないと思うけど…何か理由があるのか?」

「……………」



最初の頃の秘密にしている理由は、家族から止められるかもしれないとか
そう言う単純なものだった。
だけど今の一番の理由は、シンだからこそしゃべれないものに変わってしまってた。

(シ、シンちゃんと秘密の二人っきりの時間を過ごせるからなんて言えないよぉ~)

……シンが来て1年近くが経ち、最初の頃は漠然とした憧れの気持ちだったのが
今ではハッキリした恋心を抱いている。

そしてそれは自分だけじゃなくてかがみやこなたやみゆき、
果てはゆたかを始めとした1年メンバーや自分のほかの姉達も同じだという
のが見ていて何となく分かってしまった。

抜け駆けみたいで気が引けるけどどんな形であれシンと二人っきりの時間を過ごせているのが凄く嬉しくて、
また同時にある意味、親友達や家族を出し抜いてる後ろめたさが打ち明ける踏ん切りをつけさせてくれないでいた。

(こなちゃんとゆたかちゃんはシンちゃんと同じ家に住んでて、そこでしか見れないシンちゃんの一面を知ってるんだし…
 私も自分だけしか知らないシンちゃんが欲しいって言うのはやっぱり我侭なのかな……)

つかさが羨ましがってるこなたとゆたかもまた、家族として身近にいすぎる故に
女の子として見て貰う機会に乏しい苦悩があるのだがそれはまた別の話である。

みんなは大事な友達だしフェアな勝負をしたいと思いつつも
せっかく築けたこの二人っきりの秘密を手放すのが惜しくなってしまってる自分。
いつの間にか出来てしまった心の中の闇の部分に、何だか凄い自己嫌悪を抱いてしまう。

人を好きになるという事が実際はこんなに大変な事だったのがつかさにはかなりショックだった。




「ごめんねシンちゃん、今まで私の我侭を聞いてくれてて……もし辛くなったら私の事は気にしないで
 無理しないで話しちゃって大丈夫だから…。
 私もみんながあんまり心配するみたいだったら打ち明けてみるね」

「……ああ、分かった。つかさも色々事情があるみたいだけど、何かあったらいつでも相談に乗るぞ。
 正直つかさには今まで色々相談に乗ってくれてて助かってたんだ。
 俺も少しでもつかさの力になりたい」
「う、うん…」
(はぅぅっ! 凄く嬉しいけどシンちゃんだからこそ言えないんだよぉ~)

「ってか何か顔が赤いけど大丈夫か?やっぱりさっきのはオーバーワークだったか?」
そう言われて初めて自分の顔が真っ赤になってるのに気づく。
「え?ち、ちがうよ。これは違う理由で…」
「違う理由?」
「ふぇ!? あ…シ、シンちゃん、休憩時間そろそろ終わりにしよう?」
これ以上話すとどんどん墓穴を掘ってしまいそうで慌てて練習の話に戻す。

「おっと、いつの間にか話し込んでしまったな。よし、打撃に関しては今日は十分練習したし
 次は掴み技の練習だ。つかさはつかみ合いでは弱腰になる傾向があるからな」
(す、好きな男の子と肌を重ねるんだからそうなるよぉ~、でもちょっと幸せ♪)
そう思いながら練習を再開するつかさだった。

もうちょっとだけ…シンちゃんを独り占めできる時間を……


だけどこの二人っきりの時間は、ある事件を切欠にみんなに知られることになる。


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最終更新:2009年11月14日 06:43
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