暖房の効いた部屋。
カーテンから漏れる月明かりと常夜灯の薄暗い光。
私たちの部屋のベッドの上。
隣からシンの寝息が聞こえる。
さっきまで……、まあ若い二人でシンと私は夫婦で同じベッドに寝ているんだからそこのと
ころは察してほしい。
まあ、そういうわけだったんだけど……
私もとてもくたくたになったんだけど、何故か眠れない。
すごく不安なんだ。
シンは元いた世界よりも、ルナよりも、
かがみ達よりも私を選んでくれた。
ちびでつるぺたでオタクな私をシンが選んでくれた。……それはすごく嬉しい。とっても愛さ
れていると思う。
でもすごく不安なんだ。
昔何かで読んだ小説を思い出した。記憶喪失の女性が全く知らない国で結婚して子供ま
で出来たのに、ふと何かを
思い出した彼女がいなくなってしまう。彼女の記憶にある他の人には見えない『裏木戸』を
通って……。
シンはその女性と違って記憶喪失じゃないし、彼女と違って自分の意志で残ったのだから
全然違う。
どうしてだろう、すごく不安なんだ。
翌日、シンが出かけた後に、かがみんに電話をして、会って相談することにした。
司法浪人でも自宅学習主体であんまり予備校も通っていないみたいだから時間とれるみ
たいだから。
喫茶店でその根拠のない不安をかがみんに相談したら砂を吐くようなジト目でにらまれ
た。
「な~に、あんたまたシンのノロケを聞かせようっていうの?」
「……そんなんじゃないんだけど」
目の前のレモンティーの中身をスプーンでぐるぐるとかき混ぜる。
「今更、マリッジブルー……って、あれは結婚前か。
シンと結婚して幸せを実感したら急に不安になったってことでしょ? この贅沢者め!」
そういって目の前でにやにやと笑うかがみん。
かがみんはシンのことがすごく好きだった。かがみんの方から告白もしようとしたらしい
そのことを後で何かの折に聞いたら『まあね、どっちにしろシンがアンタに告白しちゃったん
だからしょうが
ないでしょう?』と笑っていた。すごくつらかったはずなのに、悲しかったはずなのに、かが
みんは強い。
思わず謝ったらものすごい剣幕で怒鳴られてしまった。
『ふざけないでよ!! 何謝ってるのよ!! 誰でもないシンがアンタのことを選んだんだ
から、それなのに
謝ってたら
こなたはアンタを選んだシンのことを馬鹿にしていることになるよ。それは絶対
に許せない!!』
かがみんの視線から逃れるためにチョコケーキに手を伸ばす。おいしい。
今日シンに買って帰ろうかな? ああ見えて結構甘いもの好きなんだよね、シンは。
飲み込んだチョコが何故か胃の手前で拒否されてしまったみたいに急にとてもむかむかと
気持ち悪くなった。
慌ててトイレに駆け込む。……そして思い切り吐いた。
私、病気なのかな? だから不安なのかな? もしかして私もお母さんみたいに……。
それが何となくわかっているから不安なのかな?
とても遠くで心配してついてきたかがみんの声がしていたような気がする。
そして次に気がついたら私はかがみんと大きな病院にいて、いろいろな検査を受けてい
た。
私があまりにも青い顔をしていたのでかがみんが連れてきたらしい。
隣について検査結果を聞くときまでかがみんが隣に着いていた。
「検査をしてみなければ確実なことはいえませんが……」
目の前の先生がカルテを見て、そんなことをいいだした。
そんなすごい病気? 私、死んじゃうの? そんなのいやだよ! シン、助けてよ!
自分がいなくなるってなんとなくわかったから、だから不安になったのかな?
「泉こなたさん。妊娠してらっしゃいますね。おめでたです」
先生が何を言っているのか私にはすぐには理解できなかった。
「へ?!」
このときの私はたぶんものすごく間抜けな顔をしていたと思う。
「だから赤ちゃんが出来たんですよ。おめでとうございます」
その言葉を聞いた次の瞬間、急に涙と嗚咽があふれ出て止まらなかった。
「私、いっしょにいていいんだ…… シンの子供なんだ…… シンに家族が増えるん
だ…… 」
私はそんな言葉を繰り返し呟いていたように思う。
肩を抱いてくれたかがみんが耳元で『おめでとう、よかったね』と涙声で何度も何度も繰り
返しいってくれてたのが
すっごく嬉しかった。
最終更新:2008年06月01日 19:23