14-720

『Valentine's Day     after next day』

 私の手には、昨日のバレンタインに渡しそびれたチョコが握られている。
 アイツに渡すためのチョコが…って、うぁ~緊張してきた………。

「おっ、いたいた。かがみー!」
 その声に私の心臓が高鳴る。
「おっそい!!」
「なんでだよ!?約束の時間10分前だろ!?」
「私なんて20分前に来たんだからね!」
「そっちが勝手に早く来すぎただけだろ!!」
「女の子を待たせる時点でダメよ!今度から気をつけなさいよ!」
「ハイハイ、わかりましたよ。かがみさま」
「かがみさまっていうな!」
 うん大丈夫。アイツといつも通りの口ゲンカ。いつも通りの私だ。
「で?用ってなんだよ?ケンカするために呼んだんじゃないんだろ?」
「あ、当ったり前じゃない!…ハ、ハイ、これ」
 そう言って私は、ラッピングした外からでも形が歪だとわかるチョコレートを差し出す。……悪かったわね!どうせ私は料理が苦手よ!!
「こ、これをオレにか?」
 私が頷くの見ると、アイツは顔を強張らせ、私のチョコを受け取ろうとしない。
「な、なによ!?か、形はこんなんだけど、味は、だ、大丈夫だって……そ、それとも、遅れたのは受け取れないっての?」
「……あ、いや、でも、これって………」
 なおも戸惑うアイツに、私はまくしたてる様に、自分の気持ちを伝える。
「だ、だいたいバレンタインにチョコ渡すのは、お、お、お菓子会社の陰謀なんだし、い、いつ渡すかは、わ、私の勝手でしょ?」
 と言って私はそっぽを向く…って全然違~う!
 私は何やってんのよ~!?
 こんな言い方だったら、超ニブいアイツに伝わるわけないじゃないのよ~!
 こういう時素直になれない自分の性分がモノすごく恨めしい。
 でも、顔を真っ赤にしている段階で普通わかるでしょ!!と半ば逆ギレ気味にアイツを睨む様に見ると、私とは逆になぜかその顔は青ざめていた。
「……そうか…わかった………」
 そう言うと、アイツはチョコを受け取ると、踵を返して行ってしまった。

「……え?ア、アレ?」
 思わず間の抜けた声を出す私。
 ……アイツのことだから私の想いなんて気付かずに、腹立つほどの笑顔を私に向けて、チョコを受け取ると思ってたのに………。
 ん?予想とは違う行動に出たということは…私の想いに気付いた?……でもあの態度ってことは…えっ、これって……もしかして………。
 最悪の答えが私の頭を埋めつくす。
……私…フラれた…の………?

 キーンコーンカーンコーン♪

 朝の予鈴がなっても頭が真っ白になった私はしばらく動くことが出来ず、アイツが歩いていった方向を呆然と見るだけだった………。

 今日はバレンタイン。
 オレにとってはいいイメージが無いが、こなたが言うには、この世界のバレンタインは、大切な人にチョコを渡す神聖な日…らしい。

「ただいま」
「おかえり~どうだった?」
 学校から帰って来た矢先、こなたからわけのわからない質問が飛んで来る。
「どうだった、って何が?」
「チョコだよ、チョコ!全部でどれ位貰ったの?」 
「正確には数えてないけど、つかさみゆきさんを含めて10前後じゃないか?」
「あれ?つかさやみゆきさんって…かがみは?」
「そういやもらってないな」
 興味なさげに言ったオレだったが、かがみからチョコをもらってないのはちょっとショックだった。
「かがみんめ、さてはチョコ作りに失敗したな」
「あ~なるほどな」
 こなたの答えにオレも思わず納得する。
 かがみはしっかりしているけど、時々抜けてるところがあるからな。
「後のチョコは知らない人から?」
「いや、クラスメート。でもオレほとんど話したことないんだけどな」
 正直いうと、クラスの女子なんて半分くらいしか名前を覚えてない。
 そんな人から、チョコをもらってもどうしていいのか………。
「ていうか、そんなにオレのチョコの事が気になるんだったら、先に帰らなきゃいいだろ?」
「わたしまだ死にたくないも~ん。……それにそんなの見れるほど私覚悟出来て無いよ………」
「なんだよそれ?」
「ううん、何でもない、何でもない!あっ、そうそう、クラスの女の子が渡したのは多分義理チョコだよ」
「義理チョコ?」
「『ありがとうございます。これからもよろしく』っていう一種の社交辞令ってやつだよ」
「なんだよ、それ!?紛らわしいな」
「まあね。でも空気でわかると思うよ。シンが苦手な」
「うるさい!!」
 人が気にしてる事をズケズケと………。
「それにシンが気をつけるのは義理チョコじゃなくて、明日渡されるチョコだよ」
「ハァ?なんでだよ?」
「チョコをバレンタインの次の日に渡すと渡した人の事が嫌いっていうことなんだよ~」
「ふ~ん、なんかバレンタインっていろんな決まりがあるんだな」
 そんな明日のことより、オレは今日のことで気になっていることがあった。
「そういえばさっき言ってた義理チョコってやつ?つかさやみゆきさんもそれなのか………?」
「それはないよ~。その二人は本命チョコだよ。ラッピングからして専用機だもん♪」
「そ、そうか?」
「そうだよ~。あ~?ひょっとして、ホッとした?」
「す、するか!!馬鹿なこというな!!!オ、オレはべ、別に義理でもよかったんだからな!!!」
 でも自分が大切に思われるのはやっぱり嬉しい……まあこんなこと口が裂けても、言えないけどな。
「ハイハイ、そういうことにしておくよ」
 ニヤニヤした顔でオレの反論を受け流すこなた。
 クソッー!あの顔は絶対におちょくってるな。何か反撃したいけど……そうだ!
「こなたは義理チョコもくれないんだよな………」
 オレはいかにも残念そうな声で言い、うなだれる。
「まあ、わたしはお菓子作りは得意じゃないからね。でもかわりに今日の晩御飯は腕を振うよ☆」
「ホントか!?」
 こなたの返しにあっさりオレのターン終了。……ってオレひょっとしてメチャメチャ単純?
 こうしてこの世界で初めてのバレンタインは豪華な夕食で終わった。

「チョコをバレンタインの次の日に渡すと渡した人の事が嫌いっていうことなんだよ~」
 昨日のこなたの言葉とかがみの朝の行動がオレの頭にこびりついて離れず、授業は完全に上の空。
 かがみとは、出会ってから、たくさん喧嘩をした。だがそれはお互い自分のことを相手に、もっと理解して欲しくてやっていると思っていたのは、オレだけの勘違いだったらしい。しかし
「そんなに嫌われてたなんてなー」
 思わず溜め息と共に小さく何度目かの独り言を吐き出す。
 オレを嫌うのはわかる。自分で言うのも何だが、オレは人づぎあいというのがうまくない。恐らく知らない内にかがみを傷つけていたんだろな。
 わからないのは、そんなに嫌いなのに、かがみはオレに話しかけて笑いかけてくれるということだ。
 そしてもう一つわからないことがある。今後かがみとどう接していいかということだ。
 これらの問いの答えを朝から考えているんだけど、まったく出てこない。
 取りあえずに出た答えが、嫌いなヤツとは飯を食べたくないだろう、だった。
 その結論にようやく辿り着いた時。

キーンコーンカーンコーン♪

 ようやく四時間目の終了の鐘が鳴った。
 高校生活2年間でこれ程昼休みを待った日はなかった。そして、これ程昼休みが来てほしくない日もなかった。
 朝からずっと私はアイツが取った行動を考えていた。
 メールでそれを聞こうとも思ったが、答えが返って来るのが怖かった。
 そして朝から考えて出た結論が、あの行動は偶々であるということだった。
 偶々アイツがお腹が痛くて顔が青かったから
 偶々アイツが幽霊を見て青ざめてたから
 詳しい理由はわからないが偶々そうなったのだ。
 そう自分に言い聞かせながら、アイツのいる教室に向かう。
 教室に入るとアイツがバッがワルそうに照れながら
「朝は悪い。実は………」
 と言ってくれるはずだ。
 そう願い、私は教室のドアを開け、いつもの席を見る。
 そこにいるのは私の唯一の妹と二人の親友。……そしてアイツは何処にもいなかった。

続く

 戻る 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年06月09日 14:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。