「いらっしゃい、ってなんだキミか。今日はオフのはずだが?」
「バカね、お姫様と一緒じゃない」
「おお、こりゃ失礼。僕が無粋だったよ」
「ち、違いますよ!2人とも何言ってんですか!?今日は頼みごとがあって来たんですよ!!」
マスター達のいきなりの挨拶にうろたえまくり、早口でまくしたてるオレ。
つかさに至っては顔真っ赤にして俯いてるし。
「あら、そうなの?残念ね」
「まあ、立ち話もなんだし席に着いてコーヒでも飲みながら、話をしてもらおうじゃないか」
「変なとこ、ちゃっかりしてるんだよな~」「アハハ」
そう言いつつオレ達は席に着いた。
「で少年、頼みというのは?」
「ハイ、お菓子作りのためにキッチンを貸して欲しいんですけど………」
オレは置かれた、マスターお手製ブレンドコーヒに手をつける事なく答える。
「……ふーむ。理由はわかったがキッチンはなー………」
やや困った顔をしながら顎を擦るマスター。
「母屋の方はどうかしら?あそこでもよっぽどのものじゃない限り作れるわよ」
「…そうだな。それでいいか少年?」
「あっ、ハイ。ありがとうございます!」
オレ達は座ったまま頭を下げた。
「ここよ」
「わぁ~」
わたしはそのキッチンに入った瞬間に声をあげちゃったの。
だって、広くはないけど物凄くオシャレなキッチンだったんだもん。
「ウフフ、気に入ったみたいね」
「は、はい」
「じゃあ私は店に戻るわね。2人っきりだからって変な事したらダメよ?」
「し、しませんって!!!」
あの人のツッコミを笑顔で流しお姉さんは出ていったの。
…………。
「と、とりあえず、準備しようぜ………」
「う、うん………」
あの人と私はお互いを見る事なく準備を始めたの。
「ねぇシンちゃん、あのお姉さんとマスターって結婚してるの?」
「確か籍は置いてないとか言ってたな。俗にいう内縁の妻ってやつかな」
「そうなんだー」
あの人達は好きな人とお店を開いて、そこで一緒に働いていて……いいな、羨ましい。私もあの人と――
「…かさ……つかさ!」
「ほいやっー!?な、なに、シンちゃん?」
「なに?じゃないだろ。準備できたぞ、って言ったんだけど」
「え、あ、ごめんね」
「ったく、よろしく頼むぜ。先生」
先生か…なんか照れちゃうな~。
「お任せあれ~」
そう言ってわたしは胸をドンっと叩いて……むせちゃったの………。
「さて、つかさ先生。オレにでも作れそうなお菓子ってどれだ?」
そう言ってあの人はわたしに本を渡したの。
「う~ん。ここらへんとかいいんじゃないかな~?」
わたしが指し示したページにはカップケーキや、シュークリームといった、ポピュラーなお菓子がのっていた。
そのページを見ながらあの人は腕組みをして
「うーん。少しは手の込んだ物を作りたいしな………シュークリームにするよ」
「りょうか~い。じゃあね――」
「まった」
「え?」
なぜかあの人が、教えようとするわたしを止めたの。
「試しにオレ1人で作って見るから、つかさは見といてくれ」
「えっ、うん………」
もし美味く出来ちゃったら、これからあの人は1人で作っちゃうのかな?…あの人と一緒に作りたいのにな………。
「じゃあ、行くぞ!」
そんなことを考えてる内にあの人がお菓子作りを始めたの………。
「砂糖が大さじ3……こんなんでいいだろ」
「卵は混ぜ方がいのちー!」
スッテーン
「いたた」
「なんで何もないとこでアンタがコケるんだよ!?」
「エヘヘ」
っということもあったんだけど、数時間後………
チーン
「おっ、できたぞ!」
「………」
「………」
…オレはこのシュークリームに似たような物を見た事がある……そう、
かがみが渡してくれたチョコにそっくりだ………。
「なんでだよー!?」
「シンちゃん、落ち着いて!だ、大事なのは味だよ!」
「そ、そうだな」
オレとつかさは早速シュークリームらしき物体を食べてみる。
「………」
「………」
「えーと、な、なんていうんだろ………」
「微妙だな………」
美味くもなく、不味くもなく。主役であり、主役でない、オレにはピッタリと言えばピッタリだが………。
「なんでだよー!!?」
「シンちゃん、落ち着いてー!さ、最初にしてはいいと思うよ……」
つかさのフォローがオレのキズを抉っていく。
「何がダメだったんだ………?」
オレはキッチンの片隅で体育座りをしながら呟いた。
正直、料理にはそこそこ自信があった。しかし作って見れば、料理下手なかがみ以下の出来前、これはいろんな意味でへこむ。
「し、シンちゃん、ファイトいっぱ~つ!原因はわかってるんだし、ね」
「……つかさ慰めてくれなく………って原因わかってるのか?」
「う、うん」
「なんだってー!?」
オレはここに来てから何度目かの大声をあげた。
「さっきので、原因がわかったのか?」
「う、うん、だいたい原因は…10個くらいだから」
オレの質問にメモを見ながら、つかさは答える。
そんなにあるのか…オレ的には本どうりにやったと思ったんだけどな………。
「まあいいか。じゃあ言ってくれ」
「うん、まず砂糖とかの分量だけど、適当に入れちゃダメだよ。」
「なるほど」
「次にかき混ぜ方なんだけど――」
「ふむふむ」
「それでね、次はね――」
「つ、つかさ!ストップ!ストップ!」
「え?まだ後3つあるよ?」
「もういい、そんなにいきなり言われてもわかんないって」
実際、わかったのは最初の3、4くらいで後のは、どこのを言われてるのかもわからなかったし………。
「そ、そうだよね…ごめんね」
「いや謝る事ないって、聞きたいって言ったのはこっちだし。それにしてもつかさよくみてるなー」
「ううん、そんなことないよー。体が勝手に動いてただけだし………」
それってかなりの達人だと思うんだけど………。
「なんにしてもオレはお菓子作りを甘く見てたみたいだ。
てなわけで次からはよろしくご指導お願いします!」
「ふぇ?え?こ、こちらこそよろしくお願いしまする~」
わざとらしく頭を下げたオレに、つかさも妙な言い回しで返事をし、頭を下げた。
~つづく~
最終更新:2009年04月22日 00:47