16-850

アスカくん、私が誰だかわかりますか?」
「天原ふゆき先生。この学校の養護教諭でしょ?」
「はい、正解です。ではこの人は?」
 そう言うと天原先生はピンク色の髪をしていて、眼鏡をかけた少女を指差した。
「高良みゆき。オレのクラスの学級委員で博識」
「博識だなんて…そんな………」
「では、そのお隣りは?」
「柊つかさ、料理が上手くて、ちょっとドジ」
「あう~ひどいよシンちゃ~ん」
「そのお隣り」
「柊かがみ、つかさの姉でツッコミが上手い」
「まて、あんた!!」
「まあまあ柊さん、ではそのお隣りは?」
「う~ん」
 オレは改めてかがみの隣りにいる少女を見る。
 女の子とはいえ同い年とはとても思えない背丈、青色の長髪、左目の近くには泣き黒子、一回見たら忘れなさそうな特徴をしてるが……

…。
「誰だよアンタ?」
「シン同じギャグは3回も通用しないよ?」
 少女は頬を膨らませる。その瞳には哀しみの色が少し混ざっていた。
「ギャグを言ってるつもりはないんだけどな………」
「やはり泉さんの記憶だけありませんね」
 天原先生の言葉に少女は顔を青ざめた。



「シンは……シンは治るよね!!記憶戻るよね!?」
 少女は泣いた声で、オレに飛びついて来た。
「ちょっとこなた!?シンはまだ――」
「だって、だってシンが……シンが!」
「泉さん、落ち着いて下さい!それをこれから調べますから!」
「……は、はい……」
 いつもと違う真剣な口調の天原先生に気圧され少女はオレから離れた。

「一時的な記憶障害ですね。1日も経てば治ると思いますよ」
 オレを除く皆に安堵の空気が流れる。
「よかった」
 少女がホッとした顔でこっちを向く。
「…ごめん」
「え?」
「そんなにオレの心配してくれるのにキミの事、思い出せなくて……ごめん」
 少女の様子を見てると、オレは謝らずにはいられなかった。
「…ううん、こっちこそごめんね……みっともないとこ、みせちゃったね」
 そうして今度は照れた顔で笑う少女。
 この少女を見てると、オレはこの少女に何度も助けられてる気がする……そしてそんな大事な人を忘れた自分に腹が立ってくる………。
「すみませんが、みなさんはご自分の帰り支度とアスカくんの鞄を持って来て下さい。
アスカくんはそれまで後頭部のタンコブを冷やしておきましょうか」
 オレの握り拳に気づいたのか、天原先生が明るく皆を追い出しにかかった。



 わたし達が保健室を出て、少ししてかがみが口を開いた。
「ま、まあ……大怪我にならなくてよかったじゃない」
「え、ええ。天原先生のお話ですと、一時的なものということですし………」
 ホントはシンの無事を大喜びしたいんだろうけど、わたしに気をつかいいつもどうりに振る舞おうとするかがみとみゆきさん。
「だよねー。優しいままのシンちゃんでよかったよ~。テレビとかで記憶をなくすと――」
「つかさ!!!」
「あっ………!ご、ごめんね、こなちゃん………」
「いいよいいよ。シンが無事だったんだし…性格も変わらなくてよかったよ」
 最後の言葉は努めて明るくいったが、嘘ではない。
 私の記憶をなくしてるけど、私を気遣ってくれてる優しいシンのままで……おや、まてよ、ってことは………。
 その時あることをわたしは閃いた。
「ふっふっふっ。そうか!我が世の春が来たということかー!」
「え!こ、こなちゃんどうしたの!?」
「シンはわたしの記憶をなくしてる。ということは今までの好感度フラグが0になってるかわりに、嫌いフラグも0になってるはず」
「はぁ……で?」
 全然わかってない皆を代表してかがみが続きを促す。
「シンの攻略法も2周目みたいにある程度わかるし、シンとの好感度フラグ取り放題!!!」
 わたしはそう言って拳を握った。



「アホかい!!!
だいたいそんなのシンが記憶戻ったら意味ないでしょーが!!」
「あまいなかがみん」
 かがみのツッコミにわたしは不敵な笑みで返す。
「一種の擦り込みというものですか?」
「そのとおり!さすがみゆきさん」
 そう言って、わたしはみゆきさんに親指を立てる。
「ゆきちゃん、どういうこと?」
「詳しい原理は省きますが、泉さんが今のシンさんに女性としての良いところを印象づけます。
そしてシンさんが記憶を戻されても、シンさんの記憶には無くされた時の泉さんの女性としての良い印象が残り、シンさんは………」
「…シンちゃんはこなちゃんを女として今までより意識しちゃうってこと?」
「…ええ」
「それが望みか、あんたの!?」
「ハッハァ!わたしのではない!これが乙女の夢!乙女の望み!乙女の業!」
「くっ!」
「他者より近く!他者より先へ!他者より上へ!!」
「ふざけんな!!」
「顰め!妬め!憎め!その身を喰いあうがいい!」
「あんたの理想よ!思い通りになんて――」
「すでに遅いさ!わたしにはわかる、だから知る!天が作ったチャンスに恵まれて、わたしは幸せになるとな!!」
 わたしはライバル達に高らかに勝利宣言を行なった。



「えー!お兄ちゃん本当に大丈夫なの?」
 あの後、合流したゆたかが心配そうにこっちを見て来る。
「大丈夫だよー、ゆーちゃん。一部以外は異常ないから」
「…でも、その一部って……お姉ちゃんの記憶なんでしょ?」
「先生も一時的って言ってたし、大丈夫よ。…それに、忘れられた奴はあんま気にしてないみたいだし」
「お姉ちゃん、抑えて抑えて」
 かがみはなぜかジロリと少女を睨んだ。
「そうですね。こういう場合は無理に周りが急かしては余り良くないかもしれませんね」
「そ、そうですよね。お兄ちゃん、ごめんなさい」
「ゆたかが謝ることないって」
 天原先生にも言われたが、こういう場合焦れば焦るほど泥沼にハマっていくだけだ。
 無理に思い出さなくても、この少女がオレにとっての大切な人ならすぐに思い出すだろうからな………。

「それよりゆたか、例の子には会えたのか?」
「うん!しかも同じクラスだったんだよ!」
「そりゃよかったな!だから大丈夫だって言ったろ?」
「うん!」
「しっかりしてそうな子だったね」
「こなちゃん、会ったの?」
「うん、休み時間にゆーちゃんと保健室を探してるとこを会ってね。でもいいキャラ属性してたね~」
 少女が思い出すかのように遠くを見つめた。



「なによ、そのキャラ属性って?」
「綾○や○門にも勝るとも劣らないクール無口系だったよ」
「誰だよそいつら?芸能人か?」
 オレの問い掛けに少女はこちらを振り向いて首を傾げるが、すぐにゆるい顔(こういう表現しかできない)になり、
「シンってば、記憶無くした方が冗談が上手くなってるね~☆」
 そう言って、オレの背中をバシバシと叩いた。
 オレはそんな気はしないんだけどな………。
「そうだ、言うの忘れてた」
「えっ、何?」
「少しの間、迷惑をかけるけど、よろしく頼むな」
 オレはそう言って、少女に右手を差し出す。
「うん。これをクリアできたら、わたしルートだもんね♪」
 訳のわからない事を言いつつ、少女はオレと握手をかわしてくれた。


「おはようございます」
「おはよ~、シンちゃん」
「ああ、っはよ」
「あれ?今日はこなたと一緒じゃなかったの?」
「ハァ~!?」
 かがみの質問に自分でも語気が荒くなってるのがわかる。
「なんでオレがアイツと一緒に登校しなきゃ行けないんだよ!!」
 オレの言い放った言葉にかがみ達は目を丸くした。


~つづく~

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最終更新:2009年08月16日 23:57
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