桜も完全に散ったな………。
オレは自分の席から見える桜の木を見ながら、そんなことを思った。
~「Which heavy the past or the weigh?」~ オープニング1
花見というものを今年初めてしたけど、あれはなかなかに面白かった。来年も……いや、毎年アイツらと花見がやれたら――
「どなたか、立候補する方はおられませんか?」
オレは
みゆきの声に我に帰った。
結構桜の木を見ながらぼんやりとしていたが、まだ話は全然進んでないらしい。
……無理もないか。なんってたって今決めてるのは『ミス陵桜コンテスト』に出るクラスの代表。
この場面で立候補する女はまずいないだろう。立候補すればナルシストともとられかねない。
「どなたか、立候補する方はおられませんか?」
みゆきが再びクラスの皆に聞いたが、反応は0。
みゆきもそれはわかってるんだろうけど、立場上決めなきゃ行けないし、損だよな~学級委員長ってヤツは。
と言ってこのまま、みゆきをほっとくのもな~………
「あー、いいか?」
「はい、何でしょう?
アスカくん」
手を挙げたオレを委員長モードのみゆきが当てた。
「これだけ、聞いても出ないって事は推薦にしたらどうだ?」
「そうですね、そうしましょう」
オレの提案に頷くみゆき。
まあ推薦でも男は意見を言えないな……男が女を推薦したら、後でどんな噂をたてられるか………。
それでも立候補だけよりはよっぽど話が進むはず………。
「では、どなたか――」
「はーい、みゆきさん!」
声を出したのは
こなただった……なんだ?この嫌な予感は………
「はい、泉さん」
「このクラスの代表はみゆきさんがいいと思うよ!凹凸激しいし、イケるって!」
ドッ
こなたの発言にクラスが沸く。
「そ、そんな……泉さん………」
「もう、それでいいじゃん」
「高良さんは美人だしいけるって」
こなたのセクハラ推薦が効果があったのか、あっという間にクラスの大半がみゆきをクラス代表に押す声になった。
「…わ、わかりました………ではB組の代表は私ということで………」
パチパチパチパチパチパチ
観念し、肩を落とすみゆきにクラス中から拍手が送られた。
ふと横を見ると、
つかさと目が合った。
オレとつかさは引きつった笑みを浮かべ合った。
「うーん、誰かいないか?」
桜庭先生がクラスを見渡すが、目を合わせようとする女子はいない。
「こうも決まらんとはなー。せっかく早く終われると思ったのだが………」
露骨に悔しがる桜庭先生。
そうは言っても……私は『ミス陵桜コンテスト』と書いてある黒板を見る。
無論ミスコンなんていうものは去年はなかった。
何でも小子化対策でこれを目玉にして生徒数を確保するという理由で、ミスコン開催が決定したらしい………。
でもこれって選ばれた人は完全に見せ物扱いよね………。
「ああ、もう!この際、他薦でもかまわん!誰か名前を挙げろ!」
桜庭先生は教壇を叩きながら、怒鳴った。
そんな推薦と言っても、新クラスになってから1ヶ月もたってないし、他の人の事もまだよくわからないし………。
「ハイ、せんせ~い」
手を挙げたのは日下部だった……なんだろ、嫌な予感がする………。
「うちのクラスの代表は柊がいいと思うんだ~」
「なっ!おまっ!?ふざけんな!!」
私は思わず席を立って、日下部にツッコミを入れる。
「よし、C組の代表は柊に決定!」
「先生ー!」
あまりの強行決議に私は桜庭先生の方を向く。
「ん?柊不満か?」
「当たり前です!」
私は両手で机を叩いた。
「ふむ、では皆に聞くか。
柊がクラスの代表に賛成の者は手を挙げろ」
桜庭先生の言葉に私と峰岸を除くクラス全員が手を挙げた。
「そう気を落とすな柊。
もしミス陵桜に成れば男共が寄って来て、選り取り見取り、薔薇色の青春がおくれるぞ」
「そんなのいりません!」
桜庭先生の提案を私は力一杯否定する。
それに私が振り向いて欲しいやつはもう決まってるんだし………。
「どうしても、嫌だったら今日中なら辞退は認められてるぞ」
「え、そうなんですか?」
「この時間に誰か決めとけ、というお達しだからな。この時間過ぎての辞退なら私の預り知らぬと頃だ」
「………」
桜庭先生のぶっちゃけ発言に言葉も出ない私。
「どっちにしろ辞退するもしないも、お前の自由だからな。好きにするがいいさ」
そう言うと桜庭先生は教室を出て行った。
「なあ、なあ柊」
「…………」
「怒るなって~」
「黙って昼飯を食え」
「はい………」
「ねぇ、柊ちゃん本当に辞退するの?」
沈黙した日下部に変わって峰岸が聞いて来る。
「当たり前よ!あんな見せ物みたいなのはごめんだしね」
「でも、柊ちゃんがミス陵桜になればあの人も寄って来るんじゃない?」
そう言って少し悪戯げに笑う峰岸。
まあ、そんな事も一瞬頭をよぎらないこともなかったけど………。
「あいつがそんなんで寄って来たら、こんなに苦労してないわよ」
私は軽く肩をすくめた。
「すまない、みゆき!
まさか、こんなことになるなんて………」
机に頭を擦り付けてるのはシン・アスカことオレだった。
「そ、そんな、シンさん。私は気にしていませんし、頭を上げて下さい!
シンさんが意見をおっしゃって下さらなかったら、何時までたっても決まらなかったですし」
「そうそう、シンが悪い訳じゃないよ~」
「アンタにだけは言われたくないね!」
オレは呑気な声の主を睨み付けた。
「な、なんでさ?」
「お前がみゆきを推薦したのも原因だろ!」
「みゆきさんならミス陵桜を取れると判断したから推薦したんだよ~。
わたしだと残念ながら一部の人しか支持を得られないからね~」
「そんなことは聞いてないだろ!!」
「シンさん、落ち着いて下さい」
みゆきが止めなかったら、オレはこなたを力付くで土下座させていただろう。
「先ほども言いましたが私は本当に気にしていません。クラスの代表としてミス陵桜コンテストに出させて頂きます」
「いいのゆきちゃん?辞退も出来るんでしょ?」
「ええ…ですが私はクラス委員長です……こ、ここで引いては皆さんに示しが着きません!」
そう言いつつも、みゆきの声はうわずっていた。
……これもオレのせいだな……オレも出来る限りで手助けするか。
オレは心の中で決意した。
昼御飯を食べ終え、ミスコンのクラス代表を辞退しに行く為に職員室に向かった私は、その途中で見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけた。
「みゆき」
「あっ、
かがみさん」
「どこ行くの?」
「はい、ミス陵桜コンテストで必要なプロフィール用紙をもらいに職員室まで」
そう言えば、桜庭先生もそんなこと言ってたわね、ということは………。
「出るの?ミスコンに?」
「は、はい、お恥ずかしながら………」
みゆきの性格からして自分から立候補ってのは有り得ないし、誰かに推薦………
「こなたね………」
「はい、推薦されてしまいました」
みゆきは怒る事もなく、ただ困った笑顔をするだけ。さすが、聖人君主。
「かがみさんの方こそどちらに行かれるのですか?」
「私も一緒よ。もっとも私は――」
「かがみさんも出られるんですか!?」
私が理由を言う前にみゆきが嬉しそうに私の手を握って来る。
「えっ私は――」
「かがみさんが一緒だと心強いです。頑張りましょう!」
…どうしよう…今更ホントの事言いづらいし、かといってこのままだと………鬼よ!かがみ、ここは鬼になるのよ!
「え、ええ、頑張りましょ」
かくして私はミス陵桜コンテストに参加する事になった………。
最終更新:2009年12月17日 23:24