「ねえ、シンちゃん、この子の名前考えた?」
私は少し大きくなった自分のお腹を愛しげに撫でながら、私の旦那さんであるシンちゃんに聞いた。
「いや、出産予定はもう少し先だろ?だからまだ考えてないな」
「私が名前決めていい?」
「その様子だともう決めてるみたいだな。」
「うん」
シンちゃんの質問に私は頷く。
「じゃあ、つかさに任せるかな」
そういって、シンちゃんは笑って私の頭を撫でた。
奥さん相手にそんなことするもんじゃないよ、って何度も言ってるのにシンちゃんはそれを改めようとしない。
やっぱり嬉しそうにしてるのが、良くないんだと思うんだけど……シンちゃんに頭を撫でられると、幸せな気分になるんだから仕方ない
よね?
「でなんてつけるんだ?」
「それは内緒」
シンちゃんの問いに私は人差し指を自分の口に当てた。
「…出て来てからのお楽しみってわけか」
「うん!ところでシンちゃんはつけるとしたらなんてつける?」
「そうだな~。女だったら『るな』とか、かな」
少し考えたシンちゃんの口から出た名前を聞いて私は目をシパシパさせる。
そして、一呼吸おくとシンちゃんに聞いた。
「それって前に話した、あっちの世界の彼女さんの名前から取ったの?」
「ああ」
オレは頷いてから後悔した。なぜ『月』からとったと言わなかったのかと………。
「…やっぱりシンちゃんはその人のことが忘れられないんだね………」
「えっ、いや、違っ!」
もはや弁解しても遅い、つかさの目には完全に涙が溜まっていた。
「私と結婚したのも私が可哀想だったからでしょ!?
ほんとはお姉ちゃんやこなちゃんやゆきちゃんの誰かと結婚したかったんだ~!!うわぇぇぇーん!」
そう言って子供の様に泣き出すつかさ。
今の時期の女性はナイーブになってると、子育て教室で聞いていたが……これ程とは………。
「待て!落ち着けつかさ!…い、いいか、確かにその人は戦友でも有り……そ、その彼女だった。
そして、
こなたや
かがみ、
みゆきもオレに取っては大切な人達だ。
でも今、本当に愛してるのは………お前だ!!」
かなり恥ずかしいが仕方ない!本当のこと言わないとつかさは泣き止まないだろうし。
「……ホント………?」
オレはつかさの肩に手を置き黙って頷く。
「よかった~!!」
「ちょっ……ま、まて………」
「あらあら、2人ともアツいわね~」
その声に抱き付いたままの体制で振り向くオレとつかさ。
そこにはいたのはかがみ……に似てはいるが大人の余裕を持った女性。
「お、お母さん………」
そうだった……みきさんは妊婦のつかさを手伝うために来てるんだった………。
さっきのオレ、悪いけど死んでくれ………。
オレは心の底からそう願った。
「おいシン、お前さんに急ぎの電話だ。外線3だ」
「相手は誰ですか?」
「柊さん、だとさ」
オレは上司の答えを最後まで聞かずに電話に出た。
「も、もしもし、シ、シンです。み、みきさんですか?」
『シン君?みきです』
「ひ、ひょっとしてつかさが……?」
『そう、陣痛が始まって今病院なの。お仕事で抜けれないと思うけど一応伝えようと思って』
焦りまくってるオレに対して、さすがに四人も子供を産んだだけあってみきさんは落ち着いていた。
少し事情を聞き、オレは礼を言って受話器を置いた。
「シン、おめでたか?」
「は、はい。みたいです」
オレの答えに職場内で祝福や囃立てる声が上がる。
「じゃあ、お前はもう上がれ」
「えっ!いいんですか!?」
「安心しろ、その分ちゃんと減俸しといてやる」
「ぐっ!」
これから何かと金がいるのに………減俸という上司の言葉がオレにのしかかって来る。
「ならお前、お金と子供どっちを見たい?」
「そ、それは………」
「割り切れよ。出ないと………」
「わかりました!!シン・アスカ早退します!!」
『それはない』
『えー!?』
オレの決意表明にあちらこちらからブーイングの嵐。
「おいおい、俺達はチームなんだ!息を合わせてバッチリ行こうぜ!
シンはこの後、皆に出産祝いで奢ってくれるんだからな!」
上司の説得(?)に職場内に歓声が生まれる。
…どうやらオレの昼飯は当分カロリーメ〇トで決定らしい………。
「う、うーん………」
私は少しだけ呻くと目を開ける、最初はぼやけてた視点がだんだん鮮明になって来て、見えて来たのは見慣れない天井………。
そうか。私陣痛を起こして………。
「つかさ!気がついたのか!?」
声がした方向に首だけ向けるとシンちゃんが見えた。
「あはは、シンちゃん、目にクマが出来てるよ♪せっかくのハンサムが台無し~」
「バカ!……誰のせいだと思ってるんだ!?」
私は驚いた。シンちゃんの怒鳴りにではなく、シンちゃんの目がいつも以上に赤くなっていることに。
「もう……麻酔きれてるはずなのに、なかなか起きないし…………」
「えっ、私どれくらい寝てたの?」
「二日だ」
ひょっとしてシンちゃん二日間寝ずに私の側に?………。
ギュッ
「シ、シンちゃん、どうしたの?」
「オレ怖かった………」
「えっ?」
「ひょっとしたら、つかさはオレを置いて行っちゃうんじゃないか、そんなこと思ってさ………」
シンちゃんは崩れる様に私を抱き締めて、震える声でそう言ったの。
そんなシンちゃんの頭に私はそっと手をのせた。
「大丈夫、私はシンちゃんをおいてどこにも行かないから」
「………うん」
ガチャ
少し開いたドアの隙間から、お母さんが見えたの。
お母さんは少し驚いた顔をしたけど、すぐに笑ってシンちゃんに気付かれない様にドアを閉めてくれた。
だから、私はシンちゃんをさっきより強く抱き締めたの。
「でつかさ、そろそろ教えろよ」
「え?なーに?」
「名前よ名前」
あの後、お母さんが頃合を見て入ってきて、現在病室にはシンちゃんと私そしてお母さんの3人だけ。
「お前が起きないから、赤ん坊達をなんて呼ぶか困ってたんだぞ」
シンちゃんはいつものシンちゃんに戻ってる……さっきまで泣いてたくせにー♪
「うん、じゃあ、発表します!名前は『みこと』ちゃんってどう?」
「みこと……かいいんじゃないか。」
「でしょ~♪」
男の子、女の子どっちが生まれて来てもいいように、不自然じゃない名前を考えるのは苦労したんだよ~。
「じゃあ、もう1人の名前は?」
「え?」
不思議な事を聞いて来るお母さん。何で名前がまだいるんだろ?
まさかシンちゃんと次の子の名前!?
「もう、お母さん気が早いよ、2人目なんて~」
「何言ってんだつかさ?もう1人いるんだから、勿体ぶらずに速く言えよ」
「え?」
「え?」
「え?」
順番に同じ言葉をはく私達(こういうの同口異音って言うんだよね♪)
「あ~つかささん」
「はい」
シンちゃんがこなちゃんみたいな口調で私に話しかけて来る。
「我々の子供は男女の双子ですけど………」
「へー………えええー!?」
「…双子って知らなかったのか?」
「先生が前から言ってたじゃない」
「え~と、子供が出来たと分かって………」
「舞い上がって、聞いてなかったと」
コクンと頷くつかさ。
「ど、ど、どうしようシンちゃん、私1人分しか名前考えてなかった~」
「な――」
思わず驚きの言葉が口からでそうになるがなんとか堪える。こういう時こそCOOLになれ!オレ!
「なーに、ま、任せろ!オレがとびっきりいい名前をつけてやる!」
「ホント!?」
「ああ、ちょっと待てよ………」
こういう時に浮かんで来るのが、『るな』や『すてら』だもんな~。もし言ったら今のテンパってるつかさだと、離婚とか言い出しかね
ないし………
片方が『みこと』だったらやっぱり神社系統がいいか……なんでめでたい祝いの日にオレはこんな苦労を………うん?祝いの日か………
。
「…なあ、『のりと』ってのはどうだ?」
「のりと?…あ、祝詞からとったんだ~うんすごくいいよ♪さすがシンちゃん!」
「まあな!」
オレは少し背をそらしながら答える。
これでとりあえずは………
「私もいいと思うわ。後はどっちが『みこと』ちゃんと『のりと』ちゃんを決めるだけね」
『あっ………』
…まだそれがあったか……そろそろオレ限界なんだけど………。
その後あれこれと議論を重ねたすえ、『みこと』を女の方に『のりと』を男の方にすることが決まった。
そしてオレはこの後子育ての難しさを知るのだが、それはまた別の話。
~fin~
最終更新:2009年12月17日 23:26