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 泉こなたにはある疑問があった。
 それは『何故自分はどこからか湧いて出た居候がなんとなく気になるのだろう?』ということ。
 最初はアニメぐらいでしか見かけない展開に興奮してるのかとも思ったが、一ヶ月、二ヶ月と一緒に暮らすにつれ、相手がその過去を除
けばただの少年であるとわかっても、その感情は消えなかった。
 そして、その疑問はふとしたことから氷解することになる。

「いやぁ悪いねぇ、また買い物に付き合ってもらっちゃって」
「いや、別にいいけどな。もうなれたし」
 例によって例のごとく、秋葉原のアニメショップ巡りに付き合わされたシンは、元凶となったこなたと並んで家路を歩んでいた。その両手はこなたが買い込んだDVDやらフィギュアやら同人誌やらが
詰まったビニール袋でいっぱいになっている。対するこなたはほとんど手ぶらだった。どうせ夕飯の買い出しにも行かなければならないので特に気にはしない。
「ところで夕飯何食べたい? まだ何作るか考えてないんだよね」
「別に何でもいいよ。こなたが作る飯は何でもうまいし」
「むむ……そう言う嬉しい台詞と嬉しくない台詞を同時に使うのは卑怯だと思うよ?」
「卑怯って何が……」
『我々は、政府の憲法改悪を許しません!!』
 言いかけたシンの言葉は突然の大音量にかき消された。
「なんだあれ?」
 シンの視線の先には、平和だの護憲だのの文字が大書されたスピーカーだらけのワゴン車があった。
『今、私たちが平和に暮らしていけるのも、憲法九条があるからなのです!! 政府の妄言にだまされてはいけません!! 憲法改悪は戦争への第一歩です!!』
「あー、あれは反戦平和団体といってね。一種の新興宗教だよ。この時期になるとどうしても活動が活発化してうるさいんだよねぇ」
 突然の闖入者に唖然とするシンに、こなたは至って冷静に解説する。
「反戦平和、ねぇ……訴えるのは結構だけど、何かやり方間違ってないか?」
 一方のシンは、いまいちよくわからないという顔で首を傾げている。それを見たこなたの中に、ちょっとした悪戯心が浮かんだ。
「ねぇ、シンはああいうのってどう思う?」
「どう思うって?」
「ああいう思想の人たち。元軍人の目から見たら、どんな風に映るのかなって」
「…………」
 こなたの言葉にシンは難しい顔で黙り込んでしまった。先ほどまで雑談していた少年はもうそこにはいなかった。
(あ、あれ?)
 軽い気持ちで聞いたこなただったが、どうやら地雷を踏んづけてしまったらしいと自覚した。少し考えてみれば、彼は戦争で家族を失っているのだ。それでも軍に入ったのは、彼が偶々他の人よりたく
ましかったから決断できたと言うだけで、誰にでも出来ることではない。極端な言い方をすれば、ああいう一団で活動していてもおかしくないだけの経験をしているのだ。
「え、えーと……言いたくないんなら」
「間違ってると思う……多分、そう言ったら嘘になるな」
 言いかけたこなたを遮って、シンは答えた。
「確かに俺は戦場で戦った。その経験からしたら、ああいうのは正直現実が見えていないと思う。けれど、あの人達が軍や戦争を恐れること自体はわかるんだ。戦争は大切なものを無慈悲に奪っていくし、戦場でたががはずれた軍がやることはここも向こう
とは変わらないみたいだしな」
 この世界の戦争を調べてみたときのことをシンは思い出した。単なる好奇心からだったが、コズミック・イラでの戦争とやっていることは大して変わらないと思い知らされた。それでも戦渦が世界中に広がっていない分、CEよりもましとはいえたが。
「そう言うことに平和なこの国を巻き込みたくない……その感情までは否定できないよ。だから、俺がやっていたことを間違っているとあんな風に罵倒されても、何も言えないと思う」
「…………」
(古傷……突いちゃったのかなぁ、これって……)
 先ほどまでよりもトーンダウンしたシンの言葉にこなたは絶句した。同時に軽い気持ちで問うたことを後悔する。
「けれど」

 突然、それまでよりも凛とした声音でシンが口を開いた。
「俺は、軍に入ったことも、戦場で戦ったことも、何も後悔なんかしていない」
 そう言ったシンの横顔にこなたはどきりとした。今まで一度も見たことがない、凛々しい表情だった。
「もう一度言うけど、確かに俺は戦場で戦った。そこで顔も知らないパイロットをモビルスーツごと吹き飛ばしたり、まだ中に敵が大勢いる要塞を潰したりもした。確かにそう言うことは罪なんだと思う。けれど、そのことは全く後悔していない。なぜなら……」
「……なぜなら?」
 言葉を切ったシンに、こなたは静かに続きを促す。
「そうやって戦って、守れたものも確かにあったんだ。手に入れた絆だってあったんだ。戦ったことを後悔したら、そう言うのまで全部否定することになってしまう。この世界に来た今では、思い出にな
ってしまっているけど、あの世界で手に入れたものを、俺は失いたくないから……だから、絶対に後悔なんかしない。そう決めてるんだ」
 迷いなど一片もない表情でシンは断言した。そこには普段から緩い日常を送っている少年はおらず、代わりに激動を経験し、かつそれを乗り越えてきた一人の戦士がそこにいた。
(ああそうか……)
 こなたの中で疑問は氷解した。自分は、すべてに対して誠実で一生懸命で、そのくせ恋愛のことなんかには信じられないほど鈍くて不器用な彼のこういう部分に惹かれていたのだ。
「と、まぁこれが俺の見解。長くてすまないな」
 空気が少し重いことに気づいたのか、シンは先ほどとはうってかわって明るい声で言う。いつもの少年が戻ってきていた。
「さぁ、さっさと買い物を済ませてしまおう。そうじろうさんが待ってる」
 そう言ってシンは歩調を早めた。ほほ少し赤くなっているところを見ると、どうやら大まじめに自分の意見を言ったことに恥ずかしくなっているようだ。
「うん、そうだね。早くしよう」
 そう言ってこなたはシンに歩み寄り……
「て、あんた何やってんだぁ!?」
 シンの左腕に抱きついた。
「ささ、いそごいそご。お父さんおなかすかせて待ってるよ」
「いや、それはわかるがその前に離れてくれないか?」
 抱きついてきた肢体の意外な柔らかさに、シンの顔は耳まで真っ赤になっていた。
「べっつにいいじゃん? 同じ釜の飯を食って、一つ屋根の下で寝て、同じ風呂に入ってる中でしょ? こんな事は気にしなーい!!」
「俺がよくないし気にするんだ!! とっとと離れてくれ!! というか誤解を招く発言を大声でするな!!」
「よーし、フラグ成立記念に、今日はシンの大好物な親子丼だぁ!!」
「人の話を聞けー!!」
 いつもの緩い日常を彼らは紡ぐ。そんな二人がゴールインするか否かは……また別のお話。

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最終更新:2008年01月31日 01:54
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