しかし、世の中一体どうなってるのか。オカシイのは俺か、それともこの世界なのか?
世界がおかしいのなら…、世の中不思議なこともたくさんあるんだろうけど、流石にこれはないだろう。
幽霊…そんなものを俺に信じろ、と?
「でもまさか、私が話せたり…触れたりもできるなんて。シンくん、あなたは感受性というか…俗に言う霊感が強いんですね」
けど、今…俺の目の前にいるこの人?は、間違いなく幽霊と呼べる代物だ。なにせ、この人からはまるで生気を感じない
…正直オレの貧相な頭では…この人が「幽霊」であるとしか理解の仕様がなかったんだ。ってか、本人も「幽霊」って言ってたし…。
認めたくはないんだけど、百歩譲って幽霊がいるという事はとりあえず理解しようと思う。
だが、俺にはそれより気になることがいくつかあったのだ。
「あの、
かなたさんでしたよね?…どうして俺の名前、知ってるんです?」
「ああ、それはですね…私はずっとこの家で
そうじろうや
こなたを見守ってきましたから、この家の事情はだいたいわかっているつもりなんです。
勿論…あなたのこともですよ、シンくん。あなたが突然この家にやってきた時から、私はあなたを知っていました」
俺がここにきた時から知っていたってのか。まぁ、見えない所から俺たちを見守っていたというところなのか。
「失礼ながら、あなたの生活ぶり…いつも見ていましたよ。お部屋での過ごし方とか、お風呂での体の洗い方とか…」
…おいおい、なんか丸見えじゃないですか…いろんな意味で。プライバシーなんてあったもんじゃない。
しかし、プライバシーうんぬんはともかく、これで俺の名前を知っている理由はわかった。
というか俺の生活ぶりを観察していることからも、既に俺がどういう人間であるのか、この人はだいたい理解しているんだろう。
だとすると、ここで新たな疑問が生まれてくる。
なぜ、俺に霊が見えるのかとか、そういった疑問もあるにはあるが、それはとりあえず後回しにして…。
ここでの俺の疑問とは、仮にも「幽霊」とあろう存在が…一体俺に何の用があるのか、ということだ。
そういうわけで、俺はかなたさんに用件を聞いてみた。
「それは…ただ単純にあなたとお話をしてみたかったというのがまず一つです。この体になってから、誰とも話す機会がなかったですから寂しくて」
なるほど、寂しい…か。この話を聞くに、幽霊っていうのもなかなか孤独なものかもしれない。
幽霊がどんなに近くにいても、現世の人間は気づきもしないのだろう。
こうやって、現世の人間と話す機会ってのは…幽霊にとって貴重なのかも。
もちろん、現世側の俺としても幽霊と話すなんてことはかなり貴重なことなのだろうが…。
「で、用件はそれだけですか?ただ、話がしたい。それだけのために、俺とコンタクトを?」
「いえ、それだけでもありません。実は折り入って、あなたにお願いがあるからお話にきたんです」
お願い? まさか、一緒に天国についてこいなんて不気味なことじゃないだろうな?
「まぁ、聞くだけ聞きますけど、何なんです?」
「これはあなたでなければできないことです。その、実は…娘のことでして」
「こなたのことですか?]
「はい。娘のことは…ご存知の通りですよね。私としては、肉体的にも精神的にも健全に育ってほしかったのですけど…
こなたは見事に私の体型と、そうじろうの性格を受け継いでしまいました。あれでは、こなたをお嫁に貰ってくれる人がいるかどうか心配で心配で…」
…まぁ、確かにこなたは変なヤツだ。今までオレが会ったことのないようなタイプの女の子であることは疑いようがない。
親が嫁の貰い手を心配するのも頷ける。だが、そんな話をしたところで俺にできることは何もない気が…。
「そこで、シンくん…無理を承知でお願いします。娘を…こなたをお嫁に貰ってはくれませんか?」
……どうやら、オレは目だけでなく、耳までおかしくなってしまったようだ。やはり、今日はさっさと寝y
「現実逃避なさらないでください。これは…こなたの母としての切実な頼みなんです」
ああ、オレの耳はおかしいわけではないらしい。
正直言うと、ここまで耳がおかしくあってほしいと思ったことはない。
「こなたをお嫁にって…そんな無茶な!」
「シンさんは、こなたのこと…お嫌いですか?」
「いえ、そ…そういうわけじゃありません。けど」
「けど、何ですか?」
「オレのことはともかく、こなたの気持ちを最優先に考えてやったほうがいいでしょう?」
オレがそういうと、いきなりかなたさんが笑い始めた。俺には、かなたさんが何故笑うのか理解できない。
「それなら問題ありませんよ。こなたはあなたのこと、大好きみたいですから」
「は?…こなたがオレを??」
そんなバカな…。いつもオレを精神的に苛めるだけ苛めて楽しんでる、あの青い小悪魔がオレのことを?
「あの子をずっと見守り続けてきた私にはわかるんです。でもあの子は、あなたに恋してることに自分でも気づいていないの。
だから、第一歩としてあなたの方からあの子に迫って、こなたが貴方に恋してるってことを気づかせてほしい…」
そのことは本当なのだろうか?オレにはこなたが恋するだなんて、想像もできない。ましてや、オレに…!
「そ、そんなことできませんよ!!何をフザけたことを…!」
「そうですね、まずはこなたにキスでもしてあげて。そうすれば、あの子も気づくと思いますから」
…ってオレの話なんか聞いちゃいないな、この人。もうかなたさんの頭の中では、オレがこの話を了承したとでも思ってるらしい。
「かなたさんッ!!オレはそんなことは絶対にッ」
「では、シンさん…頑張ってくださいね。あなたたち二人の仲が進展するのを心から祈っています。
もし、積極的になれないと言うのなら、私が出てきてサポートしてあげますからね」
そう言って、俺の返答なんて聞かぬまま…かなたさんはオレの前から姿を消したのだった。
はぁ…。思わず溜息をつきたくなる。最後の方、かなり一方的だったじゃないか…。
っていうか、オレにそんな無茶を頼まれてもな。友人の言葉を借りるが…正直、困ります。
まぁ、オレはちゃんとした返答をしたわけじゃないし、こんな頼みなんか華麗にスルーしてやる…
…なんてことを考えていると、上からひらひらと紙が舞い降りてきた。
不思議に思って、その紙を手に取ってみると…大きな字で「追伸」と書いてある。
どうやら、かなたさんが送ってきたもののようだが…。とりあえず、オレはそのメッセージを読んでみることにした。
だが、読んだあとにオレは「読むんじゃなかった…」と後悔するハメとなる。その内容は恐るべきものだった。
長々と書かれてはいたんだが、要するに「娘を嫁にしなければ呪い殺す」と言ったことが遠まわしに書かれていたんだ。
これじゃ…ただの脅し。もしかして、かなたさんって性質の悪い悪霊なんじゃ…。
あまりの理不尽さにオレは頭を抱えながらも、なんだか不思議な一日は過ぎていった。
終わり
最終更新:2008年03月03日 10:25