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2-824

 柊家。
まつり
「何、母さん」
 冷蔵庫でジュースを探していた柊まつりは、母に呼ばれて顔を上げた。
「これ、暇ならつかさの部屋に持っていってあげて」
 手渡されたのはお盆。その上には、紅茶とケーキが二つずつ置かれてる。
「へ、誰か来てるの?」
「シン君よ」
「あれ、シン君来てるんだ」
 シン・アスカ。
 つかさ、かがみ以外の柊家女性陣の中で、近年、注目度が高まってる男の子だ。
 どういう理由で注目度が高まっているのかは言うまでも無い。
 あの、意地っ張りなかがみと、奥手なつかさが男に懐く。これは大変な事件だった。
 と、ここで、まつりは、一つの疑問が浮かんだ。
「っていうかシン君一人できたの?」
 男一人で女友達の来る。というのは何でもないようで、実は結構異常だったりする。
 特にかがみとつかさの性格を考えればなおさらだ。
「まさか、どっちかに逢いにきたのかな?」
「それだったら良いんでしょうけど、残念ながら違うわ。かがみの忘れ物を届けに来てくれたのよ」
「そっか~。そういえばかがみもつかさも昨日はこなたちゃんの家に泊まってたもんね~」
 まつりは、にしし、と少し意地悪な笑みを浮かべた、
「こんな時にコンビニに出掛けちゃってかがみ可哀想~。逆につかさ一歩リード~」
「そう思うなら、持ってってあげなさい。あの子、携帯を家に置いていってるみたいだから、
 シン君の事、連絡できないのよ」
「おっけ~、帰ってくるまでの時間稼ぎだね。お母さんはもしかしてかがみ寄り?」
「そんなわけないでしょ。お母さんはあくまで中立よ。さ、くだらない事言ってないで早く持っていってあげなさい」
「は~い」

 乾いた音を立てながら廊下を歩き、つかさの部屋の前に立つまつり。
 ノックをしようとして、
「つかさ。入るわ――」
『ねぇ……もう、こんな関係、終わりにしない? やっぱり、良くないよ』
 まつりの手は、ピタっと止まった。
(……へっ? 何? 今の台詞?)
 忍び足で扉に近づき、聞き耳を立てる。中からつかさとシンの会話が聞こえてきた。
『なぜだ? いまになって……俺に興味がなくなったのか?』
『ううん。そうじゃないの。あなたのこと、いまでもとっても好きだよ? 昨夜のことだって……あたし、ちっとも後悔してない』
『俺だって、昨夜のことは忘れない。それでいいじゃないか』
『でも……』
 まつりは開いた口が塞がらなかった。
(えぇ~! 昨夜の事って、こなたちゃんの所に泊まってたんじゃないの!?)
 これ以上聞かない方が良いという感情と、もっと聞きたいという欲望が交錯する。
 次の瞬間、欲望が一回戦コールド勝ちで大勝利を収めた。
『まさか、彼女のことを気にしてるのか?』
『……うん。だって、あたしの一番の親友なんだよ? あなたのこと、本気で想ってるし。
 もしあたしたちの本当の関係を知ったら、彼女、すごく傷つくと思うの』
 親友。まつりが知っているつかさの親友はこなたとみゆきぐらいしかいない。
 もちろん、友達レベルになるともっと沢山思い当たる人物がいるが、つかさが親友と言うのはこの二人ぐらいである。
『あたし、親友を裏切りたくない』
『俺の気持ちはどうなる。確かに彼女は魅力的だが、君には遠く及ばない。彼女にはもっと似合いの奴がいる』
『だ、だって……』
『きっと分かってくれるはずだ。彼女は強い子だからな』
 とんでもないことを聞いてしまった。
 そう思いながら、まつりはゆっくりとその場を後にした。

 つかさの部屋。
 シンは妙な違和感を感じ、“共同作業”を中断して某ミリタリー小説から顔を上げた。 
「ん?」
「どうしたのシン君?」
 その隣で、つかさも顔を上げた。
 シンは少し首をかしげて唸る。
「いや、今、入り口から人の気配がしたような……」
「ええ!」
 その手の話と勘違いしたのだろう。つかさは露骨に嫌な声を上げた。
 それに気付いたシンは、
「あ、いや、やっぱ気のせいだな」
 そう言って微笑む。それでいくばくかつかさの不安は和らいだ。
「そっか……でも、今日はいいこと教えてもらって良かった~」
「ああ、こうすると楽しく読めるだろ?」
「うん、“ライトノベルのセリフを声に出しながら読む”と全然眠たくならないよ~」
「だろ~」
 少し前にさかのぼる。
 柊家にかがみの忘れ物を届けに来たシンは、かがみが不在だったので、置くものだけ置いて帰ろうとした。だが、
 つかさとその母みきが「ちょっと寄っていってよ~」と強く言うので、この後、特に予定も無かったシンは、お言葉に甘える事にした。
 案内されたつかさの部屋は、女の子の独特の雰囲気に包まれており、最初は緊張した面持ちだったシンも、
 いつの間にかつかさの柔らかな性格に和まされ、そんなものは感じなくなっていた。
『だよな~臭いよな。んっ?』
 つかさとの談笑中。シンの視界に一つの本が飛び込んできた。
『あれ? これ、かがみの本だろ?』
 つかさの机に丁寧に置かれていた本は、かがみが好きな某ミリタリー物の小説だった。
 シンは手を伸ばしてその本を掴むと、パラパラとページをめくった。
『へぇ、つかさもこういうの読むんだな』
『うん、お姉ちゃんから借りてるんだ。読もうとは思うんだけどね……』
『思うんだけどって?』
『うん、読んでるうちに眠たくなっちゃって、最後まで読めないんだ……』
『ふ~ん。なら俺、いい方法知ってるぜ』
 で今に至る。
「感情入るから声が大きくなっちゃうね」
 つかさは楽しくも、少し恥ずかしそうだ。台詞が台詞だからしょうがない。

「そうだな、しかもこのページ。台詞がこそばゆいし……」
「でもね、さっきも言ったけど。貸してもらったからには最後まで読みたいんだ。
 私、いつも途中で寝ちゃうから、お姉ちゃんに悪くて……」
「ああ。つかさがラノベ談義ができるようになったら、きっとかがみも喜ぶぞ」
「うん、私、お姉ちゃんとお話出来るようになりたい!」
 シンはこの言葉に目頭が熱くなるのを感じた。
(姉のために健気に頑張る“妹”……なんか良いよな……)
「つかさは本当に良い子だな……」
 シンは知らず知らずの内につかさの頭をなでていた。
「えへへ、シン君、頭グシャグシャするとリボンが取れちゃうよ~」
 でも、つかさはまんざらでも無いようだ。
「あ、ごめん」
「ってシン君、なんで泣いてるの!?」
「いや、何でもないんだ。ちょっと姉妹愛という名の風が目に染みてな……」
 シンは腕で涙を拭うと、拳を握って叫ぶ。
「よし! 今日は俺、とことん付き合うぞ! じゃあ基本的に男キャラが俺で女キャラがつかさな!」
「うん!」
 つかさは元気一杯に返事をした。


「姉さん、居る!?」
 まつりは、騒々しく姉の部屋の扉をあける。
「何? 騒々しいわね。ってあら、おいしそうなケーキ」
 長女、いのりは部屋の真ん中で本を読んでいた。まつりはその隣へ腰を下ろす。
「姉さん! つかさが、つかさが……」
「どうしたのよ? とりあえず落ち着きなさい、まつり」
 言いながら、長女はケーキと紅茶を自分の方へ引き寄せる。実にちゃっかりしていた。
「姉さん、実はかくかくじかじかで……」
 まつりもケーキを食べながら話始める。
 話が終わる頃には皿もカップも空になっていた。
「それはかなりまずいわね」
 と、いのりは最後の一口を頬張りながら、深刻な口調で言った。、
「そうだよ、クリスマスに家につかさが居なくて、姉二人が居るって状況どうよ」
「もう、そんな悠長な事言ってる場合じゃ無いわよ……」
 いのりは楽観的な妹に呆れながら続けて言った。

「あなた、もう一人の妹の存在忘れてない?」
「……あ、かがみ!」
「そうよ」
「あっちゃ~」
 頭を抑えながらうなだれるまつり。妹二人がシンに対してどいうゆう感情を抱いているのか、
 知らないのは、父ただおぐらいである。
「まぁ、いつかはこういう状況になるとは思ってたけど……」
「姉妹で一人の男を、って時点でね……」
 二人はこの先の展開を考えてみる。
 姉妹で一人の男を好きになる。
 ↓
 どちらかが、その男と結ばれる。
 ↓
 家庭に微妙な空気が蔓延する。
 ↓
 昼のメロドラマ。
 ↓
 火曜サスペンス。
 二人の頭の中で、あの重厚なOPが流れた。
「かがみにバレるとまずいわよ……」
「かがみにバレるとまずいわね……」
 二人は頭を抱えた。

 ずっと部屋で頭を抱えていてもしょうがないので、とりあえず二人は行動に移る。
「もっと情報収集すべきだと思うわ」
「分かったよ姉さん。でも、ゆっくり歩いてね」
 もう一度、つかさの部屋の前で聞き耳を立てようというのである。
 しかし、この目的が達成される事は無かった。
「二人とも、階段で何やってるの?」
 聞き慣れた強気な声が聞こえてくる。二人が振り返ると、
「「かがみ!」」
 階段の下で、ビニール袋片手に怪訝な表情をしている、かがみがいた。
「こ、こんな階段で何してるのかな、かがみちゃんは」
「はぁ? だって私の部屋は二階だから階段使うに決まってるじゃない。ってか、かがみちゃんって何?」

「は、早い帰りだったわねぇ!」
「そう? 途中で知り合いに会って話し込んでたから、むしろ遅いと思うけど?」
「あはは、言われてみればそうね……」
「ねぇ。ところで、玄関に見慣れない靴があったけど、だれかお客でも来てるの?」
 ドキッ。姉二人は、一瞬体を震わせた後、しどろもどろに口を開いた。
「あ~来てると言うか……」
「でも、来てないというか……」
「なにそれ?」
 その時、すぐ横の通路から母みきが顔を出す。
「あら、かがみ。帰ったのね。だったら早くシン君に挨拶してきなさいな。つかさの部屋にいるから」
「えっ、シン、来てるんだ……」
 それを聞いて、ぱぁ、とうれしそうに微笑むかがみ。
「ふん、なによ、来る前に事前連絡ぐらい入れなさいよね!」
 次の瞬間、頬を染め、フンッ、と腕を組んで首を回すかがみ。
(この、妹は……)
(なんて可愛らしくも分かりやすい反応を……)
 姉二人が、ちょっと悦に入っている内に、かがみは階段を上ろうとしていた。
「待ってかがみ!」
 まつりは両腕を広げてその前に立つ。
「何よ?」
 かがみは益々怪訝な表情を浮かべた。というか明らかにイラっとしている。
「ど、どうしよう姉さん……」
 まつりは、姉に助けを求める。しかし、その姉の口から出たのは意外な言葉だった。
「……しょうがないわ。つかさの部屋に行きましょ」
「ね、姉さん!」
「まつり……いつまでも隠し通せるものじゃないわ」
「それはそうだけど!」
「それに、今なら事前に伝えておけるし、考えようによっては、ある意味チャンスとも言えるわ」
「で、でも……」
「じゃあ、もしこの先、何の準備も無く現場に“バッタリ”なんて状況になってみなさい!
 それこそ最短で火曜サスペンスよ!」
「とりあえず何の話だ……」
 かがみは半眼で呟いた。

 姉二人から話を聞いたかがみは、それを鼻で笑った。
「はっ? シンとつかさが? そんなわけ無いじゃない」
「そう思いたくない気持ちは分かけどさ、かがみ……」
「でも、分かってるわよね! 大人の対応をするのよかがみ!」
「あ~はいはい、分かった分かった」
 姉二人の言葉を冗談半分に聞き流しながら、階段を上る。
 しかし、よくよく考えてみると。昨晩、シンとつかさが二人きりで家にいた時間があった事を思い出した。
(そういえば、昨日九時ぐらいに私とこなた、あとゆたかちゃんの三人でコンビニに行ったわよね……)
 その時間、シンはバイト帰りで疲れていたため、早めに就寝していた。
 つかさもその時間、スヤスヤと眠ってしまっていたので、置いていった。
(まさかその時に……いやいや待て、私たちが出掛けてた時間は大体三十分ぐらい、
 しかも下にはおじさんがいたし……)
 と、ここでかがみは自分の想像を振り払うかのように首を何度も横に振った。
(そんな訳無いじゃない! それにつかさは大事な妹よ、
 もし隠れてシンと付き合っていたとしても私は……大丈夫)
 つかさの部屋に着いた。かがみは小さく息を飲む。
「つかさ~ちょっと入――」
 ドアノブに手をかけようとして、
『制服を脱いでくれ』
 かがみは全身に雷が落ちたかのような衝撃が走った。
(え?)
 そうしてる間にも、シンとつかさの声はさらに聞こえてくる。
『えっ』
 つかさが驚愕の声を上げた。
『脱ぐんだ』
 しかし、それを制するシンの強い口調。
『な、なに言ってんのよ、これから死ぬからって、そんな、いきなり。
 あ、あたしにも心の準備とか選ぶ権利とか、それに、こんな場所で、だめ、やだよいくらなんでも』
 冷静に考えれば、普段のつかさの言動と遠く離れている事に気付きそうなものだが、
 この姉妹三人は、誰一人疑問に思わなかった。なぜなら、今の廊下に冷静な思考を維持している者など誰もいないからだ。
『いいから早く脱ぐんだ』
(つかさと……シンが……そんな!)
 自分に隠れて深い関係になっていた。

 そりゃあ、別にかがみとシンは付き合っているわけでもないので、問題なんて何一つ無い。
 ただ、つかさが、自分に隠し事をする。その今までならありえなかった事実が、かがみを揺さぶった。
(……ていうかちょっと待て。今、つかさは拒否してないか?)
 そう思った瞬間、かがみの体は自然に動いていた。
 バタン!
「シン!」
 扉を乱暴に開く。部屋には必要以上に体を寄せ合っているシンと妹の姿があった。
「あ、あんたって人は……本当に……」
 体の温度が急激に上昇し、肩がワナワナと小刻みに震える。
 もちろん、シンとつかさが体を寄せ合っていたのは、一つの本を二人で読んでいたためであって、他意はない。
 しかし、少々冷静さを失いつつ……いや、失っているかがみに、ただでさえサイズ的に小さいラノベの存在など目に入らなかった。
「あ、かがみ」
「あ、お姉ちゃん。いつ帰ってたの?」
 部屋の中で二人はケロッとしていた。
「つかさから離れろケダモノぉぉぉぉぉお!」
 そして、ケロッとしてヘラヘラしている男の方に、
 そりゃもう相手に背中が向くぐらい腰をひねった、フルスイングの張り手が炸裂した。
 バッチーン! 
「!?」
 あまりに唐突で強力な一撃に、シンは悲鳴も上げられなかった。
 ちなみに、かがみの追撃は続く。
「馬鹿ぁ! シンの大馬鹿ぁ!」
「お、お姉ちゃん!? よく分からないけど止めて! シン君が死んじゃう!」
「かがみ! 止めなさい!」
「かがみ! 置時計はだめぇぇ!」
 ここ柊家においても、かがみ凶暴伝説が誕生した瞬間であった。


 次の日。三年B組の教室。その隅で、仲良し三人組はヒソヒソ声で話し合っていた。
「なるほど、それで、シンさんは、嫉妬に狂ったドラゴンに一晩中小突き回されたかのような顔をしているんですね……」
「しかもシン。朝、散々他の男子にからかわれてたからねぇ……ありゃ相当怒ってるよ」
「うう、シン君怖い……」
「ん?」
 と、ここでこなたは、クラスの入り口から、チラチラと中を覗いている人影に気が付いた。

「あ、かがみだ。入ってきなよ~」
 かがみは一瞬、驚いたかのように体を震わせた。
 しばらく迷っている様子だったが、やがて重い足取りでクラスに入ってくる。
「あの……シンは?」
「そこ」
 こなたの示した先には、机に座りながらドス黒いオーラを発散させているシン・アスカがいた。
 かがみは、その様子に一瞬怯んだが、やがて意を決し、しかし弱々しい足取りで彼に近づいていった。
「シン」
「……」
 返事は無い。
「……シン」
「あんだよ」
 静かだが重い口調。かがみは怖くてしょうがなかったが、必死に言葉を続けた。
「シン、あの……よかったらお肩でも」
「凝ってねぇ」
「シン、ジュースあるんだけど喉……」
「乾いてねぇ」
「シン、面白いライトノベル……」
「読みたくねぇ! っていうかライトノベルは当分見たくもねぇ!」
「シン、あの……」
「ふん!」
 シンはわざと大きな鼻息を立ててソッポを向く。
 冗談ではなかった。シンにしてみればかがみの忘れ物を届けてやったのに結果フルボッコ。
 しかもあの後、家から追い出されたのである。
 それから何度かシンの携帯に電話がかかってきたが無視した。
 家の電話にもかかってきて、こなたが電話を持ってきたがそれも拒否した。
 というか、こなたの場合は、シンの怒りの視線を感じて退散したといった方が正しい。
 そりゃあ、かがみは友達だし、ずっとケンカするつもりは無いが、今回ばかりはすぐに怒りが収まらない。
 当分、冷たく接して、懲らしめてやる。シンはそう思っていた。
(しかし……何も言ってこなくなったな)
 静かになったのが、なんだかんだいって気になるシン。

 ちょっとだけ後ろ向いてみる。すると、
「う、うう……うううう……」
「げ!」
 女性のみが持ち、あのストフリも裸足で逃げ出す、という噂の究極兵器が発射体勢だった。
「うえ~ん、シンの馬鹿ぁ! いい加減許してよぉぉぉ」 
 かがみは人目もはばからず声を出して泣いた。
 昨日の夜、シンは怒りの夜を過ごしたが、対してかがみは不安の夜を過ごした
 電話しても出てもらえず、こなたには『ごめん、部屋には行ったんだけど、怒ってて、怖くて近寄れない……』と言われ、
 実は、そこでもポロリと泣いた。
 ベッドに入っても、自分の行動に対する後悔ばかりが浮かび、
 完全に嫌われたと思うと、胸が苦しくて悲しくて一睡もできなかった。
 もう心身共に疲労困憊。そして、そんなかがみに心から湧き上がるものを止められるような力は残っていなかった。
「お前! それは反則だぞ!?」
 つかさ達もあまりの出来事に、驚いて固まっている。
 シンは慌てた。傍から見れば、大泣きする女と大慌ての男。言うまでもなく周りの冷めた視線が集まるのは……、
「うわぁ、シンが女泣かせてやがる!」
「最低だなあいつ!」
「そろそろ殺っとく?」
「待てお前ら! 俺は何もしてない!」
 その時、こなたは、かがみに駆け寄ろうとするみゆきとつかさを制しながら、シンの方へ近寄った。
「……シン。助けてあげようか」
「こ、こなた」
「私の言うことを聞けば大丈夫! かがみの扱いなら慣れてるからね!」
 ビッっと親指を立てるこなた。
 藁にも掴みたい状況である。シンの目には、そのちんちくりんな体から、眩いまでの後光が差しているように見えた。
「こなたぁ……分かった! お前の言う通りにする!」
「まずかがみを優しく抱きしめて!」

「よし! 優しく抱きしめるんだな!」
 女性のかがみはシンの腕にすっぽりと収まった。
「さぁ抱きしめたぞ! 次はどうすれば……」
 と、ここでシンは自分の行動を冷静に考えた。
「……お前! 人に何やらせてるんだ!」
「あは♪ シンは単純だから絶対引っかかると思ったよ~。さぁ、後はテイクアウトなりなんなりご自由に~」
「あんたって奴わぁぁぁぁぁぁ!」
「シン……」
 かがみの押し殺したような声。シンはビクゥ!っと肩を震わした。
「まて、これは誤解だ! 殴るなよ? 殴らないでくれ!」
 言いながらも身構える。でもかがみを抱きしめたままだ……結構良い根性をしている。
 シンは目を閉じ、歯を食いしばっていたが、拳はいつまでたっても飛んでこず、その代わり
「……ごめんね」
 嗚咽混じりの小さな言葉が彼を打った。シンがゆっくりと目を開けると、その視界に飛び込んできたのは、
 グスっと鼻を鳴らし、うつむきながら、シンの制服をギュッっと握るかがみだった。
 それに、よく見るとその華奢な体は小さく震えていた……。
 シンは大きなため息を吐いた後、かがみを抱きしめる腕の力をほんの少しだけ強めた。
「……分かったよ、俺の負けだ。だからもう泣くな。帰りにお前の好きなシャーベット奢ってやるから」
「……うん」

 女の涙はとにかく痛い……また一つ、シンは人生の経験を積んだのであった。

こなた「不謹慎だと思いつつも、本気で泣いてるかがみ萌え♪」
シン「お前は黙ってろ!」

END
ご迷惑をおかけしました。

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最終更新:2007年12月02日 10:24
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