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3-44

 昼休み。屋上。
 こなたはトイレ。みゆきは委員会。かがみは授業が終わるのが遅かったので、まだ合流していない。
 と、いうわけでシンはお昼には珍しく、つかさと二人きりだった。
「なぁ、つかさ」
 シンはこなたの作ってくれた弁当に舌鼓を打ちながら、つかさに声を掛けた。
「な~にシン君?」
 向かいに居たつかさは、上目遣いでこちらを見上げる。
 ちなみにその口元にごはん粒が付いていたので、シンは親指で取ってやった。
「あっ、ありがと~」
 シンは指に付いた米をパクっ食べる。その時、つかさが照れたような笑みを浮かべたがシンは気付かなかった。
「いや、まぁ、それはいいんだ。なぁ、ちょっと聞いていいか?」
「ん、な~に?」
「こなたはこなちゃん。高良はみゆきだから、ゆきちゃん。なのに何で俺はシン君なんだ?」
「へっ?」
「まぁ、俺も男だし、ちゃん付けで呼ばれたいとは思わないんだけど、ふと、気になってさ」
「えっと、それはね……」
 本当に理由無く気紛れで尋ねた質問だったのだが、
何故か、つかさは顔を真っ赤にして、胸の前で手をもじもじさせ始めた。
 明らかにいつもと違うその態度にシンは、俺は何か変な事でも聞いただろうか……と少し不安になった。
「つかさ?」
 呼び掛けみてもすぐに返事は無い。
 つかさはひとしきりモジモジを繰り返し、顔を真っ赤にしたまま俯いている。
「つかさ、別に答えたくないなら、答えなくても構わないぞ?」
「……違うの、あのね、男の子をちゃん付けするのは……その……私の中で、あるルールを決めててね……」
「ルール?」
「うん、それでね……そのルールっていうのは……私の全てを受け入れてくれた人だけ、ちゃん付けで呼ぶ、っていうのでね……」
「そうなんだ」
「……一人しかだめなんだよ」
 シンは弁当から卵焼きを口に運ぶ。美味かった。
「へぇ~、結構基準が厳しいんだな」
「……あの、だからね!」
「んっ?」
 つかさの様子がどんどんおかしくなっていく。
 泣きそうだし、でも、口調は決意にも似た意志が込められているかのように力強い。

「あの、あのね……前から私……シン君の事、ちゃん付けで呼びたいなぁ……なんて思ってて……」
「いいよ」
 シンはキッパリと言った。そして、卵焼きを頬張る。うん、相変わらず美味い。今度こなたに作り方を聞いてみようと思った。
「えっ! 本当!」
 つかさは、長年の苦労がついに報われたかのように、まばゆい笑顔を浮かべた。
 シンもその苦労に応えるようにニッコリと笑い、
「ああ、もちろん。俺はつかさの事を“仲間”として“全てを受け入れてる”しな」
 と、千尋の谷へ突き落とした。
「……へっ?」
 目が点になるつかさ。
 そして、シンは何処か遠くを見つめながら、感慨深げに語り始めた。
「なんか昔、似たような事あったなぁ……そうそうレイだよレイ。
 レイっていうのは俺の友達……いや親友なんだけど、そのレイは結構、かがみみたいな所があってさ、
 味方としてはすぐ認めてくれたけど、仲間として受け入れてもらうのには苦労したなぁ」
「……」
 つかさは呆然としている。
「その点、俺は大丈夫だ。俺にとって、つかさは大切な“仲間”だ、“友達”だ。
 これから、俺の事はどんどんちゃん付けで呼んでいいぞ。っていうか前から思ってたんなら早く言ってくれれば良――」
「……ど、どんだけぇぇぇうぇぇぇぇん!」
「えっ、ちょ! つかさ!?」
 つかさは弁当を放り出し、泣きながら走り去る。
 無理も無い。ただでさえ奥手なつかさが仕掛けた一世一代の大勝負。
 なのに、負けるならまだしも、勝負さえ成立しないのではあまりに不憫である。
 シンが、つかさの去っていった方向を見つめながら呆然としていると、
「シン……」
 絶対零度の声が響いた。

「か、かがみ!」
「あんた……つかさに何したのよ……」
 爆発しそうな巨大な力を、薄皮一枚で繋ぎ止めてるような雰囲気を漂わせているかがみ。
「ったくオメーは、柊姉に続いて次は妹かよ……」
 ついでに日下部も居た。
「ま、まて、今回は本当に何が何だか!」
「シン!」
 かがみに襟を掴まれて、引き寄せられるシン。顔が間近に迫ってどぎまぎしたが、状況はそんな色っぽい展開を許さない。
「言・い・な・さ・い。つかさに何をしたの!?」
「落ち着けかがみ! お前、この前の一件で『私、これからシンの事、もっと信じるから……』って殊勝な顔で言ったばっかだろ!」
「何言ってるのよ! つかさが泣きながら、あんたから走りさったのは事実じゃない!」
「それはそうだが、少しはこっちの話も――」
 その時、かがみの肩に、みさおがまぁまぁ、と手を置いた。
 一瞬、かがみを諫めてくれるのかと期待するシン。
「かがみ。男ってのはしょうがないんだぜ。理性では止められねぇんだ」
 シンは殴りたかった。けど、残念ながらかがみに掴まれてて動けないし、手が届かなかった。
 そうしてる内に、みさおは生暖かい視線をこちらに送りながら、
「白状しろよシン。柊妹に何したんだ? パフパフか? チョメチョメか?
 全く、女の立場としては青少年の衝動とやらも大概にしてほしいぜ」
 と、悪意にまみれた言葉を投げ掛けた。
「ぱ、パフパ――シン! あんたって人はぁぁぁ!」
 気付けば、シンはさらに力強くかがみに締め上げられた。
「まて! ほんとに誤解だ――ぐ、苦じい」
 それでも、シンは頑張って声を絞りだした。
「お、俺も、なんでつかさが居なくなったのか知らないし、分からないんだ! 信じてくれ!」
 必死だった。必死にかがみに信じてもらおうという純粋で誠実な気持ちだった。が、この女が全てをぶち壊す。
「やれやれ、確か前にもメガネの後輩とそんなような話があったよな……」
 まったく男ってのはこれだから。とでも言いたげに、呆れた表情で肩を竦め首を振るみさお。
「さすが、女を傷付けといての知らぬ存ぜぬはアスカのお家芸だな」
「日下部! お前ぇぇぇ!」
 シンは蹴り飛ばしたかった。だが残念ながら足が届かなかった。

 屋上入口の踊り場。
「うえ~ん。こなちゃ~ん……」
「一部始終、見てたよつかさ。頑張った、あんた今日は頑張ったよ……」
 こなたは、自分の胸で涙する親友の頭を、よしよし、と撫でながらとあやす。
 ドアの向こうからシンの切実な叫び声が聞こえてくるが、聞こえない。
 というか、シンを助ける気にはこれっぽっちもなれなかった。

 つかさはシンの事をちゃん付きで呼べる日が来るのか。それは誰にも分からない……。

 余談。ちなみに今回もかがみに誤解の疑惑を掛けられたシンであったが、
 事件の話を聞いた知り合い全員が、口を揃えて「それはお前が悪い!」と言うので、怒るに怒れなかった。

END

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最終更新:2007年12月02日 10:24
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