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 1000のスレをオブラートに包んで、SSにしてみるシリーズ①。
PART4『シンがみなみを孕ませる』もとい『シンとみなみの間に子供が出来る』


 とある喫茶店。
「……へ?」
 シン・アスカは鳩が豆鉄砲くらったような表情を浮かべながら、素っ頓狂な声を上げた。
 朝、急にみなみから『相談したい事があります……』と電話があり、この喫茶店で待ち合わせした。
 会ってから終始無言のみなみだったが、注文したジュースが来て、それをストローで一気に飲み干すと、
 いつもと同じような静かな口調でこう言った。
「……“あれ”から来ないんです」
 シンは己の耳を疑った。
 予想外の事態に手が震え、それに連動してティーカップが下皿に何度も当たってカチャカチャと音を立てる。
「……な、何が?」
 シンはこの言葉を絞り出すので精一杯だった。
「……」
 みなみの瞳に、ジワッと涙が浮かぶ。
 それを見て、シンは慌てて声を上げた。
「ああ、スマン! 別にふざけたわけじゃないんだ!
 ほら、テレビとかこなた関係のゲームとかでこういうの、実は勘違いってよくあるだろ? 
 まずは落ち着いて検査をして白黒はっきりさせよう。話はそれからだ」
 シンはその前に、己を落ち着かせようと、注文したコーヒーをゆっくりと口に含む。
「……黒でした」
 シンは、コーヒーを吹いた。幸い、ギリギリで首を横に向けたため、みなみにかかることは無かった。
 もっとも、床に飛び散ったため近くのウェイトレスには嫌な顔をされた。
「自分で検査したので確実とは言えませんが……」
「ゴホゴホッ! ゴホッ! そ、そうか……」
 シンは咳き込む胸を叩いて、何度も息を深く吸う。
「先輩。私、どうすれば……」
「どうすれば、ねぇ……」
 シンはとんでもない事になったと思った。自分達ははまだ高校生。
 これが向こうの世界“プラント”だったら就職して生活が安定していたし、生めよ増やせよという情勢上、
 社会的な風当たりも優しい。だが、ここ日本は違う。
「……困ったな」

 この間まで、つかさに勧められて見ていた某中学生のドラマが頭をよぎる。
(俺は学校を辞めて働かないといけないだろうか……でも大学に行かずに就職は厳しいか?
 いや、子供がある程度成長してからまた勉強をやり直して……でも高校中退はまずいかも……)
 ここまで考えて、シンは首を振った。
(馬鹿か俺は! こんな時、気遣わなきゃけないのは、俺の将来じゃなくみなみ自身の事だろ!)
 みなみはまだ高校一年生。一番楽しい青春の盛りである。
 シンにとって高校生活はとても輝いた時間だった。
 通って良かった。通えて良かったと本気で思っている。
 みなみだって、将来そんな思いを抱くに違いないはずだった。それなのに、一年も経たない内に、
「みなみ。俺……」
 顔向けができない。というのはこういう事を言うのだろう。
 みなみの輝く時間と未来を奪った自分が、この少女に対して何が出来るのだろうか。
(……いや。そんなの決まっている)
 みなみの意志を尊重する。それが自分に残された唯一の選択。
 そう決意して、シンは力強くみなみを見据えようと、俯いた顔を上げる。
「みなみ! こうなった以上、俺は……ってあれ?」
 しかし、向かいの席には誰も居なかった。


 その頃、みなみはとある公園のブランコに乗っていた。
『困ったな……』
 シンのその言葉を聞いた時、気が付いたら店を飛び出していた。
「しょうがないよね。先輩……モテるし」
 あれは事故みたいな出来事だった。お互い“勢い”みたいな要因も大きかったと思う。
 二人は恋人じゃない。ただの先輩と後輩。そこに少し偶然が紛れ込んだだけ。情はあっても愛は無い。
 それに……シンは、明らかにみなみ以外の女性を見ている。
 だから、この事をシンに相談すれば、彼に迷惑がかかる事は良く理解していた。でも、相談せずにはいられなかった。
 みなみには、確かに愛があったから……。
「困るんじゃ、仕方ない……よね」
 分かっていたのに、涙がポロポロと零れる。
「う……う、うう゛う゛……」
 分かっていたのに、吐き出す息に嗚咽が混じる。
 シンに拒絶された事で、今まで心に詰まっていたものが一気に溢れた。
 無理もない。まだ高校生になったばかりのみなみに、この問題を一人で抱えられるだけの強さなど、あるはずが無い。

「みなみ!」
 そんな時、あの人の声が聞こえた。

 シンがみなみを見つけると、彼女はこちらを向き、一瞬驚いたような表情を浮かべた。が、
 次の瞬間、逃げるように走りだした。
「って、なんでだよ!?」
 シンも急いで追いかける。いくらみなみの運動能力が高いといっても所詮はナチュラル。
 過酷な訓練を耐えぬいたコーディネーターの体力には適わない。
 二人の距離は徐々に縮まり、そして、
「捕まえたぞみなみ! 何で逃げるんだ!」
 シンは、多少乱暴にこちらへ振り向かせる。同時に、彼女の瞳からいくつかの雫が宙に舞った。
「み、みなみ……お前、泣いてるのか?」
「離して下さい! 私、もう先輩に迷惑は掛けませんから!」
「な、なんだよそれ! ふざけるな!」
 シンの声に、みなみはビクッと肩を震わせた。
「そんな事冗談でも言うな!」
「困るんでしょ……」
「へっ?」
「困るって、言ったじゃないですか……」
 ここで、シンはみなみが自分から逃げだした理由を理解した。己の馬鹿さ加減と軽率さを猛烈に恨む。
「ち、違う! 俺は……その、お前が困ると思って……」
「えっ?」
「俺は、お前の青春を奪った男だ。だから、みなみが俺のせいでこんな事になって……だから、だから!」
 自分の考えが上手く言葉にならず、シンは頭を掻いた。
「ああ! もう! 上手く説明できないから、俺の考えを簡単に言うぞ! 俺は、お前の意志を尊重する!」
 シンはみなみの両肩をガシッと掴む。
「教えてくれ、みなみ! お前は子供をどうしたい!?」
 みなみは、押し黙って俯いていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……生みたい。このお腹にいるのは私の子供ですから」
 しっかりと言葉にして、シンに伝えた。
 シンは覚悟を決めた。
「分かった……責任は取る」
「シン先輩だけの責任じゃありません……私のせいでもあります」

「ならその責任は二人で償おう……みなみ。お前の償いは、元気な子を生むこと。
 俺の償いは新しい家族を守る事。一生かけて……」
「先輩……」
「俺の罪滅ぼしに、付き合ってくれるか?」
 みなみは両手で口を押さえて、涙を流す。そしてそのまま、コクコク、と頷いた。
「楽な暮らしは、させてやれないかもしれないぞ……」
「……でも幸せな暮らしはできます。先輩となら……」
「ありがとう、みなみ……愛してる」
 シンはみなみを優しく抱き寄せて、唇を近付ける。
「先輩」
 しかし、みなみはシンの唇を指で阻んだ。
「?」
 拒否されると思っていなかったシンは、驚いて、顔の距離を離す。
 みなみは震えて泣き続けている。最初は感動しているのかと思っていたが、それは違った。
「今はまだいいです。でもいつか私を……“私たち”だけを愛して下さい……」
 シンは、頭を思いっきりハンマーで殴り付けられたかのような衝撃を受けた。
 女というのは敏感だ、だからシンの中にある、いくつかの“未練”に気付いたのだろう。
 それを、すぐに捨てるのは不可能だ。それだけシンは彼女たちに救われたし、
 今になって思えば恋愛感情みたいなものを抱いていたと思う。
 それはあまりに輝きすぎている。捨てても、その輝きはどれだけ遠く離れてもシンに届いてしまうだろう。
 しかし、捨てねばならない、そして、目を背けなければならない。
 そうでなければ、常に自分を殺してきたこの少女があまりにも不憫だ。
「すまない、俺は本当にダメな男だな。けど、これだけは信じてくれ。俺はお前“も”愛してる……」
「……ありがとう。先輩」
 今度はみなみから、シンに唇を重ねる。二人はしばらくそのまま動かなかった。


 後になって気付いた事だが。
『この犬……君の?』
『はい。捕まえてくれて、ありがとうございます……』
 ここは、二人が初めて出会った場所だった。
 その出会いは幸運だったのか、不幸だったのか。それは、これからの二人にしか分からない……

END。

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最終更新:2007年12月02日 10:24
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