エピローグ 必須条件:
かがみとの好感度100%、全員との好感度50%
それから何度か季節が巡り、また春。
こなたの家の前にかがみは立っていた。
「やっほーかがみん。あうのは久しぶりだね」
出迎えをするこなたはあの頃とまったく変わっていない。
「そうね。大学忙しいから」
「ほほう。忙しい理由はもしや男ですかい?」
「ないわよ、そんなの」
コイツはいつもこうだ。
あの頃と変わりのないやり取りに笑みが零れる。
「で、あんたはどうなのよ?結局大学には行ってるのか」
「まあね。大学で漫画系のサークル入ったし」
「あんた、本当かわらないな」
本当に何気ない。
こうやって話すのは『あの頃』と全く一緒だ。
でも、何かが、欠けている。
でも、何かが、圧倒的に足りない。
あの頃を思い出すといつも感じる空虚感。
思い出の中にそこだけがポッカリと開いてしまっている。
そんな感覚がずっと離れない。
「どったの?真剣な顔して」
「え?あ、ううん。なんでも」
部屋に通され、ジュースを渡すこなたに目の前で首を傾げられる。
「そう?かがみんさ、卒業式してから何度か来たじゃん。
あの時とまったく同じ目してるよ」
「そうなの?」
「うん。なんか、すっごい大事なことを思い出そうとしてる感じ」
「そう、なんだ……」
「うん。何かあったの?」
「それがね、本当に何もないのよ」
「んん?」
「何もないって言うか、欠けてるかんじ。忘れてるような、でも
そうじゃないような」
「なんじゃそりゃ?」
本当に何なんだろうか、これは。
あの日、卒業式の後こなたの家に行ってからずっと抱いてるこのキモチ。
思い出さないといけないのに思い出せない歯がゆさ、
絶対に思い出さないといけないのに思い出せない悔しさ。
それがずっと胸の中で渦巻いている。
「かがみん!?」
こなたが驚いた顔で見ている。
そこで初めて気づく涙を流してる自分。
あの時以来、こうやって思い出すたびに涙を流すことが多くなった。
それも、この春の時期は特に。
締め付けられて、切なくて、哀しくて、そんなキモチで
胸がいっぱいになるのだ。
「ほら」
「ん、ありがと」
こなたから渡されたハンカチで涙を拭う。
「いやぁ、いきなり泣くから驚いたよあたしゃ」
「ごめん」
「ん、おまけに素直だ」
「そこで驚くな、ばか」
でも、この感情は悪くない。
辛いけど、その感情だけは手放したくないと心で感じる。
「でも、本当になんなんだろ」
「さあねぇ?」
二人で見る窓の外、そこに咲きほこる桜は満開になるちょっと前。
「それじゃあね」
「あいあい。また会えたら良いねぇ」
柔らかい風が吹いて桜の花がここまで散ってくる。
こなたに見送られ、その道の中を歩く。
ふと、その脚で近くの公園まで歩こうと思った。
そこは桜が咲く綺麗な場所、秋には紅葉でたくさんの場所だった。
あのときからずっと好きな場所。
「……あの時?」
――俺さ、紅葉が好きだった
「っ!?」
頭の中で声が響いた。
それは、とても懐かしくて愛しい声。
でも、誰?
――柊、このラノベおもしろかった
また。
それは自分の名前を知っている。
でも、誰?
――まじかよ、それ
浮かぶ教室の光景。
顔は見えず、微笑む口元だけ。
周りにいるこなた達。
――おい、ちゃんと掴まれよ
風の感触、疾走するバイク。
華奢な背中、寒いのに暖かい。
心地よい彼の心音。
――ほら、この前のお返し
白い紙袋、詰まったクッキーの詰め合わせ。
いらないと言ったのに、持ってきてくれた。
不細工な、でもおいしかった手作りのクッキー。
――これが、俺の秘密だよ
夕陽に照らされる彼。
哀しい目元。
でも、嬉しかった彼が教えてくれたこと。
そして
――俺、いつか帰ってきてやるからな!
最後の別れの言葉。
欠けた心のピースが一つになる。
全部思い出す、彼のこと。
ああ、そうだ。
ああ、これだったんだ。
これが自分から欠けてしまっていたものだったんだ。
「シン………!!」
自分とは違う世界から来た人。
自分と似ていて、でもそれ以上に優しくて、でも怒りっぽくて、
鈍感で、でも本当は気づいていて、傷ついていて、隠していて、
自分に本当のことを教えてくれた、
世界で一番だいすきなひと
「っ……う」
もう、止まらなかった。
「ぅえ……えええ……うっく……」
後から後へと涙が溢れてくる。
そうだった、彼はもうこの世界にいないのだ。
自分のいた世界のために言ってしまったのだ。
でも、帰ってくるといってくれた。
でも、帰ってこなかった。
酷い喪失感、空っぽになっていた部分がもっと拡がる。
忘れていた自分への罪悪感と彼のいない寂しさで胸が叫びを上げる。
腕で体を抱える、その哀しみに引き裂かれないように。
「ぅあああ………あっ……くぅぅ」
辛い、痛い、苦しい、痛い、苦しい、辛い、辛い。
息苦しくて喉がひりひりして目が熱い。
凄まじい感情が暴れまわってどうにもできない。
こんなことなら思い出さなければ良かった。
こんな思いを感じるくらいなら思い出さなければ。
彼のいない寂しさがこんなに辛い。
彼を思い出したことがこんなにも痛い。
でも、思ってしまう。
そんな思いを抱いているのに、それでも思うのだ。
願うのだ。
「いてよ……シン。側に……側にいてよ」
そして、それは叶う。
「ぁ」
ふっと、包まれる感触。
壊れそうなほど抱きしめていた腕の上からかぶせられる暖かさ。
背中から感じる鼓動。
耳の側で聞こえる息遣い。
ぴったりとくっつけられた体と体。
暖かい春の風が一陣吹く。
公園の中を桜花が埋め尽くす。
湖面がキラキラと鏡のように桜花を写し取る。
「ごめん。なんか遅くなった」
振向く。
視界の端で湖面に写し取られる二人。
そこに映るは自分と、
「シン……」
シン・アスカの姿。
「あのさ、ケジメつけてきたから」
嬉しいような困ったような、複雑な表情。
「なんか、思ってたよりかがみが変わってて驚いた」
「アンタがいなくなってから髪下ろしたの。アンタが似合ってたって
言ってくれたから……かな、多分」
そう、髪型を変えた。
ツインテールじゃなくてストレート、カチューシをつけただけの
髪型だけど、こなたの家へ泊まった時に褒められた。
忘れてたけど、そのキモチは残っていたんだ。
でも、ここで言って欲しい言葉は違う。
「えっと、多分俺のことを忘れてたと思うんだけど」
「思い出したわよ……」
「えあ……あっと、そう」
そうじゃなくて。
「えっと……その、なんだろ」
早く。
「元気だったか?」
「まあね、忘れてたけどアンタがいなくて寂しかった」
「悪い」
だから。
「ねえ、言う事あるでしょ?」
「え?」
痺れをきらしてしまう。
感動的な場面だけど我慢できない。
「あんたが最後に言ったじゃない、だから」
「ああ……そっか」
思い出して微笑むシン。
そして、ゆっくりと口からその言葉が告げられる。
「ただいま」
「うん……おかえり」
桜花が空を舞い、湖面が撫でられる。
そんな中で交わされるキス。
「もう、何処にも行かないわよね?」
「ん、まあ」
「じゃあさ、あのさ……」
「なんだよ?」
「好き」
「はい?」
「……答えてよ今度は」
「あ、ああ。そういうことか」
「うん。あの時は応えられないって言ったからさ」
「えっと……なんだ。俺も、す、好きだ」
「じゃあ、決まりね」
「え?お、おい!」
戸惑うシンの腕を取り、無視して進む。
その手を決して離さないように。
「なあ、何処に行くんだよ?」
「良いじゃない、どこでも」
「どこでもって……おい!」
「良いの。これで良いって言ってるの」
「何で?」
「だってさ……」
「だって?」
――やっと、一緒に歩けるからじゃない
FINE
最後の一言にはかがみの微笑みのCGを思い浮かべてください
最終更新:2009年05月08日 04:39