3-927

「そんなに、また戦争がしたいのか、アンタ達はぁぁっ!!!!」
 シンは指揮官席を立ち上がり、ブリッジの外に見える、連合のダガー系列らしいMSと、
警備艇との戦いを睨みつけ、絶叫のような声を上げる。
 その直後、ブリッジの後部の扉が開く。
「いぇーい、戦争~、ドンパチドンパチ~」
 背後から軽~い声が聞こえてきた。
 シンは表情が引きつり、立ち尽くしたまま拳を握りブルブルと震わせる。
「お前は無断でブリッジに入ってくるなとだな……」
「私が呼んだんですよ~」
 振り返って怒鳴るシンに、さらにその背後から、まったく緊張感のない声が聞こえてき
た。
「っ……まぁそういうことなら……」
 呻くように言いながら、気まずそうな顔でゆかりを軽く振り返る。
「戦争戦争~ドンパチドンパチ~」
「その言い回しはやめい!!」

 カッ
 閃光が走り、衝撃波がビリビリとガブリエルを揺する。
「な、何が起こったんだ!?」
 こなたから視線を離し、シンは前方を睨んで、疑問の声を上げる。
「ハーシェルが……爆沈……」
 かがみが唖然として、呟くように言う。
 ナスカ級戦闘艦が、突然、破裂するかのように、炎を噴出させながら木っ端微塵になっ
た。
「何があったんだ!?」
 閃光が収まり、ハーシェルの残骸が光を失っていく。だが、敵の姿は見えない。
 MSだけで、大型のナスカ級を一瞬で葬ったというのか。
「ありえない……」
 シンは呆然とその空間を見つめる。
「あらあら、やられちゃいましたねぇ~」
 のんびりしたゆかりの声に、ツッコミを入れる様子もなかった。
「! 何かいる、あそこ!」
「え?」
 同じように呆然と外を見ていたこなたが、突然外の一点を指して叫んだ。シンは振り返
って、とぼけたような声を出してしまう。
「こうちん、ゴッドフリート起動!」
「ちょ」
 シンに振ることもなく、こなたが叫ぶ。

「照準348度、上方78度」
「おいコラ勝手に」
 シンが遮ろうとするが、一方的に大声で叫ぶ。
「撃(て)ーッ」
 シンの行動は無視したかのように、前方のゴッドフリート主砲塔から、高出力の粒子ビ
ームが2条の直線になって放たれる。
 バチバチバチッ
「なっ!?」
 シンは驚いたようにそれを振り返る。粒子ビームは一定の場所で遮られたかと思うと、
それを遮った何かが、閃光に包まれて何度も瞬いた。
 その瞬く物が、まるで割れた風船のように、千切れた膜のようなものになって、何かか
らはがれていく。その現れた何かは、ガブリエル、つまりアークエンジェル級によく似た
シルエットの、暗い色に塗られた戦闘艦────

「うぉ」
 地球連合軍、第81独立機動群旗艦、『ガーティー・ルー』は、“敵”アークエンジェル
級から粒子ビーム砲の直撃を受けた。
 艦体を包み込む、積極的光学迷彩「ミラージュコロイド」の粒子が、ビームのエネルギ
ーで稲光のように激しく瞬く。
 しかし、ミラージュコロイドの粒子がエネルギーを吸収・拡散させたおかげで、ガーテ
ィー・ルー本体は致命的なダメージを受けずに済んでいた。
 だが、状況は刻一刻と悪化する。
 通信から飛び込んでくる悲鳴。
『敵MSの増援到着……あれは……』
『ジンのくせに速い!』
『何故だ! ジンが何故こんなに速い!?』
 パニック気味の通信が入ってくる。予測より早い敵の増援の到着。
 宇宙港ゲートを衝撃に向かったダガーLは、重量級のドッペルホルン連装無反動砲を抱
えている。MS同士の格闘戦を意識した装備ではない。
「しかし、ジンごときに返り討ちにされるとは」
 ガーティー・ルー艦長、イアン・リー少佐は、不愉快そうな表情をする。ジンと言えば
栄光の実戦用モビルスーツ第1号。だが、今やただのロートルに過ぎない。一方、ダガー
Lはダガーシリーズの集大成とも言える現用の主力機だ。
「あのアークエンジェル級といい、敵にもやる連中はいるってことだね」
 指揮官席に収まっていた、青年士官、ネオ・ロアノークが言う。彼はその顔の上半分を
マスクで覆っていた。だが、その口元だけでも、妙に楽しそうに笑っている事がわかった。
 苦みばしった中年のリーに対し、ネオ青年の方が明らかに若々しかったが、階級章はよ
り上位の大佐をつけていた。
「まぁ、モビルスーツの性能差が戦力の決定的差ではないことを証明されてしまったね」
「悠長な事を」
 半ば呆れ気味に、口元を引きつらせながら、リーは言い返す。
『あれは……ストライク、ストライクがいる!』
『どうしてザフトにストライクがいるんだ!?』
 その通信が艦橋に響くと、ネオも、その表情から笑みを消した。
「ストライクだと!?」
 GAT-X105、ストライク。栄光の連合初のモビルスーツ(正確にはその中の1機)。だ
が、今となってはジン同様、ロートルに過ぎないはずだ。
「いったい何が起きているのだ?」
 リーが艦長席から立ち上がりかけつつ、不機嫌そうに言う。
「どうやら、直接様子を見に行かざるを得ないようだな」
 ネオは深刻そうにそう言ってから、しかし、口元を再びにやつかせる。

「艦の事を頼むよ」
「了解しました」
 ネオはリーにそう言うと、ブリッジ後方の扉から出て行く。
「ネオ・ロアノーク、エグザス、出る!」

「クソッ、最初の1発以外全然あたらないじゃないか!」
 シンが毒つく。
 ガブリエルのゴッドフリートの射撃を、目の前の敵艦、ガーティー・ルーはまるで戦闘
機のような機動でかわしていく。
 そのかわり、射撃諸元が安定しない為か、ガーティー・ルーの射撃も明後日の方へ流れ、
ガブリエルに至近弾すら与えられていなかった。
「こうなったら……」
 俺も、と、シンが立ち上がりかけたとき。
「あっ!!」
 コンソールに向かっていた、かがみが素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?」
「敵艦から何かが射出……日下部、みなみちゃん、そっちに何か行った!!」
「くそっ、みんな、後を頼んだぞ!」
 シンは、そう言ってブリッジを飛び出して行った。

「なにかったって、いったい何が来るって言うんだよ、柊ー」
 みさおが不満そうに言いつつ、3機のモビルスーツはゲートの入り口から宇宙空間を望
む。
 ゲート内に進入していたドッペルホルン・ダガーLは、全て擱座させられていた。ドッ
ペルホルン・ストライカーパックを潰され、脚を斬りおとされたり、首の付け根をビーム
サーベルで貫かれたりして、ジャンクとなり転がされている。しかしスラスターは生きて
いるし、アーモリー港のゲートの中なのですぐに味方に救助、捕虜にされるだろう。
「熱源接近、この反応は……」
 あやのが言いかけたとたん、それは猛スピードで接近してきた。
「モビルアーマー!?」
 それは、真紅に塗られた巨大なMA。
「危ない!」
 珍しく、みなみが声を張り上げ、あやののジン・ウィザードとの間にシャドウストライ
クを割り込ませる。
 真紅のMAが、その機首からレールガンを射撃する。それをシールドで受け止めた。シ
ールドの表面は何箇所も凹まされるが、かろうじて凌ぎきる。
「MAなんて時代遅れの兵器に、やられるかっつーのっ」
 射撃の隙を突いて、みさおは脇から、ゲートの外に飛び出した。
 ファルクスG7・ビームロングアックスを構え、MAの上部から斬りかかる。
 だが、そのとたん、けたたましいロックオンアラートがみさお機のコクピットに響く。
「なっ!?」
 有線式ビームポッド────『ガンバレル』と呼ばれるそれが、みさお機の背後にいる。
気がつけば、前からも同型のビームポッドが迫ってくる。
「ちくしょー」
 毒つきながら、捻るように斜め上方に離脱してかわす。
「なるほど、見た目に誤魔化されると危険ということか」
 真紅のMA、エグザスのコクピットで、口元で不敵に笑いながらネオは呟く。
 パイロットの腕も悪くないが、機体自信も従来型のジンよりはるかに高機動だ。
 その時、エグザスのコクピットに後方近接アラートが響く。
「あっちも新手かっ」

「シン・アスカ、ゲイツR、出るっ」
 シン専用に、機動力とそれに幾分装甲を強化された、ダークレッドとグレイッシュブル
ーの2色に塗られたゲイツRが、リニアカタパルトから射出される。
 みさおたちが先行している、宇宙港のゲートに向かって進む。すぐに、彼女らを襲って
いるモビルアーマーの姿が見えた。
 ジン・ウィザードの1機がMAに飛び掛る。
 その途端、モビルアーマーから分離したビームポッドが、ジン・ウィザードを挟み撃ち
する。
「危ない!」
 思わず、シンは叫んでいた。
「ちくしょー』
 通信越しに、みさおの声が聞こえたかと思うと、ビームポッドの射撃の一瞬前の刹那に、
ジン・ウィザードは捻るように離脱した。
「だから、お前らじゃあぶなっかしぃってんだっ!!」
 シンは言いながら、MV05シールド・ビームサーベルのビーム刀身を振り上げつつ、その
腕を引いて突きの姿勢に入りつつ、エグザスの後部に向かって突撃する。
 ロックオンアラートがゲイツRのコクピットに響く。
「なっ、こんなに早く!?」
 ビームポッドが、左右からシンのゲイツRを挟み撃ちにしてくる。
 みさおのジン・ウィザードを追わず、後方から接近してきたシンのゲイツRに絞ってき
た。
「おらぁーっ!!」
 みさおの言葉と共に、あやの機と2機でジン・ウィザードの飛び蹴りがビームポッドを
蹴っ飛ばす。
「うっ……」
 ナチュラルのMS乗りに助けられた事に、シンはうめき声を漏らす。
「みんな、気をつけて、これガンバレルシステムだよ!」
 あやのが言う。
「メビウス・ゼロについてた奴と同じってか、よっしゃ! あやのん、振り回すぜー!」
「おっけー」
 2人はそう言うと、わざとビームポッドを牽制するようにして、左右対称の起動を描い
てエグザスに迫る。
「ぬぅ」
 ネオはビームポッドで2機のジン・ウィザードを追う。
 ロックオンアラートと共に捻ってかわす。ビームポッドの通過した軌道を、垂直に突入
するようにエグザスに向けて突進する。再びビームポッドが2機を狙う。それをロールで
ビームポッドの軌道を曲げさせてから、スナップで捻ってかわす。

「もらった……」
「むっ」
 2人がビームポッドを振り回す隙に、エグザスの真正面から、シャドゥストライクが、
ヴァジュラ・ビームサーベルを振り上げて突進した。
「甘い、その程度は予測している!」
 ネオはそう言い、エグザス本体をくるりと旋回させた。
「!!」
 リニア・レールガンが、シャドゥストライクに照準を合わせる。
「危ない!」
 シンは、ゲイツRのスラスターを全開にし、シャドゥストライクとエグザスの間に割り
込もうとする。
「!?」
 みなみはむしろ、突然接近してきたシンに驚いた。
「くっ」
 突進の勢いを、強力なスラスターで無理やりにV字型に代え、ゲイツRのさらに前に躍
り出る。
「くぁぁぁっ」
 みなみはコクピットにかかるGに悲鳴を上げつつ、シャドゥストライクにシールドを構
えさせた。
 ガンガンガンガンっ!!
 レールガンの射撃に、シールドは無差別にポンチで打たれたように凹んだが、貫通は許
さなかった。
「な…………」
 シンは、自分が何をしてしまったのか理解できず、ゲイツRを振り返らせる。
「みなみん!」
「みなみちゃん!」
 みさおとあやのが、ジン・ウィザードでシャドゥストライクの元に駆け寄ろうとした時。
 ズドォォン!!
 突然、アーモリー1の外壁が、爆ぜた。
「なっ?」
「えっ?」
 シン、それにあやのとみさおが、驚愕に目を円くして、短く声を上げる。
 内部からの、おそらく破壊に使われたと思われる、ビーム砲のエネルギーの余波、そし
て噴出してくる空気が奔流となってシャドゥストライクとゲイツR、それにエグザスを吹
き流した。
 そして、中から現れた、まずは3機のMS。────『セカンドステージシリーズ』の
うちの3機。アビス、ガイア、カオス。
 それらはシンやみさお達に構うことなく、一目散に過ぎ去っていく。


934 :Lukey☆Stars in C.E.73 PHASE-02 8/8 ◆NXh03Plp3g [sage] :2007/08/10(金) 17:04:30 ID:???
 続いて現れた、『ニューミレニアムシリーズ』、紅く塗装されたザク・ファントムと、
『セカンドステージシリーズ』のもう1機、ZGMF-X56S、インパルス。本来ならシンが乗る
はずだった最新鋭機────
「こ、これは、いったい何があったんだ!?」
 シンは問いただすように、共通チャンネルに向かって声を投げる。
 すると、シンにとっては、聞きなれた声が返ってきた。
『シン、シンか?』
「レイ!?」
 インパルスに乗っていたのは、ZAFTアカデミー時代からの、シンの友人、レイ・ザ・バ
レルだった。
『アビス、ガイア、カオスが何者かに強奪された。俺たちは今、それを追っている』
「なんだって!?」
 レイの言葉に、シンは驚いたような声を出す。だが、それで辻褄は合った。アーモリー
・シティに取り付いている連合の軍艦、その目的がこれだったのだ。
「くそっ、俺たちも追撃に入るぞ!」
『待ってください! みなみちゃん、そのままじゃ無理です!』
 そうつっこんできたのは、あやのだった。
「けど、このままじゃ」
『みなみんは、アンタをかばって無茶な機動したんだろうがー!』
 シンが未練がましく言いかけると、みさおまで怒った様子でねじ込んできた。
『シン、無茶するな。ここは俺たちに任せろ』
 レイも言う。
「…………くそ、仕方ない、帰還するぞ!」
 そう言うと、シン本人はまだ後ろ髪惹かれるような思いをしながら、シャドゥストライ
クを2機のジン・ウィザードにエスコートさせ、ガブリエルへの帰還の途についた。

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最終更新:2007年12月02日 10:30
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