4-633

「日下部みさお、ジン・ウィザード、出るよーん」
 ガイドLEDが内側から射出口に向かって順に点灯し、リニア・カタパルトがジン・ウィ
ザードを撃ちだす。
「あれ? 何処行きやがったかな?」
 ボギー1の姿をさらして、ジンのモノアイを揺らして、辺りを見回す。
 その時、カッ、と、ジンの背後から閃光が迸った。
 ゴットフリートの粒子ビームが、ジンの至近を一瞬で追い抜いていき、伸びていく。
「ちびっ子か今の! 死ぬかと思ったぞ!」
『良いから前!』
「へ?」
 通信用ディスプレィに映ったかがみが言うが早いか、今度は逆の方向から、ゴットフリ
ートそのものの粒子ビームが迸り、ガブリエルのそれよりさらに至近を掠める。
「ぞぞ~」
 ビームの流れていった方を振り向いて血の気を引かせる。そう見せたのも一瞬、姿勢を
直すとレバーを握りなおし、そのゴットフリートを撃ったボギー1の方へ突進していく。
『あ、みさちゃん待って~』
 あやののジン・ウィザードが、それを慌てたように追いかけていった。


 シャドゥストライクは、ソードシルエットと連結した後、先行している2機を追いかけ
ていく。
『だぁら~ららららっ』
 みさおのジン・ウィザードが接近を試みているが、近接火器の射撃を並行しながらのロ
ール運動でかわしてばかりで、一向に取り付けない。
「…………」
 みなみはジン・ウィザードに夢中になっている隙を突くように、火線を縫ってボギー1
──ガーティー・ルーに取り付こうとする。
 当然、シャドゥストライクにも近接火器は応射する。だが、その分ジンへの対応は甘く
なる。
 結果として、2機ともが、ガーティー・ルーの船体に取り付くことに成功した。
「はぁっ」
 みさおがシールド・タックルで銃座のひとつを潰した。
「っ」
 みなみがアンビデクストラス・ハルバートに連結した『エクスカリバー』レーザー対艦
刀を振りかぶり、ガーティー・ルーの後部スラスターに切りつける。
 その場を離脱、スラスター群の一部が破裂するように爆発するのを見届ける。
『みなみちゃん、上!』
 あやのの声。見上げるが早いか、シールドを向ける。

 ガツン、ガツン、ガツン!
 何かがシールドに弾き返される。『スティレット』ジェットグレネード。それを投げつ
けてきた相手が、その先にいた。暗灰色のダガーL。
「やっぱり、ストライク程度以上の機体相手に、これは効かないか」
 最初から通用するとは思っていなかったような言葉を、ダガーLのコクピットで、ネオ
は呟く。
「ぅ……」
 エクスカリバーを後ろ手に、シールドを突き出し、じりと下がる。
 正直なところを言うと、ソードシルエットが近接戦闘用とはとても思えない、というの
が、みなみの感想だった。振り回し辛いし、かといってロングアクスのようにリーチを優
先した武器というわけでもない。
 一方のダガーLはエールストライカー、ビームサーベルを構え、シャドゥストライクに
にじり寄る。
「どうやら、ただのストライクのコピーというわけではないようだが、さて、どれほどの
性能を持っているのかな?」
 仮面の下で、ネオが笑う。
『こらーっ!』
 仕掛けかけたネオのダガーLの背後から、スラスターの軌跡。
『お前まであたしを無視すんなぁっ』
 みさおのジン・ウィザードが、スラッシュウィザードのロングアクスを振り上げ、ダガ
ーLに飛び掛る。
「っ!?」
 ネオはそれを捻ってかわす。ロングアクスは何もない空間を薙ぐ。即座に引いて、みさ
おもダガーLに対して下がる。
「なに!?」
 ネオはそのまま回避機動を続けさせる。オルトロスの着弾が、それを追う様に降り注い
でくる。
 その隙にみなみはエクスカリバーの連結を解かせる。一方をラックに戻し、右腕にエク
スカリバー、左腕にシールドを構えさせた状態。
「調子に乗るなっ」
 ネオが、あやののガナー・ジン・ウィザードに向かって、スティレットを放つ。しかし、
投擲された次の瞬間、スティレットは無数のビームに貫かれて爆発した。
「はぁぁっ」
 エクスカリバーを振りかぶり、ダガーLに斬りかかった。
『やった!?』
 みさおがはしゃぐように言った。みなみ自身もそう思っていた。
 ────だが。
「あ……?」

 エクスカリバーの刀身は、ダガーLのちょうど身体ひとつ分外れていた。そして、ダガ
ーLのビームサーベルの切っ先が、シャドゥストライクの右肩を貫いていた。
『まずい、あやのっ』
『うんっ』
 オルトロスがダガーLに向かって撃ち込まれる。ネオが反射的に間合いを取った瞬間、
みさおのジンが割り込んできて、シャドゥストライクを掻っ攫うように離脱する。
 あやのは半ばデタラメにオルトロスを乱射。ダガーLを牽制しながら、みさおの軌跡と
合流して、ガブリエルの方向へ退き始める。
『だめだ、とんでもない奴が居る、無理だ』
「クソッ」
 みさおの言葉に、シンは毒つく。ガブリエルの前方に、紅いゲイツRで出ていた。新型
3機が接近してきた時のために待機していたのだが、結果として、送り狼対策になってし
まった。
 今の戦闘で、ダガーLのパイロットが只者でないことは、シンにもわかった。このゲイ
ツRや、あるいは自分がシャドゥストライクを駆っていたとしても、苦戦は免れなかった、
そう素直に感じた。
 ────インパルスがあれば別かもしれない、けどっ!
 ゲイツRを前進させ、追ってくるダガーLに備える。だが、追っては来なかった。
 ネオの方も、ガーティー・ルーに寄り添いつつ、戦慄を覚えていたのである。
「ZAFTの戦い方じゃない……」
 3機は初歩的とは言え、明らかに連携して動いていた。ZAFTの、否、今のところ連合
やオーブも含めて、モビルスーツパイロットの戦い方は個人芸に頼るところが大きく、行
きずり連携もへったくれもない乱戦になる事が多かった。だが、今の敵は、お互いネオに
隙を作らせる戦い方をしていた。
 いずれZAFTが、みなあのような戦い方を習得するようになったら────
 ZAFTの諸事情など知るはずのないネオは、その想定に喉をカラカラにした。
 まず切り捨てられるのは、現状の強化兵士計画だろう。ブーステッドマンにしても、エ
クステンデッドにしても、その性質上、スタンドプレイヤーばかりで連携は無理だ。
「沈めておくべきかも知れん」
 敵MSの去った方角を見て、ネオは忌々しげにそう言った。だが、1人で懐に飛び込ん
で、勝てる気がしなかった。良くて相打ち。
 優先しなければならないのは、奪取した3機を持ち帰ること。次点で、新型戦艦と、資
料になかったもう1機の新型MS。連合の旧型のコピーに過ぎないアークエンジェルやス
トライクは、個人的な意思で深追いすべき対象ではない。
 やがてエクステンデット3人が、敵MS2機を撃墜、1機を大破、新型戦艦もデブリに衝
突させ損傷させたと、報告が入った。
「ちょうど良い、撤収するぞ! 連中に帰還信号を!」
 ガーティー・ルーも損傷している。欲をかけば傷口が広がるばかりだと判断したネオは、
リーにそう指示した。

「やふー、お疲れさま~」
 艦橋に戻ってきたシンを、緊張感の欠片もない顔が出迎える。
 シンは反応する力もないように、ため息をついた後、返事もせずに指揮官席に着いた。
「あら~、シンちゃん、いけず~」
 こなたは、普段ならシンの神経を逆なでするような、言葉と、身体をくねくねさせた態
度を、指揮官席の脇で取る。
 だが、シンは不機嫌そうに、再度ため息をついて、そのまま訊ねる。
「なんで気がついた?」
「は?」
 こなたがキョトン、として聞き返す。
「だから、何であそこでボギー1がデコイだって気がついたか、って聞いてんだよ」
「言ったじゃん。次は空蝉の術だ~って」
 人差し指を立てて、こなたは得意そうに言う。
 シンはぐっ、と、嫌そうな、気が萎えたような表情をした。
「じゃあ、その前。なんで見えてもいないボギー1が、あそこにいるって解ったんだよ」
「それは君、気の流れを読むって奴だよ」
「はぁ?」
 こなたの答えに、シンは訝しさ半分、呆れ半分といったような声を出す。
「こう見えても格闘技には自信があるんだな」
 こなたは、答えになっていない答えを言いつつ、何の流派か、東洋系の格闘術の構えを
取る。
「…………」
 シンは複雑な、自分の理解を超えているといったような表情をして、頭頂部を掻く。
「あんまり真剣に相手しちゃダメよー」
 シンが考え込みかけると、反対側からかがみの声がかけられた。
「こなたって、勢いだけで生きてるから」
「うぁー、酷い言われようだよ」
 こなたがいつもの脱力した口調のまま、しかし少しは憤っているかのような態度で言い
返す。
 しかし、かがみはそれを意識していない様子で、シンに言う。
「それより、ミネルバから呼び出し、入ってきたけど?」
「あ、ああ、回してくれ」
 シンは指揮官席の椅子に座りなおし、モニターに向かう。
 相手が映った瞬間、反射的に敬礼した。
 モニターに移ったのは、ギルバート・デュランダル、プラント最高評議会議長。
『そちらは無事かね?』

「艦は無事ですが、モビルスーツ1機大破、ボギー1には損傷を与えたものの、逃走を許
してしまいました。も……申し訳ありません」
『いや、無事で何よりだ』
 デュランダルは薄く微笑みながら、言う。
『ミネルバの方は損傷が酷い。修理の為に月機動艦隊ステーションに向かうが、エスコー
トをお願いできるだろうか?』
「はいっ、了解です」
 シンは即答する。
 ガブリエルはミネルバと合流するべく、停泊するミネルバの方へ向かう。
「おー、ずいぶんやられてるね」
 ミネルバの姿を目にして、こなたがなぜか感心したような口調でそう言った。
「なんだって?」
 シンも慌てたように視線を向ける。
 引きずったような、傷やら凹みやらが無数についている。だが、装甲材がそんな簡単に
凹むはずもない。
「デブリに衝突でもしたのかね」
「まさか、そんな事あるはずない」
 こなたの言葉に、シンはムキになりかけながら言い返す。
「でも、あんな傷、MSの攻撃じゃつきそうにないよね」
「いや、でも…………」
 こなたが指摘すると、シンは言葉を詰まらせた。

 月軌道艦隊ベースステーション。
 ヤキン・ドゥーエ戦役の後、月面上における拠点を失ったZAFTは、艦隊の補給・整備
の拠点として、人工の宇宙ステーションを建造してこれに充てた。
 接続アームにミネルバが、その後部側のアームにガブリエルが接舷する。
 みなみはステーションに移乗することもなく、ガブリエルの格納庫で、シャドゥストラ
イクの修理作業を見守っていた。
「そこでずっと見ていなくても、直しますから大丈夫っスよ」
 キャットウォークで、シャドゥストライクの右肩を黙々とヤブニラミしているみなみを
見て、珍しく男性の整備員は、だらりと汗をかきながら言う。
「白石さーん、ステーションから、補充の部品のリスト出せって言ってきてますけどー」
「えー」
 別の整備員から声をかけられ、白石と呼ばれた整備員は、シャドゥストライクの装甲を
軽く蹴って、声の主の方に向かう。
「どーせすぐに寄越さないくせに。大体ストライクの部品ここに来てるのかよ」
 グチグチと言う白石。
 みなみは、装甲を外されたままのシャドゥストライクの右肩を、ジーっと見ていた。

「ユニウス7が動いているって?」
 シンは驚いたように聞き返す。
「はい、えっと」
 かがみと交代したのか、ボリュームのある癖毛を長髪にした少女オペレーターが、振り
向きながら言う。
「我々がここに到着した頃ですか、急に軌道を変え、大気圏への再突入コースに乗ったそ
うです」
 メインスクリーンに、ユニウス7の想定コースが表示される。
「ユニウス7は100年単位の安定軌道に入ってたんじゃなかったのかよ」
「シミュレーションが誤ってたかー、もしくは隕石かなんかに当たったか~」
 シンの叫ぶような言葉に、こなたがのんびりした口調で言う。
「さもなくば」
「なんだよ?」
 勿体つけたように間を伸ばすこなたに、シンが焦れたような声を出す。
「誰かが落としたか」
 こなたも口調を険しくして、そう言った。
「そんなバカな。誰がわざわざそんなことをするって言うんだ」
「まぁ、それもそうか」
 シンの言葉に、こなたは軽くため息をついて、ネコ口を閉じた。
「とにかく、俺たちもすぐに出発するぞ」
「いえ、私達には待機の命令が出ています」
 出撃を指示しようとしたシンに、傍らから交代したオペレーター、高良みゆきが言葉を
かける。
「な、なんでだよ」
「えっと、その、つなぎますね」
 みゆきがコンソールを叩く。指揮官席のコンソールに再びデュランダルの姿が表示され
た。シンが慌てて敬礼する。
『ユニウス7の破砕作業にはミネルバと、ルソーとボルテールに向かってもらう事になっ
た』
「しかし、より万全を期すなら俺、いや自分達も参加した方が……」
『気持ちはわかるが、運んでこれるメテオブレイカーの数は限られている』
「…………」
 デュランダルの言葉に、シンはあからさまに不満そうな顔をした。
 ────結局、アンタにとっても俺達はハズレ物ってことかよ。
 そう思ったシンだったが、デュランダルは更に言葉を続ける。
『それに、君達には別の任務を負ってもらうことになるかもしれない』
「別の任務?」

『残念ながら現段階ではそれを明かすわけにはいかない。だが、かなり重要な任務だと考
えていてもらいたい』
「重要?」
 シンは、訝しげに眉をひそめた。

「追撃は?」
「問題ない。このまま所定の目的地へ向かえ」
 それはユニウス7軌道変更にパニック状態になっているZAFTを嘲笑うかのように、マ
イウス・シティから地球へと向かっていた────

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最終更新:2007年12月02日 10:31
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