みゆきの想い その2


みゆきの想いその3から分岐


「はい・・・・・・!?」
玄関に出たみゆきは驚いた
「こなたを・・・私たちを騙すなんて、あなた何を考えてるの?みゆき・・・・」

いる筈がない・・・ここに来る筈のないこの女、かがみ
「何とか言ったらどうなのよ!?」

「かがみさん・・・・何故ここに?」
自分の計画は完璧だった・・・今まですべて順調に進んでいた筈だ
「私ね・・・気付いちゃったの・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」
「つかさを使って私とこなたを騙したのは貴女・・・・」
「・・・・・・」
「こなたが監視カメラを?そんな訳ないわ・・・・・あいつは、こなたはそんな事できる奴じゃない」
「・・・・・・そうですね・・・・・・・」
「つかさだって貴女に唆されさえしなければ、こなたを無視したりしない」

かがみは玄関のみゆきに迫った
その声は徐々に大きくなっていき、遂には罵声とも呼べる大きさまでになる

「全部、あんたの仕業なんでしょ!!」
「かがみさん・・・・・・」

その時、弱々しい足音がみゆきの背後から聞こえた・・・・・
二階のこなたがかがみの声で起きてしまったようだ
「こなた・・・・」
「こなたさん・・・・・・」
「みゆきさん・・・・かがみん!?」

こなたはかがみの顔を見て唖然とする
『なんでこんな所のかがみんがいるの?』
「ちょっと!みゆき、あなたなんでこなたを名前で呼んでるのよ!!」
「それはこなたさんが、私の恋人だからですよ?」
「何言ってるのよ!恋人じゃなくって獲物でしょ!?」
「かがみん?」
「こなたもなんとか言いなさいよ!あんたはみゆきに騙されて利用されてるのよ!」
「え・・・・・?」
『みゆきさんが、私を利用・・・・・?』
寝起きで頭が回らない上にかがみがここにいて・・・・・
しかも自分の恋人を敵呼ばわりしているのだ
『獲物ってどういうこと?』

「かがみん・・・・・・何言ってんの・・・・?」
投げかけた言葉とは裏腹に、目線はかがみではなく恋人の筈であるみゆきに向けられている
明らかに不安そうなその少女に駆け寄って、かがみは優しく諭すように呟いた
「あんた本当に馬鹿正直なんだから・・・・・・」
しかし、それを邪魔せんとばかりにみゆきがかがみを引き離す
「キャ!?」
突き飛ばされたかがみは勢い余って客間付近の棚にぶつかって勢い良く転んだ
その拍子に、もはやこの家では何の役にも立たなくなった電話器が音を立てて床に落ちる
「いけません・・・・・こなたさん!こんな女の言うことなんか信じないで下さい!」
「みゆきさん・・・・・かがみん・・・・・・・」

「何か証拠でもあるのですか?」
証拠・・・・・・・?
「かがみん・・・・・・・・みゆきさんは・・・・・そんなこと・・・・」
「・・・・・・・・・」
『証拠なんて、無い・・どうしたら良いの?』
勢いだけで家から飛び出してきたかがみには、これといった勝算など無い
悔しそうに床を睨む気丈な少女の目に飛び込んだのは、床に転がる家庭用電話機の子機
『電話・・・・・・』
彼女の脳裏にほんの少しだけ光明のようなものが見えた
『そうだ、電話・・・私のは取られちゃったけど、みゆきのなら・・・それに』
かがみは少し黙るとそのまま勢い良く起き上がり二階に上がろうとする
『もしかしたら・・・・・盗聴器やカメラだって』
「こなた!部屋を見せて!!」
「う・・・うん・・・・」
あまりにも唐突なかがみの声に半ば反射的に返答するこなた
みゆきはかがみの目に鋭い光が宿ったのを見逃さなかった

『・・・・・!?まずいですね、あれが見つかったら・・・・・あるいは』
「申し訳ありません・・・かがみさん、勝手に上がられては・・・・・・」
みゆきは今更ながらもかがみが無断で泉家の敷居を跨いだ事を攻めようとする
これ以上かがみに好き勝手させるわけにはいかない、そう考えての行動だった
だが今回はこれが裏目に出た
かがみはその言葉を待っていたかの様に、はにかむ様な嘲笑うような勝ち誇った顔でみゆきの方を見た

「何よ・・・何か困る事でもあるの?」
『しまった、うかつだった』
みゆきは小さく舌打ちをする
その言葉が生んだのは、こなたのみゆきに対する疑惑の心、先ほどまでは微塵も無かった不信感
「みゆきさん・・・・・?」
不安そうに自分を見るこなたの目線を受けたみゆきは、悟られないように奥歯を噛み締めた
『やられましたね・・・・』

ここに来てみゆきの思惑が狂い出した
しかし、ここは怪しまれない為にも二階に行き、無実を装わなければならない
『こんな女に出し抜かれるのは癪ですけど、今は仕方ないようですね』
「こなたさんが良ければ私は一向に構いません」
みゆきの声を聞いて、こなたの顔に安堵の表情が戻りはしたものの
宿敵の険しい表情は変わらない
「じゃあ・・・・二人とも一緒に来て頂戴」
かがみはそう言って、ユックリと二階へと上がっていった
『こなた、私が助けてあげる・・・・だから・・・・・』


かがみはこなたの部屋に入ると「こなた、良いわね・・・・・」
と部屋の主に問いかける
「・・・・うん・・・・・」
「こなたさん・・・・・・・・・・」

ユックリと愛しい人の部屋を物色するかがみ
いつ振りだろうか?
もう何年も来ていないような錯覚にとらわれる
暫く来ていなかった楽園
ああ、自分の鼻腔が広がるのが解る
こなたの臭い、こなたの髪の毛、こなたのセーラー服
そして、先ほどまでこなたが眠っていたであろうベットには汗とシャンプーの臭いが漂い
脱ぎ散らかされたこなたの下着にはみゆきの長い髪が愛液に吸いつけられるように纏わり付いている


「・・・・ごくり・・・・・」


緊張感が支配する筈のこの空間で、かがみは生唾を飲んだ
それは、ふしだらな気持ちの現れだ
一体、彼女はどんな声で私の名前を呼んでくれるのだろう?
どんな声でみゆきと愛の語らいをしたんだろう?
こなたの舌はどんな感触なんだろう?
あの隙間のある太腿はどれ程甘い味がするんだろう?
うなじも、胸も、背中すらもきっと私の想像以上に柔かいのだろう・・・
でも、それを愛したのはみゆき
それを汚したのはみゆき
私からこなたを奪ったのは・・・・・
「みゆき・・・・・」

「かがみさん?どうかなさったんですか?」
『みゆき・・・この女だ・・・』

かがみはみゆきの言葉に眉を動かしただけで、こなたに目線を送った後
部屋の隅々まで詮索して回った
ベットの下 窓の桟 カーテンの裏 PCの周り 本棚 天井 壁 ポスター
あらゆる場所を探し回った

無い・・・無い・・・・カメラは?盗聴器は・・・・?
確かに この部屋だった・・・・・・でも・・・・・・・・・見つからない・・・
『かがみさん・・・私が仕掛けたものは特殊なものでして、専用の機器を使わないと見つけられせんよ?』
みゆきは、慌てるかがみに薄い笑みを向ける
「かがみん・・・・・・」
こなたはどちらを信じて良いかわからないと言う顔で 
部屋の中を入念に調べるかがみを見守っていた

『そんな・・・・・そんな筈は無い・・・・確かに・・・・・』
焦り始めるかがみの目に入ったのは・・・みゆきの鞄・・・・・・
『やっぱり、これしか・・・・』

かがみはベットの脇に有るみゆきの鞄に手を伸ばそうとしている
『まずいですね・・・・・・あの中には・・・・・』
みゆきの顔から余裕の表情が消えた
「かがみさん・・・・・!?」
かがみを静止しようとするみゆき・・・・
「みゆきさん!!」
それを許さなかったのは・・・・・・こなただった・・・・
「こなたさん・・・・・・・・・」
「みゆきさん・・・動かないで・・・・お願い・・・・・」

『みゆきさんを信じたい、でもかがみんも・・・・・お願いみゆきさん、動かないで』

かがみはこなたに目線を送り、こなたが小さく頷いたのを確認すると みゆきの鞄の中を吟味していく
『・・・・・・・あったわ・・・・・・・』

手に取ったのはみゆきの携帯電話だった・・・・・・
「きっと・・・・この中に・・・・・・・・」
慣れない携帯電話でも基本操作はほぼ同じ・・・・・・
かがみは少し戸惑いながらも・・・・みゆきの携帯電話を操作し
メールフォルダを開いた・・・・・・

流石は几帳面なみゆき・・・と言ったところだろうか・・・・?
フォルダにはこなた、つかさ、かがみなどクラスの仲の良い・・・・
いや、良かった私たちの名前から母親、知人に到るまで事細かに入力されている

まずは『かがみ』と記された自分のフォルダを開いた・・・・・
「・・・・・・・・・・・」
「・・かがみん・・・・・・・」

送信フォルダ・・・受信フォルダ・・・・・・

かがみはそれを見て愕然とした・・・・・・・
『無い・・・・・無い・・・なんでよ・・・何でなのよ!!』
「かがみさん・・・・・・?何かありましたか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・」

その携帯電話の履歴には自分宛のメールもみゆきに送ったメールも無かった・・・
『そんな、やっぱり・・・・やっぱり駄目なの!?』
「く・・・・・待ちなさいよ!」
かがみは焦りを隠せないまま叫び、今度は母親の履歴を見る
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうやら何も無かったようですね・・・・?こなたさん・・・これで解ったでしょう?」
「・・・・・かがみん・・・・やっぱり・・・・」

よく考えれば当然の事だった・・・・メールの履歴など簡単に消してしまえる
電話の履歴ならこなたに見られても「私達の説得の為」などといくらでも言い訳が出来る
「・・・・・・・・そうね・・・・・・・・・・・」
みゆきの悪行を暴けない今・・・・・かがみには何の手立ても残っていなかった・・・・・・
「さあ、それを返してください・・・・」
みゆきはかがみに近付き、携帯電話を手に取ろうとした
「く・・・・・・みゆき・・・・」

その時だった 

ブウウウウウウ ブウウウウウ

かがみが持っているみゆきの携帯電話にメールが届いた・・・・
みゆきがその携帯に飛びつこうとしたが間一髪で身をかわすかがみ
「・・・・お母さんからってなってるわよ・・・・・?みゆき・・・・?」
「・・・!?・・・返してください!!あ・・・・・・」
かがみはその携帯を持ったまま再び詰め寄るみゆきをかわすと
{新着メール}をクリックした
『みゆき~ごめんね★
 お母さんが目を話した隙にね、かがみちゃんに逃げられちゃった
 気をつけてね                  
                        愛する母より』 
かがみはそのメールを見て不敵な笑みを浮かべた
『勝った・・・・・・・』
みゆきは悔しそうに床にうなだれている、もう弁解もしてこなかった
「こなた・・・これが証拠よ・・・・」
かがみは座り込んだみゆきを邪魔そうに避けて
こなたにゆかりからのメールを見せた・・・・
「・・・・・!?嘘・・・嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ!!!」

「みゆきさん!?なんで!!」
「・・・・こなたさん・・・・・・・」
こなたはさっきまでの弱々しい姿とは打って変わり、半狂乱という言葉通りに喚きだした
「嘘だったの!?ねえ、嘘だったの!!!?」
「・・・・・・・」
「なんとか言ってよ!!みゆきさん!!」
無言でその少女の咆哮を聞いていたみゆきは体を起こし、こなたに目線を向けてたった一言
「ええ、全て嘘ですよ」
その様子は悪びれもせず、むしろ「ごめんね、やっちゃった★」と、ふざけて言う程度の軽さである
「みゆき・・・あんた・・・・」


第三者が聞いても不快になるこの返答に対して、激怒した少女が次に取る行動といえば
「わあああああああああああああああああああ!!」
こなた大声で叫びながら走って階段を降りていってしまった

「こなた・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

残ったのはみゆきとかがみの二人だけ
「うふ・・ふふふ・・あはははは・・・・・・」
「何よ・・・・・みゆき・・・・・・」

みゆきは不気味に笑っている
もうこの女には何も残っていない筈

「あはははは・・・滑稽ですね・・・・・・・」
「・・・・・・・」

負け惜しみからだろうか?
しかし、気丈さを振舞っているようにも見えない・・・・・・
「滑稽なのは私ですよ、かがみさん」
「みゆき・・・」
みゆきの顔は形容のし様がない表情だ、強いて言えば歪んでいた
きっと感情がコントロールできないくらいのショックを受けてしまったのだろう
「すべて上手く行ってました、そう・・・上手く行ってたのに!」
弱弱しくもハッキリと言葉端を誇張する
「貴女さえいなければ、この時間をもっと楽しめたのに・・・」
「みゆき、あんた自分が何をやったのか解ってるの?」
かがみはお構い無しにみゆきを責める
「こんなにも愛しているのに・・・・・」
「答えなさいよ、みゆき」
「もう、甘い時間も御仕舞の様ですね」

誰が信じるだろう?
みゆきが本当にこなたを愛していたなんて事を
こなたを虐めたのも、こなたに優しくしたのも、すべては計画の中の一部に過ぎなかった
ただ一つの誤算・・・・それはこなたを愛してしまった事
こなたに心を奪われてしまった事
あの美しく、脆い少女の心に打たれ、染められてしまった自分がいた事だ
彼女からの自分への愛がみゆき自身のグロテスクな部分を制御していた
だが、それも終わっってしまった
母親にかがみを始末させることの出来なかった自分も
つかさに対しての申し訳ない気持ちも
教室でこなたの為に流した涙も
こなたと過ごしたあの美しい時間達も全て、今 音を立てて崩れた
みゆきの中の枷は、無くなった

「かがみさん・・・・・」
さっきまで木偶人形のようだったみゆきが自分の名前を呼んだ
「・・・・?」
声の主に目線を向け直したかがみは驚いた
「・・・・誰・・・・・?」
誰?それはこの場には似つかわしくない質問
何故ならこの部屋にはには自分とみゆき以外の誰も存在しない
したがって「誰?」などどいう質問は成立しなかった
『何・・・?さっきまでとは感じが違う・・・・』

「うふふ、私ですか?」
みゆきはほぼ無表情に近い笑顔で立ち上がる
『みゆきはこんな顔しない・・・何なの・・・?』
「私は、『高良 みゆき』ですよ?お忘れですか?」
みゆき、確かに姿かたちはみゆきだが、彼女特有の優しい雰囲気はどこへ行ったのだ?
ここに居るみゆきの感情の無い瞳は、明らかに違う人間の様な異様さを漂わせている

「せっかくハッピーエンドかもしれなかったのに、残念ですね」
「ハッピーエンドですって?」
「そう、誰も死なずに思い出の中に消えてしまうだけの終焉」
「訳が解らないわね」
かがみにはみゆきの言っている意味など理解できない
こんなイカれた女よりもこなたの事が心配になってくる

「こなたさんなら大丈夫ですよ・・・・」
かがみは自分の心を見透かされたのが気に入らないのか、少し顔をしかめてみゆきを睨む
「すぐに戻ってきますから・・うふふ・・ふふ・・・」
「どうして解るのよ?」

みゆきの目線は明らかに自分を見ているのだが
その視線はまるで心の中に銃口を向けられているような不快感を感じる

「かがみさん・・・・貴女ならどうしますか?」
「何なのよ・・・気味が悪いわね・・・」
「最愛の人に裏切られた彼女はどうするでしょうね?」
「・・どうするって・・・?」

どうする・・?
自分なら・・・どうするだろう・・・・・・
裏切られたら・・・・・
好きであればあるほど・・・・憎しみが沸くだろう・・・・・
どうする?私はどうしようとした?私なら?
こなたに裏切られたら?
みゆきに裏切られて、どうしようとした?
そう・・・・・
『そんな・・・・まさか・・・・!?』

「そう・・・・彼女は私を殺すでしょうね・・・・・・でも・・・・・」
「駄目・・・・そんな・・・・」
「彼女はその重圧に耐えられるほど強くない・・・そう思いませんか・・・?」
「そんな・・・・・・・」
「私の勝ちですよ、かがみさん?」
「駄目・・」
「こなたさんは私を殺した後で自らの命を絶つんです」
「・・嫌ぁ・・」
「貴女が必死に止めるのも聞かずに、彼女は自らの命を絶つんですよ」
「・・・・」
「どうです?完璧な計画じゃありませんか?ロマンチックでしょう?」
「嫌だ・・そんなの嫌だよ!」

ガタン!
「みゆきさん・・・・」
大きな物音を立ててこなたが部屋に帰ってきた
小さな手には出刃包丁が握られ、矛先は・・・・

「こなたさん・・・・・・さあ、私を殺してください・・・・」
「みゆきさん・・・・あんなに好きだって言ってくれたのに・・・・・・・」
「こなた・・・・」
三人の間に戦慄が走る
「さあ・・・・・」
「みゆきさんの嘘つき!!!」
「駄目!こなた!!」

「死んじゃえええええええええ!!」
「さあ!来なさい!!」
「駄目よこなた!やめて!!」

ザクゥ!!

「あ・・・・・・・・こなた・・・・・・・」
「え・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

「あ・・・・・・・あ・・・・・・・」
出刃包丁は、深く 深く少女の体をエグッった・・・・・
鮮血がゆっくりとこなたの手を染めていく

間に合わなかった
かがみの声も届かず、こなたの理性も愛情と同じ大きさの怒りには勝てなかった



生暖かい血液、刃物を通して伝わってくる見知った人間の肉の感触
あまりにも現実離れした感触
目の前にある微笑えみは地獄とも呼べるこの空間では不似合いな程の爽やかさを帯びていた
「わ、私とんでもないこと・・・・」
自分へ向けられている透き通った瞳によって、こなたは正気に戻った
だが、少女がこの現実を受け入れなければならないと思うと
怒りに支配されていたままで居たほうが幸せだったとも思える
この『大切な人間を自らの手で傷つけた現実』を受け入れずに済んだかも知れなかった

「う・・・うううううう・・・・・・」
「あつい・・・・でも・・・これで・・・」
「・・・・うふふふ・・・・あはははは!・・・・・・」

「嫌ぁ・・・嫌ああああああ!!」
「良か・・った・・・・あんた・・・こ・・れ・・・・」
「あっははははははは!ふふ・・・あーっははははは!」

部屋に倒れた少女は真っ赤な血で部屋を染めていく
少女は最後の力を振り絞ってこなたの体を手繰り寄せ、わめく彼女の頬にキスをする


「大丈夫・・・・大丈夫だから・・・・泣かないで、こなた・・・・」
「だって!かがみんが!」

かがみは、こなたにみゆきを殺させない為にとっさに二人に間に飛び込んでいた
そして・・・・・・

かがみは自分の右の胸に深々と刺さった包丁を見た

『胸の辺りが苦しくなってきた・・・助かりそうも無いわね・・・でも・・・』

恐らく包丁を抜けば出血が酷くなるだろう
助かるためにはこのままで居たほうが賢明かもしれない・・・・・
助かる見込みは少ないが、ここで自分が死んでしまえばみゆきの思う壺だ
なんとかしなくては

そうは思ってみてもお腹の辺りに何か液体が溜まってきているのが解る
きっと体の中は血液のプールの様になっている筈だ
徐々に意識が遠のいていく気がした

『呼吸が・・・・苦しい・・・』

「・・・・かがみん・・・・・?」


胸の内側からの圧迫、肋骨がきしむ感じがする

『駄目だ・・・・ごめん、こなた・・・助からない・・・・せめて・・・・』
「・・・こな・・た・・あん・・た・・・が・・す・・・・・・」
「かがみん!?何?答えて・・・喋って!!」

言葉を、思いを伝えたいが、どうも肺に穴が空いたらしく呼吸ができない
しかも体内の出血が酷く、流れ出した血液が肺を圧迫しているのだ
満足に喋れないかわりにゴボゴボと口から血液が流れる
「かがみん!かがみん、かがみんかがみん!!」

『あーあ・・・最後まで言えなかったわね・・・・・こなた・・・・』
だが、愛する人に抱かれて死ぬのも悪くない
呼吸困難はちょっと苦しいけど、これは今まで私がワガママでいた罰だ
最後にこんな贅沢が出来るならいくら苦しくても我慢できる

「死んじゃ嫌だよ!かがみん!!」

遠くなる意識の中で最後に汚してしまったこなたの泣き顔に精一杯の笑みを送る


「かがみん!駄目!!」
『ごめんね、こなた・・・ごめんね・・・・』

「好きだったんだよ!かがみの事好きだったの!!でも・・・・」
「!?」

かがみの心にほんの少し光が灯る
『ああ・・・こんな言葉が聞けるなんて幸せ・・・私もこなたが好きよ』

かがみは成就できぬ恋を抱いたまま、ユックリと目を閉じた
『最後まで・・・・私らしかったわね・・愛してたわ・・、こなた』
愛するものに見守られて、満足げな少女は安らかに息を引き取る

筈だった

バシュウ!!
「ごぼおおお!!」
無くなりかけた感覚に強烈な痛みが蘇る
ソレを感じた方向に目線を合わせると、自分から出刃包丁を引き抜いたみゆきが笑っている
「ふふ・・・・簡単には死なせませんよ!」

ドボボボボボボ!!ゴボボ!!!
胸に溜まっていた血液が傷口から流れ出し、一気に呼吸が楽になる
だが、それに伴ってさっきまでの幸福感は消えていった
かわりに芽生えたのは無限の痛みに対する恐怖

「呼吸しやすい様に穴を空けましょうか・・・・」

そう言ってみゆきはかがみの背中に包丁の切っ先をつけると肋骨の間を縫って差し込み
血液を抜くための穴を数箇所作る

「ぎいいいいいいい!ごぼおおお!」

かがみは痛みによって叫び声を上げようとするが、気管に溜まった血液がそれを許さない
しかし、それを吐き出す力は今の少女に残っていない

「仕方ないですね・・・喉が詰まってるんですか・・・?」


ザク!ゴキゴキ!

「!!?」

呼吸が楽になった・・・・が口や鼻からではない・・・・
みゆきがかがみの喉を裂いたのだ、さっきの音は喉の軟骨が裂ける音だ
喉に血疱が詰まった場合などで呼吸困難に陥った場合に用いる応急処置として行うのだが
かがみにとってこれは生き地獄でしかない

「さあ、これで心置きなく貴女を殺せますね」

こなたは呆然と目の前の映像を眺めている

みゆきは左手に持った包丁でかがみの体を切り付ける
何度も何度も縦に横に斜めに切り付ける
手足は赤く染まり 健康的で美しかった流線型のラインも皮一枚で何とか繋がる肉片に修正されていく
「やめて!みゆきさん!!やめてえええええ!!」
我に返ったこなたはみゆきの足を掴み、懇願する
自分が刺したとはいえ親友の最後は安らかなモノであって欲しいのだ
「そうは行きません!私の邪魔をした!この女の!最後は!こうです!こうです!!」
会話をしながらもみゆきの非道は止まない


「ぎゃあぼおおお!!ごぼぼぼ!!!」
既に呼吸困難に陥ってもおかしくないのだが喉元に刃を立てられて簡易な呼吸が出来る為かがみは死ねない
人間は片方の肺とそこに繋がる通気孔さえあれば暫くは生きていられるのだ
冷徹な心と知能を持った、みゆきだからこそ出来る悪魔の所業
気管に入った血液は肺からの圧力によって何度も真っ赤な霧を散らしている
「やめてあげて!!お願いします!なんでもするから、何でしますから!!」
親友の為に何度も何度も哀願懇願を繰り返すこなた
「・・・・・」
みゆきの攻撃が止んだ
かがみはまだ辛うじて生きているが「ビュー・・・ビュー・・・」と羽笛の様に喉を鳴らして横たわっている
もはや原型を保っているのは可愛らしさは残っているものの苦悶に歪んだ顔だけであった
「かがみん・・・・・・」
こなたはかがみの姿を見て卒倒しそうになる
「今、楽にしてあげるからね・・・・」
「・・・・・・・」
かがみは苦しそうに口をパクパクと動かしている
その唇は『は・や・く・お・ね・が・い』と言っていた
こなたが頷き、かがみに駆け寄ろうとした時
みゆきがこなたの手を掴んだ
「こなたさん?なにをなさっているんですか?」
「・・・・だって!かがみんが!!」
「言うことを聞くんでしょう!?」
「ひい!」
普段は聞かないみゆきの大きな声に一瞬たじろぐこなた

みゆきは足の竦んだままのこなたを血まみれのかがみの方へ放った
「あ・・・・・・何を・・・・」
図らずともこなたはかがみの上に覆いかぶさる形になる
そのまま、みゆきはかがみの血の付いた手でこなたの局部を愛撫し始めた
「な!やめて!」
「いいんですか?あなたが我慢しなければかがみさんはこのままユーックリと・・・・」
「!・・・うう・・・・くうう・・・・」
自分の醜態よりも今はかがみが優先だ、耐えなければいけない
こなたはそう思い、かがみの顔を両手で抱える姿勢でこの恥辱に耐えようとする
だが、かがみにとってこれは拷問でしかなかった
狭くなった視界の中で辛うじて見える愛しい少女は自分を罠にはめた女から
目の前で犯されているのだ
『やめて!こなた!!いや、見たくない、みゆきに弄ばれるアンタなんか見たくないよ!!』
「あ・・・・ああ・・・・・!」
「ほらほら、親友のかがみさんの前でだらしないですね・・・・恥ずかしくないんですか?」
何もなければ濡れる事は無いが、今は命の危機を感じている
親友の安らかな死がかかっている
その緊張感の中でこなたの体の中の生殖機能は活動を活発化することを選んでいた
「はあ・・・・なんで・・・・感じるの?・・・いやだ!・・・・やめ!」
「ふふ・・・・ほら、もう一息ですよ、ここが良いんでしょう?こなたさん・・・」
涙を流しながら、抵抗しながらも受け入れてしまう自分の体が歯がゆいこなた
頭を振りながら「ぐうううううう」と唸っている
が、みゆきの手によって蜜は溢れるように流れていく
「どうですか?かがみさん・・・貴女はこうしたかったんでしょう?」
「・・くうううう!・・・・あああ・・・・・」
「ほら、こなたさんのイヤラシイ姿を見てあげてください・・・ふふ・・・」
「やめて・・嫌!・・・見ないで・・・・あ!・・・」
みゆきはさらに指を奥へと沈めた

「ひいいい!!」
「ほら、御覧なさい・・・こなたさんは私のモノです!」
「ああああ!!ダメェ!!」
「こうしたかったんでしょう!こうしたかったんですよね!?あははは!!」

みゆきの愛撫は徐々にエスカレートしていき、既にこなたは何度も果てている
このままではこなたが先に壊れてしまいかねない

『みゆき!私のこなたに・・・・・許さない!!』

恥辱に耐えられなくなり、もはや崩壊寸前のこなたを見て瀕死のかがみは憤りを隠せない

『許さない・・・・許さないいいいいいい!!』

辛うじて繋がる体中の神経をフルに活動させ、かがみは起き上がろうと必死だ
目の前の敵を葬る為に

『殺してやる!!』
「ビュー!ビュー!ビュー!!」

かがみの呼吸が荒くなっていく
足掻くかがみを蔑みの目で見るみゆき
「へえ・・・・・頑張りますね・・・かがみさん・・・」

愛おしい少女を救うためにかがみは全霊を掛ける

「か・・・かがみ・・・ん・・・・・」
『ああああああああああああ!!!』
「ビャアアアアア!!」

こなたの声が聞こえたと同時にかがみのズタズタになった体が跳ね上がり
上に乗ったこなたごと、みゆきに向かって起き上がる
愛の力とでも言うのだろうか?それとも極限の嫉妬心からか執念か・・・・
かがみの血まみれの両手は、こなたごしにみゆきの首を掴んだ

「・・・どうしたんですか・・・?かがみさん?」
「・・・・・・・」
「かがみん・・・・」

かがみの手はみゆきの首を確かに掴んでいる
しかしズタズタになった腕には既に、力が入らない

「馬鹿な女・・・・・・」

ドス!

何かの衝撃を受けて一瞬の静止の後に力なく倒れこむかがみ・・・・
ガツン!と音を立てるほどの勢いで倒れこんだ少女の眉間には先ほどの出刃包丁が生えていた

かすかながらも光を灯していた瞳は一瞬でビー玉の様に無機質になり
開いた瞼に隠れるようにして漂っている
口はだらしなく開き、体中が脳からの信号を理解できずに痙攣を繰り返す
まるで電池の切れかけた踊り人形の様な肉槐

こなたの思考は一瞬停止した後に肺にありったけの酸素を吸引する信号を彼女の脳に流した
一呼吸置いて、その酸素を一気に放出する

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

「・・・・ふふ・・・・・・さようなら、かがみさん・・・素敵な寝顔ですね」

こなたは血で染まった手を見て現実を受け止められずにいた・・・・・・
「・・・・ゴボボボボ・・・・・・・・・・・」
目の前には既に感情という概念の途切れた生ける肉槐が一体
肉槐は天井を睨みつけ、あたかもそこに敵が居るかの様な表情をしている
生前は少女であったこの肉槐の名は・・・・・・柊かがみ・・・・・・
だが、すでにその面影はなかった・・・・残ったのは苦悶の表情のみ

「かがみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

夜の泉家に こなたの声が響いた
『これで、軌道修正はできました・・・・次はつかささんですね・・・・・』



人肉は硬い、蛋白質やカルシウムを多く含んだ筋肉に硬質の骨格があいまって
一つの肉槐と化して脂肪が刃を鈍らせる
時代劇で侍が何人もの咎人を斬り伏せる場面があるが、あれは嘘だ
手入れもされていない包丁で人体を解体するのは結構ホネだった

「へえ、やはり思春期の女性ですね・・・・健康その物というところですか」

こなたの存在を意に介しもせずに、みゆきは淡々と解体にいそしむ
横たわるかがみの足、腕、体、首、頭部に至るまで丁寧に切除しては
倉庫から持ってきたバケツや洗面器に移していく

「かがみさんは本当に良いお友達ですね、最後に生きた知識を下さるんですから」

心臓は停止している、脈も完全に止まっている
だが、それでも残された生体のかすかな動きがみゆきを否定している様子だった
それも気に留めずに解体作業を進めるみゆき
こなたの目の前に居るみゆきは既に数時間前のみゆきから逸脱していた
いや、ひょっとしたら人間から逸脱してしまったのかもしれない
惨劇を目の前にして逃げ出したいのに体が動かない
恐怖で叫びたいはずなのに体がそれすらも許さない
こなたはとうの昔に失禁し半ば放心状態でかがみの肉片を弄ぶ恋人を眺めるばかり
みゆきはかがみの頭部を解体していた

「ここが大脳、延髄・・・・小脳・・・辺縁系・・・ここが思い出が詰まった宝箱・・・」

影に隠れて見えないが、音から察するに直に頭部に手を入れているのだろう
こんな場面、パソコンゲームでしか見たことがなかった・・・・
いや、見ないで済んだかもしれないのに現実に起きてしまった・・・・
しかも親友と恋人の組み合わせだ

「さあ、これで準備はできましたね・・・・・ふふ・・・・」

みゆきはそう言って、こなたの方に歩み寄る
恋人のあまりにも冷徹な表情を見たこなたは少しの間、気を失ってしまった

最終更新:2025年02月25日 14:29