みゆきの想い
作 みゆキチ=ハンニバル=アラバマ
秋、文化祭シーズンが終わり
あと一学期で陵桜学園高校 三年間が終わります
思い返せば こなたさん 貴女とは三年間同じクラスでしたね。
この気持ちに気がついたのはいつからでしょうか?入学式から?あの夏の日?
いいえ、私が貴女への想いに気がついたのは・・・・・・・・・・ここを受験したその日でした。
小さな体に 長く細い髪 とても・・・・・可愛かった すぐに貴女は私の心に入り込んできた
一年生の一学期、まさか同じクラスになるなんて 夢にも思わなかった。
それどころか 一緒にお昼ゴハンを食べれるようになるなんて・・・・・・・・
夢にも思いませんでした。
「みゆきさん 可愛いよね」
「みゆきさんはメガネッコ属性だし ルックスも良いし」
「みゆきさん 物知りだね」
「みゆきさんは・・・みゆきさんも・・・みゆきさんの・・・・・・」
ホウ・・・・・
みゆきの口からため息が漏れる
彼女が私の名前を呼ぶたびに、私はあなたを想う
時計を見れば10時40分、何時も通りに自宅学習をしていたみゆきはいつの間にか
こなたの事を考えていた。
机の上には数学のノート、しかしノートには数式は一切書かれてなく
びっしりと「泉 こなた」の名前で埋められていた・・・・・
「あらあら・・・いけませんねぇ、またやってしまいました うふふ」
もうすぐ11時・・・・
みゆきは明日から始まる 愛しいこなたとの時間に胸を躍らせながら 床に就いた
朝、学校に着いたみゆきは教室の自分の机で本を読んでいた
ふと みゆきは時計を見る
『・・・そろそろですね・・・・うふふ・・・・』
「みゆきさん オッハヨー」
「ゆきちゃん おはよー」
こなた と つかさの明るい朝の挨拶
「あら、泉さん つかささん おはようございます。」
『ああ、泉さん・・・・泉さん・・・・』
みゆきはこなたのバスの時間からバス停からここまでの所要時間まで 全てを把握している
今では時計を見て こなたが今どこを歩いているすらも大体の検討は付くほどになっていた
「でねー お姉ちゃんがねー」
「あはは、かがみんらしいよね~」
「そうですね うふふ」
『泉さん 綺麗な髪 お口も・・・可愛らしくって・・泉さん・・・・泉さん・・・・』
みゆきの想いは既に抑えられないほどに成長していた。
『この想いをなんとか成就したい、叶えたい、伝えたい その為に今まで・・・・』
「ゆきちゃん・・・・?」
お昼休み、いつもなら四人でお昼ゴハンを食べる時間である、しかし 今日は違った
「わざわざ 来て頂いて 申し訳ありません つかささん・・・・」
ここは食堂と面した中庭である。
向こう側には こなた と かがみ が仲良く二人でお昼ゴハンを食べていた
あちらからは 茂みの陰に隠れていて みゆき達が見えない様になっている
「あれ?みゆきは?」
「なんか つかさと用事があるって言ってたよ?」
「ふーん・・・・じゃあ、しょうがないから二人で食べるか」
「ホントは嬉しいくせに~ かがみんはツンデレだね~=ω=」
「はいはい・・・・」
つかさとみゆき無しでも楽しそうに談話する二人・・・・
「あの二人を見て、つかささんはどうお思いですか・・・?」
「どうって・・・・・仲・・・いいなぁって・・・・」
みゆきは 俯くつかさ を見て「うふふ」と笑って見せた
「どうしたの?ゆきちゃん・・・今日、なんか変だよ?」
「つかささん 同性愛ってご存知ですか?」
突然の みゆきの言葉に 空気が凍る
「お・・女の子同士って どんだけ~・・・・ははは」
つかさの顔からみるみる血の気が引いていくのが解る
戸惑いからか 震える指先を悟られないように後ろに隠した
こなた と かがみ は相変わらず楽しそうに話している
みゆきはMP3のイヤホンをつかさの耳にかざして もう反対側の耳元で小さく呟く
「私 お二人が羨ましいんですよ?」
{つかさ・・・・・}
「え!?・・・おねえちゃん・・・の声?・・・・・・」
イヤホンからはかがみの声が聞こえた
「毎晩 優しくしてくれるお姉さんが 泉さんに取られちゃっても良いんですか?」
{お・・・ねえちゃん・・・おねえちゃん・・・・}
そして つかさ本人の声・・・・この音声がなんなのか・・・つかさはすぐに理解した
「ひ・・・・!?」
「毎晩 一緒に寝るなんて 仲がよろしいんですね お二人は・・・・」
{はあ・ああ・・・はあ・・・・・}
甘く 切ない 恋人との時間
「ああ・やめて・・・ああ・・・あああ・・・・・・」
「毎晩 毎晩 姉妹で体を温めあって 語り合って・・・・・」
{はあ・・はあ・ おねえっちゃ・・・・はあ・・はあ・・・つか・・ん・・・}
世界中で 一番好きなお姉ちゃん
「お願い・・・・やめて・・・・やめて・・・・・」
「でも お休みのキスにしては少し激しいのではありませんか? うふふ・・・・」
{ああ・・・・・好き・・・おねえちゃん・・・・・わたしも・・・つかさ・・・・}
誰にも渡したくない大切なお姉ちゃん
「いやあ・・・・やめ・・・てえええ・・・・ぐす・・・ぐす・・・・」
「あらあら・・・」
{ああ・・・好き・・・好き・・・・好きいいいいい!!!あたしも・・・・ああ!!}
「おねえちゃんを・・・・取らないで・・・・」
音声はここで終わった・・・・・・・
「おねがい、ゆきちゃん!お姉ちゃんを取り上げないで・・・」
場所をわきまえてからか、つかさは 怒鳴ったりはしなかったが
少々錯乱気味の様子で みゆきにすがり付いた
「この事は誰にもばらさないで」「お姉ちゃんを私から取り上げないで」と
「やめて・・なんでもするから・・・・なんでもするから・・・・・」
俯きながら泣きじゃくる つかさ に みゆき は囁いた
「私は貴女のお姉さんを取り上げたりしませんよ」
「ひっく・・・・ひっく・・・・本当・・・?ゆきちゃん・・・本当に・・・?」
「ええ・・・ただ、泉さん ならどうでしょうね? ねえ、つかささん?」
「え・・・こなちゃん・・・?」
つかさは顔を上げて こなた と かがみの席を見る
「・・・・・・・・・・・・」
「どう思われますか・・・・?」
つかさは こなた をじっと見る
楽しそうにかがみと喋るこなた・・・・しかし、時折 かがみの髪や胸に視線を送る事が有る
そして、こなたが かがみの唇に視線を送った その時に つかさの目の色が一変した
「・・・・・渡さない・・・・・・・」
「・・・・・うふふ・・・・・・・」
「こなちゃんなんかに・・・・泉・・こなたなんかに・・・・お姉ちゃんは渡さない・・・」
つかさがこなたを呼び捨てにしたのは若干気に入らないが、
これで みゆきの恋の成就に一歩近づいた
「うふふ・・・ふふふふ・・・・」
上手く行きましたね・・・・さて、次の段階に進みましょうか。
『泉さん・・・・待っててください・・・・・』
「ちょっと!つかさ!!どーゆー事なの!?」
帰りのバスの中・・・こなたの姿は無い・・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
五時間目から今まで つかさ は こなた と一切会話をしなかった・・・・・
いや・・・・こなたを無視していたらしく
教室で こなたが話しかけても なんの返事もしない
それどころか こなたの顔を見ようともしなかった・・・・
「かがみん 私、つかさに何かしたみたい・・・・今日は一人で帰るよ・・・・」
かがみは こなたの悲しそうな顔を思い出す
『まったく なんだってのよ・・・・?』
「ちょっと 聞いてるの・・・・?つかさ・・・・」
つかさは窓の外を向いてこっちを見ようとしない
いつも、素直な つかさだからこそ この時の態度が かがみを苛立たせる
「こっち見なさいよ!」
他の乗客がいるのにも関わらず、かがみはつかさの肩を掴んで強引に振り向かせた
つかさは 瞳いっぱいに涙を浮かべていた
「こなちゃんのくせに・・・・・」
「え・・・・・・・?」
普段は見ない つかさの悔しそうな顔に かがみはそれ以上 何も言えなくなってしまった
「こなちゃんのくせにぃ・・・・・・ううう」
泣き崩れるつかさに かがみは少し戸惑いながら 子供をあやすようにして頭を撫でた
「・・・・・よしよし・・・・・」
「高良先輩、用事ってなんですかぁ?」
放課後の屋上は 秋ということもあり 少々冷える、少し寒そうに 小早川 ゆたかは みゆきを迎えた
「お待たせして すみません 小早川さん すぐに済みますので・・・・」
そういって みゆき は ゆたかに少し分厚い封筒を手渡した
「これを 空けてみて貰えませんか?」
どこにでもある レターセットの封筒・・・・中を見た ゆたか は息を呑んだ
「・・・・!?・・・・」
「小早川さんは 泉さんのお父さんと 随分と仲がおよろしいんですね?」
封筒の中身は ゆたか と そうじろうの写真 それも 他人には決して見られてはいけない写真だった
「どうして・・・・この事を・・・・・」
みゆきはユックリと口を開く
「小早川 ゆたか 12月20日生まれ 埼玉県出身 血液型A型 私立陵桜学園1年D組
趣味インターネット 家族構成 小早川 ゆい、父、母・・・・」
「・・・・・・・・」
「中学二年生の時 泉そうじろう に恋心を抱く」
「!?」
「知っていますよ 小早川さんが この学園を選んだ理由も・・・・泉さんのお家に居候している訳も」
「・・・・・・・・」
「これだけの写真を手に入れるのには 苦労してしまいましたが、お陰様で充実した時間を過ごさせて頂きました」
いつもの優しい笑顔で淡々と話しかけて見せた
「いけませんか・・・・?」
ゆたかは涙目でこちらを睨んでいる
「関係を迫ったのが 泉さんのお父様では無く 小早川さんだと知ったときは少し驚きました。」
「だって・・・・しょうがないじゃないですか!」
「では、みなみちゃん はどうするんですか?」
「え・・・・??」
「みなみちゃん はただのお友達ですか?」
「だっ・・・・だって・・・・み・・・みなみちゃんは・・・・」
多分 ゆたかは みなみの気持ちに気付いていないのだろう・・・・・
『可哀相な みなみちゃん』
「それでは話を変えましょう・・・・」
みゆきは泉 かなたの写真を取り出す
「あなたは 泉さんのお母様に勝てますか?」
「・・・え・・・?」
「泉さんとお母様は そっくりでしょ?」
ゆたか は みゆきが何を言っているのか理解できない
「なら、もし泉さんもお父様を好きだったらどうでしょうね?」
「・・・・そんなこと・・・・」
「無いと・・・言い切れますか?絶対に・・・・?」
「そんな・・・・・・」
みゆきはゆたかの煮え切らない態度に少し 苛立ちを覚えた
「では、お父様はどうでしょうね?」
「え?」
「日に日に妻に似てくる娘、あそこまで娘を溺愛しているのは何故でしょうね?」
「だって、お姉ちゃんは叔父さんの娘だから・・・・」
「たとえ妻に似ていても いえ 瓜二つでも決して関係を持ったりはしないと・・・?」
ゆたか の華奢な体が震えているのは 寒さのせいだけでは無いだろう
「・・・・・・・・・どうすれば 勝てるんですか?」
食いしばる様な 少女の声
「そうですね・・・・・・・私の言う通りにして下さい。 そうすれば」
「そうすれば・・・・?」
「大切な人と同じ屋根の下で暮らしていけますよ・・・いつまでも・・・」
「叔父さんと・・・・いつまでも・・・・・」
『ああ・・・・もう少しですね 泉さん・・・・泉さん・・・・』
「・・・・?ゆたかちゃん・・・?」
その日 帰宅した ゆたか は玄関から そうじろう の書斎に駆け込んできた
普段の ゆたか からは想像も出来ない行動だ
「叔父さん・・・・・」
ゆたか は驚いている そうじろう を押し倒そうとするが ひ弱な為 そうじろうに 覆いかぶさる形になる
それでも なんとか愛しい人の胸元を手繰り寄せ、唇を奪った。
「叔父さん・・・・したい・・・・」
少し驚いていた そうじろう はそっと ゆたか を横に寝かせて 着物の帯を払う
衣類を脱ぎながら 書斎の傍らにある 妻の・・・泉かなた の写った写真をいつものように伏せようとした
「だめ!!」
「何を怒ってるんだい?」
そうじろう は しゃがみ込んで ゆたか の頬を優しく擦った
「怒ってない・・・・怒ってるんじゃないの・・・・」
いつも ゆたか を愛する時は 妻の写真を伏せる・・・・・
それが何を意味するのかを 少女は気付いていた
それは 喪失感 虚像 崇拝 過去 そして・・・・・愛する者への・・・・・・・罪悪感
そうじろう がそれで気が済むなら それで良いと思っていた・・・・昨日までは・・・・
「叔母さまにも見てもらって! 叔父さんが選んだ私を 今 生きてるのは私!」
「ゆたかちゃん・・・・・」
「私は生きてるの!叔父さんと これからもずっと愛し合える、傍にいてあげられるの!!」
「・・・・・・・かなたは・・・・・」
そうじろう がそこまで言いかけた時、すでに ゆたか の潤んだ瞳が目の前に迫っていた
こんな ゆたか は見たことが無かった
その瞳は ひ弱な少女の物とは思えないほど気丈で、そのかたく結んだ唇は これまで愛した者の誰よりも妖艶だった
負けたくない 離したくない 絶対に 渡したくない
「叔父さんは私の大事な人、私は一生 叔父さんのモノ・・・・だから・・・もういない人に・・・だから・・・・」
自分がどれだけ死者を冒涜しているのか、そうじろう の思い出を踏みにじる事を口にしているか
少女は理解していた 苦しかった それでも、この想いを伝えずにはいられない
「ゆたかちゃん・・・・・かなたは・・・・・・妻は・・・・・・・・」
ゆたか は必死に その愛しい人の肌を唇を求める
そうじろう はそんな ゆたか をぎゅっと抱きしめ、唇を重ねた後 ニッコリと微笑んだ
「死んだよ・・・・・・そう・・・・もう死んだんだ・・・・・」
「叔父さん!叔父さん!好き 大好き 愛してるよぉ 叔父さ・・・あああ」
『成熟しきっていない柔かい肌 か細い首 太陽の香りがする髪の毛 これが俺の・・・・ゆたか・・・・』
「ずっと 傍にいよう 一緒にいよう・・・・ゆたか・・・・・」
「叔父さん・・私・・嬉しい・・・嬉しいよ・・・」
そうじろう の中に 泉かなた はもうどこにもいない・・・・・
こなた のいない泉家で二人は何度も愛し合った
「泉ぃ・・・・お前・・・こんな所で何しとるんや・・・?」
「あ・・・・・ななこさん・・・・・・ぐす・・・・。」
進路説明会の資料作りで忙しかった ななこ は6時をまわったので一端コピーをしようと
コピー機のある 図書室へ上がってきたところだった
こなたは かがみ に「一人で帰るから」と告げたものの 泣き出してしまいそうで
図書館で悲しい気持ちを落ち着けるために うつぶせになって泣いていたのだ
「阿呆、学校では先生や・・・って珍しいな 泉が図書室に一人やなんて・・・・・」
「あ・・・図書館に面白いラノベなんかないかなぁ~ なんて・・・・」
図書館にラノベなんかあるわけ無いやろ、その前にお前ラノベ読まんやないか・・・・・
普段なら ななこ は「ここは突っ込み所」と食いつくのだが、今日は違う
「泉 お前 泣いとったんか・・・?」
「・・・・・・・ななこさん・・・ううう・・・う・・・うわーん・・・・」
「こ・・・こら・・泉・・・・他の生徒もおるんやから・・・な、場所変えよ・・・・な・・・?」
突然泣き出す こなた に 戸惑いはしたが流石は教師と言う所だろうか
べそをかく こなた を連れてきたのは3年B組の教室だった
「そうやったんか・・・・・あの柊がなぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
「お前らあんなに仲ええんやから 大丈夫やろ、センセにまかしとき!」
「・・・ななこさん・・・・・有難う・・ぐす・・・・・」
「阿呆!学校やから先生やっちゅうねん!」
「あは・・・ナナコセンセイ~(クレヨン●んちゃん風)」
「似すぎや・・やめぇ・・・・」
「「あははははははははは 」」
誰もいない教室で二人の笑い声がこだました
ななこ はそのあと靴箱まで 教え子を見送り 何度も振り返って手を振る こなた に
「はよ 帰らんかい」と笑顔で答える。
しばらくして こなた の背中が見えなくなってから ななこ の携帯電話が鳴る
{WAWAWA 忘れもの~♪}
ピッ・・・・
「高良です・・・・」
「・・・・・・これでええんか?高良・・・・?」
「はい・・・・上出来です、流石は黒井先生ですね。」
この女の言う事はいちいち鼻につく・・・・
「どっから見とるんや・・・・?」
「ふふ・・・・・学校中に私の目が有るんですよ・・・・?」
ななこ はゾッとした、この学校の中はあの女の視界・・・・・・
「まあ、そんなに怖い顔をしないで下さい。教師は聖職ではありませんか・・・・」
「・・・・そんな事より・・・・約束は守ってくれるんやろうな?」
「あれ?何のお話ですか・・・?」
「!?高良!おま・・・・」
「うふふふふ・・・・冗談ですよ、ふふ 約束はお守りします。デスクの二番目の引き出しに例のモノが」
ななこは携帯を繋げたまま 教務室にある自分のデスクに走り 引き出しを引いた
そこには 「黒井先生へ」と書かれた封筒がいつの間にか置いてあった
中身は
「お約束の 白石みのるさん と 黒井先生の個人授業の写真とネガです・・・お確かめください。」
「・・・・・・・この事は・・・絶対に口外せーへんのやな・・?」
「それは・・・・貴女方次第ですよ・・・・先生・・・・・・・プ・・・・ツーツー」
教え子を売った教師・・・・・ななこは教師としての自分を許せなかった
「でもな・・・・好きなモン守るためなら・・・・アイツの為なら・・・・・・」
『・・・・・・スマン・・・白石・・・堪忍な・・・泉・・・・』
電話を切った みゆき はバス停に向かう愛しい こなた に視線を送る
『ああ・・・・・今すぐにでも抱きしめたい・・・・でも、もう少し・・・・もう少しの我慢・・・・』
「お姉ちゃん・・・・・あのね・・・・」
かがみ はいつもの様にかがみの部屋に鍵をかけて つかさ と二人きりの時間を過ごしている
家族にも いや、家族だからこそ秘密の二人の関係・・・・
「なに?つかさ・・・?」
姉達は仕事や大学の友人達と遊びに、両親は二人で温泉に行っている
今日は二人以外この家にいない
それでも二人は部屋に鍵をかける
それは 二人がずっと一緒にいられる為の御呪いみたいなものだった
「こなちゃんの事なんだけど・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
久しぶりに 家族に気兼ねもなく 存分に交わった二人は一糸まとわぬ姿で抱き合っている
だが、つかさ が こなた の名前を出した瞬間に かがみ はあちらを向いてしまった
「・・・・なによ・・・・つかさ・・・」
『おねえちゃん・・・・やっぱり・・・・』
つかさ の頭の中に みゆき の言葉が蘇る
「いいですか?つかささん・・・・この写真を お姉さんに かがみさんに見せるんです。」
「え・・・・?ダメだよ・・・そんなの・・・」
「それが出来なければ あなたは かがみさん を失いますよ? いいんですか? それでも・・・・」
「そ・・・・・そんな・・・・・」
「それと、盗聴器の場所も教えておきます・・・・大丈夫・・・・・」
「・・・・・・まさか・・・・ゆきちゃん・・・・・」
「それを{全部、泉さんがやった}事にしてしまえば いいんですよ・・・・うふふ」
「それじゃ、こなちゃんが・・・・・」
「可愛そうですか? それなら止めはしません つかささん のご自由になさって下さい」
「・・・・・・・・あ・・・・」
「さあ、お昼休みが終わってしまいますので、教室に参りましょう こなたさんが待ってますよ・・・・ふふ」
ゆきちゃん・・・・・・
「この写真ね・・・・・こなちゃん から渡されたの・・・・お姉ちゃんには見せないでって・・・」
封筒は PANDAと書かれた レターセットの封筒 こなた の部屋着と同じ柄だ
「こなたから・・・・? 一体何よ?まさか声優の生写真とかじゃ・・・・・・・うひい!!」
写真を見た かがみ は戦慄した
誰も知らないはずの二人の秘密・・・・・よりによって こなたに・・・・・
「それとね 気になって ベットの端っこを見てみてら・・・・・こんなものが・・・・」
「・・・・マイク・・・・?まさか・・・これって盗聴機・・・・・!?」
かがみ は愕然とした、親友だと・・・いや もっと特別な存在だと思っていた こなた・・・・・
そういえば こなたはいつも ベットに近い場所でゲームをしたりしていた
かがみ が飲み物を取りに行った隙に マイクぐらいなら簡単に付けられる
「お姉ちゃん・・・・・もう・・・・こなちゃんとは・・・・・」
「・・・・・・・こなた・・・・・・・・・」
『こなちゃん・・・ごめんね・・・・でも、こなちゃんが悪いんだよ?おねえちゃんは、私のものなのに・・・・』
「ただいまー・・・・・?」
その日 こなたが家に付いたには8時を少し過ぎてからだった
だが、いつもと様子が違う
「お父さん?ゆーちゃん・・・?」
がらんどうの家 電気も付いていない 誰もいない
食卓の上には そうじろう の書置きがあった
『父さん 取材で 一月ほど家を空けるよ
ゆたかちゃんは しばらく ゆいちゃんに預かってもらうことにした
寂しいだろうけど 留守番を頼むよ
こなたへ 父より』
「・・・・・・・・・・・・・お父さん・・・・・・」
その書置きは 何かがおかしかった 変だった・・・・・・・
そうじろう は こなたの帰りが遅い日はしつこいほど電話をし、
出かける前にはスキンシップをせがむほどの溺愛ぶりを見せていた
ウザイほどの愛情を見せていた父親が残した 一枚の紙切れ・・・・・
「いつもは {愛するこなたへ} って書いてあったのに・・・・」
携帯が鳴る
チャッチャチャラララ~ チャ~チャ チャンチャン♪
ピッ
「はい・・もしもし?」
「もしもし?こなたぁ~?」
「あ、ゆい姉さん。ゆーちゃんは元気?」
ゆたか とは今日の朝会ったのに もう数日顔を合わせていない様に思える
元気?と聞くのも変な気がしたが 勝手に口をついででた言葉だった
「ゆたか 疲れて眠っちゃったよ~」
「そっか・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ゆい姉さん?」
「ゆたか はしばらくこっちで預かるから 心配しなくっていいよ~」
「うん、ゆーちゃんをよろしくね!たまには遊びに来てね?」
「うん、お姉さんにまかせたまへ~!時間が空いたら 遊びに行くよ~」
「うん、おやすみ~」
「はいはーい」
「「ツーッ・・・ツーッ・・・ツー」」
「ごめん、ゆたか・・・お姉さんは 悪いお姉さんだ・・・・・ごめん・・・こなた・・・・ごめん・・・・・」
切れた電話の向こう側で ゆい は
一人ぼっちの自宅でうずくまって泣いていた
「ふふ・・・・今頃 小早川さんのお姉さまも さぞ後悔なさってるでしょうね・・・・・・」
みゆきの手にはある写真が握られている
それは眼鏡をかけた活発そうな女性が同僚と一緒にホテルからでて来るスナップ
「夏祭りの日に旦那以外の同僚と残業とは、真面目な婦警さんですね・・・・まったく・・・・」
もはや、小早川ゆい すらも 高良みゆき の手駒として動いている・・・・・
「時間が空いたら・・って・・・はは」
悲しそうに こなたは笑った
その日一日はおかしかった
まるで別の世界だった・・・・・・今までとは違う世界・・・・・
かがみ に電話しても かがみ は出ない
何度か掛けてみたが呼び出し音が続く・・・・・・・
「かがみ・・・・・・・」
少し後にメールの着信が有った
「かがみん・・・・・かがみんからメールだ!」
しかし、喜んだのも束の間 内容は最悪のものだった
{こなた 何度も電話に出ないで ごめん
もう連絡しないでくれるか?
こなたと一緒にいるの もう 無理みたいだから
これからは 私たち姉妹に一切関わらないで
さようなら 泉こなたさん
柊 かがみ&つかさ }
血の気が引いているのが解った・・・・・・
全身から生気が抜けていく 何もかも
かがみ・・・かがみ・・・・大好きなかがみ・・・・・
『お前らあんなに仲ええんやから 大丈夫やろ、センセにまかしとき!』
「そうだ・・・先生なら・・・ななこさんなら・・・・・・」
こなたは急いでネットゲームにINした・・・・・
ログイン、アカウント、ID入力・・・・・
手馴れた感じで キーボードを叩き マウスを動かす
たどり着いたのは 夢のような PC内の世界・・・・・・・・
ログインと同時に{やっほー =ω=}と挨拶を打ち込む
「あれ・・・・?」
いつもの様に スクリーンに書き込みが無い
「もう、皆落ちたのかな・・・?AFK・・・?」
ふと気がついた いつもは画面端にあるパーティーの名前とクラブ名が無い・・・・・
そのかわりに こなた宛てにメッセージが届いていた
「・・・・・・・・??」
{強制退会のお知らせ・・・・貴方はクラブマスターの指示により 退会を命じられました}
「クラブマスターは・・・・・・ななこさん・・・・・」
こなた は一瞬気を失いそうになってそのまま椅子ごと後ろに倒れ落ちた
頭を少し打ったが 今はそんな痛みなど感じない・・・・・
『お母さん・・・・・』
ふと 机の上を見る・・・・・
「!?」
無い・・・・無い・・・お母さんの写真・・・・・・
こなたは家中を探す
アルバム・・・まだ赤ん坊の頃三人で撮った写真・・・結婚式の写真・・・無い・・・無い・・・・
「お父さん・・・お母さんを・・・どこにやっちゃったのぉ・・・・」
そのまま こなたは そうじろう の書斎で倒れこんだ
そうじろう の机の下には ゆたかの髪留めが落ちている
こなたは それを手にとって 大の字で天井を見上げた・・・・・・
「あれ・・・・?私、今
一人ぼっちだよ・・・・・?」
『もう・・・・誰もいないよ・・・・・・・・・・・』
「可愛そうな泉さん・・・・たった一日で貴女は
一人ぼっち・・・・」
みゆき は画面の こなた に指を這わせながら うっとりとした表情で眺める
「明日 白石さんが動いてくれれば 学校にもメイド喫茶にも 貴女の居場所はなくなりますよ・・・・・」
「ひ・・・・うぇーーーーん・・・・ひいいいん・・・・・・ぐす・・・ぐじゅ・・・・うう・・・・」
『泉さん・・・泣かないで・・もうすぐ私だけの泉さんにして差し上げますからね・・・・はぁ・・・可愛い泉さん・・・』
コンコン
高良家の書斎のドアが鳴る
「・・・・・・・・どうぞ・・・・」
ガチャ
「みゆき?」
自宅でモニターを見る みゆき に話しかけたのは 高良ゆかり・・・・・
みゆき の母親だ
「はい?お母様 なんでしょう?」
ゆかり は みゆき のすぐ後ろまで来て 一緒に こなた の映ったモニターを眺める
「うまく行ってるみたいね・・・あらあら・・・・・あの元気な娘が こんなになっちゃって・・・・」
ゆかり は悪戯っぽく笑った
「ええ・・・・全て順調です、これもお母様のお陰ですね」
「ねえ・・・みゆき・・・・?」
「はい?なんでしょうか・・・?」
「出来上がったら、お母さんにも・・・・」
「駄目ですよ・・・泉さんは私のものなんですから・・・・」
「もう・・・・ケチなんだから・・・・」
ゆかり は陵桜学園高校のOGであり 名家の生まれでもある
当時、まだ小さかった陵桜学園は校舎も小さく、設備もあまり充実していなかった
プライドの高い ゆかり の父親は娘に不自由をさせない為、自分の名誉の為に
校舎の改装資金を学校側に寄付していた
建築会社 資材 運搬 設計 庭師 食品衛生 あらゆる場所に 高良家の資金が使われ
その内の一つが 監視カメラだった・・・・・・
もっともこれは極秘に設置されたもので、ゆかり に悪い虫が付かない様に・・・・という親心から設置されたのだ
「これを見つけた時は驚いたけど、まさか まだ動いてるなんてね・・・・・さすがお父様だわ・・・・」
「ええ、モニターの端末も当時では最新のものだったらしく 泉さん や 柊さん達のご自宅に設置したカメラとも愛称が良いようです」
「ねえ~、お母さんのお陰だと思うなら・・・・・」
「いけません・・・・・」
「・・・みゆきったら・・・よっぽど泉さんが好きなのね・・・・・妬けちゃうわ」
「申し訳ありません、でも お母様ったらすぐに駄目にしてしまうんですもの・・・・・・」
「だって~」
「高校時代を思い出されますか?・・・・・」
ブーたれる母親の方を向いた
「お母様の分は ちゃんと用意してありますよから、安心してください」
「ふふ・・・・みゆき は親孝行ね」
次の日・・・学校はこなたにとって地獄と化していた・・・・・・・
いつも通りの筈の陵桜学園高校・・・・しかし、学校中の廊下に張られたいたのは
ピンクチラシ風に加工された 泉 こなた の写真だった
店の名前は こなた がアルバイトをしている 秋葉原のメイド喫茶と同じもので
メイドのミニスカートの格好でおねだりポーズを決めている
こなたの写真の斜め上には{ご主人様 こなた がご奉仕します}と ご丁寧に吹き出しまであり
{夕方6時~深夜まで 6000円から オプション付き 電話番号 ○×○ー○△◎■ー■■◎△}}
と うたい文句と電話番号も付いている
これは全て みゆき がデザインしたもので、知り合いの印刷屋に頼んで加工し 納品させたものを
秘密を知られた白石が ななこ と一緒に一晩かけて学校中に貼ったのだが、
その数 実に2000枚にのぼり 作業時間は12時間を越えていた
ただ 欠点が有るとすれば
みゆき が上品な為 卑猥な言葉を書くのを躊躇い、若干 押しの弱いチラシに仕上がってしまった事だが
それを補って余りある出来栄え・・・・・そこらの悪戯とはレベルが違う
チラシは予想以上の効果をもたらす事になる
白石 と ななこ の影の活躍ですっかり風俗嬢にされてしまった こなた・・・・・
「泉さんって風俗でバイトしてるんだってよ・・・・・」
「えー、俺いっちゃおうかな~」
「マジマジ?サイテー」
「この娘 B組の娘じゃない?」
「今度 行ってみようぜ!」
「前から変だと思ってたけど・・・・・」
「だから いつも眠そうなんだ~」
「そういえば話し方とかも 男に媚売ってるって感じだよね~」
チラシは教員と生徒会総動員で処分されたが 追いつかず 噂は瞬く間に学校中に広がっていた
「お・・・おはよう・・・・・・」
噂の本人が来るなり 教室は静まり返った・・・足取り重く 教室に入り 席に着く
ホームルームのチャイムがまるで弔いの鐘の様に学校に響いた
「先生・・・これで全部です」
「そか・・・・」
教員達に混じって こなた の為とチラシの処分に加わる みゆき
もちろん これも計画の内だった
「一体 何枚あるんでしょうね?先生?」
「そうやな・・・・」
「これだけの数を貼るのは容易じゃなかったと思いますが、酷い事をする方もいるものですね?先生?」
「・・・・・・・・・・・高良・・・・・・」
ななこ は怒りと悲しみで顔が歪んでいる・・・・・・
「いやいや、高良さん 有難う!」
「まったく 友達思いの良い生徒ですな!黒井先生!!」
「いいえ、親友の泉さんの為ですから これくらいは・・・・・」
今すぐにでも この女の正体を晒してやりたい・・・・・・そう思いながらも、ななこ は声を振り絞った
「ええ、まったく 高良はこの学校には勿体無いくらいの生徒です」
みゆき は ななこ の精一杯の嫌味に対して 精一杯の笑みを返す
「さあ、先生・・・・・泉さんを助けに 教室へ参りましょうか?」
「・・・・・・・そやな・・・・・・・・」
この女・・・・ウチを見張っとるんか・・・・・
教室では こなた の机の周りに不自然な空間が出来ていた
女子は軽蔑の目を 男子は形容のしようが無い視線を こなた にぶつけて来る
まるで 漫画の中で起こる魔女狩りが 今ここで行われそうな・・・・・そんな雰囲気・・・・
「・・・・・・・・・・・」
こなた はただ呆然と携帯をいじっていた・・・・・
「ねえねえ・・・あれって シフトのチェックとか・・・?」
「やめなよ~ ヤクザとかと付き合ってたら殺されちゃうよ~?」
「なんか、同級生が風俗とか たまんないよな・・・・・」
「お前 お願いしてこいよ・・・・」
「え~、変な病気とか有りそうだし・・・・・」
つかさ は一切 こなた を見ようとしない
「オース!おはよう~」
ななこ が教室に入って来た
「あ・・・先せ・・・」
「なんや 白石は休みか・・・・?」
「せ・・・・」
「まったく、誰かさんのせいで 朝のコーヒータイムが台無しやわ・・・・」
「・・・・・・・・・」
ななこ すらも こなた に視線を合わせない・・・・いや 明らかに無視していた
誰かさんとは みゆき の事を指していたのだが
この状況だ・・・・こなた は勝手に自分だと思い込んだ
『なんでだろう・・・・昨日までは普通だったのに・・・どうして・・・・』
思い返してみても まったく思い当たる節が見当たらない・・・・・・・
『もう・・・どこにも私の居場所がなくなっちゃう?』
「遅れて申し訳ありません」
「・・・高良か・・・・はよ、入りい・・・」
続いて みゆき が教室に入って来た
しかし、ななこ にまで無視されたショックで
屍のように机に突っ伏してしまった こなた はそれに気付かない
みゆき は こなた の席へ向かった
「泉さん・・・?」
「!?」
不意に聞き覚えのある声がすぐ近くから聞こえた・・・・・
「みゆきさん・・・・・・」
「泉さん おはようございます」
「・・・あ・・・・・おはよう・・・・・」
「お隣に来ても よろしいですか?」
「・・・・う・・・・うん・・・・みゆきさんが大丈夫なら・・・・・」
みゆき は こなた の机に自分の机を並べた
つかさ が一瞬こちらを見たが またすぐに目線を逸らす・・・・
「あ・・・つかさ・・・・・」
「泉さん・・・・・大丈夫ですか・・・・?」
「うん・・・・みゆきさん・・・・有難う・・・・・」
白々しい みゆき の行動を眺める ななこの目線に
怒りが有った事を 誰が気付いただろうか?
「先生・・・・・泉さんを徹底的に無視してください・・・・・よろしいですね?」
「んな・・・そないなこと・・・・」
「私はよろしいですね?と聞いたんですが・・・・」
「・・・・・わかったわ・・・・・」
「言いだしっぺはお前やないか・・・・・」
誰にも聞こえない声で ななこ は呟いた
『高良・・・・お前 泉をどうするつもりなんや・・・・・・』
最終更新:2024年04月19日 21:36