魔道学園 学園長 ダンケル


――学園に”異界の扉”が開かれる数時間前。

記念すべき創立100周年の式典に備え、私は衣装の着付けを行っていた。
その時すでに、私は学園内の異変を誰よりも先に察知していた。

学園のシンボルでもある塔――『マグニフィカト・ケイオス』。
その塔の最上階には、強大な魔力が集約されている。
奇妙な感覚を胸に塔の最上階に駆けつけると、フードに身を隠した何者かが唱えているのは……
あれは禁じられた秘奥の”異界との境界を開く”呪文!?

「何者かは知らないが、今すぐその詠唱を止めて貰おうか」

謎の魔道士の力が驚異的であることは、戦う前から知り得ている。
しかし、学園の長として覚悟を決めた。

互いに全力を込めた攻撃の応酬。
……長時間に及ぶ激闘の末、私は志半ばで力尽きる。

自らの体は闇にのみ込まれ、徐々に自分ではない”ダンケル・アダムス”が形成されていく。
頭に激痛が走り、体の自由が利かず、次第に視界が闇に染まりゆく。

「ワ、ワタシニハ ガクエンヲ マモルコトガ デキナカッタ……」

そして、クロム・マグナ魔道学園に”異界の扉”が開かれた。

空間に現れる巨大な亀裂、その亀裂の闇にのみ込まれる人々、瓦礫と化す学園祭の華やかな装飾の数々……
その惨惨たる光景を窓から悠然と眺める。
怒りと悲しみ? もはやそんな感情は生まれなかった。

「ハーッハッハッハッハァ!」

身体中から沸き上がる”これまで感じた事の無い強大な力”。
先程まで私を苦しめていた闇の力でさえも、今はワタシの思うままに振るうことが出来る。

いつの間にか異界の扉は閉じられ、”フードに身を隠した何者”かの姿も消えていた。
しかしどちらも今のワタシにはどうでも良い話。
今はこの身体中から沸き上がる力と、頭の中を支配する凶暴な衝動に身を委ねていたい。

――しばらくすると、生徒会の面々が続々とマグニフィカト・ケイオスの最上階へと現れる。
皆一様に信じられないといった面持ちでワタシの真意を問おうとするが、
明確な殺意と共に放たれる闇の力を受けて、彼らの顔がワタシとの戦いを決意したように変化する。

闇を纏った身体から流れる衝動は確かに彼らの死を望んでいるというのに、
どこか遠い所に残る感情……心の残滓は「学園を救おうとする彼ら」に倒される事を願っていた。

皮肉にもそんな状況の中で”私ではないワタシ”は、涙を流し笑顔を浮かべていた。
最終更新:2014年08月04日 13:53