10個の異世界 - (2009/05/11 (月) 22:19:24) の1つ前との変更点
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*10個の異世界 ◆O4LqeZ6.Qs
話は少しだけ遡る。
場所は博物館(H-8)の中のパソコンの前。
そこにいるのはガイバーⅠこと深町晶とスエゾー、小トトロの3人……いや、1人と2匹と言うべきだろうか?
島のパソコンからアクセスできるコンテンツのひとつである「チャット」。
チャットと一口に言ってもその仕様はさまざまだ。
だが、入室する際に自分の名前を入力しなければならないという点はだいたい同じである。
ゆえに、ここももちろんそういう仕様になっている。
「名前か…… どうしよう? 本名を使うって手もあるけど、さすがにそれは不用心かな?」
入力する名前に迷った晶が、隣で画面を覗いているスエゾーに尋ねる。
ちなみに、晶はガイバーを装着したままだ。
ガイバーがパソコンに向かって座り、それを横で目玉おばけが見ている。
しかも足下を小トトロが動き回っていたりもする。
見る者がいればその光景はたいそうシュールに見えたことだろう。
「ようわからんけど、偽名でええんやったらそうしといた方がええかもしれんな。
さっきの掲示板っちゅうやつに書き込んでた人らも、誰も本名使っとらんかったし」
「掲示板か。そう言えば毎回名前を変えて書き込んでる人もいたな」
「知り合いにだけ自分が誰かわかるようにっちゅう考えやな。いろいろ考えるやつがおるもんや」
「でも、俺は連絡を取りたい仲間がいるわけじゃないし……」
そうなのだ。このバトルロワイヤルの参加者で晶が以前から知っている人物と言えば敵ばかり。
確実に味方だと思える人間は1人も参加していなかった。
「スエゾーは合流したい人がいるんだよな?
だったらスエゾーの仲間にだけわかるような言葉を名前にしたらどうだろう?」
「仲間か……」
スエゾーの表情が急に暗くなる。
無理もない。スエゾーはさっきの放送で仲間であるホリィという少女の死を知らされたばかりだ。
ホリィはスエゾーを円盤石という石から再生した生みの親で、同じ村で育った幼馴染みでもあると言っていた。
そのせいか、スエゾーが仲間たちの中でもホリィの事を特に大切に思っている事は口調から伺うことができた。
そんな大切な仲間を失って、元気なままでいるのは誰にだって無理なことだ。
しかも、スエゾーはその前の放送でもモッチーという仲間が死亡した事を知らされていた。
そんなスエゾーに対して仲間の話は禁句だったかもしれない。
「スエゾー。ごめん……」
「晶。なに言うてんねん。お前は悪いことなんかなんにもあらへん。こっちこそ急に黙ってもうて悪かったな。
そうや! まだゲンキとハムがおる! オレはあいつらと合流して、一緒に悪い連中をぶっ飛ばしたるんや!
絶対みんなでこのけったくそ悪い戦いを生き抜くんや!
もちろん晶、小トトロ。お前らも一緒や。そうやろ?」
「ああ、もちろんだ」
自分を励ますように明るく言ったスエゾーに晶が答え、小トトロも嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねる。
会ってからの時間は短いが、この狂ったような戦いの中にあっても、彼らの間にはちゃんと絆が生まれていた。
「そうや。ホリィとモッチーやったら、クヨクヨするより、そうして欲しいて思ってるはずや……」
スエゾーは自分に言い聞かせるようにつぶやく。
そんなスエゾーを少し心配そうに(ガイバーのままだからわかりにくいが)見つめながら、晶はさっきの話を続ける。
「……それで、チャットに入る時の名前はどうしよう?
そのゲンキ君やハムが見ればスエゾーだとわかって、他の人が見ても誰だかわからないような名前があるかな?」
「う~~ん、そうやなあ。『ゴーレムに投げられるヤツ』っちゅうのはどうや?
さっき晶にもやってもろたけど、ゴーレムっちゅう仲間にもよう投げてもらっとったんや。
ゲンキたちやったら気付くやろ」
「よ~し。それで行こう」
そう言いながら、晶は『ゴーレムに投げられるヤツ』という名前を入力してチャットに入室する。
名前の入力画面には、現在チャットに何人いるかが表示されているのだが、現在は0人になっていた。
だから誰もいない事はわかっているが、待っていれば誰か来るかもしれないと考えて晶は入室したのだった。
晶がチャットに入室すると、チャット画面の1行目に(ゴーレムに投げられるヤツさんが入室しました)と書き込まれる。
また、画面の右側には現在参加している人の名前が自動的に表示されるようになっていた。
だが、やはり今チャットに参加しているのは『ゴーレムに投げられるヤツ』1人だけだ。
これまでのログもまったく残っていない。
ただし、入室前のログが見られないだけなのか、本当に今まで誰も来ていなかったのかは晶にはわからない。
「これでよし。あとは誰かが入室してくるのを待つしかないけど、いつまでも待っているわけにも行かないな。
どのぐらい待ってみようか?」
「そうやなあ。とりあえず晶の怪我が完全に治るまでは待ってみたらどうやろ?
ハラも減って来よったし、ホンマやったらメシにしたい所やけど、全部取られてもうたからなあ……」
0号ガイバーの片肺メガスマッシャーからスエゾーたちをかばって、晶は大きなダメージを受けた。
その怪我は、ガイバーの再生力でかなり治ってきてはいるが、まだ完治には時間がかかりそうだ。
それにスエゾーや小トトロも少なからずダメージを受けている。
博物館にも水道ぐらいはあるので、一応火傷を水で冷やすぐらいはしたのだが、薬を塗ったわけではない。
そして、当然のことながら、ガイバーと違って彼らはそんなに回復が早いわけではない。
ここはしばらく腰を据えてみてもいいかもしれない。
0号ガイバー。あいつは今どこでどうしているのだろう?
俺が甘かったばっかりにスエゾーと小トトロを危険にさらし、荷物も奪われてしまった。
それに、あの様子ではこれからも人を襲い続けるに違いない。
もし誰かが殺されていたら……
でも、あいつは叶えてもらいたい願いがあるって言っていた。
もしかしたらやむにやまれぬ事情が……いや、どんな理由があっても人殺しを許しちゃいけないんだ。
人殺しに乗っているような相手には非情にならなければ。あの巻島さんのように。
もちろん一番悪いのはこの殺し合いを仕組んだ主催者だが――
「どないしたんや? 晶」
スエゾーに声をかけられて、晶は自分が苦悩に囚われていた事に気付き、ハッと我に返って答えた。
「い、いや。ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ。なんでもないよ」
「そうか? そんで、晶の怪我が治るまで人を待ってみるっちゅう話はどうや?」
「そうだな。そうしよう。じゃあ俺はパソコンを見てるから、スエゾーは少し休んでいてくれ。
たくさん出血して体がだるいんだろ? 俺の怪我は放っておいても勝手に治っていくから」
「ほんまにガイバーっちゅうのんはたいしたもんやなあ。ほな、悪いけどちょっと横にならしてもらおうか」
スエゾーはそう言って横になろうとした。
だがその時、晶が見つめていたパソコンの画面に突然変化が起きた。
チャットの参加者の表示に『泥団子先輩』という名前が追加されたのだ。
そして同時にチャット画面にも(泥団子先輩さんが入室しました)と書き込まれる。
晶は慌ててスエゾーを呼んだ。
「おい、スエゾー! 誰か来たぞ!」
「ほんまか? お、この名前の奴やな!」
「ああ。こんなに早く人が来るとは思わなかった。しかしこの人も変わった名前だな。
スエゾーはこの名前に何か思い当たる事はあるか?」
「いや、わからんな。一体どんなやつやろ?」
「それは話してみないとわからないよ。とにかくやってみよう」
そう言って晶はキーボードを叩き始める。
こう見えて、ガイバーの指はほとんど素手と変わりなく動かせる。
それでも、素手よりも太い指である事は間違いないので、少々タイピングがしにくかった。
だが、殖装を解除すると怪我が回復しないので、晶は仕方なくそのままチャットを始める。
ゴーレムに投げられるヤツ>こんにちは。
泥団子先輩>こんにちはでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>最初に言っておきますが、私は殺し合いには乗っていません。
泥団子先輩>こちらも乗っていないでござる。
「乗ってないて言うてるけど、ホンマか?」
「俺は信じたいけど、確かめる方法もないよな……」
「それと、この『ござる』ってなんなんや? 普段からそういうしゃべり方なんやろか?」
「自分が誰なのかを知り合いに伝えるため、かな? でも、今はとりあえずそこは気にしないでおこう」
スエゾーにそう告げてから晶は考える。
何から話そうか。いきなりあまり突っ込んだ事を聞いても答えてくれないだろうし、こちらだって答えられない。
情報交換なのだから、ギブアンドテイクでなければうまく進まないはずだ。
それならまずは、当たり障りのない事からにするか。
ゴーレムに投げられるヤツ>私は島の南側に居ます。そちらはどのあたりですか?
泥団子先輩>こちらは北側に居るでござる。
「北側か。人が集まっていそうな所だな」
「ゲンキやハムの事知ってるか聞いてみてくれへんか?」
「いや、直接それを聞くとこちらの正体を悟られるかもしれない。
せっかくこんな名前を使っているんだから、それは相手が信用できるとわかってからの方がいいと思う。
そうだな。こう聞いてみよう」
ゴーレムに投げられるヤツ>今までどんな参加者を見かけましたか?
泥団子先輩>その前に、一度別の名前で入室し直していいでござるか? 確かめたい事があるでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>何を確かめるのですか?
泥団子先輩>ここのログが残るのかどうかを確認したいでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>確かにログが残るなら迂闊なことは書けませんね。わかりました。
泥団子先輩>それでは失礼いたす。
『泥団子先輩』がそう発言した後で、(泥団子先輩さんが退室しました)という表示がログに残される。
同時に、画面右側に表示されていた参加者リストからも『泥団子先輩』が消えた。
その後、しばらくして『泥団子先輩R』という名前の参加者が入室してきた。
「ひねりのない名前やなぁ。もうちょっとなんか無いんか?」
「いいじゃないか、わかりやすくて」
泥団子先輩R>お待たせ申した。
ゴーレムに投げられるヤツ>どうですか? ログは残っていますか?
泥団子先輩R>いや、残っていないでござる。これなら何を話してもこの場に居ない者には知られぬでござるな。
ゴーレムに投げられるヤツ>広く伝えたい事は掲示板を使い、秘密の話はここでやれという事なのかも。
泥団子先輩R>確かに使い方としてはそれが正しそうでござるな。
ゴーレムに投げられるヤツ>試しに、こちらも入り直していいですか?
泥団子先輩R>もちろんどうぞでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>ありがとう。少しだけ待ってて下さい。
晶はそう書き込んでからすぐに『退室』のボタンをクリックする。
すると画面がチャットに入る前の、名前の入力画面に戻る。
さっきも見た画面だが、部屋にいる人数はさっき見た時とは違って「1人」と表示されている。
「名前はちょっと短くしようか。さっきの人がスエゾーの知り合いならもう気付いてるだろうし」
「よっしゃ、ここはひとつひねった名前を……」
「いや、相手を待たせてるんだから適当でいいよ」
「あっ! こら、晶。そんなひねりのない名前を」
晶は名前の入力欄に『ゴーレムの友』と入力して再びチャットに入室する。
「これなら泥団子先輩Rと長さが同じだから、チャットが見やすくなるだろ?」
スエゾーにそう言いながら晶が画面を確認すると、確かにさっきまでのログが表示されていなかった。
晶は『泥団子先輩R』に帰ってきたことを告げるためにキーボードを叩く。
ゴーレムの友>戻りました。確かにログは残っていないようですね。
泥団子先輩R>お帰りなさいでござる。ただ、見る方法がまったく無いとは限らないでござるが。
ゴーレムの友>そうですね。管理者からはログが確認できるということもありそうです。
泥団子先輩R>うむ。あまり主催者に否定的な事は書かない方がよいかもしれぬ。
ゴーレムの友>私も同じ意見です。気をつけましょう。
「管理者ってこの戦いを主催してるあのおっさんらのことか?」
「このパソコンやネット環境を用意したのはあいつらだろうから、当然そうなるな。
……もしかしたらこのパソコン自体も俺たちの動きをチェックする道具かもしれない」
「あいつらオレらが死んだらわかるみたいやけど、もしかしたらそれほど詳しいことは監視できてないんかもな」
「どうだろう。首輪に発信器やマイクぐらいはついていても不思議じゃないけど」
その後、晶と『泥団子先輩』はそれぞれ一度退室して同じ名前で入室しなおすというテストもやってみた。
だが、この場合でもやはりログは残っていなかった。
どうやら一度退室すると本人でもログは見られなくなるようだ。
「内緒話をするには都合がいいけど、会話の内容はちゃんとメモしておかないといけないって事か」
「ふ~ん。いろいろややこしいもんやなあ。おっと、あっちからなんか言うてきよったぞ?」
泥団子先輩R>さっきの話でござるが、拙者が出会った危険な相手の事は掲示板に書いてあるでござる。
「掲示板っていうと……一番書き込んでいたのはなんとかの居候っていう人だったな」
「こいつがあの人なんやったら、ナーガに会うたヤツっちゅうことやな」
「確かナーガの名前までは書き込まれていなかったな。教えてあげようか?」
「待て待て。こいつがそうと決まったわけやない。
それにもし本人がそうやて言うたかて、嘘ついてる可能性もあるんやろ?」
「う~ん。そうだな。まずは聞いてみよう」
ゴーレムの友>という事は、あなたは「東谷小雪の居候」さんですか?
泥団子先輩R>答えてもよいのでござるが、よければそちらも何か教えて欲しいでござる。
「そりゃそうか。じゃあナーガの名前を教えよう」
ゴーレムの友>わかりました。居候さんの書き込んでいた下半身が蛇になっている怪物はナーガという名前です。
泥団子先輩R>それは確かな情報でござるか?
泥団子先輩R>拙者はナーガという名前の人間の女性に心当たりがあるのでござるが。
ゴーレムの友>私の仲間がナーガを直接知っています。間違いありません。
泥団子先輩R>お仲間がおられるでござるか。
ゴーレムの友>はい。そちらはお一人ですか?
泥団子先輩R>こちらにも仲間がいるでござる。
「おいおい、オレがおる事まで言うてもうてええんかいな」
「……それぐらいはいいだろ。誰が居るとは言ってないし、相手も仲間がいるって教えてくれたんだし」
「それかてホンマかどうかわからへんで? 気ぃつけてくれや?」
「ああ。わかってる」
泥団子先輩R>先ほどのナーガという女性も、拙者の仲間の知人なのでござる。
泥団子先輩R>だが、あの怪物がナーガであるのなら、こちらの知る女性はここには来ていないようでござるな。
泥団子先輩R>おっと、忘れてござった。
泥団子先輩R>拙者は「東谷小雪の居候」で間違いないでござるよ。情報感謝するでござる。
ゴーレムの友>疑って申し訳ないのですが、何か証明できますか?
泥団子先輩R>難しいでござるな。
泥団子先輩R>貴殿が拙者の知り合いであれば、たぶんこの名前と口調でわかっていただけるのでござるが。
ゴーレムの友>やっぱりその名前は何か意味があるんですね。こちらもそうなのですが、おわかりになりませんか?
泥団子先輩R>残念ながら。お互いに見知らぬ相手という事らしいでござるな。
ゴーレムの友>わかりました。無理を言ってすいません。
泥団子先輩R>いや、仕方のない事でござる。拙者とて貴殿を疑っていないわけではござらん。お互い様でござる。
ゴーレムの友>ありがとうございます。
「危険な相手の事は掲示板に書いたんやろうけど、危険やない参加者の事は書いてへんのとちゃうか?
晶。ちょっと聞いてみてくれ」
「そうか、よし、待ってろよ」
ゴーレムの友>危険でない参加者には会いませんでしたか?
泥団子先輩R>残念ながら、会っておらぬでござる。
泥団子先輩R>いや、今仲間になっている参加者は危険ではないでござるが、今はまだそれが誰かは明かせぬでござる。
泥団子先輩R>ただ、拙者から見て安全と思われる参加者は何人かいるでござる。
泥団子先輩R>しかし、それを教えるならばまずそちらからも何か情報をいただきたいところでござるな。
「ギブアンドテイクっちゅうやつやな」
「そうだな。あっちが本当に『居候さん』ならこっちはもう情報をもらってる事になるか」
「こいつが本物やったら、の話やけどな」
「疑っていても始まらないし、問題ない範囲なら教えてもいいと思うけどな」
「せやけど、こいつの言うてるんはこいつが個人的に知っとるヤツの事なんちゃうか?
少なくともゲンキやハムの事は知らんような気がするんやけど」
「そうだな。でも、情報はなるべくたくさん欲しいだろ?」
「う~ん……よっしゃ、わかった。晶にまかせるわ」
「ありがとう。じゃあ、このまま情報交換を進める方針で行こう」
そう言って晶はチャットを通じてオメガマン(名前はわからない)と0号ガイバーの情報を相手に伝えた。
「東谷小雪の居候」が掲示板に書いていたのと同程度に詳しく、外見や能力、性格などについて教えておく。
そして、0号ガイバーの説明の時には、自分もガイバーを装着している事を正直に明かす。
「おい晶。そこまで言うてええんか?
せっかく隠しとったのに、正体ばらすようなもんとちゃうか?」
「もしどこかで会うことがあったら、俺と0号ガイバーの違いを教えておかないと区別できないだろ?」
「そ、そうか。そうやな。じゃあしゃあないか。
でも、相手がクロノスの連中とか0号ガイバーやったらどうするんや?」
「そうだな……心配ではあるけど、情報交換のためだ。
その可能性に気をつけながら進めるしかないよ。
それに、こちらが島の南側に居るとしか伝えてないから、すぐに襲われるってわけでもないさ」
「せやな。まあ、ビクビクしとっても始まらんか」
そして、晶は0号ガイバーは緑色で自分のガイバーはわずかに緑がかった水色であると相手に伝える。
ついでに区別のために、自分のガイバーはガイバーⅠ(ワン)と呼ぶ事を伝えておいた。
相手が晶を知っていればガイバーだとわかった時点でバレると判断したからだ。
また、「泥団子先輩」からはこんな質問も来た。
泥団子先輩R>そのガイバーに弱点はないのでござるか?
「そういやガイバーに弱点ってあるんか?」
「あるんだけど、答えるべきかどうか…… その弱点は俺にとっても弱点だからな」
「そうやなあ。まあ、言いたくないことは言わんでええんとちゃうか?
そこまでしたるほどの義理もないわけやし」
「……そうだな」
結局、晶はガイバーの弱点であるコントロールメタルについては教えないことにした。
でも、頭部を完全に消滅させれば倒せるとだけは教えておいたので、相手は納得してくれたようだ。
そして、危険な相手の情報をすべて伝え終わり、今度はこちらから質問することにする。
ゴーレムの友>さっき言っていた「安全と思われる参加者」について教えていただけませんか?
泥団子先輩R>その情報はこちらの素性に関わってくる事でござる。
泥団子先輩R>後で貴殿の素性もある程度教えていただけるならお教えするが、いかがでござろう?
「スエゾー。どうする?」
「晶はどうしたいんや? おれはどっちでも晶の判断に従うつもりやで?」
「俺はこの相手をある程度信用していいと思う。
もちろん相手が教えてくれた情報の内容によっては教えるのを考え直すけどね。
そういう事でどうかな?」
「よっしゃ。それで行こう」
ゴーレムの友>わかりました。こちらも同程度の情報は明かすことにします。
晶がそう書き込むと、「泥団子先輩」はケロロ軍曹とタママ二等兵という2匹のカエルの事を話し始めた。
その内容は、やはり外見・能力・性格についてかなり詳細に渡っていた。
それを読むと、ケロロ軍曹は性格は安全そうだが戦闘能力はほとんど期待できそうにない。
一方のタママ二等兵は戦闘能力は高いようだが、性格にかなり難がありそうだった。
「泥団子先輩」自身もタママが殺し合いに乗っていないとは断言できかねる様子だ。
だが、それでもタママは説得に応じてくれる可能性はあると向こうは主張していた。
そしてできればタママが殺し合いに乗っていても説得を試みて欲しいとも。
説得のポイントはタママはケロロをとても慕っているという所と、甘いおかしなどに釣られやすいという所のようだ。
「なんや。結局たいして役に立ちそうな相手やないやんけ。
タママっちゅうヤツに至ってはむしろ危険人物やで」
「そんな事はないよ。この状況で殺し合いしなくて済む相手というだけでも心強いじゃないか。
タママ二等兵というカエルも、敵に回られたら困るけど、説得して味方にできれば心強いよ」
ちなみに、本来ならば二本脚で歩いて喋るカエルなどという話を晶が信じるには抵抗があったはずだった。
だが、すでに晶は紫のカエルやアシュラマンの死体を見ている。
そして、それが首輪をはめていた事から、参加者である事も知っている。
その事が晶にこの話をすんなり受け入れさせていた。
もちろんスエゾーや小トトロのような不思議な生物をずっと近くで見ているから、というのも大きな要因であろう。
「……それに、確かにこれは相手の素性に関わる情報だよ。
たぶんこの泥団子先輩という人はこの2匹のカエルの仲間なんじゃないかな。
ここまで詳しくて、しかも説得して欲しいということは、そういうことなんだろうと思う。
確か名簿にケロロ・タママ以外にも似たような名前の参加者が載っていたけど、その中の誰かなんじゃないかな?」
「そういえば、森の中で見つけた紫のカエルの死体があったやろ? あれもそのケロロとかいうやつの仲間なんやろうか?」
「そうかもしれないな。そういえば、ケロロとかタママとかに似た響きの名前が放送で出ていた気がする」
晶はその名前を思い出そうとするが、簡単には思い出せそうになかった。
名簿があれば確かめようもあるのだが、名簿は手元にない。
やはり0号ガイバーに荷物を全て奪われたのは痛かった。
「できれば名簿や地図を持っている人と合流したい所だな」
「それか、0号ガイバーから取り戻すか、やな。
今どこにおるかわからへんし、あいつもガイバーやから、これは難しそうやけど」
晶たちがそんな事を相談していると、向こうからこんな事を言ってきた。
泥団子先輩R>よろしければそちらの知る危険な相手というのを教えていただきたいのでござるが。
「どないするんや? 晶」
「相手の話が本当か嘘かはわからない。
でも、ここで話を打ち切ってしまうのは惜しいし、とりあえず信じてこちらの情報も伝えようと思う」
晶はキーを叩いて相手にアプトムとネオ・ゼクトールが危険な相手である可能性が高いと伝える。
もちろん外見・能力・性格などについても出来る範囲で詳しく伝えた。
ただ、晶はアプトムを「バルカスに再調整を受けた後に自分と戦った時のアプトム」だと思っている。
微妙な話になるが、晶はあの後まったくアプトムと遭遇する機会がなかった。
だから4人衆の力を取り込んでパワーアップしたアプトムの事も晶はまったく知らない。
それでもこの島にいるアプトムと晶が教えたアプトムにはかなりの差があったが、この場の誰にもそれはわからぬ事だ。
そして、晶はゼクトールと2回ほど遭遇してはいたものの、直接戦った事はなかった。
だから、外見はともかく、その名前や能力は後で仲間たちから聞いた事しか教えられない。
また、名前が「ネオ・ゼクトール」という点も問題だった。
晶はエンザイムとエンザイムⅡというバージョンアップされたゾアノイドと遭遇した経験がある。
だから、ネオ・ゼクトールというのも、おそらく以前のゼクトールよりパワーアップしているのだろうと相手に伝えておいた。
また、晶はギュオーの思念波がゾアノイドを操れるという事も相手に伝えておいた。
そして、アプトムはその影響を受けにくく、ゼクトールは受けやすいとも伝えた。
だが、これも間違いである。
実際にはアプトムは多少影響が弱い程度で、まだギュオーの思念波に支配される可能性が高い。
逆にネオ・ゼクトールはバルカスの再調整によってあまり影響を受けなくなっているのだ。
でも、これもこの場にいる誰にも気付きようのない間違いである。
次に晶は気になる点を1つあげておいた。
それはアプトムやギュオーが生きている事への疑問であった。
晶はアプトムが異常な再生力を持っている事にまでは気付いていない。
だから、アプトムは自分のメガ・スマッシャーで腕を残して消滅し、死亡したと思っていた。
また、晶は光る獣神将(アルカンフェル)がギュオーのゾア・クリスタルを奪うのを目撃している。
さらに晶はその直後、巻島(ガイバーⅢ)のプレッシャーカノンがギュオーの胸を貫いたのも見ていた。
だから、その後力尽きて落下していったギュオーが生きているとは思っていなかったのである。
この問題に関して晶の出した推論はこうだ。
アプトムは「アプトム」という種類の別の個体であるという可能性が一番高い。
ゾアロードであるギュオーについては、別の個体は考えにくいので、強い生命力で生き延びたとしか考えようがない。
もちろんこの事も自分の推理であると断ってから相手に伝えておいた。
ここまで話した所で、『泥団子先輩』から質問が来た。
泥団子先輩R>話を聞くと貴殿と彼らは以前からの敵同士らしいが、彼らはどういう連中なのでござるか?
その疑問はもっともなので、晶は続けてクロノスについても言及する。
世界征服を企む秘密結社。人間をさらってゾアノイドに改造し、人体実験を平気で行う。
殺人をなんとも思っておらず、肉親同士を戦わせ、ゾアノイド化した兵士たちを思念波で操る。
降臨者と呼ばれる太古の異星人たちの技術を持ち、世界各地に多数の構成員を持つ巨大な組織。
また、晶はこの殺し合いを仕組んだのもクロノスであると思っていたが、矛盾する点も多い事も伝えておいた。
泥団子先輩R>そのクロノスという組織ならこのような首輪を作ることも可能という事でござるな?
ゴーレムの友>可能性はあります。でも、あんな風に人間が液体になってしまう現象は初めて見ました。
泥団子先輩R>そうでござるか……
◇
同時間。場面は変わってここは晶たちがいる博物館から遙か遠くの図書館(B-3)の中。
ここのパソコンの前に座るのは『泥団子先輩』ことドロロ兵長である。
ちなみに、泥団子先輩というのはタママ二等兵がドロロに付けたあだ名のようなものである。
他にもドロ沼先輩とか呼ばれた事もあった。
タママはよく他人に勝手にあだ名を付けて呼ぶのである。
ドロロの横には椅子に腰掛けて本を眺めているリナも居る。
そして2人の手には思い思いの食べ物が握られている。
昼を過ぎて小腹が空いてきたので、2人はチャットしながら軽く食事をすることにしたのだ。
ちなみにリナが食べているのは携帯食料。ドロロは遊園地で手に入れたせんべい等の食料である。
チャット相手の話が一段落した所で、リナがドロロに話しかける。
「ドロロはこの話どう思う?」
「このクロノスという組織が殺し合いを仕組んだという可能性は確かにあるでござろう。
もちろんこのガイバーⅠという御仁が本当の事を言っていればでござるが」
「本当の事だと仮定しても『可能性はある』程度なんだ?」
「ガイバーⅠ殿ご自身もそう言っておられるゆえ、そう判断したまででござるよ。
正直これだけでは何とも言えぬでござるな」
「ただ、この人の話でこの本の内容と矛盾する所はないみたいだし、ウソはついてないと思うんだけどね」
そう言ってリナは読んでいた本を閉じて表紙をドロロに向ける。
その本のタイトルは『がんばれ閣下!! 第一巻 あるかんふぇるをぶっとばせ!の巻』。
本というか、正確にはマンガである。
「そうでござるな。だが、南にいると言ったことは確認できなかったでござる」
「まさか他に2人もアクセスしてるとは思わなかったもんね~」
そう、2人は『ゴーレムの友』が南でパソコンを使用している事を確認しようとしたのだ。
いや、「南で」と言うより、「どこで」と言った方がいいかもしれない。
この図書館のパソコンにキーワードを打ち込むと、kskのネットにアクセスした時間と場所がわかる。
2人はそれを利用して相手の居場所を特定しようと試みたのだった。
具体的には、ドロロがチャットしながらもう一つkskのウィンドウを開いて、アクセス記録を確認したのである。
だが、12時の放送直後から今までにネットにアクセスしたパソコンが2つあった。
1つは博物館。もう1つはここからそう遠くない中学校のコンピュータ室である。
「いい考えだと思ったんだけどね~」
「なかなか上手く行かないものでござるな。
だが、過ぎたことを考えても仕方ないでござる。今はこの相手から何を聞くかを考えるが先決であろう」
「……そうだ。そのクロノスって組織に異世界に行くような技術があるかどうか聞いてみたら?」
「なるほど。それは名案でござるな」
ドロロたちはこの図書館の『華麗な 書物の 感謝祭』というコーナーで発見した本を10冊所持していた。
さっきのマンガもその中の1冊である。
この本と自分達のこの島での体験や持っている知識を合わせた結果、2人はある推論を導き出していた。
その推論とは「この殺し合いの参加者は10個の異世界から集められた」という事である。
この前提に立って考えるなら、主催者が異世界を行き来する手段を持っている事はほぼ確実だ。
だから、ドロロはリナの意見に同意し、チャット相手にその質問をぶつけてみた。
泥団子先輩R>そのクロノスという組織は異世界を行き来するような技術を持っているでござろうか?
ゴーレムの友>すいません。異世界というのはどういう意味でしょうか?
「そもそも異世界ってのが何なのかわかってないみたいね」
「まあ、拙者たちにしても推論の域を出ないわけでござるから、仕方ないとは思うでござるよ」
「と言っても、ドロロとあたしの世界が違う世界だって事は間違いなさそうなんだけどね」
泥団子先輩R>これは拙者たちの推論なのでござるが、参加者は10個の異世界から集められているようなのでござる。
泥団子先輩R>だから、主催者は異世界を行き来する手段を持っていると思うのでござるよ。
泥団子先輩R>クロノスがそれを持っているのなら、主催者である可能性はぐんと上昇するでござる。
ゴーレムの友>ガイバーは普段は異次元に隠されていて呼ぶと出現するので、もしかしたらあるかもしれません。
ゴーレムの友>でも、ガイバーはクロノスでも再現できない降臨者の遺産ですから、可能性は低いです。
泥団子先輩R>そうでござるか。
泥団子先輩R>もちろんあの草壁タツオや長門有希の事はガイバーⅠ殿はご存じないでござるな?
ゴーレムの友>はい。もちろんクロノスは巨大な組織なので知らないことは不思議ではありません。
ゴーレムの友>でも、彼らがクロノスの一員であると断言もできないのです。
「で、結局どういう事なの?」
「クロノスが主催者である確率は低い。でも否定もできない、と言った所でござるな」
「……あんまりさっきと変わってない気がするわね」
「さっきよりは確率が下がったでござるよ。でも、確かにこれは何とも言いようのない情報でござるな」
「ま、そういう事ならこれは一旦忘れて、次の質問に行きましょ」
「うむ。そうするのがよさそうでござるな。
おっと、向こうからも質問でござる」
ゴーレムの友>1つ質問したいのですが。
ゴーレムの友>10個の異世界から参加者が集められたという推論の根拠はどこから来たのですか?
「そりゃまあ、それを聞きたくなるわよね」
「いかがいたすでござるか? リナ殿」
「本のことはまだ伏せておきたいわね。聞かないでくれって言ってみて、相手が納得すればそれでよし。
どうしても相手がごねるようならまた考えましょ」
「心得たでござる」
泥団子先輩R>申し訳ないが、それは今はまだ伏せておきたいのでござる。遠慮していただけぬでござろうか?
ゴーレムの友>わかりました。
泥団子先輩R>ただ、参加者が別の世界から来ていることは間違いなさそうでござる。
泥団子先輩R>それは貴殿も感じておられるのではないか?
ゴーレムの友>確かに私の仲間も違う世界の住人としか思えない所はありますね。
泥団子先輩R>拙者の仲間もそうでござる。拙者とは違う世界の住人と見て間違いなさそうでござるよ。
ゴーレムの友>異世界の事は少し納得しました。ありがとうございます。
泥団子先輩R>こちらこそ事情を全て明かせず、すまなかったでござる。
「……このガイバーⅠって、結構ちょろい交渉相手ね」
「り、リナ殿。ちょろいとは、あまりの言いようでござるよ」
「まあ、こっちに相手の言葉の裏をとれるこの本があったからそう言えるんだけどね。
そうじゃなければこうも断言はできなかったわ。
でも、私たちはこの人がほとんど嘘をついてないってわかるじゃない?
聞かないでくれって言えば素直に引いてくれるし、この素直さはちょっと心配になってくるわ」
「そうは言っても、相手が与しやすいと油断していると痛い目を見るかもしれないでござるよ?」
「もちろん油断する気はないんだけどね。
で、今度こそこっちから質問してみてよ?」
「あいわかったでござる」
泥団子先輩R>それではこちらから質問よろしいでござるか?
ゴーレムの友>はい。質問どうぞ。
泥団子先輩R>では次は安全と思われる参加者について教えていただきたいでござる。
ゴーレムの友>わかりました。1人は佐倉ゲンキという小学生ぐらいの男の子です。
ゴーレムの友>もう1人は、ハムというちょっと大きくて二本脚で立って口が達者なウサギです。
ゴーレムの友>彼らはこちらの仲間の知り合いです。
ゴーレムの友>ゲンキという男の子は名前通り元気で正義感が強い少年です。
ゴーレムの友>そして、心優しい少年なので、殺し合いに乗ることはないと思います。
ゴーレムの友>運動神経はかなり良くて、ローラーブレードが得意ですが、基本的に普通の子供です。
ゴーレムの友>ハムというウサギの方は、元々は詐欺師だったらしいです。
ゴーレムの友>でも、根は悪いモンスターではありません。
ゴーレムの友>詐欺師だっただけに口は達者で金にうるさい性格です。
ゴーレムの友>素早いフットワークと強烈なパンチが武器ですが、最大の武器はオナラです。
ゴーレムの友>かなり広い範囲に広がって、しかもすごい悪臭らしいです。
「オナラって……下品な攻撃ね」
「う~む。ウサギというよりスカンクのような攻撃でござるな」
泥団子先輩R>情報感謝するでござる。
ゴーレムの友>もし彼らのどちらかに会うことがあれば、どうか力になってあげて下さい。
泥団子先輩R>心得たでござる。微力ながら力を尽くす事を約束するでござるよ。
ゴーレムの友>ありがとうございます。
「ねえドロロ。そんな安請け合いしちゃっていいの?」
「どのみち子供が襲われていれば黙って見過ごすことなど拙者にはできぬでござるよ」
「あ~~。まあ、そうよね。あんたの性格なら」
そのおかげで色々こっちも助かってる所あるしね。と、口には出さずに考えるリナであった。
「そんで、次の質問は首輪を解除できる人間の心当たりかしらね?」
「いや、できれば交互に質問する流れを保ちたいでござる。
その方がおそらくお互いスムーズに気持ちよく話を進められるでござるよ」
「そんなこと言ったって、何を教えたら……」
そう言ってあたりを見回したリナはあっさりとその答を発見する。
リナの視線の先に置いてあったのはさっきもリナが読んでいた、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊だった。
*時系列順で読む
Back:[[誰がために]] Next:[[炎の記録]]
*投下順で読む
Back:[[Scars of the War(終結)]] Next:[[炎の記録]]
|[[舞い降りたWho are you?]]|深町晶|[[炎の記録]]|
|~|スエゾー|~|
|~|ドロロ兵長|~|
|~|リナ=インバース|~|
*10個の異世界 ◆O4LqeZ6.Qs
話は少しだけ遡る。
場所は博物館(H-8)の中のパソコンの前。
そこにいるのはガイバーⅠこと深町晶とスエゾー、小トトロの3人……いや、1人と2匹と言うべきだろうか?
島のパソコンからアクセスできるコンテンツのひとつである「チャット」。
チャットと一口に言ってもその仕様はさまざまだ。
だが、入室する際に自分の名前を入力しなければならないという点はだいたい同じである。
ゆえに、ここももちろんそういう仕様になっている。
「名前か…… どうしよう? 本名を使うって手もあるけど、さすがにそれは不用心かな?」
入力する名前に迷った晶が、隣で画面を覗いているスエゾーに尋ねる。
ちなみに、晶はガイバーを装着したままだ。
ガイバーがパソコンに向かって座り、それを横で目玉おばけが見ている。
しかも足下を小トトロが動き回っていたりもする。
見る者がいればその光景はたいそうシュールに見えたことだろう。
「ようわからんけど、偽名でええんやったらそうしといた方がええかもしれんな。
さっきの掲示板っちゅうやつに書き込んでた人らも、誰も本名使っとらんかったし」
「掲示板か。そう言えば毎回名前を変えて書き込んでる人もいたな」
「知り合いにだけ自分が誰かわかるようにっちゅう考えやな。いろいろ考えるやつがおるもんや」
「でも、俺は連絡を取りたい仲間がいるわけじゃないし……」
そうなのだ。このバトルロワイヤルの参加者で晶が以前から知っている人物と言えば敵ばかり。
確実に味方だと思える人間は1人も参加していなかった。
「スエゾーは合流したい人がいるんだよな?
だったらスエゾーの仲間にだけわかるような言葉を名前にしたらどうだろう?」
「仲間か……」
スエゾーの表情が急に暗くなる。
無理もない。スエゾーはさっきの放送で仲間であるホリィという少女の死を知らされたばかりだ。
ホリィはスエゾーを円盤石という石から再生した生みの親で、同じ村で育った幼馴染みでもあると言っていた。
そのせいか、スエゾーが仲間たちの中でもホリィの事を特に大切に思っている事は口調から伺うことができた。
そんな大切な仲間を失って、元気なままでいるのは誰にだって無理なことだ。
しかも、スエゾーはその前の放送でもモッチーという仲間が死亡した事を知らされていた。
そんなスエゾーに対して仲間の話は禁句だったかもしれない。
「スエゾー。ごめん……」
「晶。なに言うてんねん。お前は悪いことなんかなんにもあらへん。こっちこそ急に黙ってもうて悪かったな。
そうや! まだゲンキとハムがおる! オレはあいつらと合流して、一緒に悪い連中をぶっ飛ばしたるんや!
絶対みんなでこのけったくそ悪い戦いを生き抜くんや!
もちろん晶、小トトロ。お前らも一緒や。そうやろ?」
「ああ、もちろんだ」
自分を励ますように明るく言ったスエゾーに晶が答え、小トトロも嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねる。
会ってからの時間は短いが、この狂ったような戦いの中にあっても、彼らの間にはちゃんと絆が生まれていた。
「そうや。ホリィとモッチーやったら、クヨクヨするより、そうして欲しいて思ってるはずや……」
スエゾーは自分に言い聞かせるようにつぶやく。
そんなスエゾーを少し心配そうに(ガイバーのままだからわかりにくいが)見つめながら、晶はさっきの話を続ける。
「……それで、チャットに入る時の名前はどうしよう?
そのゲンキ君やハムが見ればスエゾーだとわかって、他の人が見ても誰だかわからないような名前があるかな?」
「う~~ん、そうやなあ。『ゴーレムに投げられるヤツ』っちゅうのはどうや?
さっき晶にもやってもろたけど、ゴーレムっちゅう仲間にもよう投げてもらっとったんや。
ゲンキたちやったら気付くやろ」
「よ~し。それで行こう」
そう言いながら、晶は『ゴーレムに投げられるヤツ』という名前を入力してチャットに入室する。
名前の入力画面には、現在チャットに何人いるかが表示されているのだが、現在は0人になっていた。
だから誰もいない事はわかっているが、待っていれば誰か来るかもしれないと考えて晶は入室したのだった。
晶がチャットに入室すると、チャット画面の1行目に(ゴーレムに投げられるヤツさんが入室しました)と書き込まれる。
また、画面の右側には現在参加している人の名前が自動的に表示されるようになっていた。
だが、やはり今チャットに参加しているのは『ゴーレムに投げられるヤツ』1人だけだ。
これまでのログもまったく残っていない。
ただし、入室前のログが見られないだけなのか、本当に今まで誰も来ていなかったのかは晶にはわからない。
「これでよし。あとは誰かが入室してくるのを待つしかないけど、いつまでも待っているわけにも行かないな。
どのぐらい待ってみようか?」
「そうやなあ。とりあえず晶の怪我が完全に治るまでは待ってみたらどうやろ?
ハラも減って来よったし、ホンマやったらメシにしたい所やけど、全部取られてもうたからなあ……」
0号ガイバーの片肺メガスマッシャーからスエゾーたちをかばって、晶は大きなダメージを受けた。
その怪我は、ガイバーの再生力でかなり治ってきてはいるが、まだ完治には時間がかかりそうだ。
それにスエゾーや小トトロも少なからずダメージを受けている。
博物館にも水道ぐらいはあるので、一応火傷を水で冷やすぐらいはしたのだが、薬を塗ったわけではない。
そして、当然のことながら、ガイバーと違って彼らはそんなに回復が早いわけではない。
ここはしばらく腰を据えてみてもいいかもしれない。
0号ガイバー。あいつは今どこでどうしているのだろう?
俺が甘かったばっかりにスエゾーと小トトロを危険にさらし、荷物も奪われてしまった。
それに、あの様子ではこれからも人を襲い続けるに違いない。
もし誰かが殺されていたら……
でも、あいつは叶えてもらいたい願いがあるって言っていた。
もしかしたらやむにやまれぬ事情が……いや、どんな理由があっても人殺しを許しちゃいけないんだ。
人殺しに乗っているような相手には非情にならなければ。あの巻島さんのように。
もちろん一番悪いのはこの殺し合いを仕組んだ主催者だが――
「どないしたんや? 晶」
スエゾーに声をかけられて、晶は自分が苦悩に囚われていた事に気付き、ハッと我に返って答えた。
「い、いや。ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ。なんでもないよ」
「そうか? そんで、晶の怪我が治るまで人を待ってみるっちゅう話はどうや?」
「そうだな。そうしよう。じゃあ俺はパソコンを見てるから、スエゾーは少し休んでいてくれ。
たくさん出血して体がだるいんだろ? 俺の怪我は放っておいても勝手に治っていくから」
「ほんまにガイバーっちゅうのんはたいしたもんやなあ。ほな、悪いけどちょっと横にならしてもらおうか」
スエゾーはそう言って横になろうとした。
だがその時、晶が見つめていたパソコンの画面に突然変化が起きた。
チャットの参加者の表示に『泥団子先輩』という名前が追加されたのだ。
そして同時にチャット画面にも(泥団子先輩さんが入室しました)と書き込まれる。
晶は慌ててスエゾーを呼んだ。
「おい、スエゾー! 誰か来たぞ!」
「ほんまか? お、この名前の奴やな!」
「ああ。こんなに早く人が来るとは思わなかった。しかしこの人も変わった名前だな。
スエゾーはこの名前に何か思い当たる事はあるか?」
「いや、わからんな。一体どんなやつやろ?」
「それは話してみないとわからないよ。とにかくやってみよう」
そう言って晶はキーボードを叩き始める。
こう見えて、ガイバーの指はほとんど素手と変わりなく動かせる。
それでも、素手よりも太い指である事は間違いないので、少々タイピングがしにくかった。
だが、殖装を解除すると怪我が回復しないので、晶は仕方なくそのままチャットを始める。
ゴーレムに投げられるヤツ>こんにちは。
泥団子先輩>こんにちはでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>最初に言っておきますが、私は殺し合いには乗っていません。
泥団子先輩>こちらも乗っていないでござる。
「乗ってないて言うてるけど、ホンマか?」
「俺は信じたいけど、確かめる方法もないよな……」
「それと、この『ござる』ってなんなんや? 普段からそういうしゃべり方なんやろか?」
「自分が誰なのかを知り合いに伝えるため、かな? でも、今はとりあえずそこは気にしないでおこう」
スエゾーにそう告げてから晶は考える。
何から話そうか。いきなりあまり突っ込んだ事を聞いても答えてくれないだろうし、こちらだって答えられない。
情報交換なのだから、ギブアンドテイクでなければうまく進まないはずだ。
それならまずは、当たり障りのない事からにするか。
ゴーレムに投げられるヤツ>私は島の南側に居ます。そちらはどのあたりですか?
泥団子先輩>こちらは北側に居るでござる。
「北側か。人が集まっていそうな所だな」
「ゲンキやハムの事知ってるか聞いてみてくれへんか?」
「いや、直接それを聞くとこちらの正体を悟られるかもしれない。
せっかくこんな名前を使っているんだから、それは相手が信用できるとわかってからの方がいいと思う。
そうだな。こう聞いてみよう」
ゴーレムに投げられるヤツ>今までどんな参加者を見かけましたか?
泥団子先輩>その前に、一度別の名前で入室し直していいでござるか? 確かめたい事があるでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>何を確かめるのですか?
泥団子先輩>ここのログが残るのかどうかを確認したいでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>確かにログが残るなら迂闊なことは書けませんね。わかりました。
泥団子先輩>それでは失礼いたす。
『泥団子先輩』がそう発言した後で、(泥団子先輩さんが退室しました)という表示がログに残される。
同時に、画面右側に表示されていた参加者リストからも『泥団子先輩』が消えた。
その後、しばらくして『泥団子先輩R』という名前の参加者が入室してきた。
「ひねりのない名前やなぁ。もうちょっとなんか無いんか?」
「いいじゃないか、わかりやすくて」
泥団子先輩R>お待たせ申した。
ゴーレムに投げられるヤツ>どうですか? ログは残っていますか?
泥団子先輩R>いや、残っていないでござる。これなら何を話してもこの場に居ない者には知られぬでござるな。
ゴーレムに投げられるヤツ>広く伝えたい事は掲示板を使い、秘密の話はここでやれという事なのかも。
泥団子先輩R>確かに使い方としてはそれが正しそうでござるな。
ゴーレムに投げられるヤツ>試しに、こちらも入り直していいですか?
泥団子先輩R>もちろんどうぞでござる。
ゴーレムに投げられるヤツ>ありがとう。少しだけ待ってて下さい。
晶はそう書き込んでからすぐに『退室』のボタンをクリックする。
すると画面がチャットに入る前の、名前の入力画面に戻る。
さっきも見た画面だが、部屋にいる人数はさっき見た時とは違って「1人」と表示されている。
「名前はちょっと短くしようか。さっきの人がスエゾーの知り合いならもう気付いてるだろうし」
「よっしゃ、ここはひとつひねった名前を……」
「いや、相手を待たせてるんだから適当でいいよ」
「あっ! こら、晶。そんなひねりのない名前を」
晶は名前の入力欄に『ゴーレムの友』と入力して再びチャットに入室する。
「これなら泥団子先輩Rと長さが同じだから、チャットが見やすくなるだろ?」
スエゾーにそう言いながら晶が画面を確認すると、確かにさっきまでのログが表示されていなかった。
晶は『泥団子先輩R』に帰ってきたことを告げるためにキーボードを叩く。
ゴーレムの友>戻りました。確かにログは残っていないようですね。
泥団子先輩R>お帰りなさいでござる。ただ、見る方法がまったく無いとは限らないでござるが。
ゴーレムの友>そうですね。管理者からはログが確認できるということもありそうです。
泥団子先輩R>うむ。あまり主催者に否定的な事は書かない方がよいかもしれぬ。
ゴーレムの友>私も同じ意見です。気をつけましょう。
「管理者ってこの戦いを主催してるあのおっさんらのことか?」
「このパソコンやネット環境を用意したのはあいつらだろうから、当然そうなるな。
……もしかしたらこのパソコン自体も俺たちの動きをチェックする道具かもしれない」
「あいつらオレらが死んだらわかるみたいやけど、もしかしたらそれほど詳しいことは監視できてないんかもな」
「どうだろう。首輪に発信器やマイクぐらいはついていても不思議じゃないけど」
その後、晶と『泥団子先輩』はそれぞれ一度退室して同じ名前で入室しなおすというテストもやってみた。
だが、この場合でもやはりログは残っていなかった。
どうやら一度退室すると本人でもログは見られなくなるようだ。
「内緒話をするには都合がいいけど、会話の内容はちゃんとメモしておかないといけないって事か」
「ふ~ん。いろいろややこしいもんやなあ。おっと、あっちからなんか言うてきよったぞ?」
泥団子先輩R>さっきの話でござるが、拙者が出会った危険な相手の事は掲示板に書いてあるでござる。
「掲示板っていうと……一番書き込んでいたのはなんとかの居候っていう人だったな」
「こいつがあの人なんやったら、ナーガに会うたヤツっちゅうことやな」
「確かナーガの名前までは書き込まれていなかったな。教えてあげようか?」
「待て待て。こいつがそうと決まったわけやない。
それにもし本人がそうやて言うたかて、嘘ついてる可能性もあるんやろ?」
「う~ん。そうだな。まずは聞いてみよう」
ゴーレムの友>という事は、あなたは「東谷小雪の居候」さんですか?
泥団子先輩R>答えてもよいのでござるが、よければそちらも何か教えて欲しいでござる。
「そりゃそうか。じゃあナーガの名前を教えよう」
ゴーレムの友>わかりました。居候さんの書き込んでいた下半身が蛇になっている怪物はナーガという名前です。
泥団子先輩R>それは確かな情報でござるか?
泥団子先輩R>拙者はナーガという名前の人間の女性に心当たりがあるのでござるが。
ゴーレムの友>私の仲間がナーガを直接知っています。間違いありません。
泥団子先輩R>お仲間がおられるでござるか。
ゴーレムの友>はい。そちらはお一人ですか?
泥団子先輩R>こちらにも仲間がいるでござる。
「おいおい、オレがおる事まで言うてもうてええんかいな」
「……それぐらいはいいだろ。誰が居るとは言ってないし、相手も仲間がいるって教えてくれたんだし」
「それかてホンマかどうかわからへんで? 気ぃつけてくれや?」
「ああ。わかってる」
泥団子先輩R>先ほどのナーガという女性も、拙者の仲間の知人なのでござる。
泥団子先輩R>だが、あの怪物がナーガであるのなら、こちらの知る女性はここには来ていないようでござるな。
泥団子先輩R>おっと、忘れてござった。
泥団子先輩R>拙者は「東谷小雪の居候」で間違いないでござるよ。情報感謝するでござる。
ゴーレムの友>疑って申し訳ないのですが、何か証明できますか?
泥団子先輩R>難しいでござるな。
泥団子先輩R>貴殿が拙者の知り合いであれば、たぶんこの名前と口調でわかっていただけるのでござるが。
ゴーレムの友>やっぱりその名前は何か意味があるんですね。こちらもそうなのですが、おわかりになりませんか?
泥団子先輩R>残念ながら。お互いに見知らぬ相手という事らしいでござるな。
ゴーレムの友>わかりました。無理を言ってすいません。
泥団子先輩R>いや、仕方のない事でござる。拙者とて貴殿を疑っていないわけではござらん。お互い様でござる。
ゴーレムの友>ありがとうございます。
「危険な相手の事は掲示板に書いたんやろうけど、危険やない参加者の事は書いてへんのとちゃうか?
晶。ちょっと聞いてみてくれ」
「そうか、よし、待ってろよ」
ゴーレムの友>危険でない参加者には会いませんでしたか?
泥団子先輩R>残念ながら、会っておらぬでござる。
泥団子先輩R>いや、今仲間になっている参加者は危険ではないでござるが、今はまだそれが誰かは明かせぬでござる。
泥団子先輩R>ただ、拙者から見て安全と思われる参加者は何人かいるでござる。
泥団子先輩R>しかし、それを教えるならばまずそちらからも何か情報をいただきたいところでござるな。
「ギブアンドテイクっちゅうやつやな」
「そうだな。あっちが本当に『居候さん』ならこっちはもう情報をもらってる事になるか」
「こいつが本物やったら、の話やけどな」
「疑っていても始まらないし、問題ない範囲なら教えてもいいと思うけどな」
「せやけど、こいつの言うてるんはこいつが個人的に知っとるヤツの事なんちゃうか?
少なくともゲンキやハムの事は知らんような気がするんやけど」
「そうだな。でも、情報はなるべくたくさん欲しいだろ?」
「う~ん……よっしゃ、わかった。晶にまかせるわ」
「ありがとう。じゃあ、このまま情報交換を進める方針で行こう」
そう言って晶はチャットを通じてオメガマン(名前はわからない)と0号ガイバーの情報を相手に伝えた。
「東谷小雪の居候」が掲示板に書いていたのと同程度に詳しく、外見や能力、性格などについて教えておく。
そして、0号ガイバーの説明の時には、自分もガイバーを装着している事を正直に明かす。
「おい晶。そこまで言うてええんか?
せっかく隠しとったのに、正体ばらすようなもんとちゃうか?」
「もしどこかで会うことがあったら、俺と0号ガイバーの違いを教えておかないと区別できないだろ?」
「そ、そうか。そうやな。じゃあしゃあないか。
でも、相手がクロノスの連中とか0号ガイバーやったらどうするんや?」
「そうだな……心配ではあるけど、情報交換のためだ。
その可能性に気をつけながら進めるしかないよ。
それに、こちらが島の南側に居るとしか伝えてないから、すぐに襲われるってわけでもないさ」
「せやな。まあ、ビクビクしとっても始まらんか」
そして、晶は0号ガイバーは緑色で自分のガイバーはわずかに緑がかった水色であると相手に伝える。
ついでに区別のために、自分のガイバーはガイバーⅠ(ワン)と呼ぶ事を伝えておいた。
相手が晶を知っていればガイバーだとわかった時点でバレると判断したからだ。
また、「泥団子先輩」からはこんな質問も来た。
泥団子先輩R>そのガイバーに弱点はないのでござるか?
「そういやガイバーに弱点ってあるんか?」
「あるんだけど、答えるべきかどうか…… その弱点は俺にとっても弱点だからな」
「そうやなあ。まあ、言いたくないことは言わんでええんとちゃうか?
そこまでしたるほどの義理もないわけやし」
「……そうだな」
結局、晶はガイバーの弱点であるコントロールメタルについては教えないことにした。
でも、頭部を完全に消滅させれば倒せるとだけは教えておいたので、相手は納得してくれたようだ。
そして、危険な相手の情報をすべて伝え終わり、今度はこちらから質問することにする。
ゴーレムの友>さっき言っていた「安全と思われる参加者」について教えていただけませんか?
泥団子先輩R>その情報はこちらの素性に関わってくる事でござる。
泥団子先輩R>後で貴殿の素性もある程度教えていただけるならお教えするが、いかがでござろう?
「スエゾー。どうする?」
「晶はどうしたいんや? おれはどっちでも晶の判断に従うつもりやで?」
「俺はこの相手をある程度信用していいと思う。
もちろん相手が教えてくれた情報の内容によっては教えるのを考え直すけどね。
そういう事でどうかな?」
「よっしゃ。それで行こう」
ゴーレムの友>わかりました。こちらも同程度の情報は明かすことにします。
晶がそう書き込むと、「泥団子先輩」はケロロ軍曹とタママ二等兵という2匹のカエルの事を話し始めた。
その内容は、やはり外見・能力・性格についてかなり詳細に渡っていた。
それを読むと、ケロロ軍曹は性格は安全そうだが戦闘能力はほとんど期待できそうにない。
一方のタママ二等兵は戦闘能力は高いようだが、性格にかなり難がありそうだった。
「泥団子先輩」自身もタママが殺し合いに乗っていないとは断言できかねる様子だ。
だが、それでもタママは説得に応じてくれる可能性はあると向こうは主張していた。
そしてできればタママが殺し合いに乗っていても説得を試みて欲しいとも。
説得のポイントはタママはケロロをとても慕っているという所と、甘いおかしなどに釣られやすいという所のようだ。
「なんや。結局たいして役に立ちそうな相手やないやんけ。
タママっちゅうヤツに至ってはむしろ危険人物やで」
「そんな事はないよ。この状況で殺し合いしなくて済む相手というだけでも心強いじゃないか。
タママ二等兵というカエルも、敵に回られたら困るけど、説得して味方にできれば心強いよ」
ちなみに、本来ならば二本脚で歩いて喋るカエルなどという話を晶が信じるには抵抗があったはずだった。
だが、すでに晶は紫のカエルやアシュラマンの死体を見ている。
そして、それが首輪をはめていた事から、参加者である事も知っている。
その事が晶にこの話をすんなり受け入れさせていた。
もちろんスエゾーや小トトロのような不思議な生物をずっと近くで見ているから、というのも大きな要因であろう。
「……それに、確かにこれは相手の素性に関わる情報だよ。
たぶんこの泥団子先輩という人はこの2匹のカエルの仲間なんじゃないかな。
ここまで詳しくて、しかも説得して欲しいということは、そういうことなんだろうと思う。
確か名簿にケロロ・タママ以外にも似たような名前の参加者が載っていたけど、その中の誰かなんじゃないかな?」
「そういえば、森の中で見つけた紫のカエルの死体があったやろ? あれもそのケロロとかいうやつの仲間なんやろうか?」
「そうかもしれないな。そういえば、ケロロとかタママとかに似た響きの名前が放送で出ていた気がする」
晶はその名前を思い出そうとするが、簡単には思い出せそうになかった。
名簿があれば確かめようもあるのだが、名簿は手元にない。
やはり0号ガイバーに荷物を全て奪われたのは痛かった。
「できれば名簿や地図を持っている人と合流したい所だな」
「それか、0号ガイバーから取り戻すか、やな。
今どこにおるかわからへんし、あいつもガイバーやから、これは難しそうやけど」
晶たちがそんな事を相談していると、向こうからこんな事を言ってきた。
泥団子先輩R>よろしければそちらの知る危険な相手というのを教えていただきたいのでござるが。
「どないするんや? 晶」
「相手の話が本当か嘘かはわからない。
でも、ここで話を打ち切ってしまうのは惜しいし、とりあえず信じてこちらの情報も伝えようと思う」
晶はキーを叩いて相手にアプトムとネオ・ゼクトールが危険な相手である可能性が高いと伝える。
もちろん外見・能力・性格などについても出来る範囲で詳しく伝えた。
ただ、晶はアプトムを「バルカスに再調整を受けた後に自分と戦った時のアプトム」だと思っている。
微妙な話になるが、晶はあの後まったくアプトムと遭遇する機会がなかった。
だから4人衆の力を取り込んでパワーアップしたアプトムの事も晶はまったく知らない。
それでもこの島にいるアプトムと晶が教えたアプトムにはかなりの差があったが、この場の誰にもそれはわからぬ事だ。
そして、晶はゼクトールと2回ほど遭遇してはいたものの、直接戦った事はなかった。
だから、外見はともかく、その名前や能力は後で仲間たちから聞いた事しか教えられない。
また、名前が「ネオ・ゼクトール」という点も問題だった。
晶はエンザイムとエンザイムⅡというバージョンアップされたゾアノイドと遭遇した経験がある。
だから、ネオ・ゼクトールというのも、おそらく以前のゼクトールよりパワーアップしているのだろうと相手に伝えておいた。
また、晶はギュオーの思念波がゾアノイドを操れるという事も相手に伝えておいた。
そして、アプトムはその影響を受けにくく、ゼクトールは受けやすいとも伝えた。
だが、これも間違いである。
実際にはアプトムは多少影響が弱い程度で、まだギュオーの思念波に支配される可能性が高い。
逆にネオ・ゼクトールはバルカスの再調整によってあまり影響を受けなくなっているのだ。
でも、これもこの場にいる誰にも気付きようのない間違いである。
次に晶は気になる点を1つあげておいた。
それはアプトムやギュオーが生きている事への疑問であった。
晶はアプトムが異常な再生力を持っている事にまでは気付いていない。
だから、アプトムは自分のメガ・スマッシャーで腕を残して消滅し、死亡したと思っていた。
また、晶は光る獣神将(アルカンフェル)がギュオーのゾア・クリスタルを奪うのを目撃している。
さらに晶はその直後、巻島(ガイバーⅢ)のプレッシャーカノンがギュオーの胸を貫いたのも見ていた。
だから、その後力尽きて落下していったギュオーが生きているとは思っていなかったのである。
この問題に関して晶の出した推論はこうだ。
アプトムは「アプトム」という種類の別の個体であるという可能性が一番高い。
ゾアロードであるギュオーについては、別の個体は考えにくいので、強い生命力で生き延びたとしか考えようがない。
もちろんこの事も自分の推理であると断ってから相手に伝えておいた。
ここまで話した所で、『泥団子先輩』から質問が来た。
泥団子先輩R>話を聞くと貴殿と彼らは以前からの敵同士らしいが、彼らはどういう連中なのでござるか?
その疑問はもっともなので、晶は続けてクロノスについても言及する。
世界征服を企む秘密結社。人間をさらってゾアノイドに改造し、人体実験を平気で行う。
殺人をなんとも思っておらず、肉親同士を戦わせ、ゾアノイド化した兵士たちを思念波で操る。
降臨者と呼ばれる太古の異星人たちの技術を持ち、世界各地に多数の構成員を持つ巨大な組織。
また、晶はこの殺し合いを仕組んだのもクロノスであると思っていたが、矛盾する点も多い事も伝えておいた。
泥団子先輩R>そのクロノスという組織ならこのような首輪を作ることも可能という事でござるな?
ゴーレムの友>可能性はあります。でも、あんな風に人間が液体になってしまう現象は初めて見ました。
泥団子先輩R>そうでござるか……
◇
同時間。場面は変わってここは晶たちがいる博物館から遙か遠くの図書館(B-3)の中。
ここのパソコンの前に座るのは『泥団子先輩』ことドロロ兵長である。
ちなみに、泥団子先輩というのはタママ二等兵がドロロに付けたあだ名のようなものである。
他にもドロ沼先輩とか呼ばれた事もあった。
タママはよく他人に勝手にあだ名を付けて呼ぶのである。
ドロロの横には椅子に腰掛けて本を眺めているリナも居る。
そして2人の手には思い思いの食べ物が握られている。
昼を過ぎて小腹が空いてきたので、2人はチャットしながら軽く食事をすることにしたのだ。
ちなみにリナが食べているのは携帯食料。ドロロは遊園地で手に入れたせんべい等の食料である。
チャット相手の話が一段落した所で、リナがドロロに話しかける。
「ドロロはこの話どう思う?」
「このクロノスという組織が殺し合いを仕組んだという可能性は確かにあるでござろう。
もちろんこのガイバーⅠという御仁が本当の事を言っていればでござるが」
「本当の事だと仮定しても『可能性はある』程度なんだ?」
「ガイバーⅠ殿ご自身もそう言っておられるゆえ、そう判断したまででござるよ。
正直これだけでは何とも言えぬでござるな」
「ただ、この人の話でこの本の内容と矛盾する所はないみたいだし、ウソはついてないと思うんだけどね」
そう言ってリナは読んでいた本を閉じて表紙をドロロに向ける。
その本のタイトルは『がんばれ閣下!! 第一巻 あるかんふぇるをぶっとばせ!の巻』。
本というか、正確にはマンガである。
「そうでござるな。だが、南にいると言ったことは確認できなかったでござる」
「まさか他に2人もアクセスしてるとは思わなかったもんね~」
そう、2人は『ゴーレムの友』が南でパソコンを使用している事を確認しようとしたのだ。
いや、「南で」と言うより、「どこで」と言った方がいいかもしれない。
この図書館のパソコンにキーワードを打ち込むと、kskのネットにアクセスした時間と場所がわかる。
2人はそれを利用して相手の居場所を特定しようと試みたのだった。
具体的には、ドロロがチャットしながらもう一つkskのウィンドウを開いて、アクセス記録を確認したのである。
だが、12時の放送直後から今までにネットにアクセスしたパソコンが2つあった。
1つは博物館。もう1つはここからそう遠くない中学校のコンピュータ室である。
「いい考えだと思ったんだけどね~」
「なかなか上手く行かないものでござるな。
だが、過ぎたことを考えても仕方ないでござる。今はこの相手から何を聞くかを考えるが先決であろう」
「……そうだ。そのクロノスって組織に異世界に行くような技術があるかどうか聞いてみたら?」
「なるほど。それは名案でござるな」
ドロロたちはこの図書館の『華麗な 書物の 感謝祭』というコーナーで発見した本を10冊所持していた。
さっきのマンガもその中の1冊である。
この本と自分達のこの島での体験や持っている知識を合わせた結果、2人はある推論を導き出していた。
その推論とは「この殺し合いの参加者は10個の異世界から集められた」という事である。
この前提に立って考えるなら、主催者が異世界を行き来する手段を持っている事はほぼ確実だ。
だから、ドロロはリナの意見に同意し、チャット相手にその質問をぶつけてみた。
泥団子先輩R>そのクロノスという組織は異世界を行き来するような技術を持っているでござろうか?
ゴーレムの友>すいません。異世界というのはどういう意味でしょうか?
「そもそも異世界ってのが何なのかわかってないみたいね」
「まあ、拙者たちにしても推論の域を出ないわけでござるから、仕方ないとは思うでござるよ」
「と言っても、ドロロとあたしの世界が違う世界だって事は間違いなさそうなんだけどね」
泥団子先輩R>これは拙者たちの推論なのでござるが、参加者は10個の異世界から集められているようなのでござる。
泥団子先輩R>だから、主催者は異世界を行き来する手段を持っていると思うのでござるよ。
泥団子先輩R>クロノスがそれを持っているのなら、主催者である可能性はぐんと上昇するでござる。
ゴーレムの友>ガイバーは普段は異次元に隠されていて呼ぶと出現するので、もしかしたらあるかもしれません。
ゴーレムの友>でも、ガイバーはクロノスでも再現できない降臨者の遺産ですから、可能性は低いです。
泥団子先輩R>そうでござるか。
泥団子先輩R>もちろんあの草壁タツオや長門有希の事はガイバーⅠ殿はご存じないでござるな?
ゴーレムの友>はい。もちろんクロノスは巨大な組織なので知らないことは不思議ではありません。
ゴーレムの友>でも、彼らがクロノスの一員であると断言もできないのです。
「で、結局どういう事なの?」
「クロノスが主催者である確率は低い。でも否定もできない、と言った所でござるな」
「……あんまりさっきと変わってない気がするわね」
「さっきよりは確率が下がったでござるよ。でも、確かにこれは何とも言いようのない情報でござるな」
「ま、そういう事ならこれは一旦忘れて、次の質問に行きましょ」
「うむ。そうするのがよさそうでござるな。
おっと、向こうからも質問でござる」
ゴーレムの友>1つ質問したいのですが。
ゴーレムの友>10個の異世界から参加者が集められたという推論の根拠はどこから来たのですか?
「そりゃまあ、それを聞きたくなるわよね」
「いかがいたすでござるか? リナ殿」
「本のことはまだ伏せておきたいわね。聞かないでくれって言ってみて、相手が納得すればそれでよし。
どうしても相手がごねるようならまた考えましょ」
「心得たでござる」
泥団子先輩R>申し訳ないが、それは今はまだ伏せておきたいのでござる。遠慮していただけぬでござろうか?
ゴーレムの友>わかりました。
泥団子先輩R>ただ、参加者が別の世界から来ていることは間違いなさそうでござる。
泥団子先輩R>それは貴殿も感じておられるのではないか?
ゴーレムの友>確かに私の仲間も違う世界の住人としか思えない所はありますね。
泥団子先輩R>拙者の仲間もそうでござる。拙者とは違う世界の住人と見て間違いなさそうでござるよ。
ゴーレムの友>異世界の事は少し納得しました。ありがとうございます。
泥団子先輩R>こちらこそ事情を全て明かせず、すまなかったでござる。
「……このガイバーⅠって、結構ちょろい交渉相手ね」
「り、リナ殿。ちょろいとは、あまりの言いようでござるよ」
「まあ、こっちに相手の言葉の裏をとれるこの本があったからそう言えるんだけどね。
そうじゃなければこうも断言はできなかったわ。
でも、私たちはこの人がほとんど嘘をついてないってわかるじゃない?
聞かないでくれって言えば素直に引いてくれるし、この素直さはちょっと心配になってくるわ」
「そうは言っても、相手が与しやすいと油断していると痛い目を見るかもしれないでござるよ?」
「もちろん油断する気はないんだけどね。
で、今度こそこっちから質問してみてよ?」
「あいわかったでござる」
泥団子先輩R>それではこちらから質問よろしいでござるか?
ゴーレムの友>はい。質問どうぞ。
泥団子先輩R>では次は安全と思われる参加者について教えていただきたいでござる。
ゴーレムの友>わかりました。1人は佐倉ゲンキという小学生ぐらいの男の子です。
ゴーレムの友>もう1人は、ハムというちょっと大きくて二本脚で立って口が達者なウサギです。
ゴーレムの友>彼らはこちらの仲間の知り合いです。
ゴーレムの友>ゲンキという男の子は名前通り元気で正義感が強い少年です。
ゴーレムの友>そして、心優しい少年なので、殺し合いに乗ることはないと思います。
ゴーレムの友>運動神経はかなり良くて、ローラーブレードが得意ですが、基本的に普通の子供です。
ゴーレムの友>ハムというウサギの方は、元々は詐欺師だったらしいです。
ゴーレムの友>でも、根は悪いモンスターではありません。
ゴーレムの友>詐欺師だっただけに口は達者で金にうるさい性格です。
ゴーレムの友>素早いフットワークと強烈なパンチが武器ですが、最大の武器はオナラです。
ゴーレムの友>かなり広い範囲に広がって、しかもすごい悪臭らしいです。
「オナラって……下品な攻撃ね」
「う~む。ウサギというよりスカンクのような攻撃でござるな」
泥団子先輩R>情報感謝するでござる。
ゴーレムの友>もし彼らのどちらかに会うことがあれば、どうか力になってあげて下さい。
泥団子先輩R>心得たでござる。微力ながら力を尽くす事を約束するでござるよ。
ゴーレムの友>ありがとうございます。
「ねえドロロ。そんな安請け合いしちゃっていいの?」
「どのみち子供が襲われていれば黙って見過ごすことなど拙者にはできぬでござるよ」
「あ~~。まあ、そうよね。あんたの性格なら」
そのおかげで色々こっちも助かってる所あるしね。と、口には出さずに考えるリナであった。
「そんで、次の質問は首輪を解除できる人間の心当たりかしらね?」
「いや、できれば交互に質問する流れを保ちたいでござる。
その方がおそらくお互いスムーズに気持ちよく話を進められるでござるよ」
「そんなこと言ったって、何を教えたら……」
そう言ってあたりを見回したリナはあっさりとその答を発見する。
リナの視線の先に置いてあったのはさっきもリナが読んでいた、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊だった。
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