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レフェリー不在のファイヤー・デスマッチ - (2009/05/21 (木) 18:24:36) の最新版との変更点
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*レフェリー不在のファイヤー・デスマッチ ◆MADuPlCzP6
ふと見上げた視線の先にはふらふらと立っている『化け物』
「それがアンタの本性?やっと正体を表したわね」
(あんな力の無い立ち方なら、簡単に殺せる。だから、今殺すわ。)
「このっ、化け物めぇ!」
アスカはとめどなく立ち上る煙の中を『化け物』に向かって突進する。
ナイフをその手に携えて。
「死ねぇっ!」
アーミーナイフを握る左手と腹に力をこめて、全身の体重をナイフに乗せながら一歩踏み込む。
突き出したアスカの手に衝撃が伝わる。
『化け物』は崩れるように地に落ちた。
(煙のせいでよく見えないけど、起き上がってくる気配はない…… やった?…… やった!)
「あは、あはは………… あははははは!『化け物』があたしに勝てるわけがないじゃないっ!」
(そうよ、あたしは選ばれた人間だもの!ママが見ていてくれるのに失敗するはずないわ!)
カチャン、カチャンと明るく澄んだ音が暴力の過ぎ去った場所に響く。
勝利に酔いしれる少女は足下に散らばる破片を蹴散らしながら、踊るように歩を進めた。
煙の隙間をぬうように降り注ぐ沈みかけの夕日が、彼女をさながら舞台女優のように照らす。
「ねぇ、ママ見ててくれたよね?あたし、がんばったの」
赤の似合う少女は両の膝をつき、恍惚とした様子で光の方へ血まみれの両腕を掲げる
「ねぇ、ママ…… 」
時は少しさかのぼる
炎の檻の中には少女が2人、いた。
2人の少女は明確な敵意をぶつけ合いながらにらみあう。
周りの建物はほとんどといっていいほど火だるまで、じわじわとその内径を縮めていく。
あつい。流れてくる汗がとってもきもちわるい。息も、なんだか苦しい。
けどそんなこと気にしてられない、だって目の前にはアスカがいるんだもん。
ハルにゃんをバカにしたアスカ、朝倉さんやヴィヴィオちゃんにひどいこと言ったアスカ。
アスカがいなければゲンキ君も死ななかったのに!
だから、私は仇をとる。
アスカは私が殺すんだ。
さっき1発撃っちゃったから銃の残りは2発。
慎重に使わなくちゃダメだよね。うん、ちゃんとーーーー殺さなくっちゃ。
思わず、足に力が入る。
ジャリッというちいさな土音は、開戦のゴングになった。
「せぇりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
アスカがナイフを握りしめて地面を蹴る。
鋭い切っ先が命を刈り取ろうと夕日にきらめく。
キョンの妹は変にこわばった足に力を入れ直して、銃の引き金にかけた指をひく。
が、その一瞬の隙をアスカは逃さない。
反復横跳びの要領で一歩横に跳ぶ。
青い制服の端にS&W M10の弾丸を通過させながら、着地した脚のバネでそのまま加速。
一気に近づいて、首元へ横なぎに一閃。
しかし、
『シールド転送!』
ガキンと盛大な音をならして
刃はパワードスーツから出現する盾に阻まれる。
状況の変化に素早く対応しアスカは体を引いた。
再び2人は距離をとって向かい合う。
じりじりと間合いを取り合いながらアスカは冷静に状況について思考する。
やっぱり、いきなり出てくるあの盾がジャマだわ。
相手は銃を持っていて、こっちには刃こぼれしたナイフが一丁。
加えて装甲の厚さも段違い。
……武装に関しては悔しいけどあちらのほうが上ね。
だけどそれは付属品のお話。
あのガキ自体はぬくぬくと育ったであろうなんの戦闘力も無いただのガキンチョだわ。
あたしは違う。だてにエヴァに乗って闘ってるわけじゃないし、そのための訓練だってさんざん受けてきたのよ!
だから、つけ込むならそこ。戦闘経験の差だ。
さっきのであいつの反応速度はそんなに早くないことがわかった。
だけどバカ正直に突っ込んだらダメ。そんなことしたら死ぬ。
なにかあの防御を突破できる方法は……。
脳みそをフル回転させてそこまで考えると目の前のガキが口を開く。
「ねぇ、あやまってよ」
「はぁ?」
「ゲンキ君に!あやまってよ!」
このガキは何を言っているんだろう
「何それ。なんでアタシが謝んなくちゃいけないのよ」
「ゲンキ君にひどいことしたじゃない!ゲンキ君の友達をわるく言ったし、銃も向けた!ゲンキ君はアスカをかばったのにとどめまでさそうとした!だから!あやまってよ!」
わけわかんない。けどまぁあの盾をどうにかするのを考えるのにちょうどいいかもね。
少しだけ、付き合うふりをしてやろう。
「謝らないわよ。あの化け物を殺したのはアタシじゃなくて小砂じゃない。アタシにあたる前にそっちに文句を言ったらぁ?」
会話に応じるふりをしながら、目の前の相手を観察する。
武装は、さっき見たとおり。
銃を撃ってこないのは会話をするためか…もしくはもう残り弾数が少ないのかもしれない。
口調はずいぶんしっかりしてるけど目がずいぶんイっちゃってるわね。
これはほっといてもボロを出してくるでしょ。
油断は禁物だけど。
「小砂は……間に合わなかった。見つけたときにはもう死んじゃってた。」
「あーらそう。それはお気の毒さま。けどあいつも化け物の仲間なんだから死んで当然よね」
『アスカ!てめぇってやつは!』
『化け物化け物って……アスカ殿にはそれしかないのでありますか!?』
「ナビさん達は黙っててよ!」
「そうね、化け物の声なんか聞き続けたら耳がおかしくなっちゃいそうだわ」
次はこの状況に対する有効打。
今までの戦闘経験のなかにきっとヒントがある。クールになるのよ、アスカ。
何度も死にそうになったけど、アタシはその度に正解をつかみ取ってきたはずよ。
アタシはできる。またここでも正解をつかみ取ってやるんだから!
ユニゾン攻撃…これは違う、ここにいる人間はアタシ1人。
衛星軌道上の使徒の狙撃作戦…これもダメね。あれは武器に頼った作戦だわ。
元の場所での戦闘は参考にならないわね、エヴァに乗ってたときと今とは状況が違いすぎるわ。
無駄話をしてる間も火がどんどん回ってきてる。
考え方を切り替えよう。この島に、来てからは……
…………あぁ、ヒントは意外に近いところにあったんじゃない。
ここにきてから「あの化け物」に使った手。あれが使えそうだわ。
「っ!小砂は別にしてもっ!アスカなんかかばわなかったらゲンキ君は死ななかったよ!アスカがいなければゲンキ君は生きてたんだ!」
「そんなの言いがかりじゃない!」
ガラリと民家の一部が焼け落ちる音がする。一瞬妹がこちらから目を離したスキに「準備」をした。
これで、いつでも作戦開始オッケー。
あとはタイミングをはかるだけ。
「とにかく!あやまってよ!ゲンキ君にも、朝倉さんにもヴィヴィオちゃんにもハルにゃんにもゲンキ君の友達にも!」
「いやよ。アタシは化け物なんかに謝らないわ。しかも、とーっくに死んだヤツになんて謝る意味がわかんない。」
「アスカぁ!」
さっきからずっと銃を構え続けてきたあのガキの腕が震えだしてる。
その腕から力が抜けたときが勝負。
「あぁ、けどひとつアンタに言いたいことがあるわ」
「な、何?」
もう少し……もう少し。
「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーは、『キョンの妹』だなんて誰かを引き合いにされないとアイデンティティを証明できないヤツなんかに」
銃口がわずかに下がった。
「負けたりしないってことよ!」
先ほど逆手に持ち替えたナイフを銃身に思いっきり叩き付ける。
その勢いで発砲されるがアスカには当たらない。
銃口をさらに下に向かせてそのままナイフは上へ跳ね上げる!
喉元を正確に狙った切っ先はまたもや出現した盾に阻まれてしまった。
・・・・・・
それが狙いだ。
盾が出現すれば攻撃を防ぐが、それは彼我のあいだに壁を作るということ。
引き換えに攻撃者は一瞬視界から消えてしまうのだ。
その隙に先ほどあけておいたシェルショットポーチからグレネードの弾を取り出し、手近な炎の中に投げ込む!
間髪あけずに思いっきり地面をけってとれるだけの距離をとった。
あの男につかったときのように弾がダメージを受ける。
あの時はガス弾だったが今度はグレネード弾だ。
爆発に巻き込まれればあんな盾どころじゃひとたまりも無い。
そこでこの化け物はジ・エンド。
そのはずだった。
「なんで、爆発、しないのよっ!」
銃を捨て、ナイフで応戦してきた妹の攻撃をかわしながらアスカはわめく。
(火じゃ、だめだった?だって、さっきは。…そんな!)
打ち合うナイフで火花を散らしながら、剣戟は続く。
右に刃がくれば逆へ身を逃がす。
そのまま横へ薙がれるなら自分のナイフでそれを受け止めはじく。
反撃とばかりに打ちおろせば向こうは一歩引いてやりすごす。
深追いすればまた相手の突きがこちらを襲う。
こうなればスーツのナビたちも手出しはできない。
両者の立ち位置はくるくると入れ替わる。
しばらくしてそっくり入れ替わった場所で2人は停止した。
「「はぁ、はぁ……」」
お互いに、細かい切り傷だらけで、おもいっきり息を切らしている。
無理もない、酸素の薄くなってきている火事場のまんなかで大運動会をやらかしているのだから。
「チクショウ……」
口をひらいたのはアスカだった。
「チクショウ、チクショウ、チクショウ!」
策がはずれた悔しさから、正解できなかったことにいらだちながら思わず足を地面に叩き付ける。
さっきはうまくいった、今度はうまくいかなかった。
戦闘経験を活かした戦術だったはずなのに。
いままでの自分が否定されたような気がして、アスカの感情のボルテージは上昇を続ける。
「負けてらんないのよぉぉぉぉっ!」
この島で何度も何度もそうやったように、フットスタンプを繰り出す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「アンタなんかにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
もう何度目になるだろうか、ひときわ高くあげた足を地面に打ちおろしたとき、
ーーーーーーーーーー地面が爆発した。
彼女が激昂していたのはさきほどキョンの妹が立っていた場所。
何回も踏みつけた地面にはさきほどの不発のグレネード弾が転がっていた。
事実は小説より奇なり。なんども打ちおろす踵の下に運悪くグレネード弾の信管があるなんてありえない、そう言いきることが誰にできるだろう。
とにかく、先ほど職務放棄をしたその弾丸は、仕掛人の思わぬところで役目を全うし、白い膨大な光と共にあたりを蹂躙したのだった。
(いたた。吹き飛ばされた時にどこかぶつけたかなぁ。……そうだ、アスカは!?)
グレネードの爆発で吹き飛ばされはしたもののスーツのおかげでたいしたケガはしていない。
もうもうと粉塵の舞うあたりを見回すと、ゆらりと動く影を見つけた。
もとは美容室かなにかであろう天井の高い建物の中でそれは立ち上がった。
しかし、キョンの妹にはその影がアスカだとすぐにはわからない。
なぜなら、視界の悪さもさることながら、その影は判別できないほど顔にも体にもひどいやけどを負っていたから。
皮膚はずるむけになり、ぬけるように白かった肌は今やただれた赤と黒のグラデーションをなしているし、
水ぶくれでもつぶれたのか血だか組織液だかの体液が体中からぐじゅぐじゅとしみ出している。
右脚などは真っ黒に炭化してしまっている。
さきほどなのはに整えてもらった髪も見るも無惨な状態だ。
見た目はすでに充分な異形。
そして、なによりも恐ろしいのは本人がそれに気づいていない様子であることだ。
その生き物はとてもアスカには見えなかった。
けどこの炎の檻で生きているのはキョンの妹とアスカだけ。
そして自分はここに立っているからあれはアスカだと妹はそう結論づけた。
アスカは美容室特有の大きな『鏡』をじっと見つめたかと思うと『鏡』に向かってわめくというわけのわからない一人芝居を繰り広げている。
背中はがら空きだ。
(今なら……殺せるよね)
ナイフを握りしめてアスカのいるほうへ近づこうとする。
「このっ、化け物めぇ!」アスカが大声をだして動いた。
妹はびくりと動きを止めるがアスカはあらぬ方向へ突進していく。
ガシャーンとけたたましい音をたてて破壊された『鏡』が地面へ崩れ落ちた。
しばらく動きを止めて様子を見ているとアスカのほうからこちらへ向かってくる。
なにやらうわごとを言いながら今割った『鏡』を蹴散らして軽やかに歩き、そのまま建物の外へ出て、へたり込んだ。
(大丈夫、もう、迷ってないから)
そっと、妹はアスカの背後へ忍び寄る。
(化け物……ね)アスカの異様な気配を感じ取りながら歩を進める。
アスカのすぐ後ろに、たどり着いた。
「あなたのほうが、よっぽど化け物だよ」
復讐の鬼に身をやつした少女はそして右手に握りしめたナイフをおおきく振りかぶり、幸福な幻を見る少女の脳天にその刃をめり込ませた。
アスカは母親の幻影を見ながら『化け物』を倒した満足感を抱えて息絶えた。
けれどある意味でその認識は正しかったのかもしれない。
彼女はこの島にいるどんな異形にも負けない『化け物』をその心のなかに飼っていたのだから。
&color(red){【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン 死亡】}
&color(red){【残り29人】}
ナイフを抜く。
アスカの体から吹き出す血が妹を赤く濡らす。
(血が、たくさん出てる。生暖かくて、気持ち悪い……生きている人って、こんなにも温かいんだね)
おびただしい量の赤い血を見てアスカの死を実感する。
かつてヴィヴィオが彼女に伝えたかったことは、不幸にもまったく別の角度で理解されてしまった。
「やったよ、ゲンキ君。仇、とったよ!」
やっと終わったよ。
ゲンキ君は怒るかな。けど私、すっごくがんばったんだよ?
小砂は間に合わなかったけど、アスカはちゃんとこの手で殺したよ。
きちんと、仇を討てたの!
今度はちゃんと間に合った。私が殺せたんだよ。
火事で死んじゃったわけじゃない。
まだアスカが生きてるときに私が刺したんだもん。
殺した感触だって手にしっかり感触だって残ってる!
頭のほねと脳みそをぶちまける感覚!
私がちゃんとアスカを殺せた証拠。
しっかりこの手に残ってる。
しっかり……残ってる。
誇らしい、証拠のはずなのに。
「なんで…………なんでぇ?」
手に残った感触は、すこしも私を満足させてくれない。
ただ、
この手に残ったのは血と、人を殺したきもちわるさと、ぽっかり穴があいたようなきもち。
アスカはひどい人だったから、ゲンキ君にひどいことするような人だったから、
許せなくて、仇をとろうと思った。
ゆるしちゃいけないと思った。
だから私はがんばったのに。
人をきずつけるのなんて怖くて怖くてたまらなくて、それでもがんばったのに。
アスカは後悔なんかちっともしてなかったし、あやまりもしなかった。
それどころか、最後にアスカは笑ってた!
顔はわけわかんなくなってたけどしあわせそうだった!
なのに今の私には人を殺しちゃったきもち悪さしかない。
アスカを殺してすっきりしたはずなのに、こんなの、
「こんなのちっとも……うれしくないよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
仇を討つことを行動の原動力としていた少女の精神は、その支えを失ってとうとう決壊した。
「ひっく、うぇ、ゲンキ、くん、ごめ、ごめんなさ、ひっく、う、ごめ、くぅ、あ、わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
紅蓮の炎のなかを慟哭と、嗚咽が響く。
もう、この殺し合いの島にきてからの度重なる悲劇に耐えていた少女の心は限界だった。
とっくのとうにすり切れた心をつないでいたのは小砂への、そしてアスカへの殺意であったが彼女は自らそれを断ち切った。
今ようやく彼女は小学生らしくただ、泣きわめくことができるようになったのだ。
糸の切れたマリオネットが自力で起き上がることはかなわない。
ずいぶんと長い時間、声も涙も枯れ果てるまで彼女は泣き続けた。
(あぁ、もうだめかな)
泣き続けたせいで酸欠になった頭でぼんやりとそう考える。
(熱いなぁ、空気がからからしてる。のど、いたいな)
身にまとうパワードスーツは外的なショックに強い。そりゃあ強い。
制限さえ無ければもともとはミサイルでもかすり傷一つつけられない代物なのだ。
もしかしたら熱にもしばらく耐え得るのかもしれない。
しかし装着者が吸い込む熱く焼けた空気はどうしようもなかった。
危機を警告するためナビたちが騒ぎ始める。
『妹殿!早くここを脱出するであります!』
『やばいぜぇ、このパワードスーツは今性能が落ちまくってるからなぁ、ある程度なら熱にも耐えられるが火だるまになっちまえばおしまいだぜぇ。もちろん、ナビシステムの俺たちもなぁ。くーっくっくっく』
『ボク、こんなトコで死ぬのはいやですぅ!はやく、はやく逃げてくださいですぅー!』
『落ち着けタママ!俺たちはシステムだから死んだりせん!』
『でもでも、妹ッチはこのまんまここにいたら蒸し焼きになっちゃうですぅ!』
しかし彼らの悲痛な叫びはキョンの妹には届かない。
「蒸し焼き……かぁ」
(そういえばテレビで蒸し焼きにしたお料理はおいしくてヘルシーとか言ってたっけ)
疲れきった頭では生命の危機などまるで関係ない、「普段」の思考しかはじき出せなかった。
「私も、蒸し焼きになったらおいしいのかな。ね、ゲンキ……く…ん……」
少女は、燃え盛る紅蓮の壁の迫り来るはざまで、そっと意識を手放した。
『おい、妹ぉ!寝るな!寝たら死ぬぞ!』
『起きて!起きてくださいですぅ!』
『ゲローッ!なんか、なんか妹殿を助ける方法はないでありますかー!?』
『あいにく俺たちはナビだからなぁ、今の状況には手も足でねぇってヤツだ。もっとも俺たちに手も足も存在しねぇがなぁ、くーっくっくっくっく』
万事休す、そんな空気がナビの間に流れる。
しかしその中で赤い武器おたくははたと気がついた。自分たちにできる手の出し方に。
『ふっ、俺としたことがとんだ思い違いをしていたようだな』
『ギロロ伍長なにか思いついたですかー!?』
『カッコつけてないではやく教えるであります!』
『うるさい!今やる!』
『シールド転送!』
ギロロはシールドを妹の体の下に、上方向への勢いをつけて展開させ、その勢いで妹の体を宙へはね上げた。
『ゲローッ!妹殿に攻撃するなんて気でもとち狂ったでありますかー!?』
『苦しまないように殺してやろうってことか?そいつぁずいぶんと傲慢じゃあねぇか』
『違う!よく見ろ!』
力なく落下してくる妹が地面へ激突するまえに新たなシールドを展開。
そのシールドに彼女の体を受け止めさせる。
ナビガルルはシールドに妹の体重が乗ったところで、妹もろともシールドを水平方向へ打ち出した。
結果ざりざりとシールドで地面を削らせながらキョンの妹の体は少しだけ移動する。
『俺たちにだせる手足はない、だが俺たちには出せる武器があるだろう?』
『なるほど!多少荒っぽくはありますがこの方法で妹殿を火の届かないところへ運べば!』
『妹ッチは助かるですぅ!』
『くーっくっくっく、妹が気絶してるからこその芸当だな。まぁ意識があれば飛行機能で楽々脱出できたんだがなぁ』
『だが油断はできん。見ての通りこの方法ではあまり距離を稼ぐことはできんのだ。火にまかれるのが先か、俺たちが脱出するのが先か五分五分といったところだな』
『炎からの逃走劇、デッドオアアライブってやつだな。くーっくっくっく』
わずかな希望の光を見いだし、ケロロ小隊(ナビ)は動き出す。
『よーし、これよりケロロ小隊ナビ支部は、炎の薄いところを探索!シールド機能をフル活用し、キョンの妹殿を安全な場所まで運ぶであります!いいかぁ!総員、妹殿を守るのであります!』
『ペコポン人殺しに手を貸す気なんぞなかったが、だからといってこのまま焼け死ぬのを黙ってみていられるわけもないからな』
『くーっくっくっく、俺が作るのはいつだって侵略のための兵器のはずなんだがなぁ』
『あっちがまだ煙と炎が少ないですぅ!あの一角をつっきれば!!』
『総員、進め!行くであります!』
ここに前代未聞、正規参加者不在の脱出劇が幕を開けた。
【B-6 市街地北部/一日目・夕方】
【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】気絶、疲労(大)、顔に傷跡(鼻より上の位置を横一線に斬られている、治療済み)、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)、
【持ち物】『人類補完計画』計画書、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)@ケロロ軍曹、ディパック(基本セット一式×2)
ボウイナイフ、佐倉ゲンキの死体入りディパック
【思考】
0、もう、つかれたよ。ゲンキ君
【備考】
※現在キョンの妹は意識不明のままナビたちに火の無い方向へ運ばれています。
どちらの方向へ向かうかは次の書き手氏におまかせします。
※キョンはハルヒの死を知って混乱していたのではないか、と思っています。
※kskネット内の「掲示板」のシンジの書き込みのみまともに見ました。
ゼロス以外のドロロの一回目の書き込み、および二回目の書き込みについては断片的にしか見えていません。
※アスカと小砂(顔は未確認)が殺しあいに乗っていると認識。
※アスカの荷物はB-6のアスカの遺体のそばに放置されています。
※S&WM10(リボルバー)(0/6)はB-6のどこかに転がっています。
*時系列順で読む
Back:[[勝利か? 土下座か?(後編)]] Next:[[この温泉には野生の参加者もはいってきます]]
*投下順で読む
Back:[[勝利か? 土下座か?(後編)]] Next:[[]]
|[[Nord Stream Pipeline -Disaster-]]|キョンの妹|[[]]|
|~|惣流・アスカ・ラングレー|&color(red){GAME OVER}|
*レフェリー不在のファイヤー・デスマッチ ◆MADuPlCzP6
ふと見上げた視線の先にはふらふらと立っている『化け物』
「それがアンタの本性?やっと正体を表したわね」
(あんな力の無い立ち方なら、簡単に殺せる。だから、今殺すわ。)
「このっ、化け物めぇ!」
アスカはとめどなく立ち上る煙の中を『化け物』に向かって突進する。
ナイフをその手に携えて。
「死ねぇっ!」
アーミーナイフを握る左手と腹に力をこめて、全身の体重をナイフに乗せながら一歩踏み込む。
突き出したアスカの手に衝撃が伝わる。
『化け物』は崩れるように地に落ちた。
(煙のせいでよく見えないけど、起き上がってくる気配はない…… やった?…… やった!)
「あは、あはは………… あははははは!『化け物』があたしに勝てるわけがないじゃないっ!」
(そうよ、あたしは選ばれた人間だもの!ママが見ていてくれるのに失敗するはずないわ!)
カチャン、カチャンと明るく澄んだ音が暴力の過ぎ去った場所に響く。
勝利に酔いしれる少女は足下に散らばる破片を蹴散らしながら、踊るように歩を進めた。
煙の隙間をぬうように降り注ぐ沈みかけの夕日が、彼女をさながら舞台女優のように照らす。
「ねぇ、ママ見ててくれたよね?あたし、がんばったの」
赤の似合う少女は両の膝をつき、恍惚とした様子で光の方へ血まみれの両腕を掲げる
「ねぇ、ママ…… 」
時は少しさかのぼる
炎の檻の中には少女が2人、いた。
2人の少女は明確な敵意をぶつけ合いながらにらみあう。
周りの建物はほとんどといっていいほど火だるまで、じわじわとその内径を縮めていく。
あつい。流れてくる汗がとってもきもちわるい。息も、なんだか苦しい。
けどそんなこと気にしてられない、だって目の前にはアスカがいるんだもん。
ハルにゃんをバカにしたアスカ、朝倉さんやヴィヴィオちゃんにひどいこと言ったアスカ。
アスカがいなければゲンキ君も死ななかったのに!
だから、私は仇をとる。
アスカは私が殺すんだ。
さっき1発撃っちゃったから銃の残りは2発。
慎重に使わなくちゃダメだよね。うん、ちゃんとーーーー殺さなくっちゃ。
思わず、足に力が入る。
ジャリッというちいさな土音は、開戦のゴングになった。
「せぇりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
アスカがナイフを握りしめて地面を蹴る。
鋭い切っ先が命を刈り取ろうと夕日にきらめく。
キョンの妹は変にこわばった足に力を入れ直して、銃の引き金にかけた指をひく。
が、その一瞬の隙をアスカは逃さない。
反復横跳びの要領で一歩横に跳ぶ。
青い制服の端にS&W M10の弾丸を通過させながら、着地した脚のバネでそのまま加速。
一気に近づいて、首元へ横なぎに一閃。
しかし、
『シールド転送!』
ガキンと盛大な音をならして
刃はパワードスーツから出現する盾に阻まれる。
状況の変化に素早く対応しアスカは体を引いた。
再び2人は距離をとって向かい合う。
じりじりと間合いを取り合いながらアスカは冷静に状況について思考する。
やっぱり、いきなり出てくるあの盾がジャマだわ。
相手は銃を持っていて、こっちには刃こぼれしたナイフが一丁。
加えて装甲の厚さも段違い。
……武装に関しては悔しいけどあちらのほうが上ね。
だけどそれは付属品のお話。
あのガキ自体はぬくぬくと育ったであろうなんの戦闘力も無いただのガキンチョだわ。
あたしは違う。だてにエヴァに乗って闘ってるわけじゃないし、そのための訓練だってさんざん受けてきたのよ!
だから、つけ込むならそこ。戦闘経験の差だ。
さっきのであいつの反応速度はそんなに早くないことがわかった。
だけどバカ正直に突っ込んだらダメ。そんなことしたら死ぬ。
なにかあの防御を突破できる方法は……。
脳みそをフル回転させてそこまで考えると目の前のガキが口を開く。
「ねぇ、あやまってよ」
「はぁ?」
「ゲンキ君に!あやまってよ!」
このガキは何を言っているんだろう
「何それ。なんでアタシが謝んなくちゃいけないのよ」
「ゲンキ君にひどいことしたじゃない!ゲンキ君の友達をわるく言ったし、銃も向けた!ゲンキ君はアスカをかばったのにとどめまでさそうとした!だから!あやまってよ!」
わけわかんない。けどまぁあの盾をどうにかするのを考えるのにちょうどいいかもね。
少しだけ、付き合うふりをしてやろう。
「謝らないわよ。あの化け物を殺したのはアタシじゃなくて小砂じゃない。アタシにあたる前にそっちに文句を言ったらぁ?」
会話に応じるふりをしながら、目の前の相手を観察する。
武装は、さっき見たとおり。
銃を撃ってこないのは会話をするためか…もしくはもう残り弾数が少ないのかもしれない。
口調はずいぶんしっかりしてるけど目がずいぶんイっちゃってるわね。
これはほっといてもボロを出してくるでしょ。
油断は禁物だけど。
「小砂は……間に合わなかった。見つけたときにはもう死んじゃってた。」
「あーらそう。それはお気の毒さま。けどあいつも化け物の仲間なんだから死んで当然よね」
『アスカ!てめぇってやつは!』
『化け物化け物って……アスカ殿にはそれしかないのでありますか!?』
「ナビさん達は黙っててよ!」
「そうね、化け物の声なんか聞き続けたら耳がおかしくなっちゃいそうだわ」
次はこの状況に対する有効打。
今までの戦闘経験のなかにきっとヒントがある。クールになるのよ、アスカ。
何度も死にそうになったけど、アタシはその度に正解をつかみ取ってきたはずよ。
アタシはできる。またここでも正解をつかみ取ってやるんだから!
ユニゾン攻撃…これは違う、ここにいる人間はアタシ1人。
衛星軌道上の使徒の狙撃作戦…これもダメね。あれは武器に頼った作戦だわ。
元の場所での戦闘は参考にならないわね、エヴァに乗ってたときと今とは状況が違いすぎるわ。
無駄話をしてる間も火がどんどん回ってきてる。
考え方を切り替えよう。この島に、来てからは……
…………あぁ、ヒントは意外に近いところにあったんじゃない。
ここにきてから「あの化け物」に使った手。あれが使えそうだわ。
「っ!小砂は別にしてもっ!アスカなんかかばわなかったらゲンキ君は死ななかったよ!アスカがいなければゲンキ君は生きてたんだ!」
「そんなの言いがかりじゃない!」
ガラリと民家の一部が焼け落ちる音がする。一瞬妹がこちらから目を離したスキに「準備」をした。
これで、いつでも作戦開始オッケー。
あとはタイミングをはかるだけ。
「とにかく!あやまってよ!ゲンキ君にも、朝倉さんにもヴィヴィオちゃんにもハルにゃんにもゲンキ君の友達にも!」
「いやよ。アタシは化け物なんかに謝らないわ。しかも、とーっくに死んだヤツになんて謝る意味がわかんない。」
「アスカぁ!」
さっきからずっと銃を構え続けてきたあのガキの腕が震えだしてる。
その腕から力が抜けたときが勝負。
「あぁ、けどひとつアンタに言いたいことがあるわ」
「な、何?」
もう少し……もう少し。
「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーは、『キョンの妹』だなんて誰かを引き合いにされないとアイデンティティを証明できないヤツなんかに」
銃口がわずかに下がった。
「負けたりしないってことよ!」
先ほど逆手に持ち替えたナイフを銃身に思いっきり叩き付ける。
その勢いで発砲されるがアスカには当たらない。
銃口をさらに下に向かせてそのままナイフは上へ跳ね上げる!
喉元を正確に狙った切っ先はまたもや出現した盾に阻まれてしまった。
・・・・・・
それが狙いだ。
盾が出現すれば攻撃を防ぐが、それは彼我のあいだに壁を作るということ。
引き換えに攻撃者は一瞬視界から消えてしまうのだ。
その隙に先ほどあけておいたシェルショットポーチからグレネードの弾を取り出し、手近な炎の中に投げ込む!
間髪あけずに思いっきり地面をけってとれるだけの距離をとった。
あの男につかったときのように弾がダメージを受ける。
あの時はガス弾だったが今度はグレネード弾だ。
爆発に巻き込まれればあんな盾どころじゃひとたまりも無い。
そこでこの化け物はジ・エンド。
そのはずだった。
「なんで、爆発、しないのよっ!」
銃を捨て、ナイフで応戦してきた妹の攻撃をかわしながらアスカはわめく。
(火じゃ、だめだった?だって、さっきは。…そんな!)
打ち合うナイフで火花を散らしながら、剣戟は続く。
右に刃がくれば逆へ身を逃がす。
そのまま横へ薙がれるなら自分のナイフでそれを受け止めはじく。
反撃とばかりに打ちおろせば向こうは一歩引いてやりすごす。
深追いすればまた相手の突きがこちらを襲う。
こうなればスーツのナビたちも手出しはできない。
両者の立ち位置はくるくると入れ替わる。
しばらくしてそっくり入れ替わった場所で2人は停止した。
「「はぁ、はぁ……」」
お互いに、細かい切り傷だらけで、おもいっきり息を切らしている。
無理もない、酸素の薄くなってきている火事場のまんなかで大運動会をやらかしているのだから。
「チクショウ……」
口をひらいたのはアスカだった。
「チクショウ、チクショウ、チクショウ!」
策がはずれた悔しさから、正解できなかったことにいらだちながら思わず足を地面に叩き付ける。
さっきはうまくいった、今度はうまくいかなかった。
戦闘経験を活かした戦術だったはずなのに。
いままでの自分が否定されたような気がして、アスカの感情のボルテージは上昇を続ける。
「負けてらんないのよぉぉぉぉっ!」
この島で何度も何度もそうやったように、フットスタンプを繰り出す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「アンタなんかにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
もう何度目になるだろうか、ひときわ高くあげた足を地面に打ちおろしたとき、
ーーーーーーーーーー地面が爆発した。
彼女が激昂していたのはさきほどキョンの妹が立っていた場所。
何回も踏みつけた地面にはさきほどの不発のグレネード弾が転がっていた。
事実は小説より奇なり。なんども打ちおろす踵の下に運悪くグレネード弾の信管があるなんてありえない、そう言いきることが誰にできるだろう。
とにかく、先ほど職務放棄をしたその弾丸は、仕掛人の思わぬところで役目を全うし、白い膨大な光と共にあたりを蹂躙したのだった。
(いたた。吹き飛ばされた時にどこかぶつけたかなぁ。……そうだ、アスカは!?)
グレネードの爆発で吹き飛ばされはしたもののスーツのおかげでたいしたケガはしていない。
もうもうと粉塵の舞うあたりを見回すと、ゆらりと動く影を見つけた。
もとは美容室かなにかであろう天井の高い建物の中でそれは立ち上がった。
しかし、キョンの妹にはその影がアスカだとすぐにはわからない。
なぜなら、視界の悪さもさることながら、その影は判別できないほど顔にも体にもひどいやけどを負っていたから。
皮膚はずるむけになり、ぬけるように白かった肌は今やただれた赤と黒のグラデーションをなしているし、
水ぶくれでもつぶれたのか血だか組織液だかの体液が体中からぐじゅぐじゅとしみ出している。
右脚などは真っ黒に炭化してしまっている。
さきほどなのはに整えてもらった髪も見るも無惨な状態だ。
見た目はすでに充分な異形。
そして、なによりも恐ろしいのは本人がそれに気づいていない様子であることだ。
その生き物はとてもアスカには見えなかった。
けどこの炎の檻で生きているのはキョンの妹とアスカだけ。
そして自分はここに立っているからあれはアスカだと妹はそう結論づけた。
アスカは美容室特有の大きな『鏡』をじっと見つめたかと思うと『鏡』に向かってわめくというわけのわからない一人芝居を繰り広げている。
背中はがら空きだ。
(今なら……殺せるよね)
ナイフを握りしめてアスカのいるほうへ近づこうとする。
「このっ、化け物めぇ!」アスカが大声をだして動いた。
妹はびくりと動きを止めるがアスカはあらぬ方向へ突進していく。
ガシャーンとけたたましい音をたてて破壊された『鏡』が地面へ崩れ落ちた。
しばらく動きを止めて様子を見ているとアスカのほうからこちらへ向かってくる。
なにやらうわごとを言いながら今割った『鏡』を蹴散らして軽やかに歩き、そのまま建物の外へ出て、へたり込んだ。
(大丈夫、もう、迷ってないから)
そっと、妹はアスカの背後へ忍び寄る。
(化け物……ね)アスカの異様な気配を感じ取りながら歩を進める。
アスカのすぐ後ろに、たどり着いた。
「あなたのほうが、よっぽど化け物だよ」
復讐の鬼に身をやつした少女はそして右手に握りしめたナイフをおおきく振りかぶり、幸福な幻を見る少女の脳天にその刃をめり込ませた。
アスカは母親の幻影を見ながら『化け物』を倒した満足感を抱えて息絶えた。
けれどある意味でその認識は正しかったのかもしれない。
彼女はこの島にいるどんな異形にも負けない『化け物』をその心のなかに飼っていたのだから。
&color(red){【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン 死亡】}
&color(red){【残り29人】}
ナイフを抜く。
アスカの体から吹き出す血が妹を赤く濡らす。
(血が、たくさん出てる。生暖かくて、気持ち悪い……生きている人って、こんなにも温かいんだね)
おびただしい量の赤い血を見てアスカの死を実感する。
かつてヴィヴィオが彼女に伝えたかったことは、不幸にもまったく別の角度で理解されてしまった。
「やったよ、ゲンキ君。仇、とったよ!」
やっと終わったよ。
ゲンキ君は怒るかな。けど私、すっごくがんばったんだよ?
小砂は間に合わなかったけど、アスカはちゃんとこの手で殺したよ。
きちんと、仇を討てたの!
今度はちゃんと間に合った。私が殺せたんだよ。
火事で死んじゃったわけじゃない。
まだアスカが生きてるときに私が刺したんだもん。
殺した感触だって手にしっかり感触だって残ってる!
頭のほねと脳みそをぶちまける感覚!
私がちゃんとアスカを殺せた証拠。
しっかりこの手に残ってる。
しっかり……残ってる。
誇らしい、証拠のはずなのに。
「なんで…………なんでぇ?」
手に残った感触は、すこしも私を満足させてくれない。
ただ、
この手に残ったのは血と、人を殺したきもちわるさと、ぽっかり穴があいたようなきもち。
アスカはひどい人だったから、ゲンキ君にひどいことするような人だったから、
許せなくて、仇をとろうと思った。
ゆるしちゃいけないと思った。
だから私はがんばったのに。
人をきずつけるのなんて怖くて怖くてたまらなくて、それでもがんばったのに。
アスカは後悔なんかちっともしてなかったし、あやまりもしなかった。
それどころか、最後にアスカは笑ってた!
顔はわけわかんなくなってたけどしあわせそうだった!
なのに今の私には人を殺しちゃったきもち悪さしかない。
アスカを殺してすっきりしたはずなのに、こんなの、
「こんなのちっとも……うれしくないよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
仇を討つことを行動の原動力としていた少女の精神は、その支えを失ってとうとう決壊した。
「ひっく、うぇ、ゲンキ、くん、ごめ、ごめんなさ、ひっく、う、ごめ、くぅ、あ、わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
紅蓮の炎のなかを慟哭と、嗚咽が響く。
もう、この殺し合いの島にきてからの度重なる悲劇に耐えていた少女の心は限界だった。
とっくのとうにすり切れた心をつないでいたのは小砂への、そしてアスカへの殺意であったが彼女は自らそれを断ち切った。
今ようやく彼女は小学生らしくただ、泣きわめくことができるようになったのだ。
糸の切れたマリオネットが自力で起き上がることはかなわない。
ずいぶんと長い時間、声も涙も枯れ果てるまで彼女は泣き続けた。
(あぁ、もうだめかな)
泣き続けたせいで酸欠になった頭でぼんやりとそう考える。
(熱いなぁ、空気がからからしてる。のど、いたいな)
身にまとうパワードスーツは外的なショックに強い。そりゃあ強い。
制限さえ無ければもともとはミサイルでもかすり傷一つつけられない代物なのだ。
もしかしたら熱にもしばらく耐え得るのかもしれない。
しかし装着者が吸い込む熱く焼けた空気はどうしようもなかった。
危機を警告するためナビたちが騒ぎ始める。
『妹殿!早くここを脱出するであります!』
『やばいぜぇ、このパワードスーツは今性能が落ちまくってるからなぁ、ある程度なら熱にも耐えられるが火だるまになっちまえばおしまいだぜぇ。もちろん、ナビシステムの俺たちもなぁ。くーっくっくっく』
『ボク、こんなトコで死ぬのはいやですぅ!はやく、はやく逃げてくださいですぅー!』
『落ち着けタママ!俺たちはシステムだから死んだりせん!』
『でもでも、妹ッチはこのまんまここにいたら蒸し焼きになっちゃうですぅ!』
しかし彼らの悲痛な叫びはキョンの妹には届かない。
「蒸し焼き……かぁ」
(そういえばテレビで蒸し焼きにしたお料理はおいしくてヘルシーとか言ってたっけ)
疲れきった頭では生命の危機などまるで関係ない、「普段」の思考しかはじき出せなかった。
「私も、蒸し焼きになったらおいしいのかな。ね、ゲンキ……く…ん……」
少女は、燃え盛る紅蓮の壁の迫り来るはざまで、そっと意識を手放した。
『おい、妹ぉ!寝るな!寝たら死ぬぞ!』
『起きて!起きてくださいですぅ!』
『ゲローッ!なんか、なんか妹殿を助ける方法はないでありますかー!?』
『あいにく俺たちはナビだからなぁ、今の状況には手も足でねぇってヤツだ。もっとも俺たちに手も足も存在しねぇがなぁ、くーっくっくっくっく』
万事休す、そんな空気がナビの間に流れる。
しかしその中で赤い武器おたくははたと気がついた。自分たちにできる手の出し方に。
『ふっ、俺としたことがとんだ思い違いをしていたようだな』
『ギロロ伍長なにか思いついたですかー!?』
『カッコつけてないではやく教えるであります!』
『うるさい!今やる!』
『シールド転送!』
ギロロはシールドを妹の体の下に、上方向への勢いをつけて展開させ、その勢いで妹の体を宙へはね上げた。
『ゲローッ!妹殿に攻撃するなんて気でもとち狂ったでありますかー!?』
『苦しまないように殺してやろうってことか?そいつぁずいぶんと傲慢じゃあねぇか』
『違う!よく見ろ!』
力なく落下してくる妹が地面へ激突するまえに新たなシールドを展開。
そのシールドに彼女の体を受け止めさせる。
ナビガルルはシールドに妹の体重が乗ったところで、妹もろともシールドを水平方向へ打ち出した。
結果ざりざりとシールドで地面を削らせながらキョンの妹の体は少しだけ移動する。
『俺たちにだせる手足はない、だが俺たちには出せる武器があるだろう?』
『なるほど!多少荒っぽくはありますがこの方法で妹殿を火の届かないところへ運べば!』
『妹ッチは助かるですぅ!』
『くーっくっくっく、妹が気絶してるからこその芸当だな。まぁ意識があれば飛行機能で楽々脱出できたんだがなぁ』
『だが油断はできん。見ての通りこの方法ではあまり距離を稼ぐことはできんのだ。火にまかれるのが先か、俺たちが脱出するのが先か五分五分といったところだな』
『炎からの逃走劇、デッドオアアライブってやつだな。くーっくっくっく』
わずかな希望の光を見いだし、ケロロ小隊(ナビ)は動き出す。
『よーし、これよりケロロ小隊ナビ支部は、炎の薄いところを探索!シールド機能をフル活用し、キョンの妹殿を安全な場所まで運ぶであります!いいかぁ!総員、妹殿を守るのであります!』
『ペコポン人殺しに手を貸す気なんぞなかったが、だからといってこのまま焼け死ぬのを黙ってみていられるわけもないからな』
『くーっくっくっく、俺が作るのはいつだって侵略のための兵器のはずなんだがなぁ』
『あっちがまだ煙と炎が少ないですぅ!あの一角をつっきれば!!』
『総員、進め!行くであります!』
ここに前代未聞、正規参加者不在の脱出劇が幕を開けた。
【B-6 市街地北部/一日目・夕方】
【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】気絶、疲労(大)、顔に傷跡(鼻より上の位置を横一線に斬られている、治療済み)、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)、
【持ち物】『人類補完計画』計画書、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)@ケロロ軍曹、ディパック(基本セット一式×2)
ボウイナイフ、佐倉ゲンキの死体入りディパック
【思考】
0、もう、つかれたよ。ゲンキ君
【備考】
※現在キョンの妹は意識不明のままナビたちに火の無い方向へ運ばれています。
どちらの方向へ向かうかは次の書き手氏におまかせします。
※キョンはハルヒの死を知って混乱していたのではないか、と思っています。
※kskネット内の「掲示板」のシンジの書き込みのみまともに見ました。
ゼロス以外のドロロの一回目の書き込み、および二回目の書き込みについては断片的にしか見えていません。
※アスカと小砂(顔は未確認)が殺しあいに乗っていると認識。
※アスカの荷物はB-6のアスカの遺体のそばに放置されています。
※S&WM10(リボルバー)(0/6)はB-6のどこかに転がっています。
*時系列順で読む
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