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耳抜き

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耳抜き 05/02/09

  耳から聞こえる音が変に遠くから響いているなら耳抜きをすればよいが、耳抜きを知らない場合は必死で唾を溜めて飲み込み顎を体操させて切り抜けようとする。耳抜きなら鼓膜の不具合がすぐに解消することを知ると早速やろうとするが、「鼻を摘んで鼻からいきむ」という行為は子供ながらにも矛盾を感じるのであって、摘む指をつい緩めて鼻水が噴出する。仕方がないから思い切り鼻をかむと鼓膜が更に突っ張るのであって、余りにも嫌な感覚だから顎を必死で動かしているうちにふと直る。

  耳抜きという行為を体得したのはなんと大学生になってからであって、それまでは鼻と耳が奥で繋がっていることは理科だか何かの授業に於いて頭の内部の図を書き写す課題を通して頭では理解しているが、実際に繋がっていることを体で確かめたのは不幸なことに煙草を覚えた後だった。

  煙草を当然のように喫っていると、時折「鼻から喫ってみよう」とか「火の方から喫ってみよう」とか「舌で煙草を消してみよう」などと考えるもので、その中に「そうだ。喫いながら覚えたての耳抜きをしてみよう。耳から煙が出るぞ」があった。耳抜きをやっと覚えた頃とはともかく始終鼻を摘んで鼓膜を酷使していて、随分な音で空気が鼓膜のどこかを抜けるのを楽しむ。煙草の煙を溜め込んで耳抜きをすれば耳から煙が出るのではないかと考えるまでの距離は呆れるほどに近かった。

  さて、実は「煙草の煙を耳抜き」は、この時一回きりしか経験がないのでその感想が標準であるかどうかは知らない。何故一回きりかと言えば当然その経験が精神力を著しく傷付けたからだ。煙草の煙を肺に呑んだまま耳抜きをすると、どうなったのか。

  「ぐぇあぁあぁぁぁあっ。あっぐ頭の中が痒っいぃぃいいいぃぃ」

  その折目の前に友人がいて耳から出るかどうかを目視していたが、全く出なかったらしい。つまり本来はフィルタや鼻の穴に付着するようなタールがとても調べる気にならない進路をとって鼓膜まで達し、初心で敏感な内壁にこってりと付着したわけだ。「鼓膜の奥が頭の中が猛烈に痒い」とは余りにも衝撃的で斬新な体験であった為、以降しばらくは普通の耳抜きさえも怖くて出来なかった。何故痒くなるのかは知らないが、知ったところで役に立ちはすまい。新幹線や特急でトンネルに突入した瞬間に煙草を喫っていたならば、耳抜きではなく顎の体操と唾の嚥下で対処するのが賢明だ。
 
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