テスト中

月餅

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

月餅 04/12/23

  断固たる辛党として甘い物が苦手であるが、それでも「いこもち」ほか好きな菓子は幾つかある。

  しかしここに突如来たりて大の辛党をして「これほど美味い菓子は生涯初めてだ」と感激させた奴がある。元々大した生涯ではないことを差し引いたとしても、辛党として甘い物に対する経験や免疫がないことを計算に入れてもなお、これなら毎日喰えると確信したものだ。

  「椰子の実餡の月餅」がそれだ。「げっぺい」と読む。月餅は甘いとの認識があったからこれまで素通りであったが、たまたま小腹が空いていた時に山と積まれていた月餅に目を留めてひとつ所望したところ、中国訛の日本語で味は五種類ありますと紹介を始めた。饅頭を喰わねばならない局面に追い込まれると、最後の抵抗として最低限白餡を選択するようにしているが、五種類の中には白餡との発言はなかった。いやあったかもしれないが、ふたつめに言った「椰子の実」が頭の中で走り廻っていて、続くみっつの内容は覚えることもしないまま、「椰子の実椰子の実」と響き渡っていた。無事に紹介が終わると即座に「椰子の実ひとつ」と告げ、包装は拒否して歩きながら齧り付いた。

  月餅は餅とあっても粘るわけではなく御存知中国の饅頭らしきもので、直径が10センチ厚さが3センチほど、どうしても日本の饅頭を基本に考えてしまうから想像よりもずっしりと重い。さくさくほこほこの感触で、ドイツのバターケーキをもっともっと緊密にした食感と言えば通ずるだろうか。かなり柔らかいクッキーと言えなくもない。一見白餡に見える椰子の実餡はぽろぽろに崩れることもなく、上顎にへばり付きもせず、そして何より甘くない。辛党にとってこれは最大の魅力であり、その甘みの薄さは落雁に匹敵するかと思われる。当然多少の甘味は感じるが、ステーキ付け合せの人参の方がより甘かろうと感じるくらいさっぱりとしていて、しかし密に詰まっていて噛み応えがありつつさくさくだから夢中になる。

  全て喰い終えた後、口の中に幾つかの滓が残った。これが椰子の実であって、焼けた砂浜の濃厚な香りが後味として漂い、最後に沸いてきた唾ごと飲み込んで、引き返してもうひとつ喰おうかとまで思った。ただし値段はひとつ315円とそれなりに気合が入っているので覚悟が必要だ。

 
TOTAL ACCESS: -  Today: -  Yesterday: -
LAST UPDATED 2025-11-07 20:44:28 (Fri)
 
ウィキ募集バナー