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制動
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匿名ユーザー
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制動 04/11/06
ある路線の電車に乗っていて、空席はないが混んでいるとも言いきれない状態で、手前は連結部横の短い座席の隅に座っていた。
運転士としての研修期間がどのくらいかは知らないが、初舞台からしばらくはお目付け役と一緒に運転席に入っていることが多く、それを見る度に激励と不安が混合された情調が起動されるのだが、新人は通常緊張しているから大きな事故はない。
制動が妙に荒い列車に乗り合わせた場合は苛々するもので、対処としては下手糞めと念ずるしかないのだが、この度余りにも制動の下手な列車に乗り合わせて考えが変わった。何しろ駅に進入する毎に停止する直前必ず「がごん」と制動するから人々はその毎に煽られる。最初は下手糞めと念じていて、次第に学習せいやと怒りが生成され、最後には笑いが誕生した。
それは扉付近に集合待機し、これから降りんとしている人々が全身これ油断の塊となっているところへ急制動が掛かると、全く同じ瞬間、全く同じ方向、全く同じ角度によろけるのである。それを見ながらこう考えてしまったから必死に笑いの発作を堪えて悶絶せねばならなかった。
「集団コントで、誰かのボケに対して一斉にこけた感じ」
駅に到着するたび念入りに急制動を掛けるから、「はいここで誰かボケた、はい皆一斉にこける」「がたん」整然と同じ間合で同じ角度に体勢を崩すものだから、余りに見事なこけ方に感動して笑いが沸騰する。ある種のコントの舞台装置の参考になるかもしれない等と思考先を逸らせてみても、やがて「がたん」「ナイスこけ方集団」と再び腹筋が震動するのであって、こけた人々や座っている人々は顔が不服に染められているから笑うに笑えず益々呼吸が乱れてくる。笑ってはならないと過剰に意識すればするほど苦しくなるから次の制動では怒りを燃やしてみようと誓いを立てても、「がたん」「しつこいねん!ふはははは」抵抗は無駄であった。
かくして電車の急制動に対して一切の怒りは完全に消失した。しかしながら副作用として急制動の毎に爆笑しないよう唇を噛み締めねばならないのは少々遺憾である。
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