同日、カールスラント第一研究所内。
一人の男が長い廊下を歩いていた。
男の名は、ノア・ヴァルシェ。
この研究所の所長であり、魔力を薬で作り上げた研究の第一人者である。
「結局、成功したのは彼女と彼女だけですか…
脆弱ですね、人というのは」
手元にある資料を見て呟く。
「さて、それでは…我が姫君に会いに行きますか。
私の最高傑作に…ククク」
ノアは目の前の扉の前に立ち、ノックした。
「…ノアか?」
中から少女ともとれる声が聞こえた。
「おはようございます」
ノアは扉を開けると、目の前の銀髪の少女に挨拶をした。
「…今は夜だぞ」
軽くあしらわれる。
「冗談ですよ、冗談。
相変わらず手厳しいですね」
「黙れ。
私に構うなと言った筈だぞ」
「用があって来ました。
例の…扶桑皇国海軍遣(ふそうこうこくかいぐんけん)欧艦隊(おうかんたい)
第50(だいゴオマル)航空(こうくう)戦隊(せんたい)第104(だいイチマルヨン)航空(こうくう)小隊(しょうたい)が間もなく到着するそうですよ。
メリア・フロンスタイル少佐」
機嫌の悪い少女…メリア・フロンスタイルに向かって、ノアはそう言った。
「…はぁ。
冗談を交えずに言えないのか?」
メリアは溜め息をつくと、ノアを軽く睨んだ。
「貴女をからかうのが趣味なだけですよ」
「勝手にしろ。
私は少し出掛けてくる」
またもや、軽くあしらうメリア。
「何処へ行かれるんです?」
「例の部隊に…挨拶をしに、だ」
ノアの質問にそう答え、部屋を出て行くメリア。
「ああいう所が…調整不足ですけど」
溜め息を吐くノアであった。
「左右エンジン、アクティブ。予備の薬も持った、弾薬も…
よし…メリア・フロンスタイル出る!」
噴流式圧縮推進飛行脚(ジェット・ストライカー)に魔力を送り込み、魔法陣を展開させると、
漆黒の空へと飛び立つ。
「流石に暗いな。雲の上に出るのが得策だろうが、それではレーダーに捕まる。
超低空で進入して、連中を驚かしてやるか」
と、いたずらに微笑み…言葉通り、紫苑に向かって低空で進入経路をとる。
一方、紫苑艦内。
「なぁ、何か聞こえないか?」
甲板の清掃をしていたクルーが口を開く。
「何かって何だよ?」
「いや…よく分かんないんだけど、こう…エンジンっぽい音が」
「エンジン?こんな海の真っ只中にか?何馬鹿なこと」
キィィィィィィィィ!!
「何だぁっ?!」
水柱を上げながら接近してくるもの。
それは…
「ネウロイか?」
「違う!あれは、魔女だ!!」
紛れも無い魔女。
白銀の長髪を風に揺らし、不敵な笑みをこぼす魔女。
しかし、彼らの知る魔女はこんなスピードを出すことなど信じられなかった。
せいぜい、零式戦闘機と同じぐらいのスピードだ。
だが彼女の飛行脚は、それを越えるスピードを誇っていた。
「でも何で魔女が!」
「知るか!艦長に報告だ!早く行け!早く!!」
「お、おう!!」
その場のやり取りを見ていたメリアは大きく息を吸い…
「くくく…あはははははは!!!」と大爆笑した。
「な…誰だ!所属は?」
突然の出来事に、事の報告をしようとしたクルーの足まで止まる。
「いや、驚かせてすまなかったな。
私は…カールスラント直属親衛隊第1小隊1番機、メリア・フロンスタイル少佐だ」
自己紹介をするメリアに一同は目を、口を開きっぱなしだった。
「し、失礼しました!少佐殿とは知らず、無礼な口の利き方を」
「構わんさ。
それよりもここの艦長はどこか?」
「はい、ご案内します!こちらへ」
「あぁ、待て。
今ユニットを脱ぐ。
整備兵はいるか?」
案内しようとするクルーに対しそう言うと、すぐに整備兵が駆けつけてきた。
「はい、お手伝いします!
ユニット固定ハンガーを持ってこい!」
ハンガー固定ユニットにメリアの脱いだユニットが固定される。
「ボルト固定完了。少佐、整備の方はいかがいたしますか?」
「ん?ああ、それは整備にちとコツがいるんでな。
整備したければ構わないが…まぁ、出来ればの話だが」
「は、はぁ…」
「艦長のところまで案内してくれ」
「はい」
メリアはそう言うと、紫苑の甲板から去った。
「こちらです」
「ありがとう」
コンコン。
「誰だ?」
中にいた彰文が返事をする。
「はっ!客人が艦長にお会いしたいと!」
「客人?…まぁいい、入ってくれ」
「では、どうぞ”少佐”」
少佐という言葉に反応する彰文。
まさか…扶桑海軍の坂本美緒少佐かと思ったのである。
しかし、目の前に現れた者は違った。
流れるような白銀の長髪。
鋭く見据える黄金の瞳。
「貴官は?」
「カールスラント直属親衛隊第1小隊1番機、メリア・フロンスタイル少佐だ。
柚吏彰文中佐」
「カールスラントの?まさか…」
「お察しの通り、アルストロメリアだよ」
驚愕に目を見開く彰文。
「し、しかし…少佐。何故、この艦に?」
「簡単さ。今度、うちの研究所に来るだろう?
その時に驚かないようにさ」
「戦力増強の件か…そちら側は我々にどの位協力してくれるつもりなのだろうか?」
「整備兵10人と砲術士15人…そして私だ」
彰文は耳を疑う。
信じられなかった…伝説とも呼ばれる魔女が弱小の扶桑艦に援護しに来るということが。
「少佐自らが?我々に協力してくれるのか?」
「ああ。
紫苑で合流した後、ブリタニアに向かう」
「む…ブリタニアに?」
「そうだ。第501統合戦闘航空団(ストライクウィッチーズ)…彼女らと合流するためにな」
「第501に行くことも知っているのか」
一筋縄ではいかないと彰文は思った。
「と…ここの魔女はどこにいる?」
「時間が時間だ。彼女達は部屋で休んでいる」
「そうか…挨拶の1つでもと思ったんだが、
休んでいるところを無理矢理起こすのは吝(やぶさ)かではないな。
挨拶は後日としよう。
して、この船にいる魔女は何人だ?」
「2人だ。いや、厳密に言えば3人か…」
「撃墜されたのか?」
「…敵に寝返ったのだ。
何を考えて寝返ったのかさっぱりだが」
メリアの質問に少々口ごもりながらも、彼は答えていく。
「話題を変えよう。
研究所に着くのはいつ頃になりそうだ?」
メリアの心遣いに感謝しつつ、その質問にも答える。
「少なくともあと10日はかかる。
この艦もあまりいいものではないからな」
「そうか?私は扶桑らしさが出ていて好きだぞ」
「少佐は冗談がお好きのようだ」
「冗談ではない。事実を言ったまでさ」
口元を緩めて笑うメリア。
それにつられ、彰文も口元を緩めた。
「む?こんな時間か…そろそろ帰らねば」
「わざわざすまなかったな、少佐」
「いや、このぐらいのことは当然だ。
これから世話になる部隊だしな。
では、艦長。失礼する」
先程までの笑みを消し、背筋をピンと伸ばし、綺麗な敬礼をするとメリアは艦長室から退出した。
「アルストロメリアか…噂に似合わず、切れた軍人だ」
「ストライカーユニット…アクティブ。
魔導エンジン、フルドライブ。
世話になった!紫苑の諸君ッ!」
ユニット固定ハンガーに固定されていた自分の愛機を履き、
エンジン音にかき消されないような声で叫んだ。
「特に何も出来ませんでしたが、伝説の魔女(アルストロメリア)に会えただけで幸せです!
進路クリア!甲板に人影なし!
幸運を(グッド・ラック)!」
クルー達も敬礼をしながら叫ぶ。
「あぁ!また会える日が来る!それまでの辛抱だ。
メリア・フロンスタイル…出る!!」
近くで「固定ボルトを外せー!」と言う声が聞こえ、
ガシャンという音と共にユニットを固定していたボルトが外れる。
魔法陣が展開され、轟音を轟かせ漆黒の空へと飛び立った。
その時…
メリアは自分の背後にいる存在に気が付く。
「ネウロイ!?」
距離的にはかなり離れてはいる。
しかし、ネウロイの攻撃範囲は計り知れないものだ。
それは自分が良く知っている。
このまま自分が囮になれば、紫苑の被害は最小限で済む。
「紫苑、聞こえるか!
3時の方向にネウロイありだ!すぐに回避行動をとれ!!」
『り、了解です!操舵、面舵!!』
その掛け声と同時に、ネウロイのビームが紫苑の側面の掠めていく。
「私が迎撃に出る」
『危険です!一人では…!』
「心配することはない。
”一撃”で仕留める。
お前達は回避行動に専念しろ」
『了解!』
通信を切ると、メリアは人類の敵に体を向ける。
「せっかくのパーティーだ。
派手に咲かせてやらねばな…ネウロイ!!」
叫ぶと同時に手に持っていた長銃の引き金を引く。
紫苑のクルー達は目を疑った。
メリアが撃つ銃は、普通の銃ではない。
あの銃から出ているのは…紛れも無いネウロイのビームだった。
やがて、そのビームはネウロイの外部装甲を抉り、コアを露出させ、砕けた。
彼女の言う通り、一撃でネウロイを撃墜したのである。
粒子状のネウロイの破片が、辺り一帯に降り注ぐ。
「あ、あれが…アルストロメリア…」
ただただ、紫苑の面々たちはその光景を黙って見ているしかなかった。
「敵撃破を確認。RTB(帰還)(Return To Base)する。
ではな、諸君」
メリアはネウロイの撃破を確認した後、今度こそ紫苑に別れを告げた。
一時間後、メリアは研究所の上空にいた。
「こちら、メリア。
着陸許可を願いたい」
『了解。格納庫を開きます。いつでもどうぞ』
研究所の職員がそう言うと同時に、格納庫へと降り立った。
そして、ノアのもとへと向かう。
重い鉄の扉の先にある部屋。
研究室…といえば聞こえは悪いが、ここはノアの私室である。
「ノア、今帰った」
声を掛けると、
「開いていますので、どうぞ」
と、中から声が聞こえたので寝てはいないらしい。
言葉通り、重い鉄の扉を開け、中に入る。
「おかえりなさい。
どうでしたか?104は」
「なかなか出来ている乗員と艦長だった」
「そうですか…魔女にはお会いにならなかったので?」
「ああ。時間が時間だったからな」
「優しいですね、貴女は。
私にもそれぐらい優しくしてくれればいいんですがね」
ノアが冗談交じりに言うと、「誰がお前なんぞに優しくするか」と真面目に返されてしまった。
「相も変わらず、冗談の通じない人だ」
「先刻もその言葉を聞いたが?」
「まぁまぁ…今日はもうお休みなった方がいいのではないですか?
長時間のフライトで疲れているでしょう?」
「…お前にしては気が利くな。
何か裏があるんじゃないかと心配だ」
「ありませんよ。純粋に貴女を心配しているんです」
「それは、実験体としてか?」
「違います。一人の人間としてですよ」
メリアはその答えに満足できなったのか…フンと鼻を鳴らすと、ノアの私室から出て行った。
「言わんとしていることは分かりますが…悲しいですねぇ」
一人残されたノアはそう言うと、机に突っ伏したのであった。
ノアの私室を出たメリアは自己嫌悪していた。
「…ノアのせいではないのに、私は何をやっているんだ。
…あいつに命を救われ、ここまで育ててもらったというのに…
結局は自己満足でしかなかったということか。
戦う理由が消えてしまいそうだな…」
壁を力いっぱい殴ると、メリアはその場に蹲った。
涙を流す。
壁に打ち付けた拳よりも、心に負った傷は癒えないでいた。
伝説の魔女と言えど、歳相応の少女である。
目の前で恋人を殺され、生きる理由を無くしかけていた所を救われ、
魔女になり戦う理由を見つけた。
「うぅ…あぁぁぁ…っ…!!」
しかし、ここで泣いているのは三年前の自分と同じただの少女である。
戦う理由…この時代、誰もが持っていることだろう。
だが、今の彼女に戦う理由など要らなかった。
ただ…自分の気が済むまで泣くこと。
それが今の彼女の成すべきことだった。
この先に待っているであろう、激しい戦闘の中で彼女達は何を見るのか…
芳佳「坂本さん、坂本さん!」
美緒「ん?どうした宮藤」
芳佳「次回予告ってどうするんですか?」
美緒「ここに書いてあるだろう。
それを読めばいい」
芳佳「分かりました…えぇと…ついに始まる、本格的な戦闘」
美緒「ソニックダイバー隊と魔女達が今、合流する」
芳佳「次回、
ストライク・ガールズ~純白の魔女達と音速の乙女達~
第4話~結成、ストライク・ガールズ!~」
美緒「私達の翼(つるぎ)が今、舞い降りる…」
最終更新:2013年08月21日 16:50