同月…時空管理局アースラ級艦船“シュッツバルト”艦長室。
畳の上でお茶を啜る若い男女と、羊かんに楊枝(ようじ)を刺す年老いた男性がそこに居た。
「今回君達の任務は、“ドラグーン再強奪事件”の犯人『ラグリィ・ストレイン』の確保とアースラ隊の援護である。」
年老いた男性が、羊かんを口に放り込みながらそう言った。
「…アースラ隊と申しますと、リンディ提督が指揮しているあのエース部隊ですか?
リリー・マルレーン提督。」
若い…少し筋肉質な青年が答えた。
「うむ。AAAクラスの魔導師が三人…そして、今や行方不明だった、富野海人少尉も合流しているとの報告が来ている。
馴染みの顔が多いはずだが…あくまでも、任務を忘れるんじゃないぞ?
リプト・アインス大尉、スフィレ・フェアリィテイル大尉。」
マルレーンは、ふっ…と笑いながら、煙草に火をつけた。
「はい、それは重々承知ですが…その…」
若い女性…スフィレ・フェアリィテイルは少々口ごもりつつ、「煙草の煙…苦手なので控えていただけませんか?」と言った。
「うん?あぁ…すまんな。」
マルレーンはそう言いつつ、煙草を灰皿に押し付けた。
「全てのことが順調に進みすぎている…嫌な予感がする。」
「それは…年寄りの勘ってやつですか?」
筋肉質な青年…リプト・アインスは、緑茶を飲み干しつつそう言った。
「…長年の勘と言って欲しかったがね。また、こちらから連絡を定期的に入れよう。
私の可愛い部下よ…絶対に死ぬんじゃないぞ、少なくとも私より先にはな。」
マルレーンは苦笑すると、少し寂しげな笑顔をリプトとスフィレに送った。
「それでは…リプト・アインス大尉!!」
「スフィレ・フェアリィテイル大尉、両名は只今をもって、アースラ隊に同行いたします。
我らに勝利の福音(ゴスペル)を!!」
立ち上がり、ビシッ!と気をつけをする二人。
「「敬礼っ!!」」
二人は声を合わせると、マルレーンに向かって敬礼をした。
「クルー達に挨拶してから行ってこい!あいつ等とも、しばらく逢えなくなるからな。」
マルレーンは、ニカッと笑って言うと、二人を艦長室から退出させた。
カッ…カッ…カッ…
シュッツバルトの廊下に、リプトとスフィレの靴音が響き渡る。
「マルレーン艦長とも暫くは逢えないのか…」
「任務ですよ?終わればまた逢えますって。」
会話をしながら、転送ポートへと歩いていった。
「さぁて…皆ともお別れだ。行くとするか…スフィレ。」
「はい。クロノ達が待つ…アースラへ…!!」
転送ポートに着いたリプトとスフィレは、転送先をアースラの転送ポートに設定して…光と共に消えていった。
ピピピピ…ピン!
オペレータールームでコンパネを操作していたエイミィは、いつもと違う反応がディスプレイに現れたのをいち早く察知した。
「あれ…転送反応?誰か使ったのかな…」
ザ…ザザザ…
少し砂嵐が起こった後、エイミィにとって懐かしい顔の女性がディスプレイに映った。
「エイミィ、聞こえる?」
「…へ?す、スフィレ大尉!?」
「俺も居るぜ、エイミィ。」
「リ、リプト大尉も!?」
エイミィは声を裏返しながらも、喜ぶ仕草を見せた。
「え?でも…シュッツバルトにいるはずじゃなかったんですか?」
「…本日付で、アースラに同行することになったの。だから、これからよろしくね。
私達は、リンディ提督に挨拶してから皆に会いに行くから…じゃあね。」
一方的に話されて、通信を切られてしまった。
「相変わらず…ノリノリだなぁ。と、こうしちゃいられない!
クロノ君たちに連絡しなきゃ!」
エイミィは、急いでオペレータールームから飛び出した。
「リプト・アインス大尉!スフィレ・フェアリィテイル大尉!両名入ります!!」
アースラ艦長室前――リプトとスフィレは、ドアの前に立ってビシッと敬礼をした。
「別にそんな畏まらないでいいのに。いつも通りでいいわよ、リプト、スフィレ。」
リンディは畳の上で正座をしながら、手招きをした。
「…それで、今回こっちに来たのって…やっぱりあの事件の調査の為?」
リプトがスフィレの隣に座り、スフィレがリンディの隣に座り、リンディは緑茶に砂糖大さじ四杯とクリームを入れて、それを啜りながらリプトたちに尋ねた。
「はい…予想以上に困難になっていて…それで、“アレ”について、アースラも情報を掴んだという事で、今回こちらにお世話になる…という感じで。」
「ま、予想は出来てたんですけどねぇ…そんなことじゃないかって。」
リプトが皮肉気味に、苦笑いをしつつそう言った。
「ドラグーン…管理局も嫌な物を作ったわね。そのせいで、スフィレの住んでいた世界は…」
リンディが悲しげな表情になったのを察したのか、スフィレは慌てて、
「いえ、そのことは…もういいんです。
それに、あの時リプトさんが助けてくれなかったら、私はここに居ませんし…管理局員にもなっていませんでした。
だから、もうその話はいいんです。
それよりも…海人君がこっちに居るって話は本当なんですか?」
と、取り持ち話題を変えた。
「えぇ、本当よ。私も最初は驚いたのだけど…彼のデバイスも少し成長してたわね。
あとで会いに行くんでしょ?
なら、新しい顔ぶれも多いから大変ね。…ふぅ、疲れてる時にはやっぱりコレね。」
例のアレを飲んで、溜め息をつくリンディ。
「相変わらず…飲んでんですね、その妙な飲みモンを。」
「妙な飲み物とは失礼ね。私が“調合”して作った万能の飲み物よ。」
「「調合…」」
二人は苦笑しつつ、“普通”の緑茶を口にした。
「アースラも…随分、規模が大きくなりましたね。」
「?」
「言い方が不十分でした。部隊の規模が大きくなりましたね…そう言いたかったんです。」
「えぇ…当初は本局の魔導師とクロノ…それにエイミィと私と、ランディとアレックスしか居なかったものね。
それが今や…管理局員じゃない子達がたくさん居るというわけで…」
クスクスと笑うリンディ。
「それが…例の三人ですか。」
「…とても強い子達よ。魔力・精神共に…でも、それと同時に寂しさを感じ始めてるわ。」
溜め息と同時に、寂しげな表情に戻る。
「まだまだ親に甘えたい年頃だもの。仕方ないとは思ってるんだけど、それに“待った”を掛けるのは上の人達だし…」
「そこのところが、良く分からないところですよね。…あ」
「どうしたの?スフィレ。」
「そろそろ…挨拶に行かなきゃいけない時間なので、また後ほど。」
「ま、そン時はこれでもいきましょ。」
くいくいと杯を口に持っていく素振りを見せた。
つまり、後に会う時には杯を交し合おうと…そういう意味だ。
「もう…そればかりなんだから。」
溜め息を吐きつつも、はいはいと頷くリンディであった。
その後、クロノ達に再会を果たしたリプトとスフィレ。
そして、なのは達との会話も弾む中、彼らは本来の目的を告げる。
「今回俺達がここに来た理由…そいつぁ…広域魔導制圧兵器、通称“ドラグーン”。
コイツを奪還もしくは撃破するのが目的だな。」
リプトは溜め息混じりに、「まったく…因縁深い事件で困るぜ。」と、ぼやいた。
「因縁深い?それってどういう…」
フェイトが疑問をぶつけた。
「俺にとってじゃない…スフィレにとってみれば…最悪な事件だな。」
「リプトさん!それは言わない約束じゃ…!!」
「だけど、言わなきゃいつまで経っても半人前のまんまだ。
話しといた方がいいと思うがな、今後のために。」
「…分かりました。話しましょう…」
ぽつり…ぽつりと自分の言いたくない過去を語り始めた。
今から八年前…スフィレが12歳の時…あの悪魔が舞い降りた。
時空管理局が極秘裏に開発した、広域魔導制圧兵器“ドラグーン”が技術長『ラグリィ・ストレイン』によって奪取され、ロスト・ロギアを奪うために機械業などが盛んな世界“リヴェラ・レギス”を襲撃した。
目の前で…両親が…兄弟が…一瞬にして消えた。
彼女の他に生存者はいなかった。
炎で埋め尽くされた絶望的な空間が、彼女の恐怖心を更に仰いでいく。
「まだ…生き残りがいたか…」
上から降り注ぐ冷徹な声。
ふとその声の方向に目を向けると、巨神が目の前に…破壊の砲身をこちらに向けたまま、ピクリとも動かない。
「魔導縮退砲“アポカリプス”…チャージ…なに、怖がることは無い。
一瞬の痛みも伴わぬまま、家族の下に逝くがいい!!」
『Ja.Apocaripus chage and explosion!』
ドラグーンの砲身から光が放出されたかと思った時…目を瞑って自分の最後を覚悟した。
だが、いくら待ってもその時は訪れなかった。
恐る恐る目を開けてみると、目の前に見知らぬ少年が立っていた。
防御壁を張って、ドラグーンの一撃を自分とスフィレの身を護っていた。
「んなろぉぉぉぉっ!!一人の女の子護れなくて、何が管理局員だ!!
負けてたまるかよ!!」
少年は力いっぱい叫んだ。
そして、少年はスフィレに向かって「もう大丈夫。俺達が助けに来たからもう安心してくれ。」と言った。
「デオゴニア!一気に決めるぜ!!」
少年の手に着いているデバイスに向かって叫んだ。
『了解です。シュタールフォルム展開、魔力集中…!!』
デバイスが電子音でそう答える。
「管理局の素人風情が…捻り潰してくれる!!」
ドラグーンは再び“アポカリプス”をチャージし始めた。
「そうはさせるかよ!!タァァァウゼント!シュメェェルツ!!!」
少年のデバイスが、ドラグーンに直撃する。
しかし…それが本体に届かない。
「無駄だ。幾ら足掻いても、ドラグーンのA.M.F(アンチ・マギリング・フィールド)は抜くことは出来ん!!」
嘲笑うかのように、ドラグーンの肩に乗っているラグリィが言った。
「…ヘッ!そいつぁ…どうかな!!
このタウゼント・シュメルツは、相手のバリア・フィールドを無効化して、テメェの様なクソ野郎をぶん殴れるんだよ!!」
少年は全ての魔力を拳に集中させる。
「うおぉぉぉぉーーーーっ!!!!!!」
雄叫びを上げ、デバイスがキリキリと唸る。
「全てを撃ち抜け!デオゴニア!!」
デオゴニアと呼ばれたデバイスが、強靭なA.M.Fを打ち破った。
「何!?馬鹿な…!!」
ラグリィが、驚きの表情で顔を歪める。
「吹き飛べ!!」
デオゴニアがドラグーンの胸を貫き、その巨体を徐々に持ち上げていく。
その言葉の如く、ドラグーンの巨体が一人の少年の手によって飛ばされた。
「ぐぅぅ!!…管理局員がここまでやるとはな。
…その命…預けておくぞ、少年。」
瀕死の重傷を負ったドラグーンを庇う様に、ラグリィは転送魔法を発動させ、一緒に消えていった。
「…逃がしたか…。
さぁてと…君、大丈夫?体とか痛くないかな?」
「うぅ…っく…ひっく…」
少年が問いかけるも、スフィレは泣いて答えない。
「あ~…弱ったなぁ。
とりあえず、治癒魔法をかけておくか。デオゴニア」
『了解』
ポウ…
暖かいふわりとした乳白色の光が、スフィレの体を包み込んだ。
「…ぁ…」
――あったかい…心の奥底から暖かさが伝わってくる…――
自然とそう思えた。
そして目の前の優しくて、力強い少年と話してみたくなった。
「わ、私…スフィレ・フェアリィテイル…歳は12歳…」
とりあえず、自分の名前を細々と言ってみた。
「ん?スフィレっていうのか…可愛い名前だな。
俺は、時空管理局突撃(アングリフ)隊副隊長、リプト・アインスだ。
歳は15歳。階級は軍曹。」
すると少年…リプトも同じように返してきてくれた。
「リプト…さん?」
「何だ?スフィレ。」
互いに名前を呼び合って、少し赤くなるスフィレとリプト。
これが、リプトとスフィレの最初の出会いである…。
「…ということがあったんです。リプトさんとはそれ以来の付き合いで…」
顔を真っ赤にして俯くスフィレ。
「ま、あの後…俺がスフィレを養子にしたいって言って、魔導師試験と管理局員の試験を受けさせたりしたんだがな。」
「それまた凄いお話ですね…」
はやての発言に、一同はうんうんと頷いた。
「でも、それって…養子というよりは引き取りじゃ…?」
フェイトの発言にリプトは、
「細かいことは気にすんなって、フェイトの嬢ちゃん。」
と言って、フェイトの肩に自分の腕を組んだ。
「じょ、嬢ちゃん!?」
フェイトが声を裏返して、リプトに訴えた。
「いいだろ?嬢ちゃんで。俺たちにとって見たら、娘みたいなモンなんだから。」
ガハハと笑いながら、その腕でギリギリと締め上げるリプト。
「ぁ…ぅ…いたぃ…んですけど…」
「って、フェイトちゃん!?そろそろ離さないと、フェイトちゃん死んじゃいますよ!
リプト先輩!!」
慌てて引き剥がしにかかるエイミィ。
…だが…
「いいじゃねぇか。減るモンじゃなしに。」
と、止められる始末である。
「リプトさん!」
スフィレが怒号と共に、デバイスをリプトの頭上に振り下ろす。
ごつぅぅん!!
「ぐへらっ!」
もの凄い衝撃音と共に、リプトが奇声を上げて倒れる。
リプトの死の抱擁から逃れたフェイトは、「し、死を覚悟しました…」と咳き込みながら言った。
起き上がったリプトは、
「痛ぇじゃねぇか!あれほど、人の頭をデバイスで殴るな!って言ってんだろ!!」
と、スフィレに対して罵声を浴びせる。
「やめて下さいって言ってるのに、離さなかったのはどっちですか!
た、確かにデバイスで殴るのは悪いと思いますけど…それとこれとは話は別です!!
威張れることじゃないです!!」
スフィレも負けずに言い返す。
「「う~~~!!」」
二人が睨み合う。火花も散っている。
「大人気ないなぁ…」
そう言ったのは、ユーノである。
「「「はぁ…」」」
なのは、フェイト、はやての三人がユーノの言葉に一斉に溜め息をついたのも無理はなかった…。
ザフィーラ「いつにも増して、賑やかになるアースラ。」
アルフ「だけど、まさか…あの人がねぇ…」
ザフィーラ「あの人とは一体何者なのか?」
アルフ「そして、現れる…白い翼を纏った魔導師の正体とは!?」
ザ&ア「「次回、魔法少女リリカルなのはA’s~闇の慟哭、光の不死鳥(フェニックス)~、
第六話~幸運の追い風(リインフォース)、再臨(イグニッション)!!~
に…ターミナル・イグニッション!!」
ザフィーラ「…予告とは中々面白いものだな。」
アルフ「…そうかねぇ?」
最終更新:2013年08月21日 17:49