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第六話~幸運の追い風(リインフォース)、再臨(イグニッション)!!前編~

どこかも分からず、ただただ…漂い続けていた。
理由もなく、行く先もなく、目を瞑り何もない空間を漂い続ける。
白銀の髪が風もないのに、フワリと靡いた。
黒い服に白銀の髪…その腕に抱くのは、かつて『闇の書』と呼ばれ、
人々の記憶に“恐怖”と“死”を刻み込んだ、忌まわしき魔導書である。
彼女の名は…リインフォース。
あの『闇の書事件』で、主である八神はやてと共に、闇の書の暴走した管理プログラムを止め、その後彼女は、闇の書と共に光に消えたことで知られている。
そして今…こうして、何もない空間を漂い続けているのだ。
――…お前はこれでよかったのか?――
不意に、闇の書が彼女に問いかける。
「良かった…と言われれば、嘘になる。
だが、私がこうしなければ、主はやても騎士達も自立はできなかった。
無論、私もだがな。」
リインフォースは、素直に自分の気持ちを闇の書にぶつけた。
――主に逢いたいか?――
続けて言う質問に、彼女は潔く、
「あぁ…出逢えるのならばもう一度…主や騎士達に…」
と答えた。
しかし、それは叶わない夢でしかない。だが、闇の書は言葉を紡ぎ続ける。
――…汝の願いは我に届いた…夜天の魔導書の名の下に、汝を戒める枷を今解き放とう…――
その言葉に驚き、引き止めようとするリインフォース。
「何をする気だ!?そんなことをすれば、お前は…!!」
しかし、リインフォースの必死な引き止めにも応じず、闇の書は彼女を自分から『解放』するために、言葉を紡いでいた。
闇の書は悟ったのである。
リインフォース自身が寂しさを感じていたのを…。
この言葉自体が、どれほどに自分を傷付けるか分からない。
だが、彼女の願いを叶えられずして、何が魔導書か…闇の書はそう思っていた。
今、闇の書が紡いでいる言葉、自分とリインフォースのプログラムを完全分離させるための詠唱である。
そして、リインフォースもそんな闇の書に気付いたのだ。
だから、彼女は止めようとする。
自分を犠牲にしてまで、主に逢うなど…と。
――お前が生きれば、私は虚無の闇に消えよう。だが、それも誰かが望むことだ…私は気にしていない――
リインフォースに刻まれていた、“封印”と鎖が解かれていく。
光が収束し、闇の書が霞んでいく。
「…!!」
リインフォースが何かを叫んだ時にはすでに、姿が見えなくなった。
――生きろ…そして…主の…――
それが、リインフォースの聞いた最後の言葉だった。

同時刻、アースラ級時空航行船『シュッツバルト』艦橋。
艦長であるリリー・マルレーン提督は、いつものようにパトロールをしていた。
「今日も異常はないみたいだな。よし撤退を「待ってください!!」
マルレーンの言葉を、オペレーターが遮った。
「どうした?」
「艦前方に魔力転移反応!…あと十五秒で、こちらと接触します!」
「何っ!?何故今まで気付かなかった!!」
マルレーンは、クルー全員に怒鳴る。
「今の今まで反応がありませんでした…それに、突然だったので…あっ!」
オペレーターが突然驚く。
「何事か!?」と、オペレーターに問いただすマルレーン。
「魔力源が実体化しました!モニター、出します!!」
モニターに映し出された魔力源…そこには…
「なっ…!?あれは…“リインフォース”だと!?」
黒い服に白銀の髪…これらの特徴を資料で見ただけとはいえ、彼女は紛れもない本物だった。
「何故、特定遺失物の成れの果て(ルイン・ロストロギア)がこんな所に…?」
他のクルー達も同じ事を口にしていた。
――まさか…自分の主に会いに来たというのか?だが、彼女は闇の書を所持していない…誰かが分離させたのか?いや、そんなことは今の魔道士の技術では無理だ…ならば――
「彼女を回収しろ」
「し、しかし!得体の知れない特定遺失物です。
我々の一存では決めることは出来ません!!」
「…いいから回収するんだ。誰に拾われるかわからん状態だし、
彼女の状態からして危険な状態であることは確かだ…
それとも君は、彼女が特定遺失物(ロストロギア)というだけで見殺しにするつもりか?」
マルレーンの意志を感じ取った副長は「艦長の言う通りだ。回収部隊を出せ」
と、指示を出した。
艦長と副長の二人に指示を出されては、誰一人として逆らうことが出来なかった。
「復唱はどうした!」
「はっ!!回収部隊、出動せよ!!」
(私の考えが確かならば…彼女は、自分の意思で闇の書から脱したのではないはず)
マルレーンはそう思いつつ、メインモニターをじっと見つめていた。


「回収部隊が目標物(リインフォース)を収容し、帰艦しました」
「うむ」
「艦長、これからどうするんです?本局に届出を出しましょうか?」
副長のシェルディ・グローシアは、目の前にあるパネルを操作しながら言った。
「そんなことをすれば彼女は一生、本局のモルモットだ。
彼女はこの船で一時保護する」
マルレーンは湯飲みを一気に煽り、副長にそう言った。
「ば、馬鹿なこと言わないで下さい!
そんなことをしたら、我々は全員謹慎か銃殺刑です!」
「怖いのか?シェルディ副長」
「そ、それは…」
挑発するような目つきで、シェルディを見る。
「君がそれほど弱い人間だったとは…失望したよ。
君が私に言ってくれたあの言葉は嘘だったのかね?」
「う、嘘ではないです」
「ならば、腹を括れ。君のような優秀な副長を、私は傍に置いておきたいのでな」
「か、艦長!…シェルディ・グローシア、艦長の為ならば命も捨てる覚悟です!!」
目尻に浮かんだ涙を袖で拭くと、大声でそう叫んだ。
マルレーンはしてやったりという顔をしていた。
(シェルディに見えないように)
「しかし、保護をしたとしても…我々には限界があります。
どこか本局に目を付けられない場所に移送するかしないと…」
「それならば、目途は付いている」
「え?どこですか?」
「彼女たちの所に送り帰してやるのさ」
その言葉を聞き、シェルディは一瞬解らないような顔をしていたが、
「あ~、彼女たちって…AAAクラスの魔道師の?」
理解してマルレーンに問う。
「あぁ。リンディ提督の所だ」
マルレーンは笑顔でそう答えた。


一方その頃、昨日の宴会が祟ったのか…
ハラオウン家は地獄絵図と化していた。
フェイトやなのは達は、スフィレに両脇で抱えられる形で眠っていたり、
エイミィは机に突っ伏して眠っていたりと様々だった。
ピッ…ピッ…
和室のメインモニターに何者かの通信が入る。
「…う~ん。通信?誰からだろ…」
エイミィは寝呆け眼で和室に頓挫し、通信を開いた。
するとそこには…
「おはよう、エイミィ・リミエッタ通信士」
額に青筋を浮かべたマルレーンが映し出されていた。
「え…?り、リリー・マルレーン艦長!?」
「これで通算10回目の呼び出しだ…まったく。
よく眠れたかね?」
「あ、えと、そのぉ…」
言い訳を考えようとしているエイミィに「いや、冗談だ」と言うと、
マルレーンは真剣な顔持ちになる。
「…実はな、今日の未明にリインフォースを保護した」
「え?リインフォースってあの…!?」
「あのとかこのとかあるのか知らんが、
とにかく…闇の書事件当時に消えたリインフォースだ」
「でもどうして…」
「さぁな。意識を取り戻しておらんだけに理由が分からん」
「じゃあ、ここに連絡した理由っていうのは?」
「意識が戻り次第、君達の所…まぁ、厳密に言えば八神はやての元に戻すつもり…という旨を伝えたかった」
「じゃあ、すぐにでもはやてちゃんに伝えますね」
「…いや、意識を取り戻し、彼女の元に戻るまで話さないでいて欲しい」
ディスプレイに映るマルレーンの顔が厳しい顔持ちから、苦笑いに変わった。
「それってつまり…黙ってろってことですか?」
「おしゃべり好きな君にとってみれば苦痛かもしれんが…ほんの数時間の辛抱だ」
「はい…なんとか頑張ってみます」
項垂れるエイミィを尻目に、「頼むぞ。じゃあ、また連絡する」と言い、通信を切った。
「…えっと、よくよく考えてみたらかなり凄いことになってるってことだよね?」


その後、皆が起き始め各自でくつろぎモードに移っていた。
「うにゃ~、首が痛い」
なのはが首を擦る。
「あはは、ごめん」
「酒癖が悪いのは相変わらずなのね」
呆れるリンディ。
「ん、エイミィ、起きてたのか?」
「うん。そりゃあ、いつまでも寝てられないよ。
色々と処理とか作業が残ってるんだから」
問いかけるクロノに対し、適当にはぐらかすエイミィ。
「そういえば、シグナムとミカさんは?」
「あの二人なら、海人さんと一緒にランニングに出かけてますよ」
フェイトの問いに、那美が答える。
那美の腕の中では未だに、久遠が寝息を立てていた。
「久遠ちゃん、まだ寝てるんですね」
「えぇ。妖孤って言っても、まだまだ子供だから。
封印を解除しない状態で寝かしてもいいのだけれど、こっちの方が都合がいいんです」
那美は微笑みながら、久遠を起こさないようにそっと撫でる。
「でも、こうして見ると本当にただの狐ですよね?」
「そんなことを言ったら、アルフやザフィーラだって一見してみたら、ただの大型犬だよ」
「当の本人達はそんなつもりはないでしょうけど…」
苦笑交じりにそう言うフェイトであった。
その本人達は寝息を立て、犬のように寝ていた。
もちろん、魔力の消費を抑える為の省エネ(小型犬)モードだ。
「ふわ…まだ眠ぃ…」
ヴィータが目を擦りながら欠伸をする。
「あんなにはしゃいだのは久し振りだったしね。
私も寝不足…ふわ」
シャマルも立て続けに欠伸。
「みんなだらしがないぞ…まだ事件が解決したわけじゃないんだ。まったく」
それを見たクロノは溜め息をついた。
「堅いこと言うなや、クロノ君。みんな疲れてるんは事実やし」
それにすかさず反論するはやて。
「そうだぞ、くろのん。
みんな…くろのんみたいに無尽蔵じゃないんだからさ」
「無尽蔵って…僕はロボットか何かですか!
それと、誰がくろのんですか!」
スフィレに反論されるとは思わなかったのか、
クロノは面を食らいながらも反論する。
“くろのん”と呼ばれた事に腹を立てたのか?
謎は深まるばかりである。

一方、その頃ランニングに出ていたシグナム、ミカ、海人の三人は…
「海人執務官。少々お伺いしたい事が…」
「何だい?」
走りながら聞くシグナムと答える海人。
「何故、海人執務官は」
「海人でいいよ。その方がこっちとしても気楽だし」
「では、海人さん。
何故、我々に協力を?」
「…最初に言ったかもしれないけど、俺達は君達に協力するためにここに来た」
「力をつけさせるためとはいえ、少々無謀な気がしますが…」
というシグナムの言葉に対し「無謀か…確かにそうかもな」と呟く海人。
「でもさ、シグナム。
海人さん達がいなきゃ、私は多分シグナムたちの敵だった。
それでたくさん人を傷付けていただろうし、下手したら死んでいたかもしれない」
ミカ自身も、シグナムの言葉に反論していた。
「俺達自身上手く行く保障なんて何処にもなかった。
でもやらないで後悔するよりも、やって後悔した方がいいだろ?
結局はそういうことさ」
「理屈無しの大勝負…といった所ですか?」
「シグナムがミカを助けたい…そう思った事も理屈無しの大勝負だろう?」
思いがけない海人の質問返しに、苦笑気味のシグナム。
ミカは若干赤面気味だ。
「答えにゴールなんてものは存在しない。
ただプロセスは必要だ。
答えを導くには途中式がないとね。
まぁ、シグナムもミカも自分に部下や大切な人が出来たら分かるさ。
…提督の家に着く前に一戦交えるかい?」
海人はそう言うと、シグナムとミカの前でデバイスを揺らした。
「一度交えてみたかったもので…よろしければ」
「あー!ずるい!!私もっ!」
素早く構えるシグナムに対し、ミカは地団太を踏む。
「何なら二人いっぺんっていうのもアリだぞ?」
その海人の言葉に一瞬考えるシグナムだったがミカの視線に耐えられなくなったのか…
「分かりました。では、二人で」
と言うのであった。
早朝のこの時間、誰一人として公園に来る者はいない。
デバイスのみを実体化させると、三人は練習試合を始めた。
結界を張っていないため、派手な動作こそ出来ないが、
打ち込みや回避など充実した動きならばすることが可能だ。
「せいっ!」
「はあっ!」
シグナムと海人のデバイスが火花を散らしつつ拮抗する。
「なかなかの太刀筋だ…悪くない。だが、もう少し力を抜いたほうがいいぞ」
「お褒めに預かり光栄です。しかし…海人さんも人の事を言える立場で?」
距離を保ちつつ、互いの評価を口にする。
「次は私だね!」
ミカはそう言うと同時に、海人との距離を詰める。
グングニールは槍だ。
薙ぐことも突くこともできる…言うなればクロスレンジ(接近戦)専用の武器である。
距離を詰め、一気に相手の急所を突く事ができれば…
相手がどんなに強くとも倒す事が可能である。
しかし、間合いの詰め方が甘かったのか…「おっと!」と簡単に避けられ、
間髪入れずにミカのデバイスに自分のデバイスを叩き込む海人。
何とかバランスを崩さず、その場に留まるミカ。
「間合いの詰め方まではよかった。
自分から居場所を教えるような真似はしちゃいけない。
俺が相手じゃなかったら、確実に大ダメージだぞ」
海人からの的確な指摘にグングニールは『確かにマスターの弱点ですね。
言っても聞かないんですから…困ったものです』と呟くように言った。
「ちょ…!こら!!」
意外なところからの攻撃にうろたえるミカ。
その様子を少し楽しげに見ているシグナム。
「デバイスの特性を考えれば、無闇に突っ込むだけじゃ駄目だ。
デバイスを信じろ」
「は、はいっ!!」
『良かったですね、マスター。
やっと猪突猛進と呼ばれなくなりますよ』
「こんなんじゃ信じたくても信じられない~」
ビュン!
そんな隙だらけのミカに対し、すかさず海人の追撃が入る。
しかし、それを上手く受け流し、ミカは体勢を整える。
「よく避けた。なかなかだ…だが…!」
神無月が淡く光り、一瞬周りの空気が変わったのかと思うと同時に、
ミカの周りに無数の青白い球体が出現した。
「げっ…瞬間追尾魔法(イクスプロード)?!」
「イクスプロード!ファスト!」
その球体は真上に飛び上がり、今にも敵であるミカに襲い掛かりそうな勢いだ。
魔法に気付いたミカは全身に防御壁を纏う。
「イクスプロード!セカンド!収束…チャージ…」
しかし、その無数の球体は海人の展開している魔方陣に吸い込まれていく。
「まさか…収束砲撃?」
シグナムの呟きに「収束はしているが、実際は違うさ」と海人が答える。
「実際は収束分離砲撃。ようは、魔力放出のショットガンと考えてくれればいい」
「ということは…収束砲撃として魔力は放つけど、そのあと魔力が分裂するって事?!」
その攻撃を実際に食らうであろうミカは、もう涙声である。
「追尾性能もあることを忘れるなよ?イクスプロード!ファイナル!」
牙突の構えから、一気に魔方陣を突く。
同時に最初は収束砲として、ミカに向かっていく。
それが突然爆ぜる…ように見えたが、それは分裂の予兆だった。
分裂したのはミカの防御壁の手前である。
防御壁にヒビが入り、ミカは更に泣く。
「ひっ…!そんな全力で来なくても…!!」
その先の言葉を誰も聞くことはなかった。
何故なら、防御壁は粉々にされ、中にいた当人は気絶。
「やりすぎたか」
「いえ、今のミカにはこれぐらい必要だったでしょう。
彼女は私が運びます」
悪びれる海人に対し、シグナムは微笑をこぼしつつ、ミカを背負う。
こうして三人の長いランニングは終了したのである。

事が動いたのは夜だった。
あの二人…ティアとフリアが現れたのである。
「…ミカは裏切り者…」
「裏切り者は処分…」
二人はまるで呪詛のように呟く。
現場に着いたなのは達は、その二人の様子に疑問を抱く。
「ティアさんとフリアさん…様子がいつもと違う」
「アリシアはいないみたいだけど…」
なのはとフェイトがそれぞれ口にした瞬間、結界が張られる。
「ティア!フリア!もうやめよう!こんなことっ!!」
新しい防護服に身を包んだミカが彼女達に向かって叫ぶ。
しかし、彼女達が出した答えは…魔力砲撃による攻撃だった。
最終更新:2013年08月21日 17:50