雨のせいで薄暗くなった道を、ボクはぼんやりと歩いていた。
生きる気力も、未来への希望も砕かれたボクは、自分がどこを歩いているのかも解らなかった。
どれだけ彷徨ったのだろう。
気がつくとボクは大きな車道の上に立ち尽くしていて、大型トラックが正面から走ってきていた。
ボクはそれをぼんやりと眺め、
このまま死ぬのも悪くないと思い、迫り来る死の瞬間を待った。
なぜ目を閉じようとしなかったのかは解らないが、
もしかするとボクは、自分が死ぬ瞬間までこの醜く残酷な現実という世界を目に焼き付けたかったのかもしれない。
これでようやく楽になれる。
そう思った瞬間、ボクの体は左から右へと弾き飛ばされ、混乱するボクにわき目も降らさずに、トラックは走り去ってしまった。
その時ボクを弾き飛ばした原因が…ボクの上にいた。
ボクは、その原因になぜ助けたのかと聞こうとそれを見上げた。
その時、時間が止まった。
何の比喩でもなく、文字通りの意味で…少なくとも、ボクにはそう感じられた。
なぜならそれはこの世のものとは思えぬ程に美しく、気高く、そして…神々しく、禍々しかった。
その髪は、鮮やかな銀色だった。
その瞳は、美しい桜色だった。
そしてその瞳には、神々しさと禍々しさが同居していた。
彼は口を開き、こう言った。
「そなたがなぜ死に急ぐのかは知らぬ。
だが、死んで楽になるにはまだ早くはないか?
死ぬことはいつでも出来る。
騙されたと思って、我等と共に生きてみんか?
我等なら、お前に生きる目的を作れると思うのだが…どうだ?」
「…なぜ、ボクを?」
「ただの気まぐれだ。それよりもどうする?
もしついて来るならば、我が名を呼べ。
我が名は、龍神一族が暗部の一人…沙紅羅木舞人(さくらぎ まいと)、舞人と呼ぶが良い。そなたの名は、何と言う?」
「ボクの名前は……」
これがボクと師匠の出会いであり、弱く、臆病だった長谷部涼が、誇り高き戦士足らんとする龍神猟二として生まれ変わった瞬間だった――
四年後……
窓から差し込む朝日で彼…龍神猟二は目を覚ました。
「う~。朝か?」
猟二はムクリと上半身をベットから起こすと、
枕元に置いてある目覚まし時計(鳴る前に起きることが多いので、滅多に使われることはない)を手に取り、アラームを切り、時間を確認をする。
六時半だった。
もっと惰眠を貪るつもりだったが、目が覚めてしまったものはしょうがない。
二度寝をしたら確実に寝過ごすことが解りきっている為、仕方なくバスルームへとシャワーを浴びに行く。
「なんか損をしたような気がするな」などと、どうでもいいことを呟きつつシャワーを浴び、その腰まで届きそうな長い金髪を丁寧に洗う。
四年前まではコンプレックスの塊だった自分の女顔とこの金髪も、今ではそれなりの愛着を持てるようになっている。
何しろ、顔も覚えていない産みの親が残してくれた物だ。
それに、全く役に立たないものでもない。
髪というのは意外と使える武器になる。
使えるものは何でも使う…それが龍神だ。
脱衣所で制服に着替え、鏡を見ながら髪を整え、縛って簡単に纏める。
その後パンと牛乳、目玉焼きという簡単な朝食をとり、四年ぶりに通う高校の準備をする。
鞄の中に入れるのは、メモ帳、生徒手帳、筆記用具、鉄扇、スローイングダガー二本、9㍉リボルバーマグナムシルバーゲイル、9㍉オートマグデザートストーム、スペアマガジンetc・・・
流石に愛刀である斬魔大剣は持ち歩くわけにはいかない為、異界へと意識を飛ばし、いつでも召喚できることを確認する。
これで、万一の時も安心だ。
「…うむ、準備よし!」
ふと時計を見ると、家を出るのにちょうど良い時間になっていた。
「さて、行きますか」
彼はテレビの上の写真立てに目を向けた。
その写真には、七人の男女が写っていた。
場所はどこかの洋館の庭らしきところで、そのうち一人の少年は、髪の色がプラチナブロンドであることを除き、猟二と瓜二つの姿を持っていた。
「行ってきます。師匠、父様、母様、兄様、姉様」
猟二は写真に向けて微笑むと、初めて歩く通学路へと足を踏み出した。
――さぁ、頑張ろう。今日は編入初日だ――
久遠「え~・・・宣伝してから随分経ちますが、兄の丑男とともに創作した小説です。
Roter Tanzer(ロート・タンツァー)とは、ドイツ語で『赤い踊り』と言う意味です。
でも、まだ序章・・・先は長い。
しかも、元々書いてあったやつを僕が改行・・・これがまた重労働で。
では、次回の第一章~よくある編入の日~をご期待ください。」
最終更新:2013年08月21日 18:01