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第1話「クライン-Hermit(ハーミット) Angels(エンジェルス)-」

コツ…コツ…コツ…
一人の少女が廊下を歩いていた。
「あ、見て!あれって、クライン様じゃない?」
「本当だ!…綺麗~」
コソコソと女性徒たちが話しているが、少女は気にすらしなかった。
いつも通りだからである。
容姿端麗、成績優秀、強さが彼女の魅力であった。
それ故、憧れる生徒が殆どである。
少女はある部屋の扉の前に立つ。
そして一言。
「たのもーっ!!」
バンっ!と大きな音を立てて、両手開きの扉を勢いよく開く。
すると、中にいた人物が溜め息混じりに、
「クライン君…ここは道場じゃないんだから、もう少しお淑やかに出来ないのかい?」
と言った。
「じゃあ、やり直しましょうか?」
少女…クライン・ハーミットが口を開いた。
「そういうわけじゃなくてだね…いや、君に何を言っても無駄か。
仕事の件お疲れ様。
報酬はいつも通り、ベル代表の下に送っておけばいいのかい?」
「一方的に話さないでくれます?ケイト・テレス生徒会長」
社長が座るような椅子に座っていた人物にそう言葉を掛けるクライン。
「すまないねぇ…こっちもいつもの癖で」
「それよりも、どういうことですか?
学園の地下にブレイカーたちが巣喰っているなんて…私も母も初めて知りましたよ」
「いやね、僕も彼女(メアくん)に聞いて初めて知ったのさ」
「メアに?」
その言葉のあと、ケイトの後ろの扉からそっと出てくる一人の少女がいた。
セン・メア…生徒会書記・HA隊のサポート役である。
「はい。私が再チェックした時に、いきなり数が増えだして…」
「メア君のせいじゃないさ。
兎にも角にも…今日か明日中に集会を開かないといけないのは確かだ。
これ以上ブレイカー達を野放しにしておけば、一般生徒に影響が及びかねない。
僕達に時間は無いんだ、分かるね?二人とも」
ケイトの言葉に頷く二人。
「でね、クライン君。
君についてまた良くない噂が流れ込んできてるよ?」
「どうせ、喧嘩っ早い女とか…そんなところでしょう?」
「質問に質問で返さないでくれるかな?
…僕たちは一般生徒たちを護る立場なんだ。
その一般生徒に手出しをすることは、HA隊の信頼を損なう事になるんだよ」
クラインはその言葉を聞いた途端、ケイトの机を両手で叩いた。
バンッ!
「だったら!
ブレイカー達からお前達を護ってるってことぐらい言ったっていいじゃない!
母さんが決めた規律か何か知らないけど、
これじゃ…私達が何の為に戦っているのか分からないじゃないですか!!」
そして叫ぶ。
「何の為に?僕は言ったよ。
一般生徒のためにって。
それに、護られている立場の人間が護っている立場の人間にそんな事を言われたらどうなると思う?
僕だったら、ふざけるな!勝手な事ばっかり言いやがって!
誰がそんな事頼んだんだよ…と言いたくなるね。
だってそうだろう?
ブレイカーの存在だって、この頃曖昧なんだ。
政府も国も全部隠そうとしている。
まるで、この国にはそんなものは存在しない。
この国は平和ですから安心してください…そう言っているようにも思える」
つまり、とケイトは続ける。
「一般生徒に口外しようものなら、全生徒を敵に回すことになり、
せっかく築き上げてきた信頼も全てがパーだ。
もちろん、ベル代表も降りるしかないだろうね」
持論を論破されてしまったクラインは、やり場のない怒りに身を震わせ、
「失礼しました!」と怒鳴って生徒会室から出て行ってしまった。
「クラインっ!」メアも彼女を追って、出て行ってしまう。
「…ふぅ。
ベル代表も大変だ…こんな娘を持って…」
ケイトは溜め息をつきながら、メアの持ってきた書類に目を通すのであった。

「待って、クライン!」
ずかずかと中庭を歩くクラインを呼び止めるメア。
「何よ。メアも私に文句があるわけ?」
少しキツめの表情でメアを睨みつけるクライン。
「ち、違うって!さっきの会長の言葉…間違ってないし、
クラインが一番分かってる事でしょ?」
「よく分かってるから論破されたの…」
「クラインの馬鹿ッ!!分からず屋!!
私が言いたいのはそういうことじゃなくて、クラインの言った事も正しいって…ひっぐ…」
メアは泣きながら叫んだ。
クラインはやってしまったという顔をする。
そう、メアは感情的になるとすぐに泣き出してしまう性格なのである。
そして彼女にとって、クラインは憧れ以上の存在。
故にこんな事を言われれば、感情的になってしまう事は明白だった。
「ごめんメア。…言い過ぎた」
「うぅ…ぐす…ひっぐ…」
メアの頭にポンと手を置くと、静かに撫でる。
その様子を遠巻きに見ていた生徒たちは、男子も女子も関係なく目がキラキラとしていた。
一部の生徒達を除いて…

「あのクラインって女…マジでむかつくよな」
「ええ…いい子ぶって。何か方法はないかしら?」
その様子を遠巻きに見ていた一部の生徒達が毒づいた。
「ならよ。あの大人しい方を狙ったらどうだ?」
その中のリーダー格らしき男子生徒が言った。
「そうだな。あっちをちょちょいと拉致れば、あの女も手出し出来ねぇだろうし」
もう一人の男子生徒が、けらけらと笑いながらそれに応じる。
「手筈はこうだ。
まず、あいつを油断させといて拉致る。
でもって、クライン・ハーミットを呼び出し…ひひひ」
下卑た笑いを浮かべる生徒達。
しかし、それに納得していない生徒がいた。
「ら、乱暴は駄目だろ!俺たちの流儀に反する!!」
一人の男子生徒…キララギ・セイヤが言った。
「あん?キララギ、あんたまさか…あの女の肩を持つっての?
この際どうでもいいの。
あのクソ女をどうにかできればね」
セイヤの反論に女子生徒が吐き捨てるように答えた。
「お前もこんなことするようなタマじゃないだろ!
どうして…!」
「うるせぇな。お前もやるぞ?」
「くっ…!」
「邪魔すんなよ。俺たちだってもう止まれないんだ。
勝手に入ってきた連中に、好き勝手やられて黙ってられるかってんだ!
おい、手筈通りだ…いいなっ!」
リーダー格の男子生徒はそう言うと同時に、周りの生徒達に指示を出す。
一方のセイヤは、悔しさを顔ににじませていた。
――どうにかして止められないのか?!くそっ!!――
やり場のない怒りをただただ自分に向ける事しかできないセイヤであった。

そして、その日の放課後…
ケイトに呼び出されたクラインは生徒会室にいた。
「で、何ですか?会長」
「これを読みたまえ…まったく次から次へと」
ケイトに手渡された手紙を受け取り、読む。
するとそこには…
『クライン・ハーミット。
お前の大事なセン・メアは預かった。
返して欲しくば、17時に体育館まで来い。
もし来なかった場合…どうなるか分かるよな?優等生さん』
と書かれていた。
手紙を読み終わると同時に、クラインは手紙をぐしゃぐしゃに丸める。
「会長、これは?」
「僕も来た時にこれが置かれていてね…メア君が一般生徒に拉致されたと把握したんだ」
怒りを露わにするクラインとは対照的に、やれやれといった感じのケイト。
「どうしてそこまで冷静にしていられるんですか?!」
「逆に聞くけど、ここで怒ったってしょうがないでしょ?
怒るなら怒る対象がいる所じゃないと」
「どうして会長はあー言えばこー言うんですか!」
「さぁ、何でだろうね?ともかく場所は分かってるんだ。
さっさと片付けてこないと」
「言われなくたって」
行きますよと言おうとした時、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。
「…!」
危うくその開け放たれた扉にぶつかりそうになったクラインは、
その扉を開け放った犯人をキッと睨みつける。
「まずはノックをしてから…じゃないのかな?」
「す、すいません!でも、これだけは言っておきたくて…!」
話が見えないんだが…とケイトが言おうとした時、
「申し訳ありませんでした!!」
と、その人物が叫んだ。
「何が申し訳ないんだい?」
「俺の、俺のダチがアンタの友達に手を出したってこと!」
その言葉に反応するクライン。
「なんですって?」
「だから、俺のダチが…!」
「違う!」
「こらこら、クライン君。
そんなにがっついても答えは出ないよ?
で、君は何でそのことを僕たちに言うんだい?」
突っかかるクラインに対し、冷静に状況を把握しようとするケイト。
「許せなかったからだ…他人に乱暴をするあいつらが」
「じゃあ聞くけど、何で君は彼らを止められなかったんだ?
友達なんだろう?」
「そ、それは…」
口ごもる少年に対し、クラインは鬼の形相で睨みつける。
「止められなくて、私達に許しを請おうと思ってたの?
許してくれって言われて許せるわけがないでしょ!
実際にメアは、あんたの友達とやらに拉致されてるの!
分かってんの?!」
そして胸倉を掴み、壁に叩きつける。
「殴りたきゃ…殴ってくれ」
「っ!!」
殴ろうとしたとき「クライン君!キララギ君を放すんだ!!」とケイトが怒鳴る。
「キララギ・セイヤ君。
告発してくれた事は評価に値するけど、行為自体を止められなかったのは評価できない。
だが、情状酌量の余地はある…クライン君。
怒りの矛先は思う存分、キララギ君じゃない方にぶつけてきたまえ。
僕が許可しよう。
ただし、殺さない程度にね」
「了解…」
ケイトの言葉に納得しているのか、いないのか…扉の前に立つと、
「カペラ学園の秩序と名誉の為、これよりHA隊の隊長として…
乱暴狼藉を働く生徒に粛清を加えてきます!」
と叫んだ。
セイヤを一瞥すると小声で「ありがとう、教えてくれて」と言い、生徒会室を出て行った。


「ふぅ…まったく、素直じゃないねぇ…クライン君は」
呆然とするセイヤに対し、机にある電話に手をかける。
「あの…いつもこんな感じなんですか?」
「ん?ああ、そうだね。
クライン君は、この学園での最初の友達がメア君だったからね。
怒るのも無理ないよ」
「あと、俺はどうして…」
セイヤは俯いたまま、そう言った。
「君に罪はないといったら嘘になる。
だけど、君は僕たちに知らせてくれた…だからさ」
「…だから、クラインも?」
「あれは彼女なりの感謝の表しさ。それよりも、見たくないかい?
クライン君の勇姿」
にっこりと笑うケイトの手には何やらテレビのスイッチのようなものが握られていた。
「見たくないって言ったら嘘になるけど…でも」
「学園長には連絡済み。
そして、その学園長が顔面蒼白にして今ここに向かっている。
証拠映像を見せるチャンスだろう?」
「あいつらはどうなるんですか?」
「さぁ?クライン君の機嫌次第だよ。
良ければ半殺し。悪ければ殆ど死んでいるといっても過言じゃないぐらいにボロボロ。

「そ、そんな…」
「彼女を怒らせてしまったのが彼らの運の尽きだ。さて、そろそろだね」
覚悟を決め、セイヤはモニターに目を移すのであった。

体育館内…
「あいつは来るかねえ?」
「来るに決まってんでしょ!私たちはそれだけ命かけてんのよ」
「あ、あの…」
椅子に軽く縛られているメアが口を開く。
「あ?あんだよ?」
威圧するように一人の男子生徒がメアに詰め寄る。
「あまりクラインを怒らせない方が…」
「忠告感謝する。だが、先程も言ったように俺たち後には引けないんだ」
リーダー格の男子生徒がメアの忠告に横槍を入れた。
その時、体育館の鉄扉が勢いよく開いた。
夕日を背に立つのは…クラインだった。
「来たか…クライン・ハーミット!」
まだ、彼らは知らない…彼女が、クラインが怒り狂っているということを。
いや、知らない方がいいのかもしれないが。
しかし、彼らはこの後知ってしまうこととなる…彼女の恐ろしさを。
「友人を傷付けた貴様らに謝罪の余地も与えず、
断罪することを今ここに決定させてもらう!」
「はっ!何が断罪だ!!女の癖に生意気なんだよ!!」
そう言って、一人の男子生徒がクラインに殴りかかる。
しかし、その拳はクラインに当たることなく空を切った。
「なっ!?」
「遅い!!」
ドスッ!
鈍い音を響かせ、男子生徒の胸部に回し蹴りを喰らわせる。
「が…あぐぅぅ」
クラインの足元で悶える男子生徒。
その生徒には目もくれず、他の生徒を睨みつけながら歩き出すクライン。
彼女の周りから出ているのは殺気である。
異様なオーラに一人を除いて怯える生徒たち。
「さすが…クライン・ハーミットといったところか」
「そりゃどーも。まだ本気じゃないけどね」
「なら、本気を出してもらおうか」
リーダー格の男子生徒がメアの首筋にナイフを突き立てる。
「うっ…く、クライン…」
「本気を出さないのであれば、こいつが傷つくことになる」
「…なせ」
「ん?」
「メア(その娘)を離せ!!」
最初に踏み込んだのはクライン。
そしてその手に持つのは、小振りの鞘付き剣『獄炎―イグニス―』。
それを思い切り横に凪いだあと、上へ思い切り振り上げる。
「死ね!死ね!!」
目が本気だった。
「ま、待て!!何(ry
がはっ…!!」
ボコボコにされていくリーダー格の男子生徒。
それを震えて動けなくなった生徒たちが見ていた。
一頻り剣で殴り終わったあと、他の生徒達の方へと首を向け「次は誰?」と笑顔で言った。
だが、目が笑っていない。
すると、一人の女子生徒が「あ、アンタは一体何者なのよ!!」と恐々と叫んだ。
クラインは『獄炎―イグニス―』を腰のマウントに仕舞い、大きく息を吸うと
「私の名前はクライン・ハーミット。
カペラ学園生徒会副会長兼HA隊カペラ学園科隊長!!
貴様らのような輩を断罪する者である!!」と言い放った。
その声と同時に、体育館に流れ込んでくる警察官たち。
そのあとを追うように、怒りを露わにしている様子の学園長。
「クライン・ハーミット…今回の件に関しては、私達の危機管理不足です」
「別に構いません。誰かに感謝されるためにやっているわけではないので。
特に今回の件は」
「友達が拉致されたからですか?」
「それもあります。
一般生徒たちに悟られないためにも、私たちは戦わなくてはいけないんです」
「…とにかく、今回の件は被疑者の生徒たちによく言い聞かせておきます」
「よろしくお願いします」
学園長とのやり取りを終えたクラインは、メアの元へと駆け寄った。
そして思い切り抱きしめる。
「く、クライン?」
「よかった…よかったよぉ…」
キョトンとしているメアをよそに、泣き崩れるクライン。
何だかんだ言っても、彼女もまだ子供なのである。
友達が無事で安心し、緊張の糸が切れたのだろう。
キョトンとしていたメアも、そんなクラインの頭をそっと撫でた。
最終更新:2013年08月21日 18:06