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クリフトのアリーナへの想いはPart6 801 :【和み】1/3 ◆cbox66Yxk6 :2007/01/19(金) 12:28:33 ID:InYMedjq0 「はぁぁぁ、落ち着くのぉ」 「まったくですなぁ」 アリーナが父王とブライのために、わざわざ遠い異国から取り寄せてくれたという『炬燵』という暖房器具に足を突っ込みながら、ふたりはのんびりお茶をすすっていた。 「幸せじゃのう……」 「そうですなぁ……」 お転婆で知られているアリーナが細やかな心遣いをしてくれたという喜びもさることながら、なによりその暖房器具からもたらされる安らぎに思わず笑みがこぼれる。 「気持ちがいいのう……」 「癒されますなぁ……」 暑すぎず、寒すぎず。 程よいぬくもりに包まれたふたりは、新年の行事の疲れもあってか、いつしか心地よい眠りへと誘われていった。 「『炬燵』ってね、すごいの」 目をきらきらさせながら話しかけてくるアリーナに相槌を打ちながら、クリフトはカップに紅茶を注いだ。 「ただ温かいってだけじゃなくてね……」 カップを満たしていく紅茶から、甘い香りと共に真っ白な湯気が立ちのぼる。 「何ていうか、抜け出せなくなるくらい気持ちがいいの」 教会脇の簡素な部屋にある暖房器具は小さな暖炉がひとつだけ。 だから、紅茶の湯気が主張するように少し寒い。 クリフトは、この部屋の唯一の暖房器具である暖炉の正面にある寝台に腰かけてニコニコと笑うアリーナにカップを差し出すと、迷わずその横に座った。 「そのご様子だと、かなりお気に召されたようですね」 「うん。お父様もブライも大喜び! さっきも部屋の中をそっと窺ったら、ふたりで転寝してたわ。これもクリフトが『炬燵』の存在を教えてくれたからね」 ありがとう、とお礼の言葉を続けたアリーナだったが、ふと黙り込むとクリフトの部屋を見渡し俯いた。 「クリフトにも『炬燵』をあげればよかったね」 ごめんなさい、気が利かなくて。 小さく呟かれた言葉を耳にして、クリフトは少し複雑そうな顔をした。 「姫様」 「なあに?」 呼び掛けに応えてアリーナが傍らを見ると、思いがけず近くにクリフトの姿があった。 「お心遣いは嬉しいのですが……その、私は……」 頬が赤いのは、暖炉の炎のせいか。 クリフトはアリーナの手にあるカップを受け取り、傍らへ押しやるとさらに距離を詰める。 「寄り添う口実がなくなってしまうと……」 少し冷たいアリーナの指先をクリフトのあたたかな手が包み込む。 「……困ってしまいます」 熱い吐息と共に囁かれた言葉が、アリーナの耳朶を熱くする。 「クリフト……」 「姫様……」 ふたりの視線が交わり、吐息が重なった。 「そうね。あなたとこうしていられるなら、寒いのも悪くないわね」 「いかん。眠っておったわ!」 なにやら不吉な夢を見た気がして、サントハイム王は、はっと目を覚ました。 傍らを見れば、ブライが気持ち良さそうに舟をこいでいる。 王はその肩を掴み揺り起こす。 「ブライ。アリーナはどこじゃ?」 「……存じ上げませんのう……」 とろんとした目で応え、再び眠りにつこうとするブライを王はさらに激しく揺り動かした。 「悪いが、あやつの部屋をちと見てきてくれんかのう」 心地よい眠りを邪魔されて、ブライは顔を顰めた。 「クリフトの部屋は寒いからいやですじゃ」 そんなに気になるなら、陛下がいかれればよいでしょう。 素気無く断られ、サントハイム王は子供のように頬を膨らませた。 「わしだって寒いのはいやじゃ」 「だったら諦めてくだされ」 「それもいやじゃ」 「でしたら、ご自分で」 「いやじゃ」 「………………お尻に根っこが生えて動けませんのう」 「………………わしの膝の上には猫がおって動けぬ」 魅惑の暖房器具、その名は『コタツ』 その魅力に囚われしものは、思考力と行動力を奪われるという。 「和み」という名の足止め。 ―――どうやらクリフトの目論みは成功したようだ。                                       (終)
クリフトのアリーナへの想いはPart6 801 :【和み】1/3 ◆cbox66Yxk6 :2007/01/19(金) 12:28:33 ID:InYMedjq0 「はぁぁぁ、落ち着くのぉ」 「まったくですなぁ」 アリーナが父王とブライのために、わざわざ遠い異国から取り寄せてくれたという『炬燵』という暖房器具に足を突っ込みながら、ふたりはのんびりお茶をすすっていた。 「幸せじゃのう……」 「そうですなぁ……」 お転婆で知られているアリーナが細やかな心遣いをしてくれたという喜びもさることながら、なによりその暖房器具からもたらされる安らぎに思わず笑みがこぼれる。 「気持ちがいいのう……」 「癒されますなぁ……」 暑すぎず、寒すぎず。 程よいぬくもりに包まれたふたりは、新年の行事の疲れもあってか、いつしか心地よい眠りへと誘われていった。 「『炬燵』ってね、すごいの」 目をきらきらさせながら話しかけてくるアリーナに相槌を打ちながら、クリフトはカップに紅茶を注いだ。 「ただ温かいってだけじゃなくてね……」 カップを満たしていく紅茶から、甘い香りと共に真っ白な湯気が立ちのぼる。 「何ていうか、抜け出せなくなるくらい気持ちがいいの」 教会脇の簡素な部屋にある暖房器具は小さな暖炉がひとつだけ。 だから、紅茶の湯気が主張するように少し寒い。 クリフトは、この部屋の唯一の暖房器具である暖炉の正面にある寝台に腰かけてニコニコと笑うアリーナにカップを差し出すと、迷わずその横に座った。 「そのご様子だと、かなりお気に召されたようですね」 「うん。お父様もブライも大喜び! さっきも部屋の中をそっと窺ったら、ふたりで転寝してたわ。これもクリフトが『炬燵』の存在を教えてくれたからね」 ありがとう、とお礼の言葉を続けたアリーナだったが、ふと黙り込むとクリフトの部屋を見渡し俯いた。 「クリフトにも『炬燵』をあげればよかったね」 ごめんなさい、気が利かなくて。 小さく呟かれた言葉を耳にして、クリフトは少し複雑そうな顔をした。 「姫様」 「なあに?」 呼び掛けに応えてアリーナが傍らを見ると、思いがけず近くにクリフトの姿があった。 「お心遣いは嬉しいのですが……その、私は……」 頬が赤いのは、暖炉の炎のせいか。 クリフトはアリーナの手にあるカップを受け取り、傍らへ押しやるとさらに距離を詰める。 「寄り添う口実がなくなってしまうと……」 少し冷たいアリーナの指先をクリフトのあたたかな手が包み込む。 「……困ってしまいます」 熱い吐息と共に囁かれた言葉が、アリーナの耳朶を熱くする。 「クリフト……」 「姫様……」 ふたりの視線が交わり、吐息が重なった。 「そうね。あなたとこうしていられるなら、寒いのも悪くないわね」 「いかん。眠っておったわ!」 なにやら不吉な夢を見た気がして、サントハイム王は、はっと目を覚ました。 傍らを見れば、ブライが気持ち良さそうに舟をこいでいる。 王はその肩を掴み揺り起こす。 「ブライ。アリーナはどこじゃ?」 「……存じ上げませんのう……」 とろんとした目で応え、再び眠りにつこうとするブライを王はさらに激しく揺り動かした。 「悪いが、あやつの部屋をちと見てきてくれんかのう」 心地よい眠りを邪魔されて、ブライは顔を顰めた。 「クリフトの部屋は寒いからいやですじゃ」 そんなに気になるなら、陛下がいかれればよいでしょう。 素気無く断られ、サントハイム王は子供のように頬を膨らませた。 「わしだって寒いのはいやじゃ」 「だったら諦めてくだされ」 「それもいやじゃ」 「でしたら、ご自分で」 「いやじゃ」 「………………お尻に根っこが生えて動けませんのう」 「………………わしの膝の上には猫がおって動けぬ」 魅惑の暖房器具、その名は『コタツ』 その魅力に囚われしものは、思考力と行動力を奪われるという。 「和み」という名の足止め。 ―――どうやらクリフトの目論みは成功したようだ。                                       (終)

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