クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.09.20

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kuriari

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クリフトのアリーナへの想いはPart6
204 :200:2006/09/20(水) 20:40:05 ID:ZmBTEk2j0

注)ここではⅣ勇者はエヴァとなっています。

「……っかれた……」

 ばふんと宿のベッドに倒れこんだエヴァに、クリフトは苦笑した。
 確かに今回の旅は敵の強さに加えて山をひとつ超えてきたせいもあり、疲労が多いものとなった。
 足は硬くなっているし、足の裏はすりむけたようにひりひりする。
 クリフトとて今すぐベッドで横になりたいほど、疲れていたが。

「その泥だらけの身体を綺麗にしてから、横になってくださいよ」

 緑の神官服にちらほらついている茶色の汚れを擦れば、ぽろぽろと床に落ちた。
 それでもまだクリフトはマシの方で、エヴァはほとんど泥まみれになっている。
 それもこれも、戦闘中、こともあろうか敵前ですっころんだエヴァ自身のせいである。

「……やだ。疲れた。眠い。つーか腹減った」
「あなたは泥まみれのベッドで寝たいんですか」

 薄暗い宿の光の中、クリフトは泥で汚れた手袋や帽子を外す。

「それもやだ」
「そうですか。じゃあ、私はお風呂を頂いてきます」
「俺を置いていくのか~。クリフトぉ~」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい」
「連れてって」
「引きずっていいならいいですよ」
「……お前、性格悪いよな」
「博愛主義者にも限度があるってことです」
「お前、あれだろ。俺がこの前エンドールでアリーナとデートしたこと怒ってんだろ。この根暗」

 エヴァはベッドに腹ばいになって横目でクリフトの動向を見ていたが、次の瞬間がくんと身体が下がった。

「へ?」

 いきなり足をつかまれ、引っ張られたのだ。
 そのまま、ベッドから引きずり落される。
 思いっきり上半身が床に打ちつけられた。

「……っ……っっっ」

 鼻を思いきり打ち、頬骨がずきずき鋭く痛み、目の奥がちかちか光る。

「な、おま、ちょっ、なに、おま、人殺し!?」
「お望みどおり連れていって差し上げるんです。何が不満なんですか?」
「不満だらけだろ!? なに引きずってんの本気で!」
「痛かったですか? それはすみません。まさか勇者ともあろう方が、その程度でダメージを受けるとは思わなかったので」
「いやいや、思えよ! ……あー、もう、やめれ。俺歩くから。あとベホマしてベホマ」
「ご自身でどうぞ」
「あ、てめこんにゃろ。俺まだベホマ覚えてないって知ってるだろ」
「ベホイミがあるじゃないですか」
「アリーナにはかすり傷でもベホマなくせに!」
「当然です。姫様は大切な身体ですから」
「俺だって大切だろ? この旅の大事な大事な勇者様だろ?」
「……さ、お風呂へ行きますか」
「あれ、無視なの? 完全しかと?」

 俺、勇者だよ?
 と、嘆くエヴァに、クリフトは呆れてため息をついた。



「あれ? クリフトは?」

 風呂上がりに牛乳を呑んでいるエヴァに、アリーナが話しかけてきた。
 アリーナはこれから風呂に入るのか、風呂用具を片手に持っている。

「……お兄さんは悲しいぞ。ナゼにここにいるカッコいいお兄さんではなく、いないどっかの性悪神官なぞを気にかけるかね、お姫さま」
「だって、最近エヴァ、よくクリフトと一緒にいるじゃない」
「やめれー。そんなおっそろしいこと」
「じゃあクリフトと一緒にいないでよー」
「はい?」
「だってエヴァのせいで、クリフトと一緒にいる時間うんと減ったもん。エヴァのせいだもん」

 マシュマロのようなほっぺを膨らましてエヴァを睨む姿は、大好きなお兄ちゃんを盗られた妹だ。
 それをもう少し深く掘り下げれば、恋になるんだろうが。
 まだまだ“少女”であるアリーナには、もう少し先のことなるだろうけれど。
 しかし、無自覚な恋心から、嫉妬を受けるエヴァは嫌そうに頬をかいた。
 どうして野郎のことで女に嫉妬をされなければならないんだ、と。
 人生において、最大の汚点な気がする。
 項垂れたエヴァに、さすがのアリーナも心配したらしい。

「エヴァ、大丈夫?」
「うんにゃ、もう駄目。あ、てか。アリーナ風呂はいんの?」
「え? あ、うん。泥だらけだから、ちゃんと入ってきなさいってミネアに言われて」
「……そっか。いいぞ、風呂はさっぱりするぞ。特にここ露天風呂ついてるから、露天風呂いいぞ。最高だぞ」
「露天風呂もついてるの!?」
「クリフトもな、良いですねって言ってたぜ」
「わぁ露天風呂久しぶり~!」
「じゃあ、ゆっくり浸かってこいよ。いいぞ、ここの露天は。うん。」
「うん! ありがとう、エヴァ!」
「……いえいえ」

 風呂に向かっていったアリーナに、エヴァはひらひらと手をふる。
 それから、にやりと口元を歪めた。



 風呂に上がりさっぱりしたクリフトが、部屋で読書をしているときだった。
 慌ただしくエヴァが扉を開けて入ってきたのは。

「クリフト! アリーナが風呂で倒れたって!!」
「……! ほんとですか、エヴァ!」
「ウソなんかつくかよ! いいから、お前行けって! 俺、あとミネア呼んでくるから!」
「わかりました、お願いします!」
「アリーナ、露天風呂のとこで横にされてるってよー!」

 エヴァの最後の言葉にろくな返事もできず、読みかけの本を投げ出して走った。
 なんということだ。
 クリフトは焦った。
 風呂場の方へと足を進めながら、嫌な想像ばかりが頭を過ぎる。
 倒れるほど、姫様が無理をしているのを気付かなかったなんて。
 焦りは早さとなり、風呂場の扉を開けて露天風呂まで一直線にかけた。
 そして。

「姫様!」
「きゃー!!!!」

 熱いお湯が、頭から滴りおちた。

「……」

 クリフトは、何も言わない。

「な、な、なに……クリフト……?」

 タオル一枚で身体を隠したアリーナが、震える手で桶を握りしめていた。
 クリフトは、固まった。
 鼻の下がなぜか生温かく、それはお湯のせいではないことは、はっきりわかっていた。
 そして、あまりのことに目の前がまっくら、いや真っ赤になり……。

「ちょっと、ちょ、クリフト!? 大丈夫!? クリフトォ!!」


 その後、倒れた神官は姫の手により厚く解放されることになったが。
 復活した神官が、勇者にくだした罰については、勇者のみぞ知る……。

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