クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2006.03.16

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kuriari

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クリフトとアリーナの想いは Part4.2
575 :【舞姫と神官】1/6 ◆cbox66Yxk6 :2006/03/16(木) 12:17:15 ID:o4ZCiKxA0

「あ、姫様!」
「ライアンさん、手合わせ、願えます?」
アリーナは逃げ出した。
「姫様、あの・・・」
「トルネコさん、私の武器のことなんですけど・・・」
アリーナは無視をしている。
「姫様?」
「眠くなってきちゃったわ。おやすみなさい、ブライ」
アリーナは眠ってしまった。

なぜ?どうして?一体何が?

「あ~あ、見事に無視されちゃって」
妙に愉快そうに笑いながら、グラスを片手にマーニャは鉄の扇をパタパタと煽いだ。
その声で我に返ったクリフトは、むっとした顔でマーニャを見据える。
「さては、マーニャさん、何かご存知ですね」
(あらあら、目が据わっちゃって・・・相当応えているみたいね)
大事なお姫様のこととなると見境がなくなるからねぇ・・・。
マーニャが苦笑していると、クリフトはさらに不機嫌になる。
「マーニャさん!」
普段のクリフトからは想像も出来ないほど、鋭い視線。
(ほんとに、からかい甲斐のあるヤツよね)
マーニャはグラスの中身を揺らしながら、しばし思案する。そして、クリフトに艶然と微笑みかけた。
「知ってるわよ。でも、ただで教えるわけにはいかないね。・・・そうね、あたしに飲み比べで勝てたら、教えてあげる」
「受けてたちましょう」
「決まりね」
こうして壮絶なる飲み比べが始まった。

(く、やるわね、こいつ)
マーニャは内心舌を巻いていた。すでに酒場のカウンターは酒のビンが林立状態だ。
マスターは大口の客を捕まえたと喜んでいいものかと少し不安げな表情でこちらを窺っている。
いつもほとんど酒を飲まないクリフトのことを下戸だと高くくっていたのが、どうしてどうして、酒好きライアンも真っ青な飲みっぷり。それでいて乱れたところがまったくない。
マーニャはいつも以上に酔いの回った自分にため息をつきつつ、宣言した。
「あぁ、もう、いいわよ。教えてあげる。一回しか言わないからよく聞きなさいよ」
この声に、クリフトがほっと息をつくのがわかった。
何気にかれもかなり限界に近かったらしい。
悔しい気分もあったが、一度口にしたことを撤回しては女が廃るってもんさ、と気を取り直す。
そしておもむろに口を開いた。

「いや、何。ちょっと男と女の夜の営みについて、話しただけ」

その言葉を聞くや否や、クリフトは顔を真っ赤にした。
「マーニャさん、なんてことを!」
姫様は、姫様は・・・。
あまりのことに言葉が続かない。
マーニャはそんなクリフトの様子を見て、クスクスと笑った。
そしてさらに火に油を注ぐ。
「いいじゃないの、いずれは知ることなんだし」
あんただって、やりやすくなるでしょ?
含みを持たせて流し目を送ると、クリフトは涙さえ浮かべながら言い放った。

「何てことをしてくれたのです!それは、私が手取り足取り、一から姫様にお教えしようと思っていたというのに!!」

煩悩神官の本音、ここにあり。といったところだろうか。
この発言にはさすがのマーニャも驚いた。
「えっと、それは、悪かったわね」
「本当に!あぁ、私の10年来の夢が・・・」
ぶつぶつと己の野望(欲望?)を呟き続けるクリフトに、実は相当酔いが回っていたらしいことを知る。
(へぇ、意外と、ねぇ)
野心家だったのね。
妙な感心の仕方をしながら、マーニャはクリフトを見つめる。
その様子があまりに悔しそうでちょっと可哀相になった。
(結構かわいいわね。そうよね、こう見えて苦労してるもんねぇ、こいつも)
思わず涙ぐんだマーニャ自身、思考がかなり危うくなっている自覚がない。
飲んだ量を考えればわかりそうなものだが、このときのふたりは正常な判断が出来る状態ではなかった。それゆえに見られる、珍しい光景。
がっくりとうなだれ落ち込んでいるクリフトに、昔のミネアの姿が重なった。
マーニャはクリフトの頭に手を伸ばすと、躊躇することなく抱き寄せた。
「あぁ、よしよし、あたしが悪かったわ」
悔し涙を流し続けるクリフトを胸元に引き寄せ、幼い子にするようによしよしと頭を撫でる。
クリフトはそのふくよかな胸すら感じないのか、しくしくと泣き続けている。
本人たちの思惑はどうであれ、その姿は、客観的に見れば相当『親密』な間柄を連想させた。
酒場にいた客たちがからかうのも忘れ、思わず目を逸らしてしまったぐらいだ。

二人のやり取りから大まかな事情を知っていたマスターは、顔色一つ変えずに見守っていたが、ふと視線を感じて階段を見やった。
2階の宿屋につながる階段に佇んでいたのは、艶やかな赤毛の少女。
彼女はふたりの様子にかなりショックを受けているように見えた。
マスターはため息をつく。
(酒は飲んでも呑まれるな)
酒場マスター歴15年。きっとこの先もこの座右の銘だけは変わらないだろうと、ひそかに思った。

翌日も、クリフトは最愛の姫に徹底的に避けられていた。

「あーあ、見事に逃げられて」
マーニャの言葉にクリフトがきっと睨む。
「さては、マーニャさん、何かご存知ですね」
いくつかのやり取りが行われ、マーニャは挑発的な物言いをした。
「ただで教えるわけにはいかないね。あたしと飲み比べて勝てたら、教えてあげる」
「望むところです」
「「マスター、お酒!」」

ふたりの会話を聞いていて、マスターは眉をひそめる。
どうやら、彼らは昨晩の記憶がないらしい。
昨夜と同じ流れの会話を交わしながら、飲み比べに入ったふたりを横目に頭を振った。
(おかわいそうに)
思わず、昨夜のことを話そうかと口を開きかけたが、何を思いついたのか、にこやかに笑いながら立ち上がると、鼻歌交じりに酒が保管してある地下へ降りていった。
「そうそう、今月は赤字だった」
人情家の酒場のマスターも、商売人。
このあと、連夜に渡って行われた飲み比べにより、売り上げを前月比2倍まで伸ばしたマスターは、ほくほく顔でこういった。
「お客様は神様です」

「うわ、何だよ。この請求額!?」
クリフトとマーニャの飲み比べは、ソロのこの一言によって打ち切られることとなる。
そして飲み比べが終わった後も、相変わらずアリーナに避けられ続けるクリフトの姿があった。
マーニャは笑った。

・・・お~ぉ、見事に避けられちゃって。でも、クリフト、あんた結構幸せかもよ?
アリーナが避けてるのってあんただけなんだよね。

それはさ、アリーナにとってあんただけが『男』だってこと。

アリーナの後ろを必死になって追い掛け回しているクリフトをグラス越しに眺め、マーニャは
呟いた。

「煩悩神官に乾杯!」
・・・早く『願い』が叶うといいわね。
                                        (終)
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