「森国人+テストパイロット+整備士2+名医」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

森国人+テストパイロット+整備士2+名医 - (2010/10/18 (月) 04:38:31) のソース

■テストパイロット■

 玄霧藩国のテストパイロットは、宇宙港の作業者や、海港の労働者など、
他国技術を主体として成立している国内産業に従事するうち、
必要から操縦資格・能力を得た者達から生まれている。
 産業育成に備え、国外とのやり取りが増える事などから、
彼らのうちの希望者に対して、本格的なパイロット教育を施した結果として制式採用されており、
整備・医療といった技術力を持ちながら、貿易船の運航など、職務を果たすための操縦技能を、本格的に獲得していた。


 T12~13ターン頃のこと。
 玄霧藩国は森国国家であり、魔法文化や医学文化の育成が盛んであったが、
 宇宙開発や、特務警護官の近代武装化など、科学技術を段階的に取り入れている分野も存在した。
 勿論、その技術レベルは西国国家などと比較すれば落ちるものではあり、
専門技術の運用については、提供元(主に無名騎士藩国など)からの技術者派遣に頼っていた部分が大きい。
 そして、輸送用の艦艇や宇宙作業用のポッドといった、
操作に特殊な技能を要する機材の運用についても、それと全く同じ事が言えた。
 今から4ターンほど昔のお話である。 

 時は流れた。現代の話をしよう。
 今でも、玄霧藩国の科学技術は、特に進歩していない。
 お国柄と言うべきか、宇宙開発も特に進むことはなく、I=Dを使う事もない。
 機材への整備はしっかりと行き届いているし、稼動にも問題は出ていないが、
全体としてみれば、現状維持に留まっている。そう、全体としてみれば。
 では、もう少しミクロな視点で見てみると、どうか。
 
/*/

「おつかれーす」
「ああ」

 上半身を脱いだツナギのポケットに皮手袋をねじ込み、一仕事終えたという風で若者が席に着く。
 昼食を広げ、隣の席にいた男、先輩に挨拶をした。

 ここは衛星軌道上、玄霧藩国に所属する宇宙港の、一般職員用の食堂だ。
 そもそも宇宙戦自体が暫く発生していなかったNWであり、宇宙港の利用状況も、
さして芳しくはなかった(宇宙における長期間の滞在には向くため、無名騎士藩国の宇宙用部隊が留まる事もある)が、
共和国にとっては数少ない、宇宙への橋頭堡である。
 稼動状況の維持と、定期的な整備点検は、欠かすことなく行なわれていた。
 当然、そのための人員が、ここにはいて、彼らはここで暮らしている。

「今日はカツ丼すか」
「ああ」
「最近メニュー増えましたからねー」
 
 宇宙港での就労期間には、宇宙放射線の影響への危惧から制限が掛かっている。
 よって、ここへの滞在期間はそう長く退屈なものではないのだが、それでも、
食事が豊かになったことは、ここでの暮らしを明るく彩っていた。
 気持ちが明るいと、仕事にも力が入る。

「先輩、今日の午後はソトサクのシフトっしたよね。何度目すか?」
「ああ? あー、これで三度目かな。専門役が見てないと作業させてくれねえし、まだ半人前扱いだけどな」
「いやぁ、でも自分の操縦で宇宙に出るとか怖すぎません? 俺、来週が初ソトサクなんすよ」

 ソトサク、宇宙港外設備補修作業担当の通称である。外作業だからソトサクだ。
 機密ブロック外から宇宙港設備の整備を実施するこの作業は、小型挺から整備道具たる作業ポッドを遠隔操縦する事で行なわれる。
 広大な規模を誇る玄霧藩国の宇宙港は、艦船用の整備工場(ドック)であると同時に、
自身を整備するための設備も整った施設であった。

 一昔前ならば、この操縦作業なども、無名騎士藩国などから出向してきた人員が全て担当していただろう。
 だが、さすがに長い年月を経ただけの事はあり、玄霧藩国出身の作業員も、これら操縦作業に従事するようになってきていた。
 変わらずやってきている国外の技術者は、今では役員待遇として指導を担当している。
(まあ、天下り先というには、やや過酷な職場であったが)

「にしても、外出るのが初めてって訳じゃないだろ。資格取ったのはいつだよ」
「ここ来る時に取らされたんすけどねえ。まだ飛行時間全然足りないっすよ」

 当然、危険を伴う外(つまり宇宙)での活動そのもの、そして作業挺の操縦には資格がいる。
近年になって、宇宙港の作業員の資格取得は半ば義務化していたし、取得には国からの補助金も出ていたが、
その程度では、まだまだ、錬度の向上が足りていないようだった。
 技量は訓練と実地の経験によって培われる。作業員が宇宙に滞在する時間が限られている以上、
これは仕方のない事だったのかもしれない。

「ま、簡単な作業だ。一回やりゃ、後はそんなに怖くもないさ」
「先輩はなんか、楽しそうっすね」
「ああ。なんかこう、向いてる? みたいな、そんな気がしてな」

 宇宙用加工食品の最新作『カツ丼』を平らげた先輩の男は、立ち上がって食器を片付ける。
 視界内の壁(掲示板として使われている)に貼られたポスターは、パイロット候補生募集を意図する物だった。

「案外、一生もんの仕事になるかもな」
「んなもんすかねー」

 作業挺のある管理区画の格納庫へ向かう二人。
 重ねられてきた時は、この玄霧藩国にも、新しい道に繋がる扉を開こうとしている。

/*/

 マクロな視点に立てば、これまでと変わる事は少ない。
 玄霧藩国の主な得意分野はやはり医療で、国外に居住している玄霧藩国民といえば、
これは大抵が、医療事業従事者であった。
 各国における瞑想通信防御網の担当者が、医療のために派遣された人員だという事実は、
このわかり易い実例だといえるだろう。
 今日も、事故によって重症を負った患者の治療を終え、マスクを外し、手術服を脱いで休憩している医師がいる。
 壁一枚隔てれば、そこでは別の医師が、手術台に向かって熱心に職務を全うしている姿があるだろう。
 その瞳はゴーグルに隠れてよく見えないかもしれないが、患者を慮っている事については疑いようもない。

 そんな医師達の中では特殊な例として、水上艦の船医として働いている者もいる。
 一度航行を始めれば、目的地へ到達するには時間のかかる船の事、
乗組員の健康をケアするためには船医も必要で、働き口としてはそれなりに需要もあった。
 彼らは、一年の殆どを、海の上で過ごすのである。

 だから、彼らの中に、個人として船を、海を愛する者が出てきたとしても、
これはあまり、おかしな事ではないのかもしれない。
 あくまでミクロな視点の話で、全体からすれば僅かな割合に過ぎなかったが、
歴史を重ねていった結果、少しずつ、そういった者の数は増えてきていた。

 玄霧藩国政府が目をつけたのは、その小さな流れが大きくなっていく可能性に対してであった。
 彼ら、各種操縦技能の初歩を身につけた者達を対象に、政府所属パイロットへの転職を呼びかけ、
それに応じた者に対し、正式な育成カリキュラムを公費で用意したのである。
 これまで存在しなかった、『玄霧藩国のパイロット』を、生み出そうとしたのだ。


 一口にパイロットと言っても、その技能は一概に語れるほど少ないものではない。
 まずもって、公的に扱う可能性のある乗り物の種別だけで、
船舶・航空機・I=D・RBと、実に多岐に渡るのである。
 I=DやRBを玄霧藩国軍が制式配備する可能性はごく低かったが、
正式な教育を国のお金で施すとなれば、そこは抜かりのあってはならない部分だ。
 憶えなければならない事は多い。民間企業で取得する資格より、一段階上の資格を取得しなければならない。
 そして、基礎体力向上のためのトレーニングから始まる訓練課程は、宇宙港の整備作業や、
重症患者の治療にも負けない程度に過酷なものだ。
 国家公務員とも言うべき、政府所属パイロットになるための厳しいあれそれは、
元々少なかったパイロット希望者を、更に絞り込むという結果を生んでいる。仕方のない所だった。
 
 とはいえ、全ての過程を乗り越えた者は存在する。
 そこまで苦労した割に、活躍の場は約束されていないという、
一見すれば不幸に思える、その挑戦者(テストパイロット)達は、それでも、
自分達が、玄霧藩国で唯一の公式パイロット職であるという事に、誇りを抱いているようだった。
 彼ら彼女らは、宇宙港周辺で行なわれる、より難易度の高い作業に赴いたり
、諸外国との交易のために船に乗り込んでいく事になる。
 やがては、宇宙港で新規生産される、新しい艦船を操る事も考えられる。

 規模としてはごく小さくても、そこには確かに、新しい道が開けており、
彼らが誇っているのは、その新しい道を一番に駆け抜けているのが自分である事、なのかもしれない。


 現在の話をしよう。
 玄霧藩国が森国国家である事には変わりはない。
 しかし、よく見てみれば、色々な変化がおきているようだ。
 その小さな変化から、藩国の新しい未来が生まれていく可能性も、
案外、否定できないと思えてくるから不思議なものだ。
記事メニュー
目安箱バナー