オムライス大あばれ

 Bランク怪人をゴクレンジャーじゃない謎の戦隊が撃退したという情報は即座に周囲に広まった。
 無論、ゴクレンジャーも黙って見過ごすわけがなく緊急会議が執り行われていた。
 会議室にはイエローとブルー、そしてグリーンが集まっていた。

「……おい、ピンクはともかくレッドはどうした」

「あいつは色々忙しいんだぜ、今日もまた悪党に付け狙われる日々なんだぜ」

「レッドの事だ問題ない、それよりもBランクを討伐したあの戦隊だが……」

 はぐれ戦隊は世界の規律を乱す存在としてゴクレンジャーの討伐対象として既に承認されている、この世界を或るべき姿として市民に受け入れさせる為には余計なモノを摘み取っていく責任がある、そうして彼らは世界を維持してきたのだ。

「次の怪人が来たら少し泳がせろ、奴は絶対に現れる……あの見せかけのマスクを剥いで世間に公表させるんだ」

「仮面のヒーローなんて現れたら白昼堂々顔を晒してる俺達の立つ瀬がないんだぜ」

 少しずつ何かがおかしくなっていく、これも時空監理局のおぼしめしかあるいは新時代の影響か……。


「えへっへへへへっ」

「さくら君顔、顔」

 その一方ではぐれ戦隊として噂が広まっている事に上機嫌のさくらは、あの変身した姿を何度もイメージしてゆくゆくはピンクになりレッドと……と妄想を広げる。
 なんだかんだで初めて怪人を倒した達成感は格別なものだったが、問題は今テスト中だったのでたくっちスノーからクナイの如くチョークを眉間に撃ち込まれて吹っ飛ぶ。

「ヘラヘラするのはいいけどねぇ!君この問題ダメだったらexeに頼んで倍のトレーニングだからね!」

「先生もうちょっと手加減して!!」

 吹っ飛んださくらをexeが空中でキャッチして席に戻し授業を続ける、その間でもたくっちスノーはさくらにテレパシーで語りかけてくる。

(気持ちは分かるがはぐれ戦隊の事は大っぴらに言うなよ、ルールを破る存在としてゴクレンジャーにもマークされてるし、自分としてもあくまで勉強の一環だからな)

 (あっ……はい、すみません)

 「はい午前の怪人を倒すための戦闘術の授業は終わり!今日の学食はティラノサウルスのいい所を使ったティラジュウだからしっかり食えよ!」

「うな重みたいに言わないで!」

「聞いた事ねぇ料理を当たり前のように振舞うな」


「はぐっ、ふぐっむぐ……!!」

 一心不乱にティラ重を食って肉を引きちぎるさくら、はぐれ戦隊に選ばれた以上もっとエネルギーを付けて敵を倒せるように鍛えなくてはいけない、今まで以上の鍛錬と栄養補給で本当にピンクになるために……。

「おい、もう少し上品に食べられないのか……まあ、メニューが既に上品の欠片もないが」

「なんですかシエルさん、私はピンクになるためにもっと栄養を摂らないといけないんです」

「おいクソチビ、貴様に必要なのは体じゃなくて脳味噌の栄養だ、少しは学力を向上させてからそういう口を聞けるようにしろ」

「む……私はいずれピンクになってレッドも超えるんです!まずその為にはあのはぐれ戦隊に……お、追い付くぐらいに強くなるんですよ」

「はぐれ戦隊だと……?ゴクレンジャーの秩序を乱し、個人で勝手に動く存在など言語道断だ、お前はゴクレンジャーを支持していたはずだが……あんな奴を擁護するのか?」

「あ、あれはその!たくっちスノー先生によるとアルティメットスカートめくりを倒すつもりだったんですけど逃げられて!」

「はいお前らそこまでにしときな」

「はぶぅ」

 巡に強引にティラ重のおかわりを押し付けられて話を止められるシエルとさくら。
 もしはぐれ戦隊の事がバレたら彼女に何をされるか分からないと今はエネルギー補給、並びに戦隊考古学をしっかり学んで優秀なピンクにならなくては……シエルよりも!

「おかわりいいですか!」

「3杯目は腹壊すで」

 食事も終わり、戦隊考古学の授業が始まる……その前にさくらは巡に呼び出されていたので急遽たくっちスノーが闇堕ちしたウルザードの伝説を流していた。
 なおシエルは成績最低のさくらが連続で呼び出されていたことに本気で苛立っていた、考え方を変えると専属指導になるから当然だがたくっちスノーとしても正直話しかけたくなかった。

「シエル、ピンクが殺意漏らしちゃダメだから、好きな魔法の呪文唱えてリラックスして」

「ドーザ・ウル・ウジュラ!!」

「呪文の殺意高え!なんか消失させようとしてるのは分かった!シエル!!ちょっとさくら君の様子見に行っていいけどウーザ・ドーザ・ウル・ウガロは勘弁ね!」

「ドーザ・ウル・ザザード」

「了解!みたいなノリで攻撃魔法唱えないの!この子真面目そうな顔してるけど面白キャラだな!?ブルーの資質あるぞ!」

 シエルは言われるがままさくらを探しに全力疾走、ヒーローにあるまじき形相で捕まえて帰ってくるかもしれない、さくらに悪いと思いながらも魔法の授業を再開する。
 さくらやシエル以外にも個性豊かなピンク候補が存在する、さくらの隣でゆるふわセクシーな印象のある美女はベビー・キャロル、ゴクブルーが大好きでお近づきのために戦隊に近づく恋愛脳漏れ漏れの乙女。
 何が問題って殆どの生徒がベビーに成績で負けていること、ふわふわしてるのに頭はいいし筋力も桁外れにある、ベビーも推し活のために努力してるとはいえ愛の力って凄い。

「せんせー!ブルー様とお近づきになれる魔法ってある?」

「ゴール・ゴル・ゴルディーロ」

「確かにそいつブルーと結婚したが!」

 そしてその隣で魔法を見てもよくわからなさそうにしているのがマッチョウーマンのマゼンタ、どっちかと言うとバーコードな仮面ライダーが反応しそうな名前だがちゃんとピンク志望の戦士である。
 たくっちスノーは思った、これピンク候補思ったよりろくなのいねえな?と。


 そしてシエルは猛スピードで巡の居る場所に向かい、さくらを捕まえようとするが話し声がしたので耳を傾ける。

「なあ、あのはぐれ戦隊の正体って君やろ」

「ひゅ〜ッ!?」

「何!?」

 さくらは隠し事が出来ないタイプらしく露骨に青ざめて震えていた、シエルもたまたま何故見てる形でそれを聞いてしまい、いつでも本部に報告して桃の園からつまみ出せるチャンスを得たが巡の動向が気になったのでそのまま柱のフリをする。

「まあ落ち着け、何もバラしてこの学校から追い出すわけやあらへん、たくっちスノーが絡んでる時点で怪しさ満点やしな」

「えっと……貴方一体?」

「実はな、俺もゴクレッドのファンやねん、だから多目に見たる……というのは建前、俺の本当の目的は親友を探すことや、君みたいに戦隊マニアのな」

「親友?どんな方なんですか?」

 巡はさくらに聞かれると、ポケットから掌のような銀色の道具、並びに戦隊の絵柄が描かれたリングを見せてくれる。
 シエルの方からはよく見えないので必死に頭を伸ばすが全然指輪のほうを向けてくれない。

「これ確か恐竜戦隊ジュウレンジャーですね!」

「歴史書にはそう記されてるな、俺の世界はユニバース戦士言うてこんな感じの奴がおるんや、50人な」

「つまり親友はその内の」

「せや、ワケあって指輪集め競争してる……はい!俺について話せるのはここまで!」

「えっちょっと気になるじゃないですかもっと教えてくださいよ!貴方のレッド観とか戦隊に対するアレコレとか!!」

「まあ待て!俺も一応特別講師として桃の園に来ているわけや、だから……わかるか?そろそろ授業本格的に再開するで!!」

「ぶらいっ」

「あれ今何か居たような」

 巡が勢い良く扉を開けた際にシエルが挟まれてぐちゃりとなってしまうので、結果的にさくら達が話していることはバレなかった。
 たくっちスノーの方はマジレンジャーの話がヒートアップしてきてだいぶカオスなことになってきたので満身創痍のシエルとさくらはついていかなかった。

「だから冥府十神最強はサイクロプスなんだよ!!ルーティンによる立て直しと遠距離攻撃は有利すぎる!!」

「純粋な戦闘力はスレイブニルが上だ!」

「三賢神が戦闘特化じゃないからって!生き残ったスフィンクスが最強でしょダゴンは知らん!」

「なんや最強論争は虚しいだけやでほら授業に戻るで」

「私はワイバーン派です」

「設定上は……ティターンが……」

「乗るなや君等も、てかシエルおったんやね」

 ◇

 改めて巡は教壇に立って試験を行うと準備を行う、たくっちスノーの改造によってボタン1つで教室が変形して家庭科室みたいになる。
 何も知らないといや学校に何やってんだコイツと思うかもしれないが、全部自費で自らの力で改造したので問題ないということらしい。

(……いやっ!!それでも脳が理解を拒む!!)

「改めて今回の俺の試験は各班に分かれてオムライスを作成するんや、作ったオムライスの出来を見て俺が採点する」

「あっ、ちゃんと自分が責任持って食べ切るから安心してね!」

「いやどうしてですか巡先生!!何がどうなってオムライス作り!?」

「戦隊も考古学も関係ないじゃないのコレ!?」

「ある!とても関係ある!戦隊とはオムライスなんや!」

 何を言ってるのか分かんないだろう、俺も分かんない。
 たくっちスノーはそんな眼差しというか温かい目でさくら達を見送る。
 自ずと全員が思いを1つにして察した、あっうちの特別講師どっちもヤバいと。
 だが何か文句考えてもしょうがないので生徒達は4組に分かれてオムライス作りを始めたのだが……さくらとシエルはお互いによりによってこいつと……!とショックを受けながら班を組む、ベビーやマゼンタも一緒に居るが完全に余ったもの同士なのでしょうがないのでオムライスを作るしかない。
 数分後、生徒達も受け入れてオムライスを作ってみると戦隊関連の授業とも関係あることに気付き始める。
 複数人の連携によるタスクの処理、これはまさしく戦隊に必要とされる共同作業そのものではないか。
 原理を理解すると次々とオムライスを完成させて、たくっちスノーが平らげていく。

「実際どうよ巡先生」

「うーんまあ合格点ではあるけどな、皆何か足りないような気がするんや」

「うん、それはいいんだけどさ……向こうが修羅場」

「なんだそのオムレツの焼き加減は!オムライスにするなら形を維持して表面をふわとろにするのが良いんだ!」

「そっちこそケチャップ返してくださいよ!チキンライスは濃いくらい入れた方がオムライスに合うんです〜!?」

「お前の味覚なんか頼りになるかクソチビがよ〜!?」

 シエルとさくらがオムライスの細かい作り方やこだわりについて対立して喧嘩になり全然オムライスが完成する気配がない。
 とりあえずシエルはそろそろピンクのイメージが抜けてきている、さくらは最初からそんなイメージがないので問題ないがこの考えの不一致によってどんどん失敗作オムライスが作られて無関係なベビーとマゼンタが割を食っているのだ。

「大体卵をふわとろって趣味の範疇なのに高度なテクニックなんですよ!」

「チキンライス焦がすやつがケチャップの濃さとか語るな!」

「二人ともいい加減にしなよ何回私が卵割ってあげたと思ってるのガタガタ言ってる暇あるならまず一品提出してからにしなよ」

 遂にはベビーの堪忍袋の尾も大切断、指の圧力だけで卵を10個一気に破壊する、ニコニコしているが目は笑っていない。
 マゼンタでもここまでやらないのでさくら達は何も言えなくなってしまう。
 ひとまず自分達は作りすぎたので改めて放置してきたオムライスのなり損ないを見ることに。

「しかしこうしてみるとコンセプトがバラバラですね……私このオムライスだけでスーパー戦隊ヒーローゲッターの替え歌作れる気がしてきました」

「大方お前がチキンライスこだわったせいだがな、大体ライスの部分なんてオムレツで隠れるからこだわった所で同じだ、全部ふわとろ卵にすれば丸く収まる」

「シエルちゃんのふわとろに対する信頼感はなんなの?でもねぇ……何か足りない気がするんだよねぇ」

「足りないか……オレは料理とか詳しくないけどさ、結局のところなんでオムライス作らされているんだ?」

「何?そんなものオムライスを作る過程で戦隊としての協調性を築かなくてはいけないのに余計なこだわりを……」

「……こだわり?ベビーさんちょっと思い付いたので手伝ってくれませんか?」

しばらくしてようやくさくら班はオムライスを完成させて巡の所に持ってくる、たくっちスノーは平らげようとすると巡が止める。

「随分他の人と違うオムライスを持ってきたみたいやな?」

「はい、いっぱい作ったオムライスから良さそうなものを集めてきました、ちょっと崩れちゃいましたけど」

「良さそうって?」

「私のチキンライス、シエルさんのオムレツ、ベビーさんのケチャップ、マゼンタさんのパセリとミニトマト……それぞれの好きなところを集めて一番出来がいいものを集めました」

「まあ食べるよ、審査だからね……それで巡先生としては?」

「巡先生、私達に教えたかったのは協調性よりも個性を強調させることだったんじゃないですか?確かに全員で協力して一つのことを達成させることは大事で、私達は見せたいことの為に足を引っ張りすぎました……でも皆違って当たり前です、だからこそ全員の思いを一つして各々が好きなものを合わせていく」

「……君は見込みがあるでさくら君、それに時間を掛けることがなければ二重丸や」

「そんな!?どうしてさくら班だけ!?」

「他のチームのオムライスは美味かった、だけどレシピ通りの決まった味を出されただけのような戦隊はいらはん、バラバラの精神をギュッと1つに固め一見すると重ならないパズルを1つにする……だからこそ戦隊はカッコいいんや」

「思い返してごらん?君達が敬い継承する予定のゴクレンジャーの個性を!」

「うっ……」

「だから言っただろうオムライスはフワフワの卵あってこそ至高になる」

「オムライスの主役はチキンライスですからねシエルさん〜?」

「後はあの2人が仲良くしてくれれば完璧なんやけどなぁ……」

 さくらとシエルが子供みたいな喧嘩をしていよいよ収拾付けようとベビーが二人まとめてぶん回し始めたところで桃の園全体に警報が鳴る、なんと再び怪人が現れたらしいが生徒でも戦えるDランクと推定されたので各学校から生徒の出動要請がかかる。

「丁度ええ!第二の試験、さくら班出動!俺も同行する!どうせ時空犯罪者おるやろうしな」

「いや同行って巡先生戦えるんですか!?」

「あっもしかしてさっき見せたやつ!?」

 さくらだけが知っていた掌のような武器を腕に装着して指輪をセットすると音楽が鳴り始める。
 まださくらぐらいしか慣れてないが従来の戦隊はこのように音楽とか効果音とかエフェクトが激しいのである。
 巡はさくら班と並走しながらアイテムに合わせて手拍子しながら踊る、踊る意味あるのかとシエルは突っ込みたくなったが、さくらがさっきから踊る意味はありますとでも言いたげな眼差しをしていたので何も言えなくなった。

「エンゲージ!」
『ジュウレンジャー!』

 そして掛け声と共に『恐竜戦隊ジュウレンジャー』のレッドの姿に変身して桃の園から出る。
 自分が変身するのと生のレジェンドの変身を見るのは別なのかさくらもテンションがアウェイキングして気持ちが湧き上がる。

「あれ!!ゴクレンジャーにも変身アイテムとかスーツとか必要ですよねやっぱり!!」

「制作コストと時間のことを考えろ間抜け!」

「ほれ皆余所見しないで戦闘態勢!」

(あっそうだ……今回ははぐれ戦隊になれないから慎重に戦わないと!)

「巡先生、あれはDランク怪人、通称:シーカー……我々でも対処できる戦闘力です、援護は最低限で構いません」

「了解、見せてもらおうか」

 巡は下がり、シーカー級の怪人にマゼンタ達が突撃していく。
 まずマゼンタが拳を地面に振り落として衝撃波で吹っ飛ばす、この世界の戦隊は銃携帯を禁止されているがこういった抜け穴がある。
 落下先にシエルが合流して足を振り上げ怪人の腹を正確にしとめる。

「イノセントイストワール!!」

 技と共に叩き込んだ足が怪人をバラバラにする……が、即座に肉体が再構築される。

「再生か……ベビー!一気に仕留めろ!」

「分かった!猫趙百光!!」

 再生したところにベビーの力強い連続パンチが百連発で叩き込まれるが、吹っ飛んで再生して立ち上がる。
 さくらは困っていると……怪人を見て何かに気付く。

「巡先生、試してみたいことがあるので援護頼みます!」

「任せとき!」

 巡はレンジャーガンで怪人を打ち抜くとまたバラバラになり再生しようとした所にさくらが頭部を掴んで奪い取る。
 そのまま勢い良く天空へと投げ飛ばして構えを取る。

 「くらえ!桜花一拳!!」

 拳を振り上げると頭部は砕けて塵になるがすかさず巡が銃を放って塵を払う。
 レッドがトドメをささないといけないが、これによってちゃんとレッドが倒したことになるので問題ないという配慮の結果だ。

「おい、何故頭部を壊せば死ぬと分かった……?」

「なんとなくですよ、あの怪人……ジュウレンジャーに出てきた敵の怪人、ドーラスケルトンに似てるなぁ……って思って頭部を破壊すれば再生しないと……どうですかシエルさん」

「馬鹿者が!!怪人は息の根を止めずに瀕死にして保管するって教科書にも書いてあるだろうが!!」

「ええーー!?」

「ヤバい俺らの責任になる!逃げるで!」

「待ってください巡先生〜ッ!!」

 駆け出していく巡達を、ゴクレッドが双眼鏡で監視していた。

「花岡さくら君……順調なようだね」
最終更新:2025年07月05日 06:48