作りたいけど作れない

「行くぞゴクレッド!!」

「さくらちゃんは市民に避難を呼びかけるんだ!いずれ全員揃うからオレの事は気にするな!」

「は……はい!」

 振り下ろされた足をゴクレッドとたくっちスノーが抑え込んで踏み潰されないように抑える例のアレをやりながらさくらに避難と応援を頼む。
 抑えるくらいなら余裕はあるが巨大怪人が現れたことへの混乱は避けられないだろう。

「たくっちスノー、こんな時になんだがサンキューナリアというのはどういう意味か教えてくれるか」

「動物戦隊ジュウオウジャーにはデスガリアンって敵組織が残虐なゲームを行う、ゲームに敗れた怪人がコインを入れてコンティニューすると決まって『サンキューナリア!』っていうんだ」

「つまりコンティニューとは巨大化のことか……面倒な、オレ達の世界で巨大化する怪人が現れたという事例はない!」

「そんな世界もあるんだな!怪人といったら巨大戦だからよ!」

 喋りながらも抑え込む余裕があるレッドとたくっちスノー、exeも加勢してくれるがサイズ差的に動きを止めるのがやっとである。
 一応たくっちスノーも巨大化は出来るっちゃ出来るが専用の発明品が必要になるし今こんなところで持ってくる余裕なんてない。
 MIXや部下の派遣も出来ないしこのサイズの相手をexeに暴れさせたら逆に街への被害は尋常ならないものに変化してしまう。

「くっ、こんなことなら自分も巨大ロボなり作っとけば良かった!!分身が作ってねえか……駄目だ!!この世界に送り込むには時間が足りない!!」

「ならばせめて……あと一歩だけでも動かしは……!!」


「なんや、怪人の巨大化やないか……これはまずいな」

「め……巡先生!!」

 巨大化した怪人は目立つ、往歳巡も異変に気付いて即座に駆けつける。
 シエル達のところに間に合うのもあっという間だ。

「せ、先生!!なにあれ!?どうすればいいの!?レッドはいるはずなんだけど!!」

「確かにこれはゴクレンジャー史上最大のピンチ、しかしこれは俺にはなんとかなる、いやなんとかせなアカン!」

 巡は変身に使用した指輪を握り締めて天に掲げる。
 雷雲が響き巨大な時空の渦が開き、ティラノサウルスの咆哮が唸る。
 シエル達は次に何が起きるのか巡が何をする気か不安な目で見るがなだめるように寄り添わせる。

「ユニバース戦士の指輪には変身以外に特別な力がある、中でも俺の物は一級品……復元(リゲイン)!守護獣たちよ、合体の時が来た。牙を剥け吠え上げろ、奇跡を起こせ!滅びし歴史より復活せよ!大獣神!!」

「だ……大獣神……!?」

 時空の渦から現れたのは……ジュウレンジャー世界に伝わる5つの守護獣、目の前で変形し合体して……人型のロボット【大獣神】になった。
 巡は指輪を掲げると中に乗り込み、ゆっくりと踏み出す。

「大きな怪人……そしてそれに対抗するロボット……」

「戦隊って……あんなのも相手しないといけないんだ……授業で言っていたみたいに……!!」

「エレボス……!!」

 そして、たくっちスノーから見ても大獣神の姿は見れたのでexeに頼み、足を離してその場を離れビルに降り立つ。
 たくっちスノーが考えた結果あの大獣神を乗っていたのは巡であることを即座に理解する。
 巨大怪人を巡に任せることにしてレッドを本部へ連れていく。
 その間にもたくっちスノーは身体をパソコンにしてプログラムを打ち込んで印刷機に出力させていく。

「……つまり、これから先オレ達は戦力としてあの巨大兵器のようなものを用意する必要が出てくるのか」

「ああ、それもなるべく急いだほうが良い……5人の力を1つにして合体する5つのマシンとそのロボット!名付けるなら【ゴクレンオー】!!はいこれ!」


「ふざけるな!!はぐれ戦隊を捕まえるためにお前は外に出ていたのではないのか!?それをなんだ、見逃す!?それどころかあの巨大怪人と鉄人の戦いはなんだ!?ゴクレンオー!?」

 そして戦隊本部、たくっちスノーが印刷したゴクレンオー開発計画並びに設計図を叩きつけたブルーは帰ってきたばかりのレッドに詰め寄る。
 以前の作戦会議には参加せずに帰ってきて早々にこの始末なのだから無理はない。
 しかしレッドはあまり怒るなという態度でブルーをなだめる。
 今回の会議にはピンクとグリーンが不在でイエローは暇そうに椅子を回転させている。

「でも実際どうするんだぜ?これから先巨大怪人なんてものが現れたらオレ達じゃ止められないんだぜ」

「ブルー、君の気持ちも分かる……だが世界を守るためにはゴクレンオーは必要だ!」

「そういう話をしているんじゃない!俺達の予算はどこに回していると思う!?候補生共の学校の維持費並びに怪人の研究!全長50メートル以上の複雑な機構を持つ兵器の開発を行う時間!代金!何よりも人材!!そんなもの揃っているわけないだろう!!」

「まあ何百人もいるのに殆ど蹴落とされる候補生育てていくのもなかなか非効率なんだぜ、金かかりすぎて困るんだぜ」

「一番の金食い虫は黙っていろ!貴様の金の久遠が誰よりもコストかかってるんだからな!」

「そりゃ当然だぜ金の久遠は最先端の超ハイテク学校、俺の後を継いでイエローになれなくても優秀なメカニックやサイボーグ技師が排出されるんだぜ、まあ俺はしばらく現役だから意味は特にないぜ」

「イエロー、卒業生を絞り出してゴクレンオーの開発に回してくれ」

「いいぜ〜」

「……それでもこのサイズ、数十人そこらでは無理がある!」

 ブルーの一番の悩みは格納庫だ、変形して発進できるようにするとしても特撮の秘密基地じゃないのだから急ごしらえで全部作り替えて発進なんて出来るわけがない。
 レッドもそれは理解していたので対策をメールで送信することに。


「レッドがゴクレンジャー専用合体ロボ『ゴクレンオー』の開発に乗り出そうとしているが様々な課題が残っているとメールで送られてきた、今回は特別授業として少しでもレッドの助けになるようにいいアイデアを出してくれ」

 たくっちスノーは桃の園に届いたメールとレッドのメッセージを再生して生徒に呼びかける。
 今回は授業以上の大ごとなので他の教師一同もクラスを覗いている。
 ……何せついさっき、花岡さくらが先々代ピンク『花岡あやめ』の孫娘と確定して大騒ぎになったところにこれである。

(あのクソチビがピンクの親族……驚いたがあの程度の成績でここに来れたのも納得がいく、となるとレッドも……)

「あっ、あたし閃きました!人手が足りないならあたし達でその……桃の園でピンクのマシンを作るのはどうかな?」

「あっそれいいアイデアだと思います!」

 ベビーの提案にさくらを始めとして次々が賛成の挙手をするが、シエルだけはどうにも納得のいかない様子であり、たくっちスノーから設計図を貸してもらいゴクレンオーのパーツを確認する。
 ゴクレンオーは5体のマシンから発展して、ピンクの場合では足と武器が担当となる。

「我々桃の園がピンク部分を担当するというのもおかしな話ではない、これ自体は私も賛成しようとは思っています、しかし残りの高校がそれを許可するでしょうか?金の久遠は専門校なのでまだしも……」

「グリーンの翠の庭園と……ブルーは確か藍の波止だっけ?」

「藍の波止は怪人研究を専門とした学校です、メカに回す予算や人員は……」

「それに関しては問題ないで、むしろ藍の波止は巨大怪人のデータが欲しいからと乗り気や」

 更に翠の庭園からメッセージ、金の久遠の承認を聞いてこちらも承認、残されたレッドの機体は本部で作成するとして……桃の園は早速ゴクレンオー開発プロジェクトを始めて地下倉庫で足の開発を始める。
 女に力仕事なんて……という声はあまり出ず、むしろハッキングや兵器知識といった裏方や機械への理解を深めていた桃の園とは相性が良く部品はたくっちスノーが時空監理局のツケで用意してくれるので順調であった。

「いいか桃の園諸君!人型でもっとも大事になるのは足!重い体をバランス良く支えながら華麗に動き敵を仕留める!ゴクレンオーが活躍できるかは立派な脚にかかっている!レッド達の為にも100%以上のものを作成するぞ!!」

「はい先生!!」

 桃の園全員による息を合わせた共同作業、力持ちのマゼンタやさくらがパーツを担ぎ、たくっちスノーや巡も率先して組み立てを手伝っていく。

「こういう時キラメイジャーやリュウソウジャーなら意志を持つ相棒がいたり、ドンブラザーズやカクレンジャーなら本人が変身したりで便利なんだけどなぁ……!」

「贅沢言うたらアカン、ワイらに全部かかってるんやで」

「たくっちスノー先生!脚にジェットエンジン付けて飛びたいんですが」

「そういうのはブルー担当だ出しゃばるなコネのチビ」

「コネ扱いしないでください!!おばあちゃんは関係なく私はピンクになるつもりなんですから!!」

 どんな状況でも桃の園は相変わらずでたくっちスノーとしては安心してきた。
 しかし順調に作り続けてきた所で想定していたトラブルが発生した。
 各5陣営に分かれてパーツを作る以上合体の安全確認を行わなくてはならない。
 足部分のジョイント先はボディだ。

「変形したら胴部分になる担当って誰だっけ?」

「藍の波止だな、ブルーといえばボディ、大きな部分と相場は決まってるからな」

「何言ってるんや大きな部分といえばレッドのティラノサウルスやろ!」

「それ恐竜系戦隊限定な!アバレンジャーもキョウリュウジャーもほぼティラノサウルスで完成してる!」

 ある程度完成したピンクのマシンを藍の波止まで持っていき、ブルーの物と合体チェックしなくてはならない。
 想定していた事態なので解決策はちゃんと用意してある。

「exe、データ借すからお前のパワーで藍の波止までおつかい行ってきてくれる?」

「構わん、俺のスピードな10分で解決する……よし発進!!」

「ん?10分でってあいつにしては遅いな、一分で帰ってくることを想定して……あれなんか足りない」

「先生!!あの人今作ってるマシン持ってっちゃいました!!」

「データ貸すつったよなぁ!?あいつこういうところで真面目だから実物持っていきやがった!!」

 なんとexeは指示したらそのパワーで完成途中のマシンを引っ張り出してそのまま藍の波止に向かってしまった。
 あいつはド天然なところがあるので大真面目にこういうことをしてしまう、戦闘力ではピカイチだがこういうところでは中々に扱いにくいのが彼である。
 もしかしなくても人選ミスったかもしれない、この小説は何回『もしかしなくても』という言葉を使うことになるのだろうか。

「あの野郎!仕事できねえだろうが!!追いかけてこい!!」

「じゃああたしいってきまーす!!」

「頼んだベビーちゃん!!」

「待ってください忘れましたか!?ベビー・キャロルは!!」

「ブルー様ァ〜!!」

「そうだった一番藍の波止に連れて行ったら時間かかるやつだ!!」

「もう桃の園はダメだ!!」

 ベビーはウキウキ気分でブルーに会いに行く為に大急ぎでおめかしして駆け出していく。
 縦横無尽に本能覚醒、このピンクを舐めるなよ。
 やっぱり駄目かもしれないブラッドゲーム物だよこれ。
(やっぱ私以外ピンクの素質ないだろこれ)

(私が行くって言えばよかったかもしれません……)


「ブルー様ぁー!!」

 そしてベビーは藍の波止に大胆に突撃、愛の力で校門を吹っ飛ばしてそのまま男子生徒も吹っ飛ばす。
 超強い。

「いやいやいやいやさすがに止めるべ!!」

「あっブルー様!!」

 あまりの非常事態に大人数でベビーが取り囲まれるが全部押し返してそのままアメフト選手みたいにタッチダウンされていく。
 桃の園というか人類のバグかもしれない。

「ところでベビーさんがexeさんより早く追いついたらどうなります?」

「どう考えても騒ぎになるだろ……そもそも我々女性は基本他校に入ることも禁止だからな」

「でもベビーさんだから案外捕まえまくって抵抗して……いやないか!」

 と、シエルとさくらも案外呑気なことを言ってる。
 普通に考えれば音速の速さで動けるexeよりもおいつくなんてことはありえないのでこんな発想にもなるが現実の方では止めに入った藍の波止のブルー候補達はベアハッグで失神していた。

「ぶ、ブルー様!?あたしやっちゃった……」

「う、嘘だろ……イケメン最強冷静沈着をモットーとする藍の波止のブルーたちが桃の園なんかに……」

「桃の園では道場破りでも流行ってるんだが……?」

「ん……?あっそういえば忘れてた!ここに桃の園から合体の為のかくかくしかじか」

「そこまで来たならかくかくしかじかじゃなくてもええべ!つまり合体テストの為にオラ達のところ来たわけだな!?どう考えてもやりすぎだが!!」

「あれ?exe先生はどこ?」

「オレだったら今到着したところだが……」

「どえ~~ッ!!?片手で大型戦車を担いだバケモンが来たべ!?」

 exeはベビーに僅かに遅れる形で到着、右手で軽々とマシンを担いでいたがゆっくりと下ろし、なんとベビーもしっかりと持ち上げる。
 一応この兵器、現在でも10トンは越えているはずだが……exeはともかくベビーは本当になんなのだろうか。

「どこ行ってたの〜?実物持ってかれたらあたし達作業できないからデータだけでいいって」

「いやすまん……後、粗品を用意していたんだ、ジュウオウベーグル買ってたら多少遅れてしまった」

(片手でマシン担ぎながらパンを買ってた!?オラが知らない間に桃の園は化け物の巣窟になっていたんだか……?)

「とりあえずブルーと合体テストだ、運ぶぞ」

「オッケー」

「あっ待たんかい!!お……オラから話をつけておくだよ」

「おっとそれはすまないな、名前は?」

「オラは相田コバルト、この藍の波止の特待生といやぁ覚えられるだよ」

「特待生……?それって例の候補に選ばれるエリート中のエリートとかいう」

「そうそう!オラがブルーのソレなんだべ……で、あの子がピンクの特待生ってわけだか?おっぱいもデカくてべっぴんであの顔!逸材だべよ」

「いや……この間入学してきたばかりだが」

「なんつーサラブレッドだべ……よし、しっかりオラに離れず移動するだよ」

 コバルトに案内されてベビーとexeはエレベーターを下り大型の製造工房へと案内される。
 学校内の設備も規模も桃の園の何倍も立派で、カリキュラムや指導内容もはるか上の技術で構成されている。
 レッドの次に重要なブルーなのだから当然かもしれないが。

「どうだかオラ達の学校は」

「ふむなるほど……以前ティーがこんなことを言っていたブルーなくしてレッド目立てず、レッドなくしてブルーたりえず……最強のサイドキックを作る学校ともなればこうもなろう」

「それはそっちの特別講師の事だべ?」

「そうだよ〜?めちゃくちゃ変な人だけどね、相田さんっ!ブルー様の学校の特別講師ってやっぱりイケメンなの!?」

「オラほどじゃないがツラは本物だべ、剛海レイト先生といって『時空航海術』という時空移動や他世界の歩き方の授業を教わってるだよ」

「……第三危険領域に含まれる条件を答えよ」

「人体に異常をきたすウイルスが3個以上存在する!」

「本物のようだな……オレは時空監理局のものでな」

 世間話をしていくうちに桃の園以上の大人数、ベビーもときめくイケメン揃いが汗水流してブルー専用機を設計している。
 コバルトの合図で全員手を止めて話を聞くと、専用機を変形させて足と胴体がぴったりくっついて現在問題はないようだ。

「どうだべこの大鷲のデザイン、クールで女性にモテモテなブルーのイメージに合わせた高貴な顔つきだべ」

「オレ達は戦車なのにこっちは動物か?」

「よ……よく見るとレッドは恐竜だしイエローはドリルとか付いてる」

「ティーのやつ……コンセプトガン無視で好きなもの全部詰め込んだな、とっちらかってるぞ」

「まあ強ければ何でもいいだよ、オラが見送ってやるからそろそろ帰ったほうがいいだよ騒ぎになる」

「そうだな、オレ達も長居しすぎた」

(頼むべ……こいつらの営業スマイルにも限界がある!ただでさえロボ作りでピリピリムードなのに性欲隠すのも限界あるだよ!オラだって特待生という立場がなければ……)

 コバルトは隠す、必死に隠す。
 藍の波止の実態は結構男子高校生でヒャッハーして馬鹿みたいに騒いで昨日も合コンで潰れている。
 だが学校の方針で女に好かれるクールなブルーを演じなくてはならない。
 イメージに苦しめられてるのは桃の園に限らないのだ。
 帰ろうとしているとシャッター近くに青い海賊服を着たイケメンの姿が……!

「ようコバルト!随分楽しんでるみたいだな、順調か?」

「あっ、お疲れ様だべキャプテン」

「キャプテン?」

「この方がレイト先生だべ、キャプテンって呼ばせてる」

「ん?そこのやつは服の色的にピンク……桃の園の奴らか、いや……時空監理局のやつもいたな」

「なっ……貴様は!?」


 一方待ちぼうけをくらっている桃の園はexeとベビーの帰りを待っていたがたくっちスノーのマガフォンに着信が入り、全員に聞こえる形で電話に応じる。

「あーもしもし?いつになった帰ってくる、さくら君達暇してて」

『藍の波止の特別講師についてだ……あの学校の特別講師はとんでもないやつだぞ!』

「何?一体どんな爆弾を抱えていた……」

『藍の波止の特別講師、豪海レイトは……D級時空犯罪者キャプテン・マーベラスだ!!』

「何ィ!?あの『海賊戦隊ゴーカイジャー』のマーベラスか!?」
最終更新:2025年07月07日 23:14