「まずい……実にまずいぞ、お前の映像で見た青色のカレーより不味い」
「いえ、アレ案外味は悪くありませんでしたよ、見た目は食欲唆られませんけど……」
「そういうのは大体見た目よりは悪くないって意味だろ!私はそのレベルの話はしていない!」
シエルとさくらはフラフラとした足取りで肩を抱きながら歩く、まさか両方とも特待生になれなかったのは完全に想定外。
特に優等生だったシエルはこの結果を聞いてからもう既に3日は喉も通らない状況、なのでさくらが二人三脚で運んでいる様子でもあるが大真面目にまずい。
「な、何故だ……勉強だって欠かさずしたしピンクとしての振る舞いも徹底的にやって私のピンク像は完璧なはず」
「性根が腐って漏れてるんじゃないんですか?」
「お前こそ成績どうなってるんだ?私が見てやるまでばかみたいなオンラインゲームの振り分けグラフみたいになってたぞ」
「奇遇ですね私そういうMMO大好きなんですよ今度徹夜で遊びましょう」
完全に現実逃避でハイになってるさくらとグロッキー状態のシエル。
あの改札の前で立ち止まらず歩いていたら青色のかっこいい車が止まり、助手席が開く。
なんと運転席にはコバルトの姿があった。
「よっ!美人2人がそんな姿で歩いとったら危ないべ、エスコートしてやるだよ」
「あ、相田さん!?」
ドライブに誘ってきたのでせっかくだからと乗り込む2人、スイスイと快適に海まで向かって走っていく。
「相田さんすごいですね、さすが特待生……」
「さすがにレンタカーだけんどな、運転免許は戦隊の必須アイテムだべ」
「そういえばうちの学校にも大型戦車の特殊免許とかあったな……」
「大型特殊自動車免許とか一体いつ使うんでしょうか、どうせなら普通自動車免許も付けてくれたらいいのに」
「ハッハッハ、桃の園も面白いことしてるだな……あっそういえばさくらちゃんならもう知ってると思うけんど、ゴクレンオーが遂に完成いくだべなぁ、それに伴って合体訓練とマシンの操縦の授業があることは……その態度で自ずと結果は察するべ」
そう、さくらとシエルが特待生になれない一番の理由がこの授業である。
たくっちスノーが発明したシミュレーターを元にしてマシンの的確な発進と移動、合体まで再現した運転テストを行っているがこれが上手くいかない。
さくらやシエルが特別下手なのではなく、ベビーがまだマシな程度の成績になるくらいには難しいのだ。
だがその中でも語り草にはなっている。
「シエルさんが怪人見つけた途端『危ないッ!!アクセル全開!!』と叫びながら轢き殺した時は全員ドン引きしてましたからね」
「今乗ってるのは質量の塊だぞ!?使えるものは使うべきだ!」
「轟轟戦隊ボウケンジャーで戦闘員にダイボウケン使った時どうなったか忘れたんですか」
「とりあえずオラはぜってぇやんねえからなそのシチュエーション」
「お前もお前でレッドを爽快に助けようとして盛大に跳ね飛ばしたからな、アクション映画の見過ぎだ」
「だってやってみたかったんですよ!!スポーツカー型なんですから!?」
「もしかしなくても戦隊の合体ってオラが思ってる以上にハードだべか……まあ、特命戦隊ゴーバスターズとかも合体訓練だけで1話かける大事な回があったべなぁ」
気がつけばマーベラスとたくっちスノーの影響で候補生達も他のスーパー戦隊作品の知識にある程度詳しくなっていた。
ゴクレンジャー側も使えそうな要素や可能な限り後追い出来るラインは覚えていき、着々と強化?されていくのは変わらず。
このままでは特待生になれないと焦ってるところもコバルトは余裕に眺める。
「するってとアレだな?おめえさん達も例の6人目ってのを目指してると見たべ」
「やっぱり相田さんもなりたいんですか?」
「ブルーにはどえらい反対されたけどな、後継者はお前しかいないって……でもキャプテンが勧めてくれた道だしちょっとやってみてぇと思っただよ」
「実はその、桃の園からベビーさんが特待生に」
「おーっやっぱりあの子が特待生!オラはアレで見込みがあると思っただよ……ま、何よりも破天荒な所ばっか見る羽目になったけんども」
雑談を交えながらも海に到着して、とりあえず砂浜で派手に泳ぐコバルトと水着なんてもぅてないので砂浜で待機するシエルとさくら。
体育座りで太陽を眺める姿はさながら失恋の風景である。
「競泳用の水着なら持ち歩いていたな……おいさくら、お前は水着の1つも持ってないのか?」
「だって私そういうの着たくありませんから……肌とか出すの嫌いなんですよね」
「お前のコンプレックスも度が過ぎると病気だな」
(……なるほど、さくらちゃんは最初見た時からそんな気はしてたが女らしさにコンプレックスを感じてるべか、こりゃあまり詮索しないで正解だっただなぁ)
藍の波止らしくスイスイ泳ぐコバルトはそのままナンパ男モードに入ってシエルを落としにかかる。
さくらは変な所ばかり見てるので忘れてたがそういえばこの人、身長はモデル並みだし胸囲もめちゃくちゃあったなと思い出す。
そもそも戦隊で身長はともかく胸囲測る必要あるか?とも思った。
「ん〜メガネをかけたインテリのべっぴんさん、ベビーちゃんみたいなおっぱいでかい子も好きだがこういうタイプも中々目の供養になるだよ」
「さくら、こいつ普段からこんなやつなのか?」
「多分悪い人ではないはずですか……」
「ねえねえお嬢さん、なんで桃の園に入ろうと思ったべ?」
「それはヒーローのあるべき姿を後世に伝えるべくとかでむぐぐ」
「エレボスをこの手で殺すためだ」
「エレボス?あの原初の怪人を……へぇ〜奇遇だなァ、オラも同じ理由だべ」
「え?」
しかしシエルはコバルトの答えがウソではないと分かっている。
男性なら選択肢も多い、藍の波止は巨大工房で最も怪人研究が盛んな地域、現ブルーも頻繁に通りかかり謎の実験や調査を繰り返している姿も目撃している。
エレボスの情報を辿るならここが手っ取り早い。
「私もさくらから話を聞いていれば、男装という手段を使ってでも藍の波止に潜入していたが」
「いやぁ〜そのおっぱいで男は無理があるんでねえか?と、冗談はこんくらいにしてだよ、キャプテンやオタクん所の変な先生が来てから思うことが増えた」
この世界には無駄なルールが多すぎる、怪人が今も世界を襲っているというのにそれでも尚守らなくてはならない事象が多い。
レッドは必ずリーダー格でブルーはクールに支える相棒、ピンクは女性しかなれない。
キャプテン・マーベラスから話を聞いてコバルトは自身の疑問が異常ではないという確信を得られて満足した、だからこそ彼を信頼しているのだろう。
そして、1つの結論に達した。
「ゴクレンジャーには人の命や世界よりも守らなくちゃなんねえ大切なルールがある、オラはそれを知りてえからブルー特待生にまでなっただよ」
「命よりも大切な……ルール?」
「んだ、そしてルールの根底には怪人が関わってる……ところが最近には怪人の様子もおかしくなっている、こいつに覚えはあるべ?」
コバルトは車から資料を見せる、どうやらコバルトや藍の波止が倒して捕獲した怪人達のデータのようだ。
D〜Aまでブルーも率先して倒していた辺り本当に大量の怪人が集まっている、この資料を持ち出せたのもコバルトがそれだけ各地に顔が利くわけだ。
最近のものから確認していくとオーレンジャーのマシン獣、ブンブンジャーの苦魔獣、ゴセイジャーのマトロイド、ゴーバスターズのメタロイド……機械系の怪人が妙に集まっている。
「そっちはどんなのが来たべ?」
「私が相手した時はジュウレンジャーのドーラモンスターにガオレンジャーのオルグ魔人、マジレンジャーの冥獣が来たこともありました」
「分類としては古代系というわけだな、法則性があるのか?」
「法則性があんのはそれだけでねえ、むしろ過去の方を遡るべきだよ」
コバルトは二、三年前の資料までめくりエレボスが作り出した怪人の情報を独自に分析したものを見せる。
シエルも鞄から古い紙を取り出す、独自に怪人について調べていたものらしく比較したり情報をまとめる。
「私が独自に調べた情報だが、怪人の肉体構造や大まかな遺伝子は人間と大して変わらん」
「そうだべ、一致率は最大85%、ランクが高いほどホルモンやDNAが変化してないときたもんだ……あっこれはオラが勝手に調べたから秘密だべ」
「つまり怪人は人から作られている……?」
「作られているというよりは突然変異、ウイルスのような物と言っていい、エレボスはウイルスを放つ女王というわけだ」
「じゃあウイルスなら特効薬……ワクチンが作れるんじゃないですか?ほら、藍の波止とか研究してますよね?」
「いんや、怪人について色々調べているがそれはねえだよ」
「当然ださくら、考えてみろ……実は我々が倒してきた怪人が人間だったと明かされてみろ、ゴクレンジャーの権威は地に落ちるぞ」
怪人を倒すのと殺人は話が違ってくるらしい、まさかこれがコバルトの言う『命よりも大事なルール』なのだろうか?
そうなるとさくらも汗が止まらない、エレボスによって感染させられる人類、魔の手が迫ってくるとなると対策しなくてはならない、ワクチンは無いにしても予防や注意報。
行方不明者のチェックもシエルは行っているのだろうか?
「ここまで行くとオラも考えすぎなんじゃねえかと思うが、この怪人の遺伝子なんかおかしくねえべ?」
「おかしいって、怪人側に変な所がありますか?同じに見えますけど」
「同じなのがおかしいべ、ここ数年の記録を辿っても怪人の情報は変わってねえ、オラがエレボスの立場ならやられっぱなしで済まさねえ為にどんどん強化する」
「なるほどな、怪人に何の細工も強化もせず差し向けている……まるで最初からやられ役と決まっているかのように」
「そ、それは……それじゃまるで、ゴクレンジャーが茶番みたいなことをしているってことになるじゃないですか」
「そだな、だからオラもここまではまだ考えすぎだと思ってる……けどゴクレンジャーの中になんか怪しいものがあるのは紛れもない事実」
「それを確かめるには自分たちがゴクレンジャーになるのが手っ取り早いわけか」
「それだけでねえ、このままじゃ一番危ねえのはベビーちゃんだべよ」
特待生になった以上6人目だけではなくピンクになる可能性も高いが、実はゴクレンジャーで一番交代・殉職率が高いのもピンク。
更にピンクは私生活が不明でどこにいるかもわからない上に……時間がない。
ブルーが言っていた、3日後にピンクの入れ替えを行うと。
もし何もなければベビーが3日後に新たにゴクピンクになる。
「えっ、ちょっと待ってください……それって今のピンクは!?まだ全然ケガとかもしてませんし、死んだなんて聞いてませんよ!?」
「分かんねえ、分かんねえけども……ピンクは度々研究所に来てる、ブルーと一緒に……めっちゃ怪しいのは確かべ」
「せめてエレボスの正確な情報でも分かればいいのだが」
「それに関しては問題ありませんよ……もう出てきてもいいですよexeさん」
「なんだバレていたのか、戦隊ヒーロー侮れんな」
「海の中!?やっぱオメェが一番クレイジーだべ!!」
さくらが声を掛けるとまるで海坊主のように遠くの海面からexeが顔を出してブーストをかけて一気にシエルの背後まで追い付く。
たくっちスノーはあれから滅茶苦茶気にしていたのでexeを監視に回して情報を集めさせていた。
今の話もexeががっつり聞いている。
「確かにオレなら藍の波止に潜入してエレボスの情報を集めることが出来る、ティーや巡もその辺りを気にしていたからな……それとマーベラスもだろう?」
「んだな、ゴクレンジャーの大いなる力と関係してるとか言ってただよ、急に他世界の怪人要素が混ざったことも関係してるかもしんねえ」
「それに関してはウチの管轄でもある……だが、共感するところもあった、命よりも優先されるルール……実は
時空監理局でも思い当たる節がいくらでもある」
exeは思いつくもの一通り書き殴っていく、スケールがでかすぎてさくらには理解が追いつけないが世界その物の根底を揺るがすようなとんでもないことが書いてあることは確かである。
人の命よりも優先される……黒影という局長の我が儘に振るう姿勢、監理局のやりかたはかなり傲慢であることはシエルとコバルトは分かった。
「メイ……局長がとんでもないことをしようとしてるかもしれない、ティーはライバルだから察していると思うが……お前の世界にも迷惑をかけるかもしれない」
「誰も他人事ではないくらい一大事というわけか……」
「オラももっと強くならねばやべぇ……なあ、あんたの先生に頼みたい、オラにもはぐれ戦隊の変身アイテムを譲ってくんねえだか!?ちょっとキャプテンに見せてもらって量産体制に入るだけだから!」
「そういう技術力高い芸当は時空犯罪に引っ掛かりかねないからな……ある意味アレもグレーゾーンだからな」
「まあよく考えなくてもパクリだからな、それ」
「やってることとしてはツーカイザーみたいなものですからね……アレも許されてるわけじゃないですし」
たくっちスノーとコバルトと巡の三者面談の猛相談は意外とヒートアップして最終的な結論は時空の技術用意してやるから自分で作れということになった。
考える余裕があったのでシエルは別の方向も考えていた。
「なあ、最悪ピンクになれなくても時空監理局の職員になるのも悪くないんじゃないか?」
「まあ確かに……今誰が信用できるかと言われたらレッドさんの次ならたくっちスノー先生ですよね……多分過労死しますけど、あっレッドさんといえば……ゴクレンジャーが怪しいといえばですよ、もし仮にエレボスがウイルスみたいなもので人間を怪人化させてるなら、どうしてゴクレンジャーの皆さんは感染しないのでしょうか?」
「そう、もしゴクレンジャーとエレボスが結託していたという前提になる場合ゴクレンジャー達が怪人化してしまうと何の意味もなくなる、ウイルスを徹底的に除菌しているかあるいは……もう既に感染しているか?」
「ん……なんだ、そこまで気になるならティーに調べさせるか?」
「この2人いよいよなんでもありですね」
「今更か?こいつらに私達の単位握られているぞ」
「桃の園マジでやべえんじゃねえかべ……まあ、ピンクが引き継ぎ間近となると」
「えっピンク引き継ぎ?桃の園には何の連絡も行き届いてないんだけど」
「えっ」
「えっ」
「あっ、これオラ達全員の記憶消さないとまずいやつだ」
コバルトがド戦犯になったところで、exeのリモート越しに連絡していたたくっちスノーの
マガフォンから着信が入る。
空気を読まず勝手にかけてくるやつといえばたくっちスノーの中では黒影くらいである。
たくっちスノーは副局長として培った技術で同時に電話を続ける高度な芸当を行い、さくら達にも黒影の姿を見せる。
黒影←→たくっちスノー←→exe→さくら達という変な図面であることは確かだが……。
「急に何の要件だ黒影!
時空ヒーローの後継者は教育ちゃんとして問題なしだから!」
「どう?時空に放り込める逸材いる?」
「まあいるっちゃいるが……何?わざわざそれ聞きに来たわけないだろ黒影なんだから」
「俺のことよく分かってるね!君を労うためにいいニュースだ」
「なーにが労うだ自分がカッコいい所見せたいだけだろ、それでどんな滅茶苦茶をやったのか簡潔に答えてくれ」
「確かこの世界って各カラーの学校あれど、レッドの奴はなかったじゃん?だから……俺が作っちゃいました!」
「は?ハア!?レッドの学校を作った!?」
「なあに言ってんだべこの人は!!?」
なんと黒影は勝手にレッド専門校を作成したという、もちろんゴクレンジャーとの連携や許可などはこの世界に居たたくっちスノー達は全然聞いてないので独断の結果なのだろう。
さくら達はこんなのが時空全土を取り仕切るリーダー格なのか……とドン引きしていたが、たくっちスノーの対応力からして慣れたものらしくすぐに切った。
「exeから聞いてると思うけど、監理局にも世界にも大事なルールがある……どの世界も胡散臭いだろ?」
「いやいやいやいやルール以前の問題だべお前らんとこ!!完全に自分勝手というか何も考えてない奴のムーブだべ!!」
「明らかに世界の命運任せちゃいけない態度の人でしたよね!?絶対私たちと仲良くする気ありませんでしたよね!?」
「よくアレとライバルしたり上司として付き合えるなお前……!」
「な、慣れたら人類にとっても有益なこともしてくれるって解釈出来るようになるから」
「たくっちスノー先生それ諦めっていうんですよ」
こうして、黒影がなんか変なことをしてレッド専門校「紅の砦」が勝手に作られた。
嫌な予感がしたのでコバルトはたくっちスノーに教えてもらった地図を頼りに紅の砦建設予定地までぶっ飛ばす。
通りかかったCランク怪人は轢き殺した。
「危ねえべ!!アクセル全開!!」
「まさかの伏線回収!?」
そして辿り着いた先、紅の砦建設予定地……と思っていた場所にはまさに大きな城があった。
もう作られてる、黒影の本気度とむちゃくちゃさをリアルに思い知らされた。
シエルとさくらは1回桃の園を裏切って紅の砦に入ろうかとも考えたが、黒影という男に従うのも癪に障る気がするので大人しくレッドに通報することにした。
最終更新:2025年07月15日 06:53