なりかわりサクラ

「はいどうも皆さん!俺はこの度レッド専門校を作成しました!紅の砦理事長にして時空の全部を作るもの!シャドー・メイドウィン・黒影です!忙しいのでリモートでお送りします!!」

 そしてせっかくの追加戦士コンペでも我が物顔でイベントを乗っ取り、開催場所を紅の砦に変えて大々的な宣言までしてしまっている。
 当然参加者である特待生達も市民もゴクレンジャーすらその振る舞いにドン引きしており、ワガママという言葉が辞書に無さそうなほどの厚顔無恥っぷりはたくっちスノーが頭を下げるレベルだった。

「ああもう!監理局の事業を増やしてイメージアップを図るつもりだったのになんかどんどん悪化してないか!?」

時空監理局も苦労してるんやなぁ」

「巡先生その顔やめて」

 巡とたくっちスノーは今回、6人目コンペとして審査員側に立っている、ゴクレンジャーからもイエローとレッドが揃っている。
 またしてもピンクは留守番だ。
 それにしても中々ピンクには会わない、あれからexeも色々調査してくれてるが一向に情報が掴めない。
 更にピンクだけでなく、まだ金の久遠と翠の庭園の特別講師の姿も見ていない。

「exeの情報で分かったが、この世界にはアバレンジャーとキョウリュウジャーも見ている、最初はマーベラスのゴーカイチェンジかと思っていたがどうやら違うらしい」

「とするとユニバース戦士、ワイの親友絡みかもしれへん……が、大事なのはこっちの世界の事情やろな」

「まさか本当に追加戦士まで作られるとは……といっても参加者は数えられる程度」


「あっ、相田さん!」

「ベビーちゃ〜ん!聞いたべ特待生になったって!おめでとう〜!」

 コバルトとベビーはコンペで再会、ベビーの衣装は特待生仕様でより可愛い見た目になり、特待生コンペにもブルーに会えるからという理由で参加したのだが残念ながら今回審査員としてブルーは参加していない。

「あのう、ブルー様は?」

「あ〜ブルーは最近忙しいらしくてだなぁ、ちゃんと追加戦士に選ばれたら会えるかもしれねえだよ」(その頃にはオラがブルーだけどな)

「ところでその……レッドの学校が突然できたって」

「まあそうだべな、ぶっちゃけみんなオラ達よりソッチのほうが気になるだよ」

 黒影は追加戦士コンペのことなんて一切無視して延々と話し続けている。
 無理矢理話を切り上げることなんて出来ないし抗議も無駄、これビデオ配信なので3時間ぶっ通しで自分のことや監理局の話を続ける。
 いやどうせなら紅の砦やゴクレンジャーの話をしろよ!!と観戦者のさくらはキレかけていた。
 しかし黒影の存在そのものがルール、どんな意見も聞き流して自分の世界を広げてくる。

「シエルさん、私今から桜花一拳であのポンコツのチャンネル変えていいですか」

「桃の園全体の恥になるからやめろ」

 シエルは一応何かの参考になるかもしれないからと耳を傾けているのだが自己顕示欲のような話題に脳が腐りそうになってしまうがなんとか話を聞き入れて、さくらの手を掴む。

(分かっているな!?これが私達の最後のチャンスだ!はぐれ戦隊兼追加戦士としてアピールして二人一組でゴクレンジャーとは別で戦うんだ!)

(そりゃ確かにビートバスタースタッグバスターとかゴウライジャーみたいなのもあるとは言いましたけど、本当にやる気なんですかシエルさん!)

(ええい黙れ!レッドを越えるピンクになるんだろう?ならゴクレンジャー以外の選択肢も腹くくれ!)

「なんか……あの2人いつの間にか仲良くなったみたい」

「え?ケンカとかしてる仲だったべか、確かに釣り合わなさそうだけんどなぁ……まあいいべ、ベビーちゃん、オラもブルー最優秀候補とはいえ追加戦士は譲れねえだよ、キャプテンの思いに答えるためにもまた勝たせてもらうべ!」

「もちろん!あたしももう二度と貴方に腕を折られたくないし!」

「ははは……厳しいなぁベビーちゃん」

 と、ようやく話が終わりそうという所になってきたのでコバルトとベビーもちゃんと話を聞くポーズを取ると、紅の砦の特別講師の話をしていた。

「紅の砦の特別講師は!我が優秀な副局長たくっちスノーが開発した特別な装置を利用して呼び寄せることに成功した特別な戦士!とりあえず段取り合わせて来るように頼んであるから後は流れで任せて!なおこの放送は終わったあとに自動的に」「桜花一拳!!」

 テレビが爆発する前にさくらがパンチで穴を開けて飛び出し、何事もなかったかのようにシエルに引っ張られて表舞台から離れたが、まるでそれすらも予測していたように紅の砦からスポットライトが光り、人影がさくらめがけて飛んできた……あっこれ自分に当たると察したさくらは避けてシエルを身代わりにした。

「へぶっ!!」

「あっごめんシエル」

「貴様ァ!!あまり出過ぎた真似をしたら……おい、何故私の名前を知って……何!?」

 その姿を見た誰もが驚く、改めて舞台に立ってどこからかマイクを取り出したのは……シエルを越える高身長、スラッとした体型に変わらない髪型、喉仏を弄った痕跡があるその人物……彼女、いや彼は……。
 花岡さくらそのものだった。

「この世界では僕は一応はじめましてということになるので、一応自己紹介をしておきます……僕が紅の砦特別講師に就任することになる……花岡サクラです」

「え!?わ、私!?」

 さくらにそっくりなサクラの姿に全員が驚く、特に動揺を隠せないでいたのはレッドであった。
 サクラの方を見て今までなかったくらいには焦っている。
 サクラも視線を合わせ口パクでレッドに何かを伝えた。

「な……サクラ!?お前親族とか居たのか!?」

「知りませんそんなの!?でも……どう見ても私だ!!」

「嘘!?さくらちゃんってお姉さん居たの!?」

「違う……違う!オメェさくらちゃんじゃねえべ!オラには分かるだよその骨格!その喉!さくらちゃんによく似てるがオメェは……男だべ!!」

「おとこぉ!?」

 女好きのコバルトは男体と女体の違いが一目見るだけで分かるという、さくら自体スレンダーではあるもののサクラの体つきは成長した女性らしさはない男性に近しいものであるという。
 しかしサクラはそれを聞いても不満げな顔もせずに答える。

「おいおい相田、僕は……男性ではないけど……うーんちょっとややこしいかコレ、また後で説明するよ、とにかく花岡さくらであることは確かだ」

 さくらは居ても立ってもいられなくなり、サクラの元に訪れた、何か怪しい気もしたのでシエルはたくっちスノーを引っ張ってくる、さすがの彼もこの異常事態には何かあると察して分身達の情報を集めて答えにたどり着く。

「僕はちゃんと君だよ、正確には君の時代から5年後の姿が僕だ」

「そ……それはむしろ私が将来そんな風になるってわけで、まったく安心できないわけなんですが」

「いや……さくら君、この人の言ってることは本当だ、本当に花岡さくらなんだよ、ちょっと複雑な事情を抱えている」

「どういうことだ?お前が何か作ったと言っていたな!?それも例の分身の仕業か!?」

「どうやらそうみたい!!」

 たくっちスノーは別世界で『G-lokシステム』というものを作り出していた。
 各世界のデータを参考に平行世界を出力してシミュレーションする装置、そこから『もしも』を由来としたAIによる転移の機能も兼ね備えており、好きな仮定を呼び出すことも出来るという。
 つまりこの花岡サクラは黒影が5年後の未来……という平行世界から呼び出したことになる。

「びっくりした……本当に私がそんな風になるのかと思った」

「いや……パラレルワールドというのも普通は信じ難いと思うが」

「直接ああなるよりは良いかなって」

「それもそうか」

「僕の扱い酷くない?ところで一応特別講師だからさ、席貸してよ」

「じゃ……じゃあこっち」

 サクラはたくっちスノーの隣に座り、たくっちスノーはすぐ近くで見ながらサクラの様子を見る。
 確かにコバルトの言うように体格は男性に近い形をしている、それに平行世界なら5年後といえど歩んできた歴史は大きく異なる、一体どんなものを経験すればそうなるのか……。

「いったい君に何があったらそうなるんだ」

「この歴史じゃ貴方は僕の恩師らしいね」

「恩師……ってほど大した奴じゃないさ、そうだ未来人ならある程度の事は知ってるだろ?聞きたいことが沢山ある」

「いいの?6人目とやらが始まりそうだけど」

 信じられないことにこの流れで追加戦士コンペをこのまま始めようとしている。
 正気とは思えないが今更ここまで準備しておいて黒影の好き放題に付き合わされたまま終わるのはプライドに関わる。
 少なくともコバルトはまだまだやる気らしい。

「誰もやる気ねえならオラがなっちまってええだか?」

「駄目だ!このコンペのために専用の変身アイテムと2号ロボまで作らされたんだからな!特別講師が!!」

「えっそんなのあるの?」

「俺としては楽しかったけどな」

「まあそのせいで俺は立つ瀬がないんだぜ、金の久遠の特別講師がバックれて翠の庭園にド叱られてるんだぜ、あいつら双子だからな」

 さりげなくイエローが重要そうな事を言ったが無視してサクラは面白いショー感覚で見物する。
 ……この人は本当にさくらなのか?たくっちスノーは自分の作った装置が原因とはいえサクラの事が気になって仕方ない。
 さくらとシエルも本当に二人一役のアレをするつもりで姿を消しているので今なら遠慮なく聞き出すことが出来そうだ。

「まさかベビーが特待生とは……まあ、僕の世界でも優秀だったからね、コバルトと競うのも面白い」

「なあサクラ君……うーんややこしいな、後で使い分ける名前考えとくか、そっちの君はどうなってる?白い見た目だがゴクレンジャーにはなれたか?」

「……ゴクレンジャーは僕の世界には無くなった、代わりとなる存在が生まれて僕やシエル、ベビーはそこに所属しているけどね」

「そうか……戦隊が無くなるってのもあり得る話か、でも残念だな、レッドから聞いたけど君のおばあちゃんもピンクって」

「……え?ちょっと待て、まさかレッドがこの時代の僕に話したのか?あやめさんのことを……僕だって知ったのはつい最近だぞ?どうなって……」

「まあ実際自分もさくら君も混乱したからね、先々代ピンク……まあおばあちゃんともなるとだいぶ長い歴史だ、レッドが気に入るのも……」

「ああなるほど、そういう伝え方か……」

 サクラとたくっちスノーが話している最中に缶ジュースがぶん投げられてこっちを見ろとばかりにアピールしてくるシエルとさくら。
 特待生でもない人間2人が突然割り込んできたことで騒ぎになるがコバルトとマーベラスがそれを止める。

「良いべ良いべ!赤っ恥覚悟で覚悟決めてきたんだべ見届けてやるべきだよ!」

「6人目ってやつに一番必要なのは大胆さだからな」

「なるほど……こっちの僕、随分面白いことをするみたいで……あれ、待って何アレ、本当に何?」

 常に余裕の笑みを浮かべていたサクラの仮面が剥がれるように汗を浮かべる、こういう所を見ると素は何も変わってないようだがまあ困惑するのも無理はないし面白いのでたくっちスノーはほっとくつもりだったが……さくらが持っていたのはエックスチェンジャーそのまんま。
 コバルトもこれには「だ…駄目だまだ笑うな、堪えるんだ」状態。

「お前お前お前お前お前お前お前お前そ、そそそそれはまずい!!僕の信用問題にも関わる!!ゴクレンジャーコンペだぞ!!」

「す、すみません今回だけは勘弁してください!!お金が足りなくてここまでのデザインまでは改造出来ませんでした!!」

「ちゃんと変身後のデザインは変更してある……が金はそこが限界だった、追加戦士の給料で代替する」

「なんて厚かましい追加戦士候補だ」

「待って変身って何?シエル説明してよ」

「時間押してるから早く変身するべ高尾シエル」

「1文字違いだが若干違う!いいかまず私が変身するからそれに合わせてお前がダイヤルを」

「何言ってるんですか金なんだから私が先です!!」

 こんなときでも段取り悪くてグダグダだが早く終わらせたほうが良いとサッと2つのエックスチェンジャーをひねり、重ねてダブルクロスになるように構えて変身の体勢を取る。

「あっ待てさくら君!?さてはそれはぐれ戦隊の変身アイテムじゃないな!?」

「はい!シエルさんが独自に改造しました!エックスチェンジ」

『ぴろぴろぴろぴろ〜』

「変身音がダサいんだぜ!!昭和の着メロみたいな音なんだぜ!!」

「うるさいな私の秘密基地の機材じゃこれが限界だったんだよ!!」

 遂にはイエローにすらツッコミを入れられながらも変身の構えを始める2人、確かに変身した後の姿は個性が出ており二人一組で追加戦士を名乗るのは『6人目』を求めてる中ではいい度胸していると思った。
 問題は肝心な顔面がパトレンエックス、ルパンエックスの上から雑に何か貼り付けたような貧乏くさいと言うかアレンジ精神溢れたもので、これには思わずイエローとたくっちスノーは同時に吹き出してしまう。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!こんなの笑うしかないんだぜ!!」

「さ……さくらちゃん……」

「待ってイエローさん今ガソリン吐きませんでした?」

「これが本当に過去の僕なのか……?」

 さすがのサクラも大困惑、恥をさらしているわけでなく大真面目にやっているのだからある意味では見てられないがシエルはほぼヤケクソで決めポーズを取る。
 だが焦る、たくっちスノーは滅茶苦茶焦る!!

「バカ!!パトレンエックスは思いきりパトレンジャー側!つまり国際警察だ!!国際警察は特盟に含まれているから目をつけられたら本当にまずいぞ!!」

「じゃあさくらだけ消えれば問題ないな」

「あっ今切り捨てるつもりですかシエルさん!?」

「ヒャハハハハこりゃとんだ笑い話なんだぜ」

「す……スペックだけは並外れて高いのが却ってどんな作りしたのか気になってしまうな」

 レッドにも気を遣われながらシエルはさくらに引きずられて退場。
 ようやく変なやつがいなくなったという感覚でベビーの番にうつる。
 しかしたくっちスノーは未だに首を外してハグするように頭を抱える。
 別に悪意があったわけではない、引き立て役にする気もない。
 たくっちスノーが開発したベビーの変身アイテムもエックスチェンジャーを元にしていた。

「うそぉ!?」

「違う!違うんだよさくら君!?当てつけじゃないんだよマジで!!かっこいいじゃないかエックスとか2人で1つとか!列車モチーフとか!!」

「貴方ついさっきパクリは怒られるとか言っておいて!!」

「僕はモチーフにしただけで完全オリジナルだからいいんだよ!!ベビーやったげて僕の最高傑作!」

「あ、うーん、あたしの初変身こんなのでいいのかな……」

 なんかグダグダとした空気の中、ベビーは道具を操作してボタンをひねると異様に眩しい光と共に七色のスーツに変身する。
 たくっちスノーはプロジェクターを操作して説明を加え入れる。

「こいつの名前はゴクレイン、ゴクレンジャー6人目の戦士で赤〜ピンクまで一通り全てのカラーの長所を状況に応じて使い分けることが出来ます」

「それトッキュウジャー仕様じゃないですか!何パトレンエックスしてるんですか!!」

「僕がエックスエンペラー好きだからだよ悪いか!!そもそも君等ねえ!!追加戦士は二号ロボまで想定してるんだけどさ、ちゃんと作ってあるの!?」

「何!?」
「えっ!?」


「「詰んだァーー!!」」

 何がしたかったのかコイツらとばかりに頭を抱えるバカ二人。
 わりとマジに社会の恥になっているがさくらはともかくシエルはなんて落ちぶれぶりだろうと自他共に認めている。
 もう大騒ぎしてもしょうがないしベビーもわりと見てられない範囲になってきたのでマスク越しに温かい目線を向けておく。
 コバルトは今更何をしてもインパクトで勝てる気はしなくなってきたがひとまず変身した姿だけでも見せておこうと派手に飛び上がる。
 その手にはレンジャーキーが!?

「何っ!?モバイレーツ!?なんで相田が!?」

「データちょっとパクって作らせてもらったべ!!ソーカイチェンジ!!」

『スカイザー!』

 鍵を差し込むと鳥の翼のようなものを生やした青色のヒーローに変身。

「青空のパワー!スカイザーだべ!」

 と、改めてヒーロー達が揃って審査員である特別講師、ゴクレンジャーが議論をしていくことになるが……。
 例のさくら達のアレのインパクトには中々敵わずイエローは何回も思い出し笑い、サクラが一発ギャグ感覚でお面付けたらレッドがツボにハマりマーベラスもゲラ笑い状態となってしまった。
 ブンバイオレットに今すぐにでも「カオスなことになってるな」と言いながら駆けつけてほしい。

「いやでもスカイザーはないよね」

「それは確かに、作った俺が言うのもなんだがゴーカイジャーの追加戦士みたいになっちまった」

「ゴーカイジャーもシルバーがいるしな……」

「ゴーカイジャーもゴクレンジャーも色々似たようなもんだべ!!」

「うーんその発言は色々と物議を醸すからやめようか!」

「だがゴクレインも少しな……追加戦士というよりは我々を食いかねない勢いだ、レッドはレッドの、ブルーにはブルーの……色合いにはちゃんとした意味がある、全部載せはちょっとね」

 ということもあり、追加戦士コンペは該当者なしという結果に終わった。
 つまりさくらはただの変人として終わってしまった。
最終更新:2025年07月15日 06:57