苦悩マゼンタ

 花岡サクラは何故かあの後、紅の砦に残らず喫茶店を作ってもらいマスターとして過ごしていた。
 元々自分の意志で来たつもりはないが、帰れないので自分なりに過ごしてみる事にしてみたという。

「あの企画は中々面白かったよ、ゲラ笑いしたのなんて何年ぶりだったかな過去の僕」

「殴りますよ未来の私」

 そしてピンクもブルーもレッド専門校とは思えないほどフリーに過ごしている。
 コバルト、ベビー、シエル、さくらが自分の部屋よりもここに溜まってゴロゴロしている、立場もカラーも違う彼女達が集まれるのはここくらいだ。
 たくっちスノーもいるし暇さえあれば巡やマーベラスがカレーを食いに来る。
 まさに戦隊達の憩いの場だ。
 問題はマスターが一番胡散臭いことにあるが。

「それにしてもお前、どこでコーヒーの淹れ方なんて学んだ?」

「僕は向こうじゃ一人暮らしして長いからね、あったまにシエルと過ごしたりもしてるんだよ?」

「それに関しては聞かないでおくが……一番気になるのはお前のその体だ」

「んだな、オラから見るとさくらちゃんっぽいが男っぽさが抜けきれねえ」

「うーん……まあいいか、隠すようなことでもないし」

 サクラはコバルト達が前に発した女のようで男のように見える体の疑問を解消すべく、自身の診断書を見せる。
 怪人のデータに詳しいコバルトはその遺伝子結果を見て驚く。
 サクラの体内にある男性ホルモンと女性ホルモンの数値がピッタリ均等、つまり半々の状態になって微々たる変動もなく維持していたのだ。

「今の僕の性別は『双性』、つまり男も女もどちらも正解というわけさ」

「お、オメェ……つまりそれって……」

「双性だと……?女の体に男の要素が加えられているってことか……」

「つまり未来のサクラちゃんはおかまってやつ?」

「こらベビーさん!そこはニューハーフって言うところですよ!!」

「いやオラ的には多分ふたな……」

「君達いい加減にしないと普段温厚な僕も紅蓮の如くブチギレるよ?」

 ベビー、さくら、コバルトが言いたい放題でサクラにコーヒーを頭からぶちまけられている中、シエルとたくっちスノーは冷静に診断書やホルモン情報を確認しつつ監理局のパソコンで一通りの情報を調べていく。
 もちろんパラレルワールドの人物なので自分達にとってはアテになるか怪しいことは承知の上で結論を出す。

「さくら、お前性自認は一応女でいいな?」

「えっ……男ピンクはいても男の娘ピンクはちょっと日曜日には過激すぎるべ?」

「相田さん殺しますよ?……私は女!!ちゃんと女です、悪いですか!!」

「そうか、なら後天的にホルモンが変質する方が近いな……サクラはエレボス感染者だ」

「さすがシエル、この時代でもずいぶん鋭い……でも確かにホルモン改造はしたけどエレボスは関係ないよ」

「関係ないのに性別を変えたのか……そうか、それはそれで」

「あっそれよりもです、貴方の世界だとエレボスってどうなったんです?先生から聞きましたよ」

「ああエレボス……僕の世界の話のこと?聞いてもあまり関係ないと思うけど」

 サクラが自身の境遇について話そうとすると、喫茶店の戸を開けてマゼンタが現れる。
 そういえば最近はマゼンタとあまり話してなかったな……と三人は思った、サクラとたくっちスノーは内心こいつら失礼なことを考えているな?と思ったが、マゼンタが見るからに落ち込んでいたので酷いことは言及しないように言わないようにした。

「とりあえず俺にいつもの炎神戦隊ゴーオンジャー飯を出してくれ」

「大将いつものみたいなノリでわけのわからないメニューを僕に提示しないで?そもそもゴーオンジャーって何?」

「えっ貴方私なのに知らないんですかゴーオンジャー!?」

「オラ達の世代で一番人気だべゴーオンジャー!!」

「これって僕が責められて僕が悪い流れなの!?もう未来に帰っちゃおうかなー!!」

「なんだかんだこういう所さくらちゃんっぽくて安心するよね」

「どこに安心感見出してるんだお前は、私もそう思うが」


「理事長!!そもそもややこしいんですよ僕の喫茶店のメニュー!!ゴーオンジャー飯はオムレツでいいしゼンカイジャー飯はピザすき焼きで……いやそもそもピザすき焼きってなんだよ!当たり前のようにオリジナル料理を加えいれるな!!」

 サクラは黒影に抗議の電話を入れるが、黒影に文句言ったところで無駄だとたくっちスノーが笑顔で肩を叩く。
 オムレツを食べながらもどうにも気持ちが優れないマゼンタの相談に乗ることにした。

「いや実は俺ってさ……どうにもピンクの中で成績が残せなくてな……」

「成績残せないのは他の有象無象共も一緒だぞ」

「そうですよ!マゼンタさんは私とマーベラスさんの戦闘見てもなんだかんだで残ってくれましたし!」

「君は一体どんな戦闘を繰り広げたんだ……」

「それにねぇ、あたしも特待生になってもしょっちゅうマゼンタちゃんと実戦訓練はするし友達と思ってるよぉ」

「その割にはオラはこの娘と絡んでるところ見たことないべ」

「君ちょっと黙ろうか?」

 マゼンタは桃の園に来た理由は特にない、なんとなくピンクが良さそうな気がして腕力だけで過ごしてきたが。
 昨今の合体、ドライブ、オムライス……なんかこう列挙されるとカオスだが大事な授業でもこれといった結果も残せていなかったことを気にしているらしい。
 というよりは、桃の園で過ごしていくうちにヒーローとしての責任感というか考えることの大事さを実感していったらしい。

「ベビーは凄いよな〜?俺含めてみんなシエルが真っ先に特待生になると思っていたのに」

「なんてったってオラのお墨付きだべ……ふんふん、でもマゼンタちゃんも中々悪くないと思うだがなぁ」

「中々悪くないは桃の園じゃ中途半端みたいなものなんだよ……それで言ったらさくら、お前も大丈夫なのか?」

「う……私は私で上手くやっていますから」

 そういえば考えてみると仲間を気遣えるほど余裕のある立場でもないのがさくら。
 成績で言えばワーストなのは変わらないしこの間のコンペで結構マイナス判定をくらい、この間たくっちスノーと巡に詰められてリアル缶詰化してしまった。
 更に言えば桃缶を嫌と言うほど食わされた。

「そ、その話はしないでください桃の事考えると吐きそうに……」

「でもつまり、マゼンタちゃんからすればそんな扱いもされてねえと」

「それに関してはさくらが特別扱いすぎるというのもある……まあ家系を考えれば無理もないが、贔屓目というのを気に入らない人間がいるのも確かだろう」

「先々代ピンク花岡あやめ……か、心配しなくても僕から見てもマゼンタは強いよ」

「そうは言われてもな……俺はこれからどうすれはいいか」

「ん?あっさくら君居た!宿題5倍漬けにして……ん、なんだみんな揃ってるじゃん」

「あっ、たくっちスノー先生ちょうどいい所に!」

 たくっちスノーと巡がオムライスを食べたくて合流、マゼンタ達が集まっている所に来て事情を聞き、特別講師として助けにならないか考えてみることにする。
 少なくとも今更ピンクになることは難しいので別の方向性を模索してみることに。
 たくっちスノーは久しぶりに求人雑誌を開いてみた。

「そういえば特別講師なのに把握してなかったけど、桃の園で卒業してピンクになれなかったやつってどうなるの?」

「基本的には本部の警備員とからしいで、ピンクの場合だと事務員やけどな」

「桃の園で肉体訓練が重視されないのはそういう理由もあるべな」

「でもマゼンタちゃんってどこからどう見ても肉体労働系だしな……あっそうだ、時空ヒーローに興味あったりしない?」

「そういうのって自称じゃないのか?俺もやってみたいけどその場合手に職付けなくちゃな」

 意外とそのへんしっかりしているマゼンタに翻弄されるたくっちスノーだが、今の新時代なら就職先は色々あるので教師らしくしっかり面談して相手してくれる。
 コバルトやシエルも念には念を入れてと一緒になって受け答えして第二の選択肢を模索していく。

「そういえば時空監理局に入れるって選択肢は無いんだべ」

「そうですよね、色々部署あってなんでも出来るって聞きましたよ」

「自分の可愛い生徒をあんなクソみたいな環境に置けるわけないだろ!!!」

「こいつ本当に副局長か……?」

 と、あんまりな評価をあっさりと言う中さくらは閃いたように新しい方向性を提示する。
 スーパー戦隊たるもの参考になるのはやはり過去のスーパー戦隊達だ。
 サクラからすればそのほとんどが全く縁がないことなので困惑するしか無いが……。

「ヘビツカイメタル!外道シンケンレッド!ザワールド!」

「なんで闇堕ち戦士なんだよ!?マゼンタちゃんにダークヒーローになれと!?」

「今の時代ダーク路線に走ったほうが面白いですよ!!」

「人の進路を面白がるな!!」

 どうにも意見がまとまらないが今の新時代ならどこへでも可能性があることを説いて人生の先を考えてみるが、自分もどんな未来になるのか見当つかなかった。

「あたしはねぇブルーのお嫁さんになればいいけど今の時代共働きとか考えたほうがいいのかなぁ」

「正直オラ達はどうするべシエルちゃん?エレボスぶっ殺した後のセカンドライフとか考えてねえだよ」

「さあな、同時打ちがいいところと思っていた、身の程を弁えたらそんなところだろう」

「もう少し現実を見ましょうよ……それでマゼンタさんに関してですがまだ案は1つ残ってますよ、そうですよね未来の私」

「ん?ああなるほど、マゼンタを紅の砦に誘って僕が直々に指導するというわけか、それは名案だね」

「ちょっと待て、そもそもの話だがお前は強いのか?この時代のさくらを見てみろ成績もだいぶアレだ、人を教えられる立場とは到底思えん」

「おっ言ってくれるね……ならちょっと一発、桜花一筋!!」

「なっ」

 間髪入れずサクラが人差し指をシエルの額に突き立てるとド派手に吹っ飛んでたくっちスノーがクッションになり捕まえるがもしかしたら背骨が折れていたかもしれない。
 少なくとも戦闘能力に関しては桁外れだ、この5年でとんでもないくらい強くなっている、それも男の筋肉のおかげではない……!

「桜花一筋、僕なら過去の君の桜花一拳の百倍の出力を指一本で出せる」

「バケモンだべ」

「ま、まぁ……未来のサクラに任されば強くなるのは分かったけどさ、勉強の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、僕の考える専攻は時空遺伝子学、僕なりに研究したホルモン改造技術に時空の要素を加え入れたらどんな業界でも通用するよ!」

「授業カリキュラムに肉体改造が入ってるって本来めっちゃ怖いはずなんだけどね」

「まあ現状はサクラに任せるのが一番塩梅……なのか?でも桃の園が許可するやろか?」

「いや……黒影のことだから決めたら強引にでも連れ出すだろう、まだ明かすな桃の園に伝えておくか覚悟を決めておけ」

 たくっちスノーを通して黒影のヤバさをなんとなく理解しつつも喫茶店を掃除していると電話がかかる、コーヒー片手にサクラが電話を取ると、まるで友人に会ったかのように気さくな対応を取り始める。
 どうやら知り合いのようだがめちゃくちゃ気になるので逆探知を当たり前のように行うたくっちスノー、倫理観が時空犯罪者のままアップデートされていない。

「ああ来道久しぶり!お兄さんは……ん?ああこっちの話?そっかじゃあ」

「切るの早くね!?」

「未来人の電話なんてこんなものだよ、相手は来道梃子、僕の時代にも居た科学者でここじゃ金の久遠の特別講師らしい」

「え?金の久遠の特別講師って確かこの間の追加戦士コンペでバックレたという……」

「その人だね、お兄さんの羽丸くんは翠の庭園で特別講師してるんだっけ?相変わらず人を寄せ付けない双子だよね」

「サクラ、その2人ってそっちじゃどんな奴らだったんだ?」

「優秀な科学者だったよ、僕の時代じゃ人類存亡が怪しい感じで……あっこれはいいか、優秀だけど人を寄せ付けにくい印象は強いかな、その人がねそちらのマゼンタを共同訓練に誘ってきたんだ」

「共同訓練?金の久遠と?なんで特別講師が都合良くそんなこと言ってくるんや?」

「来道は本当に特別なんだよ、金の久遠の技術力を生かして全世界に独自ネットワークと監視カメラを張り巡らせている」

 サクラが指を指すと本当に監視カメラが喫茶店内にもある。
 梃子は世界各地に自身が用意した道具を蜘蛛の巣のように張り巡らせることでどんな様子も監視できる。
 情報を武器にして脅しに使ったり、優位に立ち回る事を得意とする。
 とりあえず分かったことは「性格が悪い」ということだ。
 なお、コバルトはイエローから軽く来道梃子の話は聞いたことがあるが……金の久遠の特別講師は授業を行っている様子はあるが一度も姿を現したことはないという。

「副局長さんよあの番号逆探知出来ただか?怪しいから特定しておけってブルーから言われてるべ」

「だが、金の久遠との共同訓練か……行ってみるのも良さそうだな」

「じゃああたしも行く!」

「そうだね、なんか聞いてる限りだと怪しい気もしてくるからベビーちゃんと合わせて2人で訓練に参加してくれ」

「俺はさくらにも行ってもらいたいで、別に何人で行けとかも決まっとるわけやないやろ」

 巡とたくっちスノーは合同訓練にオッケーしてさくら達を目的の場所まで一気にワープさせる。
 残ったシエルとコバルトは未だに詳細が分からない来道羽丸の情報を徹底的に解析する。
 そもそも翠の庭園の事は全く分かっていない、そもそもグリーンが一番ぱっとしないという扱いで地味なこともあり入ろうとする人間が少ない。
 そんな中、妹を通して特別講師の事を調べられるのは好都合だ。

「にしても妙だべ、ホームページ漁っても来道羽丸のことが出てこねえ」

「羽丸は大の人間嫌いだからね、研究成果は優れているけど理解されたくない人物だ、僕は評価してるけど」

「そんな奴が何故グリーンの特別講師など……5年前である以上、性格が違うこともあり得るが」

「ま、僕としては桃の園と藍の波止のこと以外は詳しくないんだ、5年ぶりの社会科見学といこうかな……貸して」

 コバルトから端末を借りて裏手に回り改造すると、逆に梃子のカメラをハッキングして自由自在に監視できるようになってしまった。
 とても5年後のさくらとは思えない高度な芸当だ、羽丸達に追いつくためによほど苦労したと見える。

「どうする?合同訓練とは思えない妙な様子を盗撮するか、金の久遠を調べるか」

「さくらちゃんを信じてえから校舎!」

「了解、校舎だけに後者ね……僕も金の久遠には興味があった!」

 サクラはカメラを操作して金の久遠の図面を徹底的に調べていくと……巡がその様子をこっそりスマホで撮ろうとするものの三人が釘付けになって眺めてしまうので中々撮れない。

「邪魔や」

「いやだってとんでもねえ情報だべコレ」

「いやそれを知りたいねん俺は」

「後で桃の園にバラすつもりだから駄目だ」



 そしてロケット射出の勢いで街をぶっ壊すような感覚で着地してさくらとベビー、マゼンタを担いできたたくっちスノー。
 阿修羅のように両腕をいくらでも増やせるので三人担ぐのも余裕である。
 金の久遠の生徒達は既に居た、なんというかやはり黄色、当たり前なのだが凄い黄色っぽい。
 しかし戦隊の黄色ってどのようなイメージだろうかさっぱり思いつかない。

「黄色と言えばカレー好きみたいなイメージって何故か広まってますけど全然そうでもないですよね」

「単純にキレンジャー以外のイエローの知名度無さそうだからね〜、そんでさくら君、君は見学だけど金の久遠どう思う?」

「うーん……なんというか藍の波止に比べると不気味なような」

 金の久遠の生徒達は無機質というか、見るからに作り笑い。
 覚えがある……たくっちスノーもそんな感じだ、心外かもしれないがたくっちスノーは笑顔がめちゃくちゃ下手である、キレることはしょっちゅうあるが指で無理矢理唇を横にしないと笑えない。
 アレと同じだ、現役イエローはあんなにヘラヘラ笑ってたことを考えると大違いだ。

「それにしても来道はどこだ?一応合同訓練のはずなんだけど」

『ああ、合同訓練?そんなもの嘘だ、お前らがそこに立ってくれるだけでよかった』

「あ!?」

 たくっちスノーが探しているとメールが届く、言葉の通りであり数合わせの為に呼び出されたことがメール越しに流れてくる。
 忘れがちだが桃の園は完全に差別されている立場にある、その中でも来道は思い切り見下しているようでありたくっちスノーは初対面だが既に来道が嫌いになっていた。
 やるべきものを撮ったイエロー達は帰っていくが、マゼンタは呆然とその姿を眺めるしかなかったが次第に正気に戻って苛立つ。

「気に入らねえよな……軽い気持ちでここに入った俺にこんな事言う資格はねえが、どうして女性ってだけで、ひピンクがこんな扱いされなきゃ……」

「奇遇だね、僕も同じ事考えてた……だからさマゼンタ、いっそのことさくら君達も合わせて作ってみない?」

 たくっちスノーは速攻でプリンターにかけてプロジェクト用紙を作成する。
 完全にヤケになったたくっちスノーはピンクの立場を変えるために大きな作戦に出る。
 それは全員が女性の戦隊……というだけではない、全員がピンク色の51番目のスーパー戦隊、その名は……。

「桜花戦隊シュンヨウジャー、ゴクレンジャーになれなくても君達を史上最強のピンクにしてやる……」
最終更新:2025年07月23日 06:47