桃の園の方はさくらを捕まえるために大騒ぎになっており次々とピンク達が外に飛び出していく中、マゼンタだけが全く別のルートを走っていた。
「ベビー!どこに行ったベビー!……くそっ見つからねえ!!あいつと仲良かったから捕まえようとはしないはずだが……仕方ねえ俺1人だけでも!」
マゼンタは紅の砦を通り過ぎて喫茶店へ、何も言わずサクラを丸太のように担ぎ上げて走る準備をする。
「未来の!さくらがやべぇ!俺はアテとかないけどしばらく隠れておいたほうがいい!」
「ブルーが僕がエレボスの血筋だとバラしたみたいだね、まさか君が助けてくれるとは思わなかったけど」
「言ってる場合じゃない!桃の園全員が捕まえようとしてるんだ!」
「心配いらない経験済みだ、よほど自分達の決めたルールが世間に都合が悪いと見える」
サクラは担がれながらも後ろを指さして喫茶店のカウンターへと導く、指差す方向に屈んでみると裏の方に隠しボタンがあり、押すと戸棚が移動して緊急脱出なようなものが現れる。
よほど金をかけていたのか本格的な秘密基地だ。
「あのバカにせびって金を搾り取った甲斐があったものだ、こっちから行こう」
「こっちからって……大丈夫なのかこの時代のあいつは」
「君の知る僕なら大丈夫だ、今レッドから連絡があって無事は確保できたって」
「それならいいが……」
マゼンタとサクラは穴に入って紅の砦……をさらに通り過ぎて滑り台のように飛び出しながら空を越えて時空間へと突っ込んだ上で何処かの部屋に入る。
やっぱり黒影にやらせるんじゃなかったと後悔しつつもコバルトに電話を入れる。
「僕だ、周りにはマゼンタしかいないから合流してくれないか……シエルは来てない?分かった」
◇
「よし、未来から来た方のさくらちゃんもなんとかなったみてえだが桃の園にも狙われてるみたいだべ」
「相田さん、どうして私達に……?」
「おいおいさくらちゃん、オラはゴクレンジャーより君のほうが好きなんだよ、ベビーちゃんと話したしなぁ無事に引き継げたらぜってえあやめさんを救ってやるって」
コバルトが連れているエレボス……あやめは暴れる様子はないが理性は感じられず、まるで小動物のような小細い鳴き声を挙げて警戒する様子しか見せない。
これが本当に怪人の始祖であり頂点であった怪人とは思えない、これがウイルスの末路……。
それに彼女が……。
「……このままじゃ私、怪人を産ませられるんですよね、更にそこから、怪人がピンクと……その、私の子供みたいに」
「うえ……あ?まさか、それっ……うっおおええっ……げっ」
耐え難い真実を察してコバルトも気持ち悪くなりその場で吐いてしまう、何せピンクを……エレボスを管理していたのはブルーの役割。
つまりブルー達は毎日ピンクをエレボスの作った怪人にあてがって……そう考えると脳から拒否感がドーパミンのように溢れ出して止まらない、下手したら自分がベビーをそんな目に……。
「……ま、待ってくれさくらちゃん、今の話は誰から?」
「黒影さんですよ……例の」
「……そうか、レッドさんも知らなかったんだな、まあそりゃ分かるよ、お姉さんとしては可愛い妹にショッキングな事知らせたくねえでしょ」
あやめもレッド……かすみも結局は人間、家族としての情があり、知られたくない想いがあり……気を使うこともある。
だがレッドからすれば……世界を守るため、人類を愛するために数々のあやめの子供……そしてさくら達の父親を殺して。
「オレは……だって姉さんはいつも言っていたんだ、ちゃんと人の子も生まれて、孤児院とかに送ってちゃんと幸せに……そう姉さんはオレにちゃんと言い聞かせて……」
無理があるんじゃないか、そう言おうとするものはきない。
100年経ってもあやめにとってレッドはかけがえのない妹であり、身体が強靭になっても心はあの頃のまま……自分のことで気を遣わせたくなかったのだろう。
現にエレボスとして心を失ったままでも彼女はレッドを優しく撫でる、その眼差しは恐ろしい怪人の王ではなく聖母のようにも感じられる。
なんておぞましい真実なのだろうか、これが自分の知りたかった命よりも大事なゴクレンジャーのルールだ。
自分達は何も知らないままゴクレンジャーと怪人の戦いを見せられてこんなものに憧れて……こんな立場にまでなって。
「さくら君、一旦未来の君と合流するがまずどうする?ベビーちゃんを助けるのも第一としてだ」
「ブルーとイエローも頼れません、数的には不利ですが私達は立ち向かわなくては」
「……んじゃベビーちゃんはオラが探してくる、エレボス2人にさくらちゃんも2人、安全なところに入れてもっと情報集めて告発してやるべ」
「なら僕と同行する、今exeと巡が時間稼ぎをしている……ピンクとブルーの追っ手はしばらく大丈夫だろう」
候補生達はいい、今大事なのは黒影。
タチが悪いのは黒影がさくらに大事な情報を開示したのは心からの善意のつもりでとんでもない爆弾を落としてきたこと、もちろんそれを自分が解決するつもりで首を突っ込んでより破滅的に、よりカオスに……より黒影だけが楽しい状態で大団円気取りする。
なんというか英雄ごっこしたいという行動原理でなんでも出来るだけに終始タチの悪い男、それが黒影だ。
こんな奴をご機嫌な状態で野放しにしたら
時空監理局の信用にも関わる、というか自分達の仕事は
時空ヒーローを増やすことだったはずだが。
しかし思い通りにいかない、話を聞いて狼狽えてからのレッドの様子がおかしい、突然悶え苦しんだかと思えば全身に亀裂が入っていく。
「うっぐあアア……!!肉体が……」
「レッドさん!?どうしたんですか!?」
それだけではない、後ろから光る筒のようなもの……スナイパーライフルだ、発砲音と共に
たくっちスノーの頭部が滑るように腹部を通り背中を周りコバルトに当たり前に噛み砕く。
「秘技!!灘神独流・頭丸滑り!!」
「ちっ……」
「狙われてる!?」
ラッキーなことにサクラとの合流地点が見えた、触手を伸ばしてさくら、あやめ、レッドをまとめて成分で団子のようにして固める、ミリィに教えてもらったブラックシールド(団子バージョン)だ。
ボーリングの玉を投げるかのように
時空の渦に送り込み、コバルトとたくっちスノーだけが残された。
◇
ひび割れたレッドが流れ込んできて、情報量の多さにマゼンタは声が出そうになるがサクラの顔が一変してマゼンタを制してポケットに手を伸ばしレッドに薬を打ち込む。
「未来の私……レッドさんに何が?」
「レッドの言うパターンAのエレボス変異にもデメリットがある、肉体は強靭になるが精神的……魂と言うものといるか、衝撃を引き受けるかのように脆くなり強く不安を感じると……自壊する」
彼女の世界のシエルも言っていたがどんなに強靭な肉体も否定され切り崩されるとガラスのように脆くなる。
少なくとも黒影のやったことはレッドにとっては完全に悪手だったことになる。
サクラの薬がどんな効果を持ったか分からないが、身体の崩壊が収まった。
「す……すまない、姉さんはこうなると分かって黙っていたんだな、君の父親が……」
「何かワケアリみたいだね、ピンクの方をなんとかしながら事情は聞く……ん?何その顔」
5分後。
「いやちょっと待てよ!!?」
「うわっビックリした」
サクラがここまで大声出すほど驚いたのはこの世界に来てから初めてだろう。
この事実はサクラにとっても想定外だったことはさくらもびっくりした、ホルモン改造しているくらいなら把握してるものと思っていたが全然知らなかったらしい。
「知るわけあるか!!前々から思ってたけどこの世界は経験以外にも僕の観てきたものと前提が違いすぎる!せっかくカッコつけてきたのに僕が役に立てるか分からなくなってきたぞ!!」
「なぁに無責任なことを言ってるんですがチビ!」
「もうチビじゃない!男性ホルモンぶちこんだらシエル超えたぞ!」
「よせよ自分同士で喧嘩なんてみっともない!それよりも大丈夫なのか、エレボス達……」
「大丈夫だ、あやめさんもレッドも僕の時代でもワクチンを開発して人間らしい生活が出来るように研究を進めている……特にこの世界は優秀な奴らも多い」
「貴方の場合はどうして?」
「僕の場合は怪人との共存を夢見てたからね、この世界じゃある意味共存……これじゃブラックジョークだな」
「この部屋は大丈夫なのか?」
「僕も時空については個人的に勉強してきたつもりだ、障壁の作り方は学んだ」
この空間はサクラがたくっちスノーにも見繕ってもらった特別な時空間。
基本は一時的な別荘として使われるものだがこういう時に便利になる。
後はシエルとベビーでも居てくれれば……。
◇
「スナイパーライフルの狙撃……一体どこから?」
「……うーん、分かったとして対処できる?」
「ブルーの基本はクールに、そしてスピーディーにだべ」
「方角は南東、あのビルの屋上……着弾までのタイミングは……」
「ああよっこいしょ」
まだたくっちスノーが計算してる最中なのに発射された弾を目で捕捉し、まるで箸で蝿を掴む剣豪のごとく指で弾丸を受け止めて握り潰してしまう。
既に人間業じゃないが、戦隊のブルーとなるとこれくらい出来ないと話にならないのだろう。
更に潰した弾丸を投げ返すとエネルギーでも蓄積させていたのかビルの屋上が爆発する。
「やりすぎじゃないのか……?」
「先に殺意見せてきたのは向こうべ」
人影は爆発を回避して一気にたくっちスノー達の方向まで詰め寄り、スナイパーライフルを捨てて手榴弾を投げてくるがそんなものが通用するわけもなく息を合わせて蹴り返して上空で爆発、それでも尚迫ってくるのでコバルトは必殺技の体勢へ。
「アルタイル……!」
「ギャラクティック……」
「スプラッシュ!!」
青い光を放つ蹴り技が炸裂し、流れ星のように跳ね返る2人……。
煙とともに現れたのは……。
「その技を使えるのはアンタしかいねえだよ……ブルー!」
「ちっ……特待生如きがここまで成長していたとはな、目を付けた俺の判断は間違ってなかったということか」
「ゴクブルー……こいつがさくら君を指名手配したやつか!」
「何か間違っているか?花岡さくらはエレボスの遺伝子がある、我々藍の波止は怪人を研究しデータを集める義務がある、忘れたか相田」
「ざっけんじゃねえ、元はと言えばテメェらがさっさとあやめさんを治すワクチン作りゃあ済む話だったはずだべ、オラは女の子の味方だべよ」
「それでは意味がない、エレボスは真の平和を築くために必要な存在なのだ」
「真の平和……じゃあ聞かせてみろ、オラは引き継ぐ以上知る権利がある!」
「良いだろう、聞けばお前の行いは愚行だったと気付くはずだ」
話し合いの場を設けようとたくっちスノーは地面を叩くと成分を噴き出してドーム状に広げる、これで会話を邪魔するものは誰もいなくなる。
……それと同時にブルーを絶対に逃さないための作戦。
たくっちスノーは自分の膝を変形させてコバルトを座らせる。
改めてこいつなんでもありだなとブルーもコバルトも若干ドン引きの範囲になってるがたくっちスノーとしてはなんかお前らに化け物扱いされるの嫌だなと突っ込んでいた。
「自分とコバルトとしては後聞きになるが、あやめさんとレッドがエレボス化を直しながら生まれていく怪人をケジメとして倒していたがブルーが介入しておかしくなったと聞く」
「んだ、怪人との戦いで人が喜ぶだかなんだかな、詳しく説明してもらおう」
「それはゴクレンジャーの存在意義とも言える根底の部分だ……我々は人類の未来を守る、それと同時に今を生きる人類のコントロールも必要になる。」
かつてある実験が行われた、99人の平和主義者の中に1人の戦争主義者を入れる。
99人の人々は同じ価値観を持って分かり合い楽しみながら平和な日々を送る。
しかし残された一人の戦争主義者は突出した憎しみのパワーを強く宿しこんな世の中を変えてやろうと決意する。
力を持ったその人物は何も考えず生きる99人達の頂点に立つことは容易い。
そして戦争主義者が上、即ち正しい持論とされると民衆の判断も変わり、99人の思想をいとも簡単に変えてしまう。
次の実験では戦争主義者と平和主義者の数を逆転させる、すると平和主義者も同じように頂点に立ち思想を変える、この繰り返しだった。
この話を聞いているたくっちスノーからすると、神の目線でいえばこれは仕方ないことである。
例えるならRPGで魔王が現れて世界を襲い、勇者がそれを打ち倒す流れというのも世界の発展・進化のために必要なこととされている。
戦争主義者が必ずしも悪であると思っていない……あくまで神様としての目線だが。
「ゴクレンジャーが結成されたのはこの歪んだ反覆を断ち切るため、我々の使命は殆どの民衆を未来永劫平和主義者とするため戦っている……戦争の予兆となるものを悪とする世の中を作るために」
「……病患った可哀想な姉妹ば助けることから随分スケールがデカくなったべ、さすが人類存続考えるだけはある脳みそだよ」
「理解したか相田、お前が背負っているものは人類の未来だ、お前が向くのは花岡あやめの方ではない」
「やっぱ嫌だね!オラはここに来て、キャプテンに色々勉強させてもらって……こいつに色んなスーパー戦隊の話見せてもらった、だから言わせてもらうがなあ……大層結構な身分掲げて自分達が正しいだか言うとるけんど……要は都合の悪い奴を切り捨てて自分好みの世の中にしてるだけべ」
「何が言いたい?」
「ゴチャゴチャとまどろっこしいこと言わんでも、世界征服の一言で片付くだろ」
「……なるほど、典型的な戦争主義者の発想だ、どうやらお前を後継者に選んだのはとんだ見込み違いだったようだな」
「見込み違い?そりゃ結構、オラは藍の波止の特待生であると同時に伝説の海賊戦隊の教え子だべ!」
「なら仕方ない、本来戦争主義者を平和主義者に変えるのが役目だが死ぬしか無いようだな」
「何が……平和主義者だこの外道ツラがなァ!」
交渉決裂を判断したたくっちスノーがドームを砕き即座にブルーとコバルトが戦闘に入る、マーベラスに鍛えられたコバルトはブルーにもくらいつくが相手は腐っても現役、ほぼ動きを読まれて鋭い一撃が飛んでくる。
呑気していたたくっちスノーにも背後からイエローが攻撃に入ってくる。
「何が平和主義者だべ!ピンクに怪人の子を産ませておいてよく平和とか抜かせる!ツラがよくてもオメェの心は怪人より腐ってる!」
「完全なるエレボスを作るために必要な行為だ!俺からすればようやく花岡さくらという完成体が生まれて安堵していたところにこの結果だ!!」
「……ああやっぱりそうか、もっといるんだな!?怪人から産まれたがエレボスになれんかったてのは……たとえば、オラとか!!」
「ああお前か、お前はちゃんとした人間だ」
「嘘つくんでねえ!!じゃあどうして……怪人A1の遺伝子がオラと一致してるんだよ!!」
「そうか知ったのか……言葉の通り、オレ達は何も戦争主義者をひたすら怪人にしているわけではない、この戦いの中で救えない人々もいる、そういった者を作り変える処置もする」
「俺達はちゃんと救ってやってるんだぜ、そいつらは殺さず丁重に保管してるんだぜ」
「おい待て!まさかシエルの家族も……」
「シエル・フローレスか……心当たりあるが誰かまでは覚えてないな、数が多すぎる」
「らしいぞっ!!シエル!!」
「イノセント・ディストラクション!!」
たくっちスノーの掛け声と共にシエルがビルから飛び降りて回転混じりに踵落とし。
イエローはかろうじて避けるもただの蹴りで右腕が切断され、機械であることを表すコードや部品がこぼれ落ちる。
たくっちスノーはシエルを体内にしまうことも検討していたが、シエルは不意打ちのためにずっと裏から回っていた。
忘れてるかもしれないがこのたくっちスノーは分身、くっつけば元通りになり情報共有される。
「なるほど……本当に桃の園の方もヤバそうだな……何!?巡が操られた!?」
「ちっ……な、なんとかやってくれたみたいなんだぜ、梃子」
「フン、どうしようもないポンコツが……」
聞き覚えのある声、忌々しい見下し野郎。
ようやく拝めたその姿はシエルによく似ていたが肌の色が合ってない、まるで無理矢理上からシエルの顔に整形したように異質、間違いなくさくらに何らかの関係性があることを感じさせる。
その右腕には巡と同じテガソードの剣が……。
「エンゲージ!」
『センタイリング!キョウリュウジャー!!』
キョウリュウレッドに変身した梃子はイエローの右腕を掴み投げつけてシエルに近づくが避けて掴みかかる所にティラノレンジャー(巡)が振り上げるが梃子は怯まない。
「Wow…!!」
「なんだべ!?急に聞き馴染みのあるオープニングテーマを!?」
「まずい奴の歌を聴くな!!あの歌を聴くと操られる!!」
「キョウリュウジャーの指輪の力か!」
梃子が歌うとコバルト達は頭が押し潰されそうになるような痛みに襲われる、これがキョウリュウジャーのユニバース戦士の力。
桃の園、藍の波止は全てあの力で操られているのだろう。
さらに機械には通用しないのかイエローは腕が欠けてもなおキックで追い打ちをかけてくる。
「まずい、このままでは……!!」
「うっぐ……やめろ来道梃子!俺まで操られるだろうが!イエロー!止めろ!!」
「うーんダメだぜ、あいつ歌ってる間しか操れないんだぜ」
最終更新:2025年07月23日 06:59