焔を燃やす時は何処?

「ええいこの際俺たちがどう思われてもルートに影響はない!!②だ!!鬼殺隊に嫌われることになるが!ここで何としても零余子を討伐して、局長!!」

「ありがとう!!大好きな選択だ!!」

 黒影は先ほどのようにはじまりの書に血で矢印を引いてルートを決めて2つの栞が作られた。
 どうやら『零余子を倒した上で天元を追いかけるルート』は現実的ではなかったのではじまりの書の中では採用されなかった道らしい。
 仕方ないことだが黒影は零余子を追いかけていった。

「今更だけどさ、俺があの子を倒してポチがその天元ってやつを追いかければ済んだ話じゃないの?」

「無理だって相手は元忍びだよ!俺じゃ追いつけないしかといって零余子倒せないよ〜!!」

「ああもう役に立たないなぁ!」

 零余子の方も黒影に気付くとその桁外れの殺気を即座に感じ取って慄いたのか声も発さず全速力で逃げ出していく。
 柱と相対した時もこんな感じだったのだろうか、天元の動きにも匹敵する速さである。
 しかし『殺意』を込めた黒影にとっては全く関係ない、天元を殺すのはまずいが鬼を殺すのは何も問題ないことなので巨大な包丁を構える。
 鬼は陽光を宿した鉱石による刃で首を狩らなくてはならない、逆に言えばこれをやる限り何をしても死なないということだ。
 戦力的には鬼のほうが耐久面も戦闘面も人類より明らかに格上なのにどんな例え方してるんだと思うかもしれないが当然である。
 『黒影』と『人間』は違うのだから。
 神様のような自分にはそんな悪い都合は通用しない、要は最強クラスなので問題はなし。
 持っていた包丁で瞬く間にバラバラにして四股を裂いて確実に殺せる段階に入ってから日輪鋏で首を断つ。
 しかし零余子相手にかなり時間をかけてしまったが黒影はまだよく分かってないし殺し方も限定的すぎるので仕方ない。
 しかしここまで徹底的にやられるくらいなら無惨に殺されたほうがマシではないだろうか……?
 しかし彼女の事が何も分からないとなると即死でもさせないと安心できないので今回は黒影の圧倒的な強さに救われた。
 その代償として天元を完全に見失ってしまったが……。


「ねえポチ、今更だけど十二鬼月と無惨を俺が代わりに倒すってのはダメなの?」

「ダメだよ、炭治郎くん達の経験値が貯まらないし無惨が死んだら全ての鬼が滅ぶ……炭治郎くんの目的は禰豆子ちゃんを人間に戻すことでもあるんだよ?」

 零余子を討伐した黒影はこのまま全ての十二鬼月を倒そうとするが上記の理由で止められる。
 確かに十二鬼月は脅威になるがこれから先炭治郎達が相手していくのはそれだけ過酷な相手なのだ。
 自分達が加工している頃に相手していた響凱も衰えていたとはいえ上弦の陸の肩書を持っていた、零余子と比べたらどっちが強いのか?と言われたらまあ響凱ではないのか?と思うくらいには。
 更に少し後には炭治郎はヒノカミ神楽を技に昇華させて下弦の伍の累を討伐する、伍といっても累は無惨のお気に入りで数字に見合わぬ実力者、更には累の死亡によって無惨は下弦に見切りを付けるので零余子含めた残りの下弦達は大体死亡するが気に入られた壱は血に適応して生存。

「じゃあ炭治郎が下弦の壱を斬ったら次はもう上弦しかいなくて……あれ?」

「気付いた?」

 そう、あまりにも戦闘ペースが早くただおいかけているだけでは黒影達が挟まったりルート改変する余地は少ない。
 しかも全て炭治郎の強化に繋がりこれらが合わさって無惨までの全ての戦闘で首の皮一枚繋がる、少しでも経験値不足になれば間違いなく炭治郎の命は危うい。
 それに先程も言ったように危うい奴もいるし現在黒影の鬼への対処法は手に持っていた大きな糸切りバサミよような日輪鋏のみ。
 正直こんな武器で猗窩座に挑もうとしたら舐められてると激怒されてもしょうがないと思う。
 だが自分達はもう既に零余子を討った、無惨にマークされて誰頭が攻めてこられてもおかしくない。

「上弦の1〜6ってそんな強いの?」

「強いよ、黒影局長みたいなのが六人いるみたいなものだ、その上の無惨も……しかしルートを探ってる場合じゃないよ、見て」

 夜が明けて黒影達は奪われた日輪鋏の行方を追って本部を覗くと柱が全員揃っている。
 やはり陽光山の侵入並びに盗難は鬼の件と同じくらいの悶着なのか袋に広げた日輪鋏や弾丸を見ている。
 遠いので声は全然聞こえないが蛇柱、伊黒小芭内の険しい顔や眉一つ動かさないがいつになく顔に重みを感じる冨岡義勇の様子を見ていると確実に黒影達への心境や偏見は悪いだろう、多分煉獄さんに会ったら嫌いって言われるかもしれないと思うとちょっと精神的にくる。

「どうしよう……今ここで謝りに行けばなんとかなるかな?」

「謝る?なんで?日輪刀が減るわけでもあるまいし俺はしっかり鋏で下弦の鬼を倒したよ?」

「あ〜〜もうそうだ局長こういう人だからなぁ、絶対喧嘩になる」

 自分達はポチが危惧した通り陽光山で盗みを働いたお尋ね者として鬼殺隊全体に警戒されている。
 柱はもちろん炭治郎達まで彼らからすれば敵みたいなものだ……とはいってもそれはこのルートでの話。
 ブックマークを戻れば関係は振り出しに戻るがどうにも危ない状況……でもない。
 黒影達はその場で整形でもすれば鬼殺隊に絶対に見つかることはない。

「ということでポチ、君色々同人誌とか売ってたなら顔や身体を変える道具とか持ってるでしょ?」

「いや持ってるけどさ……そこまでして接触を図るの?隠し事ってバレた時にもっと危なくなるってお母さんから教わら……分かったわかったやればいいんでしょ!!とんでもない所に地雷あるな!」

 ポチは仕方なく発明品である『近未来の着ぐるみ』を使用して別の人間になりすまそうとする。
 着ぐるみとはいっても完全に人間そっくりであり別人にしか見えない。
 しかし黒影は甘い、考えが甘いし人間というものを舐めている。
 自分のやっていることに間違いは起きないし突破されることはないと安心しきっている、無空故にいくらでもやり直しが効くと思っている。
 だからこそ……油断して足元を掬われる。
 たとえばそう、監視しているのが人間だけとおもっていることとかそれを分かっててポチが言わないでおくとか


「カァーッ!!カァーッ!!猩々緋鉱石を盗難した人物発見!!長髪で背丈の大きい老人の姿に変装!!」

 鎹鴉、それは鬼殺隊が隊士に主に本部からの通達を伝える役割を持つ伝令係の鴉。
 実は陽光山にも何羽か飛んでおり、天元が即座に駆けつけて回収できたのも彼らのおかげである。
 そしてお尋ね者である黒影を追いかけているのは炭治郎ではなく鴉達であり、こっそり話を聞いているところも近未来の着ぐるみをつけているところもしっかり筒抜けであった。

「へえ、近くに来てたんだ……でも隠そうとするってことはやましい気持ちがあるってことだよね」

「だからそう言ってんだろうが、勝手に日輪刀作るだけでもふざけてんのに大事な石でこんなゴミみてえなもん作りやがってよォ」

「これは……どうやら鋏のようですね、小さいものから両手で持つような大きなものまで」

「なるほど分かりやすいな!単純明快にこの鋏で鬼の首を切り落としてしまおうと!」

「んな地味な技が鬼に通用するわけねえだろうが、第一こんなでけえ上に使い辛いもんが日輪刀の代わりになんて到底ならん」

「でもえーっと……天元さんが見張ってた時に聞いた話によると、その人達はこの鋏を新しい武器として売ろうとしてたんだよね?」

「ああ、そんなことになりゃ買う買わねえはともかく面倒になると思い派手な振る舞いも承知で奪い取ったわけだ……一回会った以上また陽光山に来ることは無いはずだが念には念を入れて警備を固めてある」

「んじゃ決まりだな、後は元凶であるそいつら2人をとっとと捕まえて突き出すだけだ」

「その件に関して私が、後はおまかせを」

「そうだな、そういう尋問みたいなのらお前が向いているか」


 自分達の動きが殆どバレてることは露知らず、呑気にご飯中の2人。
 とはいえ黒影に鴉のことを黙っていたのは意図的な悪意は込められている、自分達は意図的に世界や物語を混乱させる立場なのだから怪しまれて当然であると処置。
 ポチはゲームの縛りプレイとか好きなタイプだし黒影にも痛い目みてもらいたかったのでこの処置は当然のことと考える。
 しかし黒影の良からぬルート研究はまだまだ続く、この近未来の着ぐるみを使用して悪用しようとしている。

「俺達がコソコソしなくてもこれを使えば直接協力できること無い?」

「まさかとは思うけど誰かになりすませと?」

 着ぐるみ越しでもご飯は食べられる、しかしなんともまあ危ない発言をしていたがこれがまさかお尋ね者の話とは思うまい……と黒影はマジに思っている。

「それにさ……時代考証考えてよ!なんでこの時代でカップラーメン食ってんの!?アヤシすぎるぞ!?」

「ただのカップラーメンじゃない!他世界で君のポケットから持ってきた鬼滅の刃コラボ品!」

「知らねえよというか人の大事なコラボ品食うな!もうシールとか大事なしたいのに!」

 大正時代ガン無視でカップ麺、これは黒影がよくやることだ。
 異世界で当たり前のように和食膳とかやるしそういうやりたい放題が黒影の本領といったところだ、もう慣れてほしい臨時アシスタントなんだから。
 何はともかく黒影は『近未来の着ぐるみ』を用いて、特定の人物になりすまして他の人物になったつもりで本格的にルート変更を図ろうとする。

「いや無理だって!俺近未来の着ぐるみそんなに作ってないよ!?第一鬼滅の刃世界だとサイズが中々合わなくて作れたのって甘露寺蜜璃ちゃんだけなんだから!」

「ポチ、それって合わなかったの本当にサイズだけだった?」

 ポチが持っていた専用の着ぐるみは『恋柱』の物だけ、他に何か作っておかなかったのかと黒影も普通にツッコミを入れてしまったが何はともかく持っていたのはこれだけ。
 もちろんこの情報も鴉に行き渡ることになるので甘露寺の偽物が彷徨いて約1名がめちゃくちゃイライラする結果になることは後々ポチも理解することになるが、本当に着ぐるみとは思えない皮にも見えないほど甘露寺蜜璃そのもの、彼女を抱えてるみたいだ。

「とりあえずこの子のフリしか出来ないのかぁーうーん女の子か、とりあえずどんな設定なのか教えて?」

「えーと簡潔に必要な情報だけ言うね、『恋柱』甘露寺蜜璃さん、恋するために鬼殺隊に入り、愛を探しながら鬼を狩る……一見すると巫山戯てるかもしれないけど優秀で立派な人だよ」

「オッケー、恋愛脳……と、恋柱ってことは恋の呼吸?」

「うん、それだけじゃなくて甘露寺さんは特異体質、筋肉密度が常人の8倍で細身でも筋力はアメフト選手にも引けを取らない、というかパワーだけなら上から数えたほうが早いんじゃないかな?」

 更に筋肉質ではなく筋力密度が高いというのが重要。
 パンパンに硬いのではなく力の入れ方次第で柔いも重いも自由自在、甘露寺はしっかり戦闘でも使いこなしておりどんなに動機が不純でも強い柱なのだ。
 ただし代償としてエネルギー効率は結構悪い。

「つまりこの格好している時はラーメン20杯とか食わないとダメなわけね、了解した」

「あっ、当たり前のように局長が着ぐるみ着る流れなんだ」

「そりゃそうでしょ君と違って俺はその子と同じ事が出来るんだから、んでコレね」

 ポチは甘露寺の日輪刀を黒影に握らせる、あくまでコスプレ用なので模造刀だが性質はほぼ再現してある。
 柱の特注の日輪刀は異質な形をしているものが多い中特に甘露寺のものは武器としても極めて妙であり、刃がまるで鞭……それどころかリボンのように柔らかくしなっている。

「なるほどどっかの針っていう刀と同じ原理、一見するとアホみたいに脆いけど達人が使えばめちゃくちゃ殺意のある武器になる、これ鬼相手じゃなくても余裕で虐殺できる凄い代物だな」

「まあ本物じゃないから実際に鬼は殺せないよ、結局は局長の持ってる日輪鋏頼りになっちゃうね」

「まあそれはいいけど……うわっ凄い!!着るとちゃんと女の子の声になるの!?」

「そりゃまあマニアを喜ばせるために気合い入れた代物だからね、個人的に探求してその上で需要を満たすために限界を超えたわけよ……だからこそ!だからこそこれ使うのは怖い!!」

 着ぐるみどころの話ではない、パッと見なくても完全に甘露寺蜜璃だ。
 黒影がなにかするだけで彼女への風評被害は甚大じゃないものになることは確定している、はっきり言ってこれを利用した3つの選択肢がどんな結果になろうと甘露寺に腹切れと今まで見たことないような形相で小刀差し出されてもおかしくないと思ってる。
 いや、正確には甘露寺がそういう訳では無いがなんとなくそんな未来が鮮明に見えてくるのだ完全に。
 しかし黒影にとってはブックマーク調整すればいいので知ったことではない、こういう時にたくっちスノーがいれば便利だったのだがいないものねだりはしょうがない。
 しかし問題は……そろそろだ。

「そろそろ……無限列車編に入る頃だと思う」

 ある意味リアルワールドでも伝説を巻き起こした物語、黒影も即座に気づく……物語の非常に重要な展開、運命を明確に左右する自然現象『ゴッドイベント』が近い。
 時期的にもそろそろとは思っていたがよもやよもやというわけである。
 黒影も一旦真剣になるために甘露寺蜜璃の首を外す、自分がコントロール出来ないイベントであり活躍する際に困ることが多いゴッドイベントは彼にとって一番の悩みのタネだ。
 原作展開のように最初からはじまりの書に載っている前もって推測しやすいのがある。

「無限列車編っていうのは何が起きる?」

「列車の中で下弦の壱の魘夢と戦闘、その後……上弦の参である猗窩座が乱入してくるんだ、戦闘力は明らかに鬼殺隊が不利な形でね」

「なるほど、つまりゴッドイベントの内容は上弦の参猗窩座との戦闘による勝利及び生存って感じかな?それが今の炭治郎だとキツいと」

「この段階じゃ相手にもならないと思う……それに、この間に同行していた炎柱である煉獄杏寿郎が殉職……!」

「猗窩座とやらへのダメージは?」

「精神的には結構負ってるね、局長からすれば地味かもしれないがこの影響は大きいよ」

「炭治郎は後々猗窩座とはやるの?」

「だいぶ先にね……リアルワールドだと今その辺りが映画になってるよ」

 黒影は深々と聞きながら無限列車編の様子を聞く、黒影のことだから間違いなくこのゴッドイベントを攻略しようと思うがポチは現在ルートではとても出来ないと既に諦めている。
 まず第一に自分達はお尋ね者、舞台は列車の中である上に炭治郎、善逸、伊之助にも自分達が確保対象であることは理解している。
 その上で魘夢の厄介な血鬼術まで回避しなくてはならない、自分達でも血鬼術の影響を受けないわけではないのだから。
 第二に甘露寺着ぐるみは煉獄に通用しない、何故なら煉󠄁獄こそ甘露寺に呼吸や鬼殺隊の技術を一から教え抜いた師匠だからだ。
 きっと少しの違和感でも見逃さず暴いてくるだろう、そして自身の素性が分かれば即座に……。

「……そ、そうだ!!良いことを思いついた!!」

 『途中下車』!!
 甘露寺着ぐるみを付けた黒影のまま無限列車に乗る!煉獄には当然バレる!しかしそれが狙い目!
 魘夢を切った上で猗窩座が襲撃してくる前に自身が捕まることで結果的に目的は果たした上で煉獄杏寿郎を生存させられる!
 自分達は鬼殺隊に捕まりどんな罰を受けるかも分からないが、完全に放棄することも選択肢の一つだ!

「よし決まった!今回選択肢は一つでいいよ局長!無限列車に乗り込んで作戦通りにいくよ!」

「よっしゃ!たまには女の格好で世界を救うっていうのも悪くないかも!」

 甘露寺着ぐるみを付け直して無限列車に用意する、決行の時は夜、魘夢を倒すまで炭治郎達に無限列車に張り付くような形で潜入していくことになるだろう。
 しかし事は上手く進まない、突然ポチの視界がふらついて……。


「気が付きましたか?」

「ん……あ、あれ!?」

 ポチは目が覚めると縄で縛られた上で狭い部屋にいた、目の前にいるのは……蟲柱"誰よりも軽やかに舞い、毒を刺す者"胡蝶しのぶだ。
 個人的にタイプではあるがこの瞬間では恐ろしい、何せ……黒影はいないししのぶの手には、はじまりの書が……?

「きょ、局長……?じゃないよな、俺はしのぶさんの着ぐるみは作ってないし」

「やはりそういうことでしたか……では、貴方は3つの選択肢を選んでください」

「えっ、なんでそれを……?」

【第三の選択肢】
『胡蝶しのぶが、貴方に問う。』
 これは炭治郎達の未来を決める選択肢ではない、完全に自分の末路を選ばされている。
どうやら生殺与奪の権はしっかり握られてしまったようだ、多分死ぬことはないが……どうなるかも定かではない。
 しのぶの選択肢は処刑ではない、今後の可能性を決定付けようとしている。

①歳寒松柏
②提耳面命
③冷眼傍観

「……も、もしかして四字熟語?」

「はい、一つ選んでください、心配しなくても言葉の意味通りの答えを送りますから」

 (こ、言葉の意味って……全部聞いたことない熟語だよ、多分これは自分のこと以外にも今後の可能性にも関わってくる、答えが分からないからって適当に答えてはダメだ……それに何を選んだってしのぶさんが俺達のやったことに納得したり受け入れてくれるかは、また別!)
最終更新:2025年08月09日 20:26