拝啓お元気してますか、ポチです。
あれから俺は『提耳面命』の道を選びました、言葉の意味は分かりませんでも実のところ、『命』ってかいてあるから命が保証されてほしいという情けない理由です。
もちろんそれも正直に伝えました、そして俺は現在……。
蝶屋敷にいます。
◇
「それが貴方の答えですか、では……こうでしたね?」
しのぶは指を噛んで血を流し線を引くと本が光ってページが飛び出す……あれって黒影の血じゃないとダメということでもないことにも驚いたが、ここにある
はじまりの書が本物であることを実感した。
「あの……その本についての説明をしますので、何故貴方がそれを持っているのか聞いてもいいですか?」
「ええ、貴方には鬼殺隊として……個人的にも聞きたいことは山程あります、全部話してもらうまで付き合いますからね」
「……俺に毒は通用しませんよ」
「それはもう既に試しました」
「怖っ!?」
そしてポチは今更隠した所でどうにもならないと話した、何故鉱石を盗んだのか、『はじまりの書』のこと、自分がどれだけのことを知っているのか、そもそも自分達は何者なのか……バレた時の話は黒影もしていたがどうせブックマークした所に戻るからと考えてなかったという。
ただし『無空』のことだけは話さなかった。
鴉に関しては完全に想定外だったが、はじまりの書を持ち込むことのリスクを身にしみて実感した。
他世界の話はまだ鬼滅の刃世界では伝わりにくかったらしいが敷居を広げるかつてのオタク知識で砕いて説明したことによってしのぶは理解したが、柱の間でもよく分かる人は少ないことだろう。
しかし改めて、自分達が鬼殺隊にとって理解出来ない上に不当な存在であると思われたことはしのぶの周りの空気の乱れで察せられる。
はじまりの書は本部を観察してる時に鴉が奪ったとか。
「……局長の出した選択肢に従っただけなんて言い訳はしません、どんな道にしてもそれが良いと選んだのは俺なんです、どうとでもしてください」
「では、運命を弄ぶのは好奇心故ですが?それとも人類愛?」
「俺は後者、黒影は前者です……物語なんて絶対幸せな結末の方が良いに決まってる、もとより天元さんに疑われても下弦の鬼を倒したほうが良いって決めたんだ……ま、それも自己保身と言われちゃ何とも言えないですがね」
ポチは多分ここで死ぬのだろう、黒影はこういう時に見捨てたりしそうなものだ。
しのぶに聞いてみたが黒影は消えていたという、ポチは黒影という男の規格外さと徹底的な警戒の話をした……つまりは、黒影の情報を鬼殺隊に売った。
どうせ黒影の事だ、この程度では全く堪えないだろう。
自分にしても鎹鴉の事が完全に抜けていた事は完全にミスだ。
更に黒影が考えたルートのダメ出しまでされてしまう、実際に現場で戦っている本人達に言われちゃ何とも言えない。
「その上で貴方はどうするんですか?もしやまた、私や彼に道を決めてほしいというのです?」
「……一度選んだ道の行く末は最後まで見届けます」
どうせ自分は元々黒影とは敵対している関係なのを隠しているだけだ、黒影がどうしているのかは気になるところだが今はただこの人達への償いになることをしたい。
なんでもいい、壊れても良い、死んでもいい。
自分は非力でも知識がある、その全てを送りたい。
ただし知識チートは自分に出来るか怪しいし、光線銃とかみたいな科学的すぎるものは出さない。
「お願いします、貴方達鬼殺隊の元で、貴方達の生涯を後追いさせてください」
◇
こうしてポチは蝶屋敷に居る、無論鬼殺隊ではない彼がカナヲやアオイなどと同じ場所に居られるわけもないのでひっそりと活動して裏の立場でひっそり作業を行う。
蝶屋敷にいるのもこの場所が一番しのぶの目に届くからという監視の名目であり、自分が鬼殺隊に置いておく価値がないとしのぶ並びに産屋敷に判断さればゴミのように捨てられる立場にあることはよく分かっている。
自分の有用性を示せるかどうか試されている、ある意味ではチャンスをもらった。
特に鬼殺隊並びに産屋敷にとってポチの価値となるものは情報、本という物語で自分達の戦いを全て見てきたという彼の言葉を疑うことは出来なかった。
何故なら……無限列車から帰還した炭治郎の見てきたものとポチの発言は一致した、本当に言い当ててしまった。
しかしそれはつまり、猗窩座襲撃と煉󠄁獄杏寿郎の死亡は変わらないままだった。
時空の常識がまだ乏しいこの世界では預言者みたいなものだが当然受け入れられないものもいた。
たとえば……不死川実弥が突っかかってきたこともある。
「実際、途中下車作戦を思いついたのは俺だ恨む権利はある……でも煉󠄁獄さんが死んだってことは黒影局長は現れてなかったことなのかな」
「まだ信じねえぞ俺はァ、お前ん所の奴が面倒避けるためにぶっ殺した線だって消えちゃいけねえ、そんな奴なんだと言ったのは他でもないお前だ」
「そう黒影は実際にそうやったのかは分からないがその気になれば煉󠄁獄杏寿郎を殺す、もし本当にそうだとしたら俺は何が何でも鬼殺隊に言いすがる、もう俺達が果たさなくちゃいけない責任でもあるから」
「…………」
「それにあの着ぐるみを作ったのは俺だ、伊黒さんには何回も刺されたし何回も恨み言を言われたが当然のこと。持てる全てを使って甘露寺蜜璃の風評被害は消す。」
「その話についてだが……本人の口から聞きな」
不死川の態度は当然だ、もし自分が彼の手で捕らえられていたら四字熟語の選択肢がどうとかも与えられずその場で何回も殺されていただろう。
鬼を強く嫌う彼が黒影に対してどう思っているのかは分からない、なんだかんだどんなに危なっかしくてもエロ男でも大きな組織の幹部という責任を背負っていることは互いに自覚しているのか余計に不和を生まないように関わらないようにしているだけかもしれない。
ただ一言。
「不死川さんこれだけは言わせてください、心から敬愛して従える上を持つ貴方を羨ましく思います」
◇
ポチは狭い牢屋のような場所で黙々と日輪鋏の改良を試みている。
こんな危険な男を刀鍛冶の里に連れて行くわけにはあかないのでほんの1割の鉱石のみが与えられて実用性がありそうな武器への変化を試みる。
元々引きこもりだったので狭い空間でも嫌な気持ちはしなかったし荷物が少ない分健康的な気がしている。
何より(元々はエロ方面とはいえ)研究者だったポチは発明品だのなんだので物作りをするのが大好きな性質を持っているのではじまりの書のルート研究よりやりがいがあった。
しかし日輪刀との差別化要素や武器としての実用化はどうにも浮かばない、自分はバラエティ系というか実用性がありそうなものが専門で改良やアレンジ型となると
たくっちスノーの方が向いているのだろうか?
『たくっちスノーくんならどうしたのか』ポチは月明かりを見ながら自分の力不足を実感する。
日輪刀の役割は要は呼吸の動きに合わせて刀を振って頸を落とすこと、日輪鋏の一番の欠点は鋏である以上持ち方で指が塞がってしまうこと……くだらないかもしれないがこの塞がった指が命取りになる。
それとも新しい武器でも考えてみるか?とも考えたが自分にそんな猶予も権利もない。
「しのぶさんも……アレからずっとはじまりの書の研究をしているよな、上弦の弐の事を考えれば当然か、確実に殺したいもんな」
「あの……」
「ん?ああ、来たんだ甘露寺さん」
先程から定期的に柱が交代のように様子を見に来る、出来ることなら炭治郎にも来て欲しかったが彼の今後が忙しいことを考えるとそうもいかない。
不死川から「甘露寺本人に聞け」と言われたことも気になるし……背後で恨めしい目で覗き込んでくる伊黒小芭内に関しては他人のふりをさせる、多分アレは甘露寺も気付いていないだろう。
「その……先に聞いちゃっていいかな、しのぶちゃんのこと」
「うん……上弦の弐『童磨』、しのぶさんには伝えてあるけどあの人のお姉さん、胡蝶カナエを殺害した張本人で俺としてもちょっと彼にだけは会いたくない」
「に……にっ!?それってすっごーく強くて、それで……」
「とても恐ろしい、下手したら彼1人で鬼殺隊が壊滅すると言っても極端じゃないって俺は思うし下手したら不老不死の俺も死んじゃう、だから童磨の情報は殆ど提供したよ……といっても信じてくれたらいいにって淡い期待だけど」
黒死牟、童磨、猗窩座。
上弦の上位三人が最終決戦まで残されることになるが一人一人が驚異的であり今後も彼らの動き方次第でここから崩壊することもありえる。
そもそも蝶屋敷で過ごして今更気付いたことなのだが、偶然零余子に会った件もあり鬼側が元の展開通りに動いてくれるかどうかなんて分からないじゃないか。
残る上弦の鬼である玉壺、半天狗、駄姫(と妓夫太郎)も実際はどんな風になるのか……特に半天狗を相手取るのは目の前の甘露寺でもあるし、正直なところ危なかった。
「しのぶさんは間違いなく童磨に挑みます、遅かれ早かれこれは確定事項です、彼女の意思もありますし」
「か……勝てるよね?」
「その答えは俺には判断しかねるよ……何をもってして『勝つ』とするかの解釈に寄るから」
「…………」
その言い方で普段おっとりしている甘露寺でも自ずとしのぶの本来の末路を悟ったのかこの話題を無言という形で切り上げた。
どうなるか分からない先の事を考えても苦しいだけだ、それよりも本題を聞いてほしそうな顔をするポチ。
あれから日輪鋏を試しに作った上で改良しようとするが分からない、鋏らしく自ら散髪に使いながら話を聞く。
「……えっと、あのあたしにそっくりな服……?あれ服でいいのかな?着ぐるみって名前の」
「うん、子供を喜ばせるための物なんだけどね……本当は動物とかの方が有名なんだけど」
「あっやっぱりそういう使い方……?作ったのはポチさんなんだよね?なんであたしで?」
「俺は人が喜ぶ物を作ることに喜びを感じるからだよ」
一瞬甘露寺がときめいて伊黒の邪念が強くなったが無視する、何せ口当たりのいいこと言ってるが実際は性欲の権化による違法な代物ばかりなのでこれは伊黒の方が正しい。
「甘露寺さんのこともある程度は知ってます、本で見れる内容だから人生の全てじゃないけど……その本に書かれてる内容だけで貴方に憧れて、愛して、救いになって……貴方の事を心から想い……えーとなんて言ったらいいんだろ、推し!好きだから真似するだけじゃなくて、とびっきり応援してくれる人がたくさんいるんです!ほらっ、これ俺が作ったものじゃないけど貴方の服、貴方の刀……」
時空で本来やっちゃいけないことなのだが、無空なので気にしないとばかりに甘露寺に別世界で売られている彼女を元にしたグッズを大量に見せる。
中には自作も結構あるが自分のようにコアで技術力のある人間は結構いる。
「貴方の恋を心から祝福して、素敵な人に愛されて欲しいって……そんな人は沢山います、でも会えない……でもこれを着ればまるで本物みたいに!」
「それ以上甘露寺の事を話すな下衆が、長々と騙っているがその人々の想いとやらを大勢裏切り甘露寺の装いを悪用したのはどこの誰だ?」
「い……伊黒さんっ!?」
ポチの物言いに完全に頭に来た伊黒は隠れるのをやめて怒りの眼差しで檻越しにポチを睨見つける。
よほど気配を隠していたのかすぐ近くに来て甘露寺もようやく伊黒が後ろに着ていたことに気付く。
……しかし、伊黒の言う事は全くの正論だ。
甘露寺以上に甘露寺推しに対して強い裏切りのような真似をした途中下車作戦、個人的に残してあったから甘露寺が選ばれただけ、女の扱いはどこまでも下手らしい。
「……あれを作ったのは俺です、甘露寺蜜璃着ぐるみはどうなりました?回収してれたなら」
「お前の作った甘露寺の模倣品は完成度が高い、それは認めよう……だが高すぎた、倒れていれば人間と見分けが付かない」
「……もしかして損傷していた?」
「穴だらけでな、そんな姿を見てどうなったと思う?今ここに生きている甘露寺は……表向きは死亡したことになってしまった」
なんと着ぐるみ甘露寺がぐちゃぐちゃになった状態で発見され、それによって甘露寺は死んだことになってしまったらしい。
本人への風評被害は覚悟していたが最悪の形で訪れた、というかクオリティは極限まで高めたがまさか死体と間違われるなんて思わなかった。
「それは……それは、それはそれはそれは!!?な、なんて……なんて最悪すぎる、やっぱそうだ、伊黒さんの言う通りだ、こんなことになっても可能性はあったのに責任だけで済ませようとしたのか俺は!?」
「罪悪感で押し潰されるのは後にしろ、お前の上司である黒影という男がこの着ぐるみを着て無限列車に乗り込もうとした……それは事実か」
「ああ、でも炭治郎くん達は見ていないんだよね?というか、俺が捕まってから黒影局長がどうなったのかは……」
「しのぶちゃんはなんて言ってたの?」
「少し目を逸らした隙に逃げられてしまったと……でも損傷が激しいってことは何かしら戦闘してる!間違いなく!」
黒影は無限列車に乗り込むことに成功しないはずがない、ポチは姿を見せないと聞いて無限列車に乗っていたならそのまま猗窩座を殺そうするんじゃないかとばかり思っていたがどうやらそうでもないらしい。
そうなると黒影は無限列車に向かう途中で何かに襲われて脱ぎ捨てて去ったとしか思えない。
日輪鋏を過信した?いや、黒影としての武器を出し惜しみしないはずがない。
黒影でも撤退を選ぶような相手なんて……上弦の鬼が他に?誰が?
可能性としては黒死牟?
無空では
マガフォンも繋がらないので黒影と別れたら二度と会いにいけない……それに気になるのは、黒影がはじまりの書を置いていったことだ。
「何故局長ははじまりの書を奪われたままなのにどうしてそのまま押し通した……?」
「胡蝶が解析していたこの分厚い本のことか」
「えっちょ、持ってきたのか!?」
はじまりの書について調べていたのはしのぶだけではない、大きくて真っ白な本に3つの未来を提示して望んだものに血で線を引けばその道筋通りに事が進む……彼らからすれば大掛かりな血鬼術みたいに見えるのだ、そりゃ念入りに調べたくなる。
「しのぶさんは四字熟語で俺をどうするか示した、だから多分3つの選択肢であればなんでもいいと思う」
「いつどこでどうなるのか、胡蝶はずっと頃合いを調べていた……肝心な時に俺達が利用できないでは話にならんからな」
「これあたし達でも使えるの!?」
「つ……使えるっぽい、しのぶさんの血でも発動したもん、俺も観たときにはビックリしたよ」
「じゃあどうしてポチさんはこの本を使おう!とは思わなかったの?」
「単純な話だ甘露寺、奴には血がない」
「そういうこと」
ポチは掌に日輪鋏を突き刺して甘露寺は少し驚くが、突き刺さった手の傷から漏れ出したのは黒い液体、鬼にだって血はあるので彼は人間とも鬼とも違う存在であることをようやく人々に見せつけた。
……だが考えた結果、これはまずいことになった。
◇
夜が明けて初めてポチは蝶屋敷を出て柱が大勢居るところに集められた。
更に……炭治郎の姿まで、なんだかんだでポチと炭治郎が顔見せするのはここが初めてになるだろう、ポチとしてももう既に天元と共に遊郭への任務に向かっていたとばかり思っていたので驚いた。
「……えっと、ポチさん?でいいんですよね」
「ああ、なんというか思ったより君に会うまで長い遠回りばかりしてきたかな」
「世間話はそこまでにしておけェ、お前がここに呼び出された理由は一つ、『黒影って男がこれからどうするか』を聞きに来た」
「そうだな、あんな奴がのさばってるんじゃ俺も派手に任務を遂行出来ねえ、前もって不穏因子は派手に摘み取るんだ」
「それで……えっと、これが例のはじまりの書?ですか」
炭治郎にとっては初めて見るよく分からない本、そういう血鬼術みたいなものと言ったらすぐ理解してくれたがコレの対策について悩んでいるという。
何故なら……。
「局長は恐らく鬼舞辻無惨に絡まれている……といっても、無惨ぐらいしか局長を追い込めない、逆もまたしかりだ」
「え!?じゃあ早く助けに行かないと危ないですよ!」
「……い、一応俺と局長は鬼殺隊の罪人だよ?でもご気遣いありがとう!」
「胡蝶が言うにはこの本に三種類の道を書けばその通りの運命になるらしいが」
「しかし厄介な所もあってその道を選べば狂いなくその方向に進んでしまうのです、現に彼が『提耳面命』を選んだことで尽くしてくれるようになったように」
「俺は柱の人たちに『黒影ならこの後どうするか?』を予測して3つの選択肢を考えるように言われたんだけど……どれも選んだら厄介になるから」
「うーんなるほど……ちょっといいですか?変なこと言っちゃうかもしれませんが……選べなくしたらどうなるんですか?」
炭治郎が挙手して純粋な疑問を浮かべた質問をする、ルートを選べなくなる、つまり進めなくなったらどうなる?振り返ってみると最初ポチは武器を作ろうとして、天元に怪しまれて邪魔されたからこんなことに……。
というところで柱達に豆電球が光ったような感覚になる。
「それだ!それだよ炭治郎くん!!」
「前もって3つの選択肢、黒影がやりそうなことを考えて鬼殺隊がそれを徹底的に妨害……するとどうなる?」
「少なくとも3系統やろうとしてることが出来なくなるってことでもあるし……そいつのやることが限られてくる?」
「そうなると捕まえるのも楽になるわけか」
「思いついた!黒影が運命を変えるため、何より凄さを示しながらやりそうな3つの選択肢!鬼殺隊の皆さんはこの選択肢のルート全部潰してください!!」
【第四の選択肢】
『黒影が託す果ての炎』
①抜けた煉󠄁獄の枠として『燕柱』となる。
②煉獄の仇を討つため上弦の参を誘い出す
③煉獄の後継者を増やすために『炎の呼吸』を広めようとする。
「全部煉獄さん絡みですか!?どうして!?」
「露骨じゃないけどうちの局長そんな人なんです!」
最終更新:2025年08月11日 06:48