たくっちスノーが騙された話

この男、たくっちスノー
ある事情あり、あらゆる世界を一人旅しているのだが、常に金欠問題に悩まされている。
その為、一日バイトで生計を立てているのだ。

今日もいつものように求人誌で仕事を探していた時のことだ……


『らーめん 馬爛漫』
仕事内容:スープ製作
報酬:2万ジーカ


たくっちスノー「おっ、ラーメン屋の一日バイトか……こういう系が多くなってくる時期か。」

現実においても会社勤めが独立して建ちあげる事が多いのがラーメン店。
1年やそこら生き残られたら充分なこの業界では、当然のように一日バイト募集が増えていく。
その分当たり外れがデカいのだが。

たくっちスノー「スープ製作……?ラーメンのスープ?」

たくっちスノー「ま、スープぐらい具を入れればそれなりに食えるものは作れるだろ」


と、この日のバイトを決めてバイト先に向かい……
後にたくっちスノーは、軽い気持ちでこのバイトを選んだことに後悔するようになった。

……

〜らーめん 馬爛漫〜

たくっちスノー「…………」

たくっちスノーは1人、ぐつぐつと煮立つ大きなスープ鍋を見ながら硬直していた。
中は真っ白で、何一つ入ってないただのお湯の状態だ……

たくっちスノー(何一つ分からねぇ………)

たくっちスノー「軽い気持ちでこのバイト選んだけどなんだこれ……どうすればいいんだ……」

たくっちスノーは考えが甘かった。
スープ作るのなんてちょっと味噌とか鳥の骨とか入れればいいだろと思っていたが、割とそうでも無かった。
いざ始まってみると棚にはスープの原材料となる野菜、肉、魚介、調味料などが山ほどあり、どれを使えば良いのかサッパリ分からない状態なのだ。
ちなみに調理器具は全て魔法道具である為、材料さえあれば勝手に出来上がるようになっている。
だが、スープ作りなぞ知らないたくっちスノーにとっては未知の領域であった。


たくっちスノー「とりあえず適当に作ってみるしかないな……」
と言って、とりあえず赤味噌を一パックぶち込んで混ぜた後に一口入れてみる。


たくっちスノー「味薄ッ」


たくっちスノー「いや、なんというか……薄いなぁ……」


たくっちスノー「いや、味噌入れただけだが、こんなに味出ないもんなのか?」

たくっちスノー「なんかもっと……こう……旨み的な何かを入れたほうがいい気がするけど……」

たくっちスノーは改めて出汁に使うであろう具材を見る。


たくっちスノー(どれだよ!!何入れたらいいんだよ!!つーか俺は一体何味のスープを作ろうとしてるんだよ!)


……
数分後


たくっちスノー「………落ち着け、俺」


たくっちスノー「まず俺は最初に味噌を入れちまった、この時点で味噌ラーメンになることが確定している………」


たくっちスノー「さらに今何となく味噌汁に合うからって、玉葱を入れてしまった……しかもこれが合ってるのかもしれ分からない………」


ここからまた一口して……


たくっちスノー「何この……何?不味いわけでも無いっていうか、全然味がしてこない……」
たくっちスノー「いや、たぶん不味いな……これは確実に不味い……」
たくっちスノー「クソッ……もうどうすりゃいいんだ……」


たくっちスノー「こういう時は知恵を借りるのが大事だな……」

たくっちスノーはとりあえずネギとか鰹節をぶち込みながら、知り合いに電話をしてみる………


……
『なんか突然船を出て一日バイトしとるとは聞いとるけど、今ラーメン屋なんかい』


たくっちスノー「そうなんだよ……お前確か中華系のバイトしてるだろ?俺素人だからさっぱり分かんないんだ、協力してくれよ
〜」


『………確認してええか、今受けてるバイトはスープを作るんやな?』


たくっちスノー「完成したら2万だと」


『で、たくっちスノーが職場にいるのは一日だけなんやろ』


たくっちスノー「そういうバイト契約だからな」


『……あんまこんなこと言いたく無いけど、騙されてるで』


たくっちスノー「えっ」


『ええか、たくっちスノーは素人やからよう分からんやろ、具材から出汁が染み込むまでどんぐらいかかると思う?』


たくっちスノー「うーーん、1時間くらい?」


『まぁ普通の鍋やったらそれくらいやろ、けどそれはラーメン屋、業務用のごっつうデカい奴や』


たくっちスノー「うん」

『業務用のスープってのはな、そもそもそう簡単に出汁が出るように作られてへんのや、そんなの入れたら店のもんとして成立せんのや』


たくっちスノー「マジで?」


『マジやで。大体具材を入れて待つだけで数時間かかるわ……』


『少なくとも一日バイトで作り切れるような物ちゃうわ!!』


たくっちスノー「つ……つまりこの一日バイト中の俺って!!」


『今日頑張ったところで報酬はゼロやな……』


『てか、普通に考えれば素人にスープ作らさせたり店開いとるのに作っとらん時点で妙だと分かるはずやで』


たくっちスノー「この時期、ラーメン屋の一日バイト多いから……」


『とにかく、そこで働いても時間の無駄や、さっさとバックれた方が楽やで』


たくっちスノー「………味噌の作り途中のスープどうしよう」


『放置して混ぜるだけならそこの店主にも出来るわ、楽させたらあかんねん』


『まぁ適当に好きな具材入れたったらええねん、案外美味くなるかもやで、ほな』

電話を切った後、すっかり無駄になったスープを見て………

たくっちスノー「………嫌がらせ感覚でぶち込むのも悪くなさそうだな」


たくっちスノーは棚にあるものを適当に掴んでドバドバ入れた後、置き手紙置いて去っていった……


………


たくっちスノー「だーーーっ!!畜生!!今日はよりによって給料無しかよ!」

たくっちスノー「いや……バイト内容を完璧に把握してなかった俺も悪いが……」

たくっちスノー「いややっぱ一日バイトつってんのに一日で出来ないことやらすのも悪いわ、暇あったらあの店にクレーム書いてやる」

「テメェコノヤロー」

たくっちスノー「おっ」

騒ぎ声がしているので横道を見ると、中で乱闘騒ぎになっているラーメン屋を見つけた、即座に調べてみると……やはりそこも一日バイトを募集している所だ。

たくっちスノー「あそこもなんかやらかしたんだな………」

たくっちスノー「もう二度とラーメン屋にだけは応募しねぇぞ」

たくっちスノー「とは言うが……それとは別で、俺飲食系には疎いんだよな」

たくっちスノー「いつまでも外食ばかりじゃジーカは減る一方だし……いずれ自炊も出来るようにしなきゃな」

たくっちスノー「それはそれとして今日の飯だな………」

たくっちスノーは、ふらりと立ち寄ったラーメン屋を見る。

たくっちスノー「ここは確か全世界チェーン店されてる所だから、まぁハズレではないだろ」

〜ラーメン万磐〜

たくっちスノーはメニューを見ながら、ふと自分が作ろうとしていたあのスープが気掛かりだった。
カウンター席に向かい、厨房が見えるところを探してそこに座る。

たくっちスノー「味噌ラーメン1つ、あと味玉は3つつけてよ」

「かしこまり!」

注文を終えた後、じっくりとスープを作っているのを見る。
どうやらここの味噌スープは味噌に加え、玉ねぎと煮干しを丁寧に濾しているらしい。

たくっちスノー(へー……なかなか良い感じだな、)

その時、たくっちスノーはあることに気づく。

よく見ると、皆はラーメンの他に何か別のものを頼んでるような、白米だ。

しかしメニューを見てもそういったものは載ってない。



たくっちスノー「裏メニューか何かか?」 



と、しばらく見ていると注文していた味噌ラーメンが完成した。



『今日のメニュー』

  • 味噌ラーメン(煮卵3つトッピング)



たくっちスノー「ま、いいか食おう。」

箸を取り、麺を掴む、そしてスープがたっぷり入った器を持ち、口に入れる…… たくっちスノーは味噌の風味を感じながら、咀しゃくする。


たくっちスノー(これは……旨いな、意外にあっさりしてて、でもコクがある、しっかり出汁が効いてる。チェーン店ならハズレ無し、選んでよかった)



たくっちスノー「そういえばあの白米は……」



「おーい、〆をくれ!」



たくっちスノー「シメ?」



声がした方を見ると、テーブルに茶碗一個分のご飯が置かれ、スープを中に入れて食べていた。



たくっちスノー「あー、おじやみたいにして食うのね、じゃあ俺も〆」

頼んでしばらくすると、たくっちスノーの所にもご飯が来る。

たくっちスノーはスープをかけて混ぜた後、口に運ぶ。

たくっちスノー「……へぇ、確かにこれはいけるな」

たくっちスノー「んー……うまっ、今日はマイナスになっちまったが、明日はその倍は稼げばいいか」

今日も一日、よくがんばりました。

本日の手当


一日バイト代 0ジーカ
食費 -880ジーカ

最終更新:2022年12月29日 13:03