……体が冷たい、頭も回らない。
どうしてこんなことになったんだろう
「…な…あ…」
声も上手く出せない、胸に深々と突き刺さった包丁が自分の中の生命を少しづつ奪っていくのが感じられる。
そしてそんな感覚さえもいずれ無くなっていくのだろう。どうしてこうなったのか、今更考えたところでどうしようもない事だがつい考えてしまう。
そう、俺は……父親に刺されて……
いや、もう考えるだけ無駄だ。
先にあの世に行き、地獄に堕ちる姿を見物するくらいしか出来ないだろう……
……こうして 明弥という男は死んだ。
だが、そうもいかなかった。
閉じたままだった目は開き、意識は戻り、起き上がれた。
痛みも無い……自分は助かったのだろうか?
「俺は……生きて……」
「あ?」
いや、何かがおかしい、今発した自分の声が妙に高く感じる。それに視界も低い気がするし手の大きさが違う。何より自分が寝ているベッドが小さいのだ。
それに服装まで変わっていて服というかネグリジェみたいな薄い布地一枚着てるだけだ。
これは夢なのか? そう思って頬を引っ張ってみるが、どうやらそうでもない。
「……様、起きてください」
考える間もなく、メイド服を着た従者らしき人物に起こされ、歩かされる。
よく分からないがこの家は随分裕福らしい。
言われるがままついて行き、鏡の前に立ち。
遂に違和感の正体が分かったが、それとは別で問題もひとつ生まれた。
(こ、これ……俺!?これが俺なのか!?)
明弥の体は……肌が雪のように白く、ルビーのような赤い髪が優雅に巻かれ、スタイルのいい……美女になっていた。
明弥が女になってしまった原因は、恐らくあの時受けた胸への傷が原因なのだろうと明弥は推測した。あの時は死ぬ寸前だったから気づかなかったが、出血多量で死にかけたのだろう、その時なんやかんやあって女になったのだ、そう考えられないとやってられない。
綺麗なドレスに着替えさせられた明弥は寝ていた部屋に戻る、テーブルには手帳があり……見たことない文字をしていたが、不思議と解読出来た。
明弥……及び、メリアはもう結論付けるしかない。
自分が死んだ時、この
メリア・トゥシャールの肉体に魂が移されたのが今の状態なのだろう…。
外を見た、自分が暮らしてきた現代社会とは遥かに違う…『異世界』というやつだろう。
こんな形で生き長らえてしまったメリアは頭を抱えるしかない。
「日本でもない、ましてやどこの女かも分からない体なんかに生まれ変わってどうすりゃいいんだよ……」
するとメイドから再び呼ばれる、メイドは何も言わず、紙を渡して出ていった。
見てみると、大事な要件があるので大広間に来るようにと書いてあった。
「……別にこれくらい口で言ってくれてもいいんじゃないのか?」
メリアはそのメモをくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ捨てる。
そして重い足取りで向かった。
「…………」
外に出て広いところに行ってみると、祝い事でもあるのか既に多くの人が集まっていた。
そのメリアの姿に誰もが目を奪われる。
白肌に赤髪が映え、スタイルの良さを強調するドレスに身を包むメリア。
……ただし、従者達は目を合わせないようにしている。
(この体の奴はメイドか何かと喧嘩でもしたのか?)
そのまま階段をゆっくりと降りようとするが……当たり前の事だが、生前からドレスなんて着たことが無いので足元をひっかけてすっ転ぶ。
「痛っ……くっ、結構めんどくさいなドレスって」
なんとか立ち上がると、目の前には素朴な女性と、高貴な服を着た男が。
「………俺は、おとぎ話の世界にでも来てしまったのか?」
「お前とは婚約破棄させてもらう!」
「…………」
「はい?」
最終更新:2023年01月21日 16:58