「はあ?」
「俺だけ別のクラスに移動?」
メリアは教師らしき人物に呼ばれ、話をしていた。
「君は今日から、私ではなく……あの新しく入ってきたフォグ・ランシー先生の元で授業を受けることになった。」
(俺自体はお前から何の授業も受けてないけどな。)
「一応聞いとくけど、なんでそんなことになった?」
「………権力には、逆らえないのです。」
その時メリアはこの学園に降り掛かってきたであろう権力と『圧』の正体、そしてその目的までも何となく察したのだった。
(あいつか………)
「とにかく、今日からなにか聞く時はランシー先生に、私はもうこれで……」
……
「君が……」
凄く寂れた、席も少ししかない部屋に居た。
一応、皇子が授業を受けているので綺麗にはなっているが……
「メリア…まぁ座ってくれ、お前の事は色々調べていたぞ」
「なんか色々悪どくやっていたとか、口からは正確な情報が出てこないからオオカミ少年ならぬ『狼令嬢』と呼ばれているとか。」
ここに転移してから身内やサリエス以外からも好かれてるように見えなかった理由がここに来てわかった、自身が転移する前のこの体は相当酷かったらしい。
メリアはその事を知って、なんだか複雑な気持ちになった。
しかし、今はそれよりも気になることがあったのだ。
それは……
メリアがログの方を見る。
するとログがこちらを見て、目があった。
メリアがログの目を見つめる。
すると、ログの表情が変わった気がする。
「ふむ、だが……私は君の事がそんな風には見えないが。」
「ああ、それは……まぁ、どうも、皇子様」
「皇子じゃなくていい、ここでは一人の生徒、そしてクラスメイトだ」
「分かった、えーと……ログファレス……長いな、『ログ』でいいか」
「勿論、構わない」
ログは器が広かった。
ひとまず気遣いは無用と感じ、安心しながら席に座るが……ここでもう1つ席が空いている事に気付く。
「他に誰か来るのか?」
「うん、そろそろだと思うけどな」
と、話していると引き戸が開く音がして……
「すみません!遅れて…」
「!」
「俺他人のフリしていい?」
「もう遅いぜ♡」
メリアとは別でこの教室に新しく入ってきたのは……サナだった。
下手すればサリエス以上に顔を合わせにくい人物がここに来てしまった。
サナは急いで自分の机に向かい、荷物を置く。
すると、メリアの隣に座っているログの方に視線を向けた。
その瞬間、一瞬だけ驚いた顔をした。
サナの席は左端。
ログの隣の席だ。
サナがログの顔を見た途端、何故か嫌な予感した。
「おい、この席の配列って」
「王子様が両手に花になるように俺が気を使った」
「こういうのって怒っていいんだぜログ」
「そうなのか?」
……
「で、改めてサナ・ヒカリ!お前もなかなか有名だ!」
「元々は農村の生まれで、とてもこの学校に通うような経歴は無かったはずだが、突如タダでここに通えるようになり、更にはこの辺りじゃ1番立場がデカいイルタール家の婚約者だそうじゃん?」
「やっぱりアイツ、サナを婚約者にする気だったのか……」
「………サリエスはともかく、サナには前々から色々やってたらしいから関係が途切れたわけじゃねぇんだよなあ」
「何かあったのか?」
「何かあったからこうして頭抱えてんだよ俺は……」
だが、何かおかしい。
恐らく自分はサリエスに王子の傍で恥をかかせる為にこの教室に送られたのだと推測しているが、なら何故そこにサナも入れる必要がある?そもそも、サナは一体どんな立ち位置なのだ? 婚約者だからといってそこまで重要視しなければいけない存在ではないはずなのに、わざわざ同じクラスに入れてまで一緒の空間に入れる必要はあるのだろうか。
(まぁ、俺としてはいい迷惑だよ……)
「で、揃って早々だけどテスト問題やっていい?」
「早いんだよ流れが!というかいきなりテストかよ!!」
「仕方ないだろ今日はどのクラスもそういう予定って言われたんだよ俺も、はい」
フォグは棚を引っこ抜いて小さめの用紙をそれぞれの席に置く。
……ここでメリアに大きな試練が降りかかる。
(!!)
(何が何だか全然分からねぇ)
この世界に書いてある文字は生前見たことがないこの世界独自のものだが、自然とメリアは脳内翻訳が出来た。
……翻訳ができるだけで、意味は一切分からない。
造語がひたすら並べられた怪文書を見ている気分だった。
(魔法を…?混ぜて?現象……意味がわからん)
更にこのテストはマークシート方式じゃなかったので当てずっぽうも出来なさそうだった。
(この世界の俺の学力終わった……)
メリアの頭の中で絶望が渦巻く。
そしてその横ではフォグが黙々とペンを走らせていた。
「よし、終わったぞ」
「えっ!?もう終わりましたの!?」
あとは待つだけだ」
「すげぇなお前……なぁセンコー、俺もうギブアップさせてくれ、何も分からない」
「誰がセンコーじゃ!ヤンキーみたいな呼び方をするんじゃ……」
メリアの色々書いた用紙を見て、フォグは……
「…………」
………
(結局何一つわかんなかった……向こうでも成績はいい方じゃなかったが、こちとら魔法学とか初めて見たんだよ、数学感覚で魔法習わせるな)
「で、お前ら飯も食ってけよ」
「え?私たちは普通に食堂で……」
「どうせどっかの貴族様が圧力かけて俺らのメシも無いんだろ?」
「鋭いような遠からずだ!まぁ俺も最近は自炊結構やってる方だから、食えなくは無いって、ほれ」
フォグはもう事前に準備していたのか、料理を用意する。
「スパゲッティか、私もたまに口にするが橙色の物は初めて見る、この国ではこういったものを?」
ログは用意されたフォークでスパゲティを巻き取り、口にする。
「ふむ……確かに悪くはない。だが……少し味が濃いな」
「悪いね、王族は薄味好みかな?俺はまだこの世界…じゃなかった、国に来て一年ちょいだから、スパイスの扱いに慣れてなくてな」
「私は美味しいと思います、ケチャップかな……甘みがあって……」
そこでメリアが口を開く。
「だな、これはいいナポリタンだ」
一瞬場が静まり返る。
「ナポリ…タン?このスパゲッティはそういう料理名なのか?」
「ああ、王子様には馴染み無いよな?ケチャップを混ぜて、ピーマンとか乗っけて……粉チーズをふっかけると美味いんだぜ」
「え、この料理の名前……私も聞いた事ない……」
「そりゃそうでしょ、だってナポリタンは『ジャパニーズ』発祥の料理、ここには見た目は似ててもナポリタンって名前じゃない。」
!!
「センコー、お前!!」
「ちょっと気になることがあったからな、ちょっと実験してみたよ」
最終更新:2023年01月21日 17:00