「遅いな……」
「だな……」
サナの住む村に行くということになり、待ち合わせをしていたフォグクラス組。
ログとフォグは既に到着していたが、未だにメリアの姿が見えない。
「あいつ普段は遅刻とかするような奴じゃなかった気がするんだが……」
「うおおおおおお!!!」
「あっ来た」
声がしたかと思えば、凄い駆け足でメリアが飛び出していく。
どういうわけか手足には鎖のようなものが付いているが……
「何それ?新手のファッション?」
「んなわけねぇだろ!何年前の不良でもこんなもん付けねぇわ!」
「いやまぁ……話せば長くなるんだがな、何があっても追放は受け入れるべき、罰せられるべきって俺が譲らなかったら……」
「シャリアに監禁されそうになってな……」
「あら」
あの後、結局剣の魔法で鎖や手錠を破壊してシャリアを説得して事なきを得たらしいのだが、その代償としてなんか特別な手錠を付けられてしまったようだ。
なんとも面倒くさい女になっちまったである。
「ログ、一応村の人には今日結構お世話になるんだ、そんな派手な格好よりこれ着ておけ。」
フォグが黒い粘液でログの衣装を包み込むと、瞬く間に農家風の格好になる。
「これでお前が王子様って思われることも無いだろ」
「すまない」
「俺には無いのかよ」
「お前は普段の態度がムカつくからやだ♡」
「職権乱用のクソ教師め……」
…………
と、話しながら歩き……
ついに、サナの居る小さな農村に辿り着いた。
数十人規模で細々と生活しているような、お世辞なしで言う田舎だ。
確かにこれでは『余程のこと』が無いとアルカナティール学園のような名門には入って来れないだろう。
「で、来たはいいけどどうするんだログ、サナの親にちょくせつ『貴方の子供は空から落ちてきたのか』って聞くのか?」
「いや、そう言ってしまうと私も奴らのように『あれ』が目当てのようにおもわれてしまう、あくまでサナやその村とは友好的にいきたいと思っている」
「アレ?」
「後で説明する、それより私達がどうやって村に接触するか、だが………」
ログが言いかけたその時、後ろの方から声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
見た目は十代前半といったところだろうか、身長が低く、幼さが残る顔立ちをしている。
この村の住民だろうか。
「…………どうするよ?誰か話しかけてこいよ」
「誰かって、消去法的にお前くらいだろ」
「は!?教師の俺に押し付ける気かよ!?」
「俺が素性明かしたら絶対入れてくれないだろうし、ログもここでは王子としての立場を出させる訳にはいかんだろ」
「ていうか特にお前にはやましい要素何も無いだろ!いいから話つけて来い!」
「仕方ねーや……」
とりあえず教師と教え子一同と言ったら納得してくれた。
しばらく歩いていると、農作業しているサナを見つけた。
「え……皆!?何しに来たの、というかその格好は?」
「おっすげぇな、この身なりでこの2人に気付くか」
「ログはセンコーと違ってオーラがあるからな」
「そろそろ大概にしないと赤点だゾ♡」
「で……今更だけど何するつもりだったんだセンコー」
「いや俺はログが行きたいって言うから?」
「単刀直入に素性を調べに来たと言われても困るだろう向こうは……」
てんやわんやしているメリア達を見ながら、ログが呟く。
まぁそれもそうだろう、クラスメイトだからって調べられにくるなんて言われたら誰だって警戒する。
しかし、だからと言って何もしないわけにもいかない。
どうにかしてサナのことを調べなくては……
「あ、あのさ……皆、今、野菜すごい余ってるんだけど、良かったら昼……」
「ん?野菜余ってる?それってどれくらい?」
「今年は街が全然要らないって言うようになったから、もうかなり……」
「そいつはいい、俺も腹減ってきたし、最近は従者共が包丁も握らせてくれなくて正直うずうずしてたからな」
メリアはサナに引っ張られて、野菜のある方へと向かっていく。
「え?メリアお前料理出来るの?」
「まぁ見てな、特に野菜系は得意なんだよ」
……
数分後。
テーブルの上には山盛りの野菜料理が置かれていた。
サナはその手際の良さに目を輝かせている。
一方フォグ達は……
無表情でサナを眺めていた。
サナが嬉々として皿に盛っている間、メリア以外の3人はずっとこんな感じだった。
「右から大根のステーキ、野菜多めのトマトスープ、野菜のかき揚げとオニオンリング、ジャガイモの煮付けにカボチャパイだ」
「凄い、私の村でもこんなに沢山は……」
「安く食うってなると自然とこういうのが身に付くんだよ、作り方教えてやるぞ?」
これが本当に元婚約者と現婚約者で、ちょっと前まで争いとかあったらしい奴らの会話だろうか。
2人が皿を運んでいる間…ログがいつの間にかどこかに行っていた。
「あれ?おい王子様ー?なんかあると俺に責任が来るんですがねー?」
「ここだ、ランシー先生」
「あっびっくりした……で、調べてきたか?」
「ああ、サナが空の上から川に落ちて、それを今の母親が拾った……それは間違いない。」
『サナは空から落ちてきた』
俺たちはそれを確かめるためにここまで来ていた、メリアもそうだが俺もまだ分からない。
ただそれだけの事なのに、なんでサリエス達はサナの事を気にする?俺にはそれが理解できなかった。
そして、俺の目の前にいるメリアも。
彼女は何故かいつも以上に不機嫌そうな顔をしていた。
まるで何かに怒っているかのように。
メリアの視線の先にいるのは……?
「げっ!サリエス!!」
目の前にはいつの間にかサリエスがいた、まぁサナの婚約者なのだから居たところでダメでは無いのだが、ログやメリア達のようではなくいつも通りの貴族風のファッション、これがまぁ凄い目立つ。
「何してんだお前は」
「お前に口出しされる筋合いはない、私の婚約者に近寄るな」
「俺にとってはクラスメイトなんだよ、そこは今から村人がベジタブル・ランチだ、食わないならどけ」
「サリエス様……?何故ここに」
「この通り、私はサナに用事があるから来たのだ」
「サナ、私と君の結婚式は明日に決まった」
「え!?」
「は!?」
唐突な結婚式発表、しかも明日。
サナが色んな貴族に狙われ始めたのが昨日、そして今日の発表。
そんなものは『何かある』とか思えなくなってきたのが俺。
「うわ……」
「ま、待ってくださいサリエス様!あの、私……明日なんて……」
「いいじゃないか、明日……君は誰にも渡したくないんだ、なんとしても」
「それ婚約してた頃の俺にも同じ事言ってた?」
「貴様は口を挟むなメリアッ!お前があれを知るというから婚約までして付き合ったというのに…….」
「……あれ?」
今、メリアが口から漏れたことと俺のが思ったことが一致した。
『あれ』。つまり過去のメリアは持っていたと前に嘘を吐き、今はサナが持っているもの?
少なくとも、これで図らずもサナが普通の女では無い事が確定になってしまった。
しかし、サナが普通の女ではないとして、その正体は何なのか? 俺はメリアの顔を見る。すると、彼女の顔色は真っ青だった。
まさか、メリアの奴。あいつが普通じゃないのを知って…… 何か気付いたのか?
一応ログの方を見た、こいつも何かに気付いたような顔をしている。
「サリエス、口を挟んでもいいだろうか」
「まさか君はあの『おとぎ話』を信じているのか?」
最終更新:2023年01月21日 17:39