………サリエスは言った。
サナとの結婚、そしてメリアの追放は明日……。
あまりにも唐突過ぎて俺も一瞬理解を拒んだ。
その為1度サナの家に入れてもらい、状況を整理することになった。
「何となく近いうちにとは分かっていたが、まさか明日とはな」
「俺の追放はまだしもサナの結婚はもう少し後にしても……とはいかないんだな、ログ」
「ああ、私の考えが正しければ……の話になるがな」
「ログ様…?」
ログはさっきからほぼ核心に触れたみたいな顔をしている。
……メリアがここに来てからずっと俺に相談していた気がする。
多分、あいつも何かやばい事に気付いちまったんだろう。
「……『黄金都市』」
は?なんて?黄金都市?今どこからその単語が出る流れになった?
この中で流れが理解できてないのは……どうやら俺とサナだけらしい、メリアですら覚えがあるような顔をしている。
「黄金都市……そういえば記憶の中に、その言葉があったような」
「その……黄金都市とは?」
「私もカルバラン魔国ではおとぎ話としてしか聞かされていないが……空の彼方、そこには神の文明によって作られた黄金の大陸が存在するといわれている」
「黄金都市の文明は我々のはるか上、手にすれば永遠の繁栄をもたらす……が、そんな物を実際に見た者はいない」
「まぁ空の上だから……あっ!!」
「おいおいおいおい……まさかよぉ……サリエス様は空から落ちてきたサナをその黄金都市絡みと?おとぎ話にマジになってると?」
「そうでなければ、ただの村娘を名門校に招き、ましてや婚約などなぜ考える?」
確かにそうだ。
ただの政略結婚にしてはおかしいと思っていたが、もし本当に黄金都市から来たなら全て辻妻が合う。
サナの奴が学園に突然やってきたのも、メリアが突然婚約破棄されたのも。
だが……
「………お姉さま、本当は分かっているのでしょう?」
ここにきて、シャリアが口を開いた。
「ログ皇子様、貴方の考えてることに間違いはありません……なぜなら」
「イルタール家を初めとしてこの国のいくつかの貴族は黄金都市から降り立ったという使者から物品を受け取っています」
「はあ!?」
「それはエネルギーだったり、私達が見たことない物だったり……あの人が、サリエス様が黄金都市に向かうことに本気になっているのは間違いありません」
「………ああ、本気で思い出してきた、なんでこの体が『婚約破棄』されたのか」
メリアは重い腰を上げ、シャリアの肩を掴む、そして何か耳打ちしたかと思うと、シャリアは飛び出してどこかへ行った。
……
数分後、帰ってきたシャリアが持ってきたのは一冊の本。
「日記?」
「こういうので1番手っ取り早いのは過去のこの体が書いた言葉だ、カギかかってたから今まで開けられなかったが、シャリアに鍵穴を燃やすように言っといた。」
それでいいのかメリアの日記。
もしこれでしょうもない事書いてあったら一生の恥だぞ。
と思いながらもメリアは日記を開く、そこには……
ーーーーーーー
〇月
トゥシャール家の後継として誰かと結婚しなくてはならない、この国1番の貴族はイルタール家のサリエス様だ。
サリエス様は私のことを見向きもしない。
愛なんて持っていない、そういう人だ……
〇月
窓から外を見ると、サリエス様とその家族が何かを貰っていた。いつもの黄金都市の使者を名乗るものからだった。
私も信じ難いが、実際にあの使者はどの国でも見たことの無い物品を持っているから事実なのだろう。
あの一家は黄金都市を自分のモノにしたいと、空を目ざしている。
そうすればこの国どころか世界全てを手中に収められるのだから当然だろう。
〇月
もう後戻りは出来ない。
私はサリエス様に自分は黄金都市に行く方法を知ると嘘をついた。
だがこれで私はイルタール家と婚約を結べた
後は子供を産めたらいい、黄金都市の事など私の知ったことじゃない……
〇月
そんな、有り得ない。
空から女の子が落ちてきた?まさか本当に黄金都市その物がある?
もしサリエス様に知られたら、私の立場は……
月
もうおしまい。
私が黄金都市の行き方など知らないことを気付かれるのも時間の問題だ、トゥシャール家はもう潰されてしまう。
サリエス様もより黄金都市に近いあのサナという女にまた婚約するのだろう。
もう私は………
ーーーーーーーーーー
そこで終わっていた、あいつの魂が来る前のメリアの日記だったようだ。
まぁ俺としてはメリアがどんな気持ちで生きてきたのか知れただけで満足だけどね。
しかし……
俺はシャリアの方を見る、彼女は顔を真っ赤にして震えていた。
どうやら、本格的にメリアの最期を悟って汗が止まらなくなってきたらしい。もうコブラツイストみたいに引っ付いてる。
「おい痛いんだけどシャリア……」
「お姉様……トゥシャール家が潰れても私はお姉様が死ぬまでそばに……」
「縁起でもねーこと言うなってマジで!」
「で、でも……ここまでの事言われても、私にはどうしようもないよ……」
「だって私、本当に黄金都市なんて知らない!落ちてきた記憶なんてない……そもそもそんな高いところから落ちて、赤ん坊だった私が生きてるはずが……」
「………つってもタイムリミットは明日、明日までに色々やっておかないと面倒な事になる。」
「そうだな……特にセンコー、俺はヤバいぞ、シャリアがこんなに震えているのも分かる。」
メリアは、一息ついて……
重々しく言った。
「___サリエスの黄金都市に対する執着はガチだとこれで分かった、そして
メリア・トゥシャールは振り向いてもらうために嘘をついた、サナに対することよりも怒ってんのはそっちだったんだろうな」
「多分俺は……明日、追放どころか処刑、ってよりは暗殺される」
「っ!!」
シャリアの顔が青くなる。
それはそうだ、これまでの気持ちからしてメリア・トゥシャールが殺されるとなれば彼女にとって最悪の結末を迎えることになるからだ。
それこそ、シャリアがメリアに対して抱いていた感情が偽物であったとしても、である。
シャリアは、恐る恐ると聞いてきた。
「姉様、まさか」
「……それも、受け入れる。」
「お前らには悪いが、いい余生だったと思うよ。」
そしてメリアも、命を散らす覚悟はとっくに出来てた、1度死んで、自分の体では無いからこそあんなにも自分の命が軽々しい、それは今までもそうだった。
だが。
「このままあの貴族様の思い通りッてのは気に入らんよな、ログ王子」
「ああ、今回ばかりは……横暴のように感じるな。」
どんな人間であれ、どんな状況であれ、どんな未来が待っているとはいえ。
メリア・トゥシャール、お前をそんなに軽々しく死なせてたまるかよ。
明日、明日あるんだな?
まず第一目標はお前だな、その後にサナ、
そして……_
最終更新:2023年01月21日 17:42