黄金都市へ。

今俺たちが乗っているこの黒いドラゴン……それがあのフォグ・ランシーらしい。

ただでさえ滅茶苦茶な奴と思っていたが、ここまで来ると何も言えねぇ。

今この上には俺、シャリア、サナ、そしてログ……この面々が居るが………

「あ、ログ……俺が頼んだもの持ってきた?」

「ああ、一応持ってきたが……別に必要ないと思ったが」

「そうもいかないんだよ〜、変身って5分しか持たないんだ」

「そうなのか……?開け!魔獣の絨毯!」

ログが鞄から布を取りだして空に投げると、空中で静止する。
ログはメリアを担いで絨毯に乗り、サナとシャリアも乗り込む。

最後にドラゴンから形を変化したフォグが絨毯に乗り込み、進み始める。

「すげぇな、魔法の絨毯に本当に乗れるとは思わなかったよ」

「ガルバラン魔国にはこういうものもある……竜に変化できる人間を見て言われても、だがな」

「………」

絨毯で空を駆け、雲を抜けていく。

「おい、センコー……そろそろお前のことも全部開かせ」

「俺は中身が男だし、メリアじゃないことが多数にバレたよ」

「おっと、それはそれは……」

「どういうこと?」

「こいつも普通の人間じゃないんだよ、他世界から来た旅人なんて言って……俺の正体にも最初から気付いてた。」

あのセンコーは俺にだけ別世界人だと言っていたけど……それにしても、ドラゴンになれるとはな
メリアの体の中に居たとき、こいつの記憶や感情が流れ込んでくることがあった。
その時に感じていた違和感を感じてると思ったが、こいつ……

「お前は一体何だ?旅人って何をしている?」

「……ま、俺にも色々と事情があるんだ、ワケあって色んな世界を巡ってる。」

「『フォグ・ランシー』も本当の名前じゃない、世界を渡る為にある人から桁外れの名前を貰った。」

「……なんの気まぐれで新任教師に?」

「さあな、本当に気まぐれだよ、こんな事態になったのは完全に想定外だが」
………………
絨毯は今も空を悠々散歩している。
さっきのログとの会話からして、これを持ってくるように言ったのは間違いなくセンコーだ。
それは何故?少なくともサナと俺を逃がす為だけじゃない。
あいつは……向かっているんだ。

「おい、センコー……お前まさか」

「あ、分かっちゃった?」

「何か分かったの?メリア」

「………こう言っておくか、センコー」

『黄金都市』、あるんだな?」
黄金都市があるなら、サナの故郷だ。
そして全ての人間が追い求め、ログの国でもおとぎ話として語り継がれ、使者が高文明の利器を密かに提供する……禁断の聖地。

今アイツは黄金都市に向かっているんだ。
だが……

「シャリア、俺は知らないんだがこの世界は空を飛ぶ手段はあるのか?」

「い、一応……飛行船はあります、ですがどの国も黄金都市を見つけたことは……」

「人からは視認も確認も出来ないような力があるってわけか、それこそ神にも近いような」

「やはり黄金都市には神が……?ランシー先生、私の絨毯でも流石に見つけることは……」

「確かにこのままじゃ難しいかもな、だが……」

「俺がいる!」
フォグはそう言いながら親指を立てた。
自信満々だ。
しかし俺の体は女なんだぞ? お前はそれでいいのかよ!? そんな事を思っていると、センコーが絨毯の端っこの方まで寄ってきた。
どうしたんだよ急に。


「久しぶりに抜くかな……ドクロ丸

あいつはそう言うと、体に手を突っ込み……刀を引き抜いた。

「しゃあっ!!!」

それを思いっきり振り下ろすと、その周囲の空間が裂けたように広がった。

「お前……ドラゴンになったり刀出したり、マジで人間じゃないな?」

「俺は自分のことを人間なんて言ったつもりはないぞ?」

絨毯は裂けた空間の中へ一直線に入っていった……

………

「こ……これは!?」

「うそ……」

「まさか本当に」

「やっぱりな、俺と同じ他世界の力だ」

中に入った先に……それはあった。

「あれが……黄金都市…」
黄金の街……あれを黄金都市としてなんというか。
空から見ても分かるほど、金ピカに輝く街並み。
見たこともない金属の乗り物や建造物。
巨大な塔のような建物もある。
それが、浮遊して空に建っている。

かつてこの世界でおとぎ話と言われたそれが、今俺たちの目の前に……

「お姉様の幻で見た鉄の街のよう……」

「確かに日本に似てるところはあるが」

「おいおいみんな、見物してる場合じゃないだろ」

「あ、そうだなセンコー……黄金都市を見つけたのはいいが、何しに来たんだよ」

「もちろん用事はある……の、前に」

センコーはサナの方を見て言う。

「サナ、改めてこの場所に覚えは?」
するとサナは首を横に振った。
そして俺の方を向いて、何かを言おうとした
俺はそれに答えようとするが、口を開くよりも早くセンコーが喋る。
まるで俺の声を聞くまいとするかのように。
いや、そんなんじゃない。
センコーの言葉の意味が分ってきた。

「会いに行く?」

………

絨毯を降りて、黄金都市を歩く。
改めてこの世界とこの場所だけで文明に大きな違いがある。
俺から見れば日本のどこにでも売っている日用品も多く置いてあるが、この時代じゃ充分すぎる代物だ。
だが……

「俺が入る前のメリアの日記やシャリアが言うには、ここから使者が来ていたそうだが……その使者を探してるのか?」

「いや、それよりも大事な人だな……んー、しかし広いもんだでひとり探すのも苦労だ」

「1人?」

「ああ、この黄金都市、見た目こそデカいが住んでいるのは指で数えられる程度だな」
俺は驚きながら聞いた。
しかし、なぜ俺になった元メリアの知り合いに会いに行かないのか。
それとも、もう会えないとかなのか?

「こんな時になんだがさっきの話の続きだ、俺は何のためにここに来たのか、何者なのか」

「元々はただ、旅の途中でカルバラン魔国に辿り着いて、そこの第一皇子……ログの兄貴と色々あった」

「色々くれたよ、教師としての立場、ログを守る権利、よそに行く為の権限……」

「そんな修学旅行感覚が、こんな世界レベルなことになるとは思いもしなかったな」

「つまり、こっから先はめんどくせーことになるって訳か」

「バカにも分かるような結論ありがとう」

それでもこんなだだっ広いところで人を見つけるなんて地図もなしに出来るのか?
ましてや……
黄金都市、黄金の街。
道行く人々を見ると、やはり金ピカの格好をしている。
金ピカ……
そういえば金ピカの話を前に聞いたんだった。
黄金都市、黄金の街。
センコーが黄金都市の話で1回会った人物。



『神』。


「まさか!?」


「会いたいだろ、『神』に!」
最終更新:2023年01月21日 17:56