たくっちスノー、環境を整える。

時空をまたにかける旅人たくっちスノー
ちょっとした気紛れから、『デニム・ピラート』を名乗り、傷だらけの子供『ライチ』に修行をつけることにした。


「俺の事はエラいからお師匠様と呼ぶように」

「ししょー!」

「よし」

と、ここでデニには問題があった。
基本ブラブラして、適当に移り住んでいるので移住区なんてものはない。

(んー……まぁ、最悪コイツの家に移住めばいい)

「お前どこに住んでるの?俺は屋根裏のゴミにでもなれるからどこだって移住出来るそ」

「あ……」

「来て」
と、案内されたのは洞窟の奥深くだった。
そこには……大量の魔石が落ちていた。
そして、ライチはデニに手招きをする。
その先には……魔石を貪り食う魔物がいた。
しかも複数体いるようだ。
デニはライチを見る。

「お前、こんなところ住んでるの?」

「あの生き物は、ここにある石を食べるだけで、害とかは無いよ……」

「いや、それにしたって……衣食住に適しているかと言われたら……つっても洞窟暮らしの奴も普通に聞いたことはあるが………」

デニは一応奥を見てみる、奥に綺麗な湧き水と泉があったので水分補給や水浴びは可能だろう。

だが当然ながら洞窟に扉などあるわけ無いので、寒くなる季節になるとキツイかもしれん……何より


「お前、食事はどうしてるんだ?まさか、あの生き物焼いて……」


「………火を通しても、あの生き物は食べられたものじゃ、なかった」

「やっぱ石食ってるようなのはダメだな」

デニはライチと一緒に洞窟の中を見回る。
とりあえず寝床の確保だ。
あとは食料。
さっき見た感じだと湧き水があるので水場もある。
地面に触れてみると柔らかいので、簡単に削れる事は分かった。

「お前、多分その辺の草とか食ってるだろ」

「どうして……」

「そんなほっそい体見りゃそんな想像くらい付くわ!」

「まず栄養取らなきゃ強くなる以前の問題だな……1時間待ってろ、これくらい広いなら何とかなる。」

その後、デニは外から土や設備を用意し、簡単な畑を奥深くに作った。更に黒い水を蒔くだけで育つ野菜を植えた。
これは『黒水菜』と呼ばれる、黒くて瑞々しい野菜である。
この種は別世界に行った時にバイオ技術で作ったあらゆる環境に適応し、無限に増える。
つまり、放っといても勝手に増えていくのだ。

「これで最低限の栄養が取れる。後は肉類……」

改めて近くにいる魔石を食べる生物を掴む、4本足でトカゲのようなヤモリのような見た目をしている……
「一応こいつも色々試してみるか……」


………
その夜。
一日中あのよく分からない生き物と悪戦苦闘した結果、煮込んだらまぁ食えなくは無い物になった。デニは早速それを食す。

「……うん、食えるぞ。コレは」

「ししょー!すごいです!」

「ふっ、そう褒め称えても良いぞ、気分が有頂天にハネ上がる」

「はい、凄いししょー!!」

……
「で、師匠である以上聞かない訳にはいかないんだが……つっても聞きたいことが山ほどあるな」

「なんでこんな洞窟に住んでいるんだ?」

「……強く、なりたいんです」

「それが根底なら、その理由まで詳しくな」
ライチがぽつりと話し始める。
この村の近くに巨大な山がある、数年前……その山を登った時、巨大な熊の怪物に襲われた。
その時のライチはある人物と同行中だった……だが、足がすくみ、その人を守るために動くことが出来なかった。
それからというもの、ライチは自分の無力さを呪った。
(僕は弱い……)

「あの時、なんで動くことも出来なかったんだろう、あの子にも、同じことを言われた」

「いやいやいやそーは言われたって今より昔の話なら、とんでもないガキの頃の話だろ?そんなものしょうがないんじゃ……」


「………まあそれで、覚悟決めて、家を出てこんな洞窟に……か」

「でも……中々強くなれなくて、村の人にも相手にされなくて……」

「…………」
(そりゃそうだろ……)
デニは思う。
ライチは確かにここまで生きてこれたのは強いかもしれない。
だが、それはあくまで子供にしては……というレベルに過ぎない。
それに、ライチは恐らくまだ10歳前後だろう。
そんな子供がこんなところで誰からも相手にされず修行した所で、たかが知れている。

なら……

「ライチ、強くなる上で目標とかあるのか?」

「はい、僕……冒険者になりたいです、『勇者』と呼ばれているもの……」

「あ、あの、ここより大きな街で、ライセンス試験……というのがあって、合格すれば、凄い色んなことが出来るから……」


「それはいつやるんだ」

「半年後……」
デニは思った。
(まず、コイツがこのまま洞窟でいくら努力したってどうせ不合格になるだろうな……つってもなぁ……俺はコイツを育ててメリットがある?俺はコイツの師匠になって何をしてやれる?)

(……だが、それでも)


「……分かった」

「俺が何とかしてやるよ、その体じゃライセンス以前に村を出ることすら無理だ」

「俺なんてこの世界やお前からすりゃ赤の他人、それでもお前からすれば」


「たった一人の、師なんだろ」
ライチは泣き出した。
今まで誰にも相手にされなかった自分を受け入れてくれる存在が現れたことに感動していた。
そして、これからデニと共に行動することで自分の成長を実感出来ることへの期待もあった。

「で、お前が本当に強くなりたいのなら、当然その分厳しい事にはなるかもしれん……」

(つっても俺の育成者としての経験ってアスリートだしな……フレンもルドルフさんも最初から強かったし)

正直な所デニにも不安はある。
大見得切ったはいいが、今までの指南対象は既に充分な技量を持った存在ばかり。

レベル1を最初から育成するという経験など、今時ゲームでもやっていない。
が、それでも……諦めるわけにはいかない。

「まぁとにかくだ、今日はもう寝ておかないとな……お前寝る時は……」

「土の上に横になって……」


「あーあーあーもうそういう事はダメだって寝にくいから、ちょっと待ってろ」

デニは腕から黒い成分を放ってそれを広げ、指を突っ込んだ

「俺の顔から指を通し成分に伝わる空気!」

「よし、なんかドス黒いウォーターベッドみたいなの出来た」
デニム・ピラートの能力。
それは体のあらゆる場所から黒いゲル状の物質を生成し、自由自在に操る事。
ゲル状なので形や大きさを変えることも出来る。
……しかも他にも使い道はあるが、ここでは割愛する。

「よし、一回も試したことは無かったがまぁ岩で寝るよりはマシそうだ」

とりあえず、今日はそれらに乗せて寝ることにした。
明日には何かしら野菜も寝具もちゃんとしたものを買うことにしよう。



これは……時空を超える『最強無敵』と言われた怪物たくっちスノー
生まれて初めて弟子を真剣に育成する話。
最終更新:2023年01月25日 17:54