たくっちスノー、武器を買う。

ライチがデニから本格的な指南をしてもらえることになって1日。

デニから見て……進歩は無かった。

「うーーむ………」

「すみません」

「いや、お前が気にすることじゃない……だがこのままじゃまずいな……」

デニは考えた末に1つの結論に達した、ライチに木刀、並びに剣は向いていない。
もっと適正のある武器を用意する必要がありそうだ。

「となると、次は武器の問題か………」

となれば話は早い。
ライチには申し訳ないが、武器探しに街に同行してもらおう
しかし、問題はここからだ。
この世界では貧困層にとって冒険者ライセンスは人権にも等しい、それを持っていないライチに武器を売ってくれるような店があるのだろうか?

と、考えてると……ライチが行き倒れている人間に飯を与えていた。

「あれ、どうしたそれ」

「洞窟の近くで倒れてました、お腹すいたと言っていましたので」

「……ま、別にデンキウサギもキバフグも養殖してあるから構わんが」

……
「こいつら結構食いやがって……」
デンキウサギ2匹、キバフグ4匹の死体を捌きながら、デニは呟く。
その横でライチは興味深そうに起き上がった2人を眺めていた。

それはそうだ、デニから見ればその格好は東洋風……分かりやすく言えば中華系の風貌。
この村とは雰囲気がかけ離れている、普通に考えれば余程遠い所から来たか、デニと同じ別世界の住民だろう。

「助かったアルヨ、ジュは名前、朱破浪(ジュ・ポーラン)というネ」

「その妹の商破浪(シャン・ポーラン)ヨ」

双子だと聞いて納得する。
髪の色や髪型が違うだけで顔立ちは瓜二つ。
服装も民族衣装のような物だし、間違えられても仕方ない。

「なんで倒れてたの?」

「世界越えてきたはいいけど、皆金出してくれないネ」

「いいもん用意してたのに寂しいヨ」

「お前ら商人か……なんかこの世界、貧困だと冒険者ライセンス無い奴は人権無いみたいだぞ」

「は!?」

「だから多分ここで売っても……ん?」

「ところでお前らなに売ってるの?」

……
「ラッキー……お前ら武具商人だったのか」
運が良いことに双子の所持品の中には、武器防具が揃っていた。
しかも質が良く、見た目も良い。
武具商人としてのセンスもあるらしい。
この中からライチに合いそうなものを……

「よしライチ、好きな物選んでいいぞ」

「え、でもししょー……」

「気にすんじゃねーよ、お前の修行の為なんだから」
「僕、お金持ってません……」

「大丈夫気にすんな、俺が払うから」

「あ、ありがとうございます」

「ほれ、早く選びな」

「はい!」
ライチは一通り武具を見ていく。
そして、手に取ったのは……

「これ……いいですか?」

「そいつは……」

ライチが選んだ武器は……長い紐状の武具。

「鞭?」

「いや、それは似てるけどムチと違うネ、使い方が違うヨ」

「使い方が違う?」

「縄の部分を触れば分かるヨ」

デニは触ってみる……なんだか粘着力を感じる、表面にねばついた何かがコーティングされているのだ。
試しに地面を打ってみると、地面に張り付いた。
まるでクモの巣のように。
これは……面白い。
ライチの武器として良いかもしれない。
それに、この武器の利点も見えてくる。

「そのムチはネロスキュっていう森林国の大蜘蛛の糸から作られた粘砕って武器ネ」

「ちょっと俺が試し打ちしていいか」

「ぶっ壊すなよアル」

デニは粘砕を握り、軽く振り回して……

「はっ!!」

大きく振るうとしなって、近くの大岩に巻き付くように張り付いた。

「くっついた……でも、ここからどうするんですか?」

「こうするん……だ!!!」

デニは思いっきり引っ張ると、その勢いで大岩は持ち上げられて後ろに飛ばされる。
しかし、問題はその後。
この武器の欠点がすぐに分かる。

「要するにコレって、鞭で相手を捕まえて腕力でぶん投げる武器だ」

「一応骨を折るとかも出来るが、相当な筋肉野郎でもないとそんな使い方は出来ない」

「あんな使い方してる奴は大体3流ネ、本当によく出来るやつは腕力でゴリ押さなくてもゾウくらいぶん投げられるアル」

「ムチと柔道を合わせたものみたいな感じヨ」

「柔道ってなんですか?」

「相手の身体を掴んで、投げたり身体を締め上げる事が多い技だ、パワーをそんなに必要としないのが特徴だな」

だがこれはアリかもしれない。
栄養をつけてきたとはいえライチの体はまだ未発達。
それにあと半年では筋肉を作っていくのは無理だ、なら筋力をあまり必要としない柔術を指南するのも悪くないだろう。それに、この武器はライチにとってピッタリだと思う。
だって……
ライチは強いんだから。
この世界の人間よりずっと……
この世界は弱肉強食、弱者は淘汰される。
ライチはその環境で生き抜いてきた。
だから分かる。

俺は、こいつを死なせない為に


「いくらだ?」


ジーカで払ってくれるなら1200万『ドン!!』


出来る事の全てをかけてやろう。

「釣りはいらん」
そう言って金の入った袋を投げる。
それを受け止めたのは双子の方だった。
双子は中を見て驚く。
中には大量の紙幣が入っていたからだ。
双子はそれを察したのか、それ以上何も言わず受け取った。

「あ、あいつ、洞窟で生きてる割には、だいぶ金持ってたっぽいけどどういう事ね朱」

「商、お前気付いてないアルか……軽く見た目こそ隠しているが、覇気が消えてない」


「小娘のそばに居たあの男……『たくっちスノー』ネ」

「ハ!?確かそいつって、過去に史上最悪の時空犯罪者と言われ、断罪後はあらゆる世界を練り歩くって……なんでそんなヤツがいたアルか!?」

「知ったことじゃ無いネ、だが……なんか面白そうな気がする事は確かアル」

「とは言っても、ここに滞在しても誰も買ってくれないし無駄アルヨ」

「さっきたくっちスノーは言ってたネ、この世界は貧困者が人権を得るには冒険者になる必要がある」

「ジュ達もアイツと同じもん目指せばいいアル」
それはつまり……

……


そしてデニの方も、購入した鞭を早速ライチに使わせてみる。
握ったばかりにも関わらず、木刀を使わせた時よりも様になっていた。
ライチは才能があるのだろう。
いや、俺が教えた事をすぐに理解して実践出来ているだけか。

「よし、素振りはもういいぞ……次は何かしらを投げて……」

「あ、いえ……ししょー、素振りじゃなかったんです」

「え?……あ!?」

粘砕の先端近く……くっついている。
洞窟の周りを飛び回っていたであろう、小さな羽虫がたっぷりと。
素振りをしていたのでは無い、狙って虫を捕まえていたのだ、あの短期間でここまで。


「ライチ……」


「この鞭、もうちょっと練習してみろ……」
最終更新:2023年02月14日 16:58