たくっちスノー、試験前日。

新たに武器を新調したライチは、より一層強くなったように感じた。

このまま少しづつ成長していけば、冒険者試験も夢ではないだろう。

「と、それはいいんだが………」

「なんでお前らまで住み着いてるの!!」

朱、商の兄妹も何故か洞窟の近くにテント張り込んで住み着いていた。
食事等は物々交換等で凌いでいるらしい。

「ジュ達も冒険者ライセンス得たいアル、その為にはここに居座らないとやってけないネ」

「だからってここに……洞窟入ってもいいぞ、広いし」

「洞窟の中変な生物住んでるし嫌ネ」

「これでも畑作ったり色々整備してんだけどな……」
俺は土いじりをしてるとこを見せびらかす。
ライチと作っている野菜はどれもこれも瑞々しく、美味しそうに育っていた。
デニの野菜は絶品だと噂され、買いたいが為に遠方から来る客もいずれは来る!と思ってる

「まぁそれはいいネ、シャン達はもう強いから冒険者試験は気にすることでもない……と思っていたアル、最初は」

「そこのライチって奴が真剣に冒険者になるつもりなら言っとくネ、どうやらシャンやお前が思ってるほどここの試験は一筋縄ではいかないようアル」

「へ?」
俺が言うのもなんだが、確かにあのライチは俺の教えを忠実に守ってここまで強うなってきた、が、それでもまだまだ甘い。
そんなんじゃ、いつ死んでもおかしくない。
ここは、もっと危険な場所だ。
こんなところで死なれちゃ困る……その思いで育ててきたが。

「これでもジュ達は、遂にその日が近づいてきた試験について色々情報は集めていたアルよ」

「俺だってどういう奴が来るかは調べたし内容も見たよ、試験内容は簡単なタイマン戦、それを3日間行うだけ…」

「そう、ジュ達もそこは調べていたアルが……」

「去年試験に参加した冒険者の数は数千人居たけど、その内合格者は何十規模」

「それも、落ちた人の中には3日間の模擬戦で優秀だった奴も居たわけネ」

「どういうことですか?」

「ただ強いだけじゃ冒険者にはなれんって事アルヨ」
朱の言葉に商が補足するように答える。
そしてそのまま話を続ける。
曰く、冒険者は実力主義であり、弱いものは容赦なく切り捨てられる。
それこそ、例えそれがであっても容赦はない。
だからこそ、試験を受ける際に戦闘能力だけでなく何かを求められる、その何かを見つけることが合格のカギだろう。

「で、肝心な目の付け所は何よ」

「そんなもん見つけられてたらジュ達はもっと余裕アルよ」

「だよなぁ……でもまぁ大丈夫だ、今回失敗してもまたその次の時に……」

「いや……実はそうもいかないみたいヨ」

「え?」

「お前、前に冒険者のライセンスが無ければ貧困層は人権すら得られないみたいな事言ってたアルな」

「ああ、裕福層から聞いた話だからそうなんだろう」

「どうやらそれは……比喩表現なんかじゃなく『マジ』のようアル」

「それってどういう……?」

「まず、試験に合格出来なかった場合、貧困層はもう次以降の試験は受けることは出来ないアル」

「は!?」
デニは驚きの声を上げる。
朱の説明によると、そもそもこの世界では、貧困層の人間には生きる権利が無いという。
この国では、生まれながらにして格差がある。
裕福な家庭に生まれれば、貧困層の人間がどれだけ努力しようとも決して手に入らないような富と名声を手に入れることが出来る。

だが、貧困層は違う。
俺自身、冒険者の試験なんてものに合格して人権が得られるなんて妙な喩えとは思っていたが、その通りとは思わなかった。

「………一応聞いとくが、受からなかったらどうなる?」

「そいつは名前から経歴まで何から何まで奪われる、その人らしさを失うアル」

「その人らしさ?」

「……ジュ達も珍しく金をはたいて情報を集めたんだけど、その結果が……」

「顔を変えられ、髪を全て消失され、骨や肉体の改造で身長・体重まで固定、脳はロボトミー手術みたいなものを受けて思考すら不可能にする。」

「その後はデコラって街に連れていかれるそうネ」

「デコラ……」

「知ってるのかライチ……そうだ、お前元々裕福層だったな」

「デコラ…本で読んだことがあるくらいなんだけど、この世界の『地獄』のような場所、あるいは『ゴミ捨て場』みたいな所って……」

「そして、この世界全体の『奴隷』のような街アル」
朱破浪の口から発せられた言葉は衝撃的であった。
その街は、俺のいた世界で言うところのスラム街のようになっているらしい。
つまり、貧困層の人間は、負ければそこで一生を終えることになる。

何気ない気持ちで来たこの世界は、俺の想像だにしないほどに地獄のような場所だったようだ。

「……ジュ達旅人からすれば、そんなリスキーな事より別の世界に移動してしまった方が強くなれるアルよ」

「てかそれがいいアル」


「………」

「ライチは、それで納得しないんだろ?」

「はい、僕は強くなるんです……あの時から変わるために」
「あの時ってのは、あのクマの事だよな」

「はい……」

あの時の、あの事件。
あれは、まだ僕が小さい頃……

「はいストップ、ストップ。」

「それ絶対長くなるしジュ達飽きるほど聞いたからそれはもういいアル」

「もう疲れたし、試験の日は違いアルしもうライチ休んどけアル」

「でも……」

「休んどいた方がいい、何かあったら困るしな」

「ししょーがそう言うなら……」

デニが助言すると、ライチは素直に布を敷いて眠りについた。

「そうか、もうあと数日……俺がライチに会った時は、あと半年つってたのにもうそんなに経ったのか」

「お前…この世界に居座る理由はないし、精々ライチの事ぐらいなのに、なんでそこまでするアルか」

「………俺だって今は理由無く世界をフラフラしてる訳じゃない、でもそれとは別として」

「ライチを俺が強くする、いや…俺しか強く出来ない。」

「この村を見ろ、俺が来てからはライチは虐められもしないが、何も居なかったかのように寄り付くことも無くなった。」

「ライチの味方は俺だけなんだよ、赤の他人の俺だけがな」
デニは、ライチの頭を撫でながらそう言った。
朱破浪は、その光景を見て思う。
(こいつは……今は自分のことよりも他人を優先するタイプアルな)
確かに、ライチにとっては良い環境かもしれない。
だが、デニがもし何らかの自体が起きれば、最強無敵とはいえ『たくっちスノー』にももしもはある。



その時、自分たちはどうなるのか


「てかお前、さりげなくジュ達は味方じゃないって言ってるアルな」

「信用出来ないし」
最終更新:2023年02月14日 17:04