灯火

………

朝、目が覚める。

ライミは………裸だったが、最早諦めたような表情で後ろを見る。

「また……か」

ニクを食って強くなり、コウビして子供を産んで力を引き継ぐ。
それが自分の能力と分かった。
だが、夜寝ている間に男にレイプされて子供を産む。
その繰り返しをもう1ヶ月も連続で繰り返している。

そうして生まれた子供に転生する、寝ている間とあれば抵抗することも出来ないので受け入れるしかないのだ。

「服を着ても無駄になるが……仕方ない」

孕めば転生するライミは服を着る事も無駄に感じるようになり、草を加工して作った布を身体に巻き付けるようになった。
さすがに全裸で人前を歩くほど尊厳を無くしてはいない。

「………あれから1週間、少しづつ成長してはいるが、進歩無し。」

1週間ドーブツとモテムシを食べたことにより、身長はこの世界に迷い込んだ時に比べ二十センチも高くなり、筋肉がついて引き締まった体になっている。
モテムシによってバストもサラシでは収まりきらないサイズにまで成長して、学ランを着るとボタンが弾け飛ぶレベルだ。
「どうしたものか……」

ライミは考える。
この世界で生き抜く力は得た、このまま脱出の手がかりを掴もうとしても進展は無い。
何が足りないのか……それは人脈。

もっと多くの人間の居るところに向かうことにした。


……
ライミは任天堂世界に来て分かったことがある。
この空間にも表と裏がある。
表では実際に売られているゲームのように
、様々な作品のキャラクター達が普通に生活して能力者達が結束して安全に活動しているが、その裏ではスラム街のように欲望にまみれた汚らしい物で溢れている。

表向きの任天堂戦士達はゲームのヒーロー達と冒険して健全に活動している中、人知れず存在する裏では弱みを握られて逆らえない女の任天堂戦士達が体を売る類似的な風俗店や、能力者を道具として扱う非人道的な実験を行う施設などが存在する。

そしてライミは、最初に飢餓感で放浪していた時に自分がずっと裏に近い場所に居たことを察した。
自身を幾度となく拉致してきた男達が居たことからもそれが伺える。


歩いて、とにかく歩いて……明るい雰囲気の所に戻ってきた。

以前居た場所に比べて治安もよく見える。
ちゃんとした人間もモラルもありそうだ。

「人が多そうな所は……」

「おい、ちょっと、お前………」

ライミが歩いていると、若めに見える男が引っ張ってどこかに連れていく。

即座に拳を出して応戦しようとするが、振り上げた拳は力強く受けられる。

「……強い」

「…………と、危ない」

「………」

「おい、なんだその目……どんな奴に会ってきたかは知らんが、手出をするわけじゃねーよ、いいから来い」
ライミを人気の無い路地裏のバーに連れ込むと男は言う。

「お前……あのやばい所に居ただろ」

「好きでいた訳では無い、あそこに気が付いたらいて……今日抜けてきたところだ」

「まあ、好きでいるようには見えないツラはしてるが………」

「俺は城之内七夜だ、『灯火』っていう…まあ、この辺りの治安維持をしてる」

「……赤虎ライミだ」

「へぇ、赤虎………赤虎!!?」
『灯火』のリーダーである城之内は驚く。
それもそのはず、彼女は……

「お前!まさか!」

「……?」

「美園市にある三ツ星フランス料理店『ル・モンド』の……」

「そこは私の家だ」

「マジか……いや、こんなところで現実世界の話なんかしたって意味無いのに……」

「………治安維持組織なら、1個聞いておきたい」

「この世界を出る方法……?無い、いや……あったとしても、知ろうとするな」

「何より………」


「その格好でこの辺り出歩かれるとちょっとアレなんだよ……」
今のライミの姿は裸に葉っぱを巻き付けただけの状態だ。
しかも、胸元は張り裂けそうになっており、腰回りもギリギリで、少しでも動いたら見えてしまいそうになっている。
城之内の目線に気が付くが、ライミは平然としている。

「格好に問題があるのは分かっているが、能力の都合上着ていても無駄になってしまう」

「どんな能力だよ……使う度に服でも弾け飛ぶのか!?」


ーーーーー
ライミは能力の詳細を全て明かした。


「……肉を食べて、成長して、交尾して生まれた子供に能力を遺伝させて転生……なんだその能力は」

「毎日孕まされて子供に転生するんだ、赤子が服を着て生まれる訳でもない、仕方ないだろう」

「いや……毎日無防備な所を犯す裏の世界がイカれてるだけなんだがな……」

城之内は呆れながらも納得せざるを得ない。
確かに、ライミがこの世界に来てから常に危険だった事は容易に想像できる。
だが、そんな危険な場所で生き抜いてきたのだろう。
そして、彼女の言葉通りだとしたら……
ライミは……妊娠し出産を繰り返して、その子供に何十回も転生している。

その時点で既に肉体的には本来の『赤虎ライミ』とは大きく異なる存在だ。

「とりあえずこの周辺はお前が想定している事は起きないし、後でマトモな服は用意する……」

「………とにかく、脱出の方法なんて考えない方がマシだ、だがお前がいたところのように悪意に染まることもそれに利用することも良しとしない」

「誰かを助けてる余裕なんかあまり無いが、なるべく不幸になる奴はいない方がいいだろ」

ライミは城之内の言葉に少し考える。
自分がこの世界に来て、今までの経験から脱出を考えても良いことはなさそうだと判断していたからだ。
しかし、この男……城之内はライミの能力について深く追及せずに理解を示してくれた。
ライミは城之内の事を他の物に比べたら信用出来ると考えた。

「色々聞いてもいいだろうか」

「答えられる範囲なら」

……

「霊音という任天堂戦士に1度助けて貰った……仲間か?」

「霊音……いや、俺はだいたい覚えているが会ったことは無い」

「黄色い鼠のような姿を……」

「……能力でピカチュウの姿をしてるのか、それなら覚えやすい、頭に入れておく」

「そこでユカという少年にも出会った、子供の保護が出来るところはあるだろうか」

「ある、子供、老人、病気持ち……戦う力を持たないやつは比較的安全なゲームに隔離してある」

「もう見てないなら、多分その霊音って奴がそこに置いていったはずだ」

「そうであるといいが……」


……

「お前、食わないのか」

「食べないわけではない……あの能力のせいか、人間から飛び出してくるあの四角い肉か、あの世界のドーブツじゃないと腹が満たせなくなった」

「それは……不便だな」

「いや……元々食は細い方だ、ル・モンドか……まだ1週間なのに久々に聞いた言葉だ」

「俺が言うのもなんだが身なりは良い方だし名門の家系だろ?話を聞くにはそんな風貌には見えないが…」

「最初に来ていた服は最初に転生した時に無くなったからな」

「そういう意味じゃねえ」

「……まあ、よくある事だ………くだらない理由による対立、その家の者を名乗るに相応しくない存在、そういうことだ」

「なるほど……確かによくある事だな」

それからライミは、この世界に来た時に着ていた服と似た服を作ってもらい、それを着る。
サイズはピッタリで、服からは高級感が漂っている。

「お前はどうする?避難所なら現実世界ほどとは言わずとも不自由ない暮らしは出来るぞ」

「いや、私は今人脈を必要としている……」

「今、1人では生きていけない……灯火とは言わずとも、何らかの組織に属しておきたい」


「………ま、そういうだろうな」

城之内はライミにそう告げると、ポケットから携帯を取り出し電話をかける。
数秒すると、電話が繋がり相手が出る。
城之内はライミに目配せをして話すように促す。

「何をすればいい?」

『第一声がそれか……まあいい、本気なら行ってもらいたいところがある』

『メトロイド……そう、あの異星人や未知の技術が溢れてる宇宙の世界に行くんだ』

『ギンという我々の仲間である任天堂戦士が消息を絶っている』

『ギンの救出、あるいは確認をして帰還する、それを行えば灯火に入ることを認める。』

「分かった、1人連れて帰ればいいんだな」

ライミは城之内の言葉にそう答える。
城之内はライミに耳打ちをする。
ライミはそれを聞き、少し考えた後に答える。
そして、ライミは城之内に案内されながら、目的地へと向かっていった……
そこは、先程までいた場所と同じとは思えない程の光景が広がっていた……

ーーーーー
「七夜、あんなこと言っていいのか」

「生きていく上で通さなくちゃならない嘘もある、俺はこの世界でそれを学んだ」

「……だが、戦えない奴の為の施設があること、ギンの失踪は本当だ、あいつも死んでもらいたくないし、もしやばかったら俺がこっそり助けに行く」

「………灯火なんて組織が存在しないという嘘が致命的とは思うが」

「俺だって帰れるなら帰りたいさ、だが帰るために探ろうしたら……あいつも『奴』に狙われちまう」

「この世界で平穏に生きていくには……誰も奴に気付かれないように、諦めるしかないんだよ」
ーーーーー

ライミは広場を抜け、宇宙が広がる世界へ来ていた。
ライミはここでようやく、久方ぶりに話の通じる任天堂戦士と出会う。

「誰だ?」

「灯火の関係者だ、ギンを保護しようと思ってな」

「城之内は私以外にも声をかけている者が居たのか」

「城之内……?まさか、君に声をかけたのは城之内七夜という男か?」

「そうだが、どうかしたのか?」

「……いや、まあいい」

この世界に飛ばされてから、ライミは何度も戦闘を経験してきた。
この世界を彷徨い続けて、様々なゲームと現実が混ざった奇妙な生物と戦った。
だが、この辺りはまだ来たことがない。

「メトロイドは俺達任天堂戦士もあまり近づかない危険なゲーム作品という認識だ、文明や科学技術が進み、得られる知識や情報も多いがその分危険が伴う。」

「元々があらゆる異星人によって結成されたスペースパイレーツが蔓延っている上に、最近はメトロイドプライムと呼ばれる新たな勢力まで現れた」

「とても人が住める様な空間では無い」

「だが、この世界のどこかにギンがいるはずだ」

ギンという人物がよほど重要なのか、救出に駆り出された人間は自分の他にも数多く居た。
同時に、この世界が自分のゲームの元になったジャングルとは危険度がかけ離れていることを実感させる。その証拠に、救出に向かう自分達以外の人間は見ていない。
ライミは、そのことに不安を感じながらも、宇宙船の奥へと進んでいく。
すると、触手のような姿をした生き物が壁の中に生えているのを見つける。

「あれは……ゲームのものじゃない、突然変異か」

「アンタ、一回見ただけでよく分かるな……確かにあんなウネウネしたものはメトロイドにいなかったはずだ」
「ここは俺に任せてくれ」

「……分かった」
男は銃を構えて、その生物に向かって発砲する。
すると、生物の身体から火花のようなものが出て、その衝撃により壁に埋め込まれるようにして倒れる。

「よし、まだ息はあるようだな」

任天堂世界にも銃火器があるのか」

「ゲームによっては現実に近い戦争をしている世界もある、そこからライフルや戦車を回収でもしないとここまで再現出来ないだろう」

「この世界には、我々任天堂戦士と同じような能力を持った者達が無数にいる、しかし、我々はあくまで現実世界からゲームに来た存在だから、ゲーム元には迂闊に手を出せないぐらいの力しかない」

「だからくれぐれも周囲には警戒を……」

「スペースパイレーツだ!!」
男が話している最中に、背後から叫び声が上がる。
見ると、先程倒したはずの化け物がもう1匹、2匹の3匹に増えていた。
更には窓を突き破り、スペースパイレーツ……ゲームでも主人公の宿敵として名高い怪物『リドリー』が部下を引き連れて襲撃してきた。
ライミはすぐに身構えるが、男は腰が抜けたのか尻餅をつく。
そしてスペースパイレーツは、手に持っているレーザーガンで攻撃してくる。
ライミ以外の救出隊は次々とそれに被弾して消滅していく。

「まずい……ここは撤退するしかない」

「だが、逃げるにしても出口はどこにある!?」
「俺が道を作る、お前は先に行け!」

「くっ……すまない」

ライミはそう言うと、男の背中を押して逃がす。
そして自分はその場に留まり、迫り来る敵をタックルで押して安全な所に逃げようとするが……


「なっ……」

ここはメトロイド、表の次点で危険と言われている世界。

ならば、その裏とあれば命すら怪しい。
最終更新:2023年05月20日 14:26